託した想い

ねこまる

文字の大きさ
2 / 3

託した想い 後編

しおりを挟む
 ようやく仕事に慣れ始めた頃、それは起こった。
「何か手に力が入らない、あれ?何か手が透けてるような…」
「どうされました、あっ………時間が来てしまったようですね。」
「時間?」
「前にも言いましたが、あなたは死人しびとではないので元々の身体が現世にあります。そして現世にある本体が近いうちに目を覚まそうとしているのです。魂は本体である身体に引き付けられます。身体の透明化はそのサインです。」
 彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものクールな表情に戻り坦々と言い慣れているかのように説明してくれた。
「私と一緒に来てもらえますか」
真剣な瞳で言われたので断ることはできなかった。

 彼女の後ろをついていくと広間に通された。
部屋は6畳位あるだろう大きさで縁側の両サイドにはすだれが下げられており、下には和傘が置かれた純和風の部屋だった。
なんで傘が開いているんだろうか、雨なんて降っていないはずなんだけど。

「この部屋は外の景色が一番よく見える部屋なんですよ。」
 そうして縁側の向こうには一面の川と数えきれないほどの灯籠船がゆらゆらと流れていた。
「この灯籠の一つ一つにはあの世に行く方々の想いがこもっています。この灯籠が無事にあの世に着いたなら来世でもその想いは繋がり残ると言われています。ちょっと座りましょうか。」
 そう言われたので、とりあえず部屋の中央付近に座ることにした。

「現世に戻り未来を進むあなたにはきっと大変な事があると思います。そんなあなたに私からの贈り物です。」
 そう言って花瓶から一輪の赤い花を取り出した。
「この花は彼岸花と言います。お彼岸の頃に咲くので彼岸花と言うのですが、死人花や幽霊花とあまりよく言われない花なんです。でも私はこの彼岸花が好きです。この花は元々農家の人たちが畑仕事中の害獣対策として役立っていた花で実はすごいんですよ、それにこの赤い色が想いを込めた炎のようで素敵だと思います。つまりですね、意味のない物なんてこの世には無いんですよ。人生はまだまだ続きます。だからあなたも元の世界に戻ったらまず夢中になれることを探してくださいね。」
 どこまでも続く川に人の想いが流れるようにいくつもの灯籠が流れて行く。これからあの世に流れ旅立つこの想い達は届き叶うのだろうか。
 赤く大きな月に照され灯籠が流れる幻想的な景色を背後に、赤い着物とサラットした長い黒髪の彼女はうっすらと寂しげに微笑んだ。
 その手に持った赤い彼岸花が着物の色と相まってとても美しいと思ってしまった。
「人は生きるためには夢や目標、生きる為の動力が必要です。それを見つけられるようにしてください。どんな形でも私はあなたを応援しています。」
「……分かりました、今すぐには難しいかも知れないですが探します。絶対に。」
差し出された花を受け取りながら誓った。

 僕の存在も限界が近くなってきた、多分現実世界の僕が目を醒まそうとしているのだろう。
「それでは僕はそろそろ……」
「あの…」
「どうしましたか?」
「いえ……何でもありません。」
 彼女は何かを言おうとしたのだが、それはすぐに否定されてしまった。とても困っているように見えるけど大丈夫なのだろうか。
「じゃあ…ありがとうございました」
 個人的にはもっと彼女と一緒に居たかった。もっと話をしたかった。でもさ、もう力が入らないんだよね。僕は彼女の事を好きになってしまった、でもこの思いは口にしないようにしよう。きっと彼女を困らせてしまうから。だからどうか彼女の願いが叶うよう祈っています。
 身体が泡のように消えていった。人は別れるときの顔を一番記憶に残すって聞いたことがある。だから今できる一番の笑顔を作ることにした。ちゃんとできてるかな、まあ大丈夫だろう。
「……きて……と……………ね…」
 意識がとうのきながら彼女は何かを伝えるかのようにしていたが聞き取ることはできずに意識が完全に途切れた。



 目を覚ますと病院のベッドの上にいた。
「……夢?ここは……病院?たしか車に引かれて……」
「あっ!目が覚めたんですね!すぐに先生を呼んできますから!」
 隣の部屋から出てきた看護師が僕のことに気がつくとすぐにどこかへまた行ってしまった。

 先生が到着すると、身体の調子の事をいくつかきかれた。そのあとに事故後の事を知らされた。
「それにしても救急連絡が早くて良かったよ、何とか一大事にならずに済んだ。何より彼女さんのお見舞いが効いたかな?」
「はい?彼女?」
 僕には付き合ってる彼女なんていない。妹と間違えているのだろう、ただあいつすぐ来れるような場所に居ないはず何だけどな。
「彼女さんが見えましたよ。」
「お、噂をすればですね。さぁ元気な報告をしてあげるといい。」
「はぁ………」
 そう言って先生たちは部屋から出ていった。
しかし誰なんだろう。まぁこっちに来てるらしいから直接確認すればいい。どうせ先生たちの勘違いだろう。そう思っていた。
「あっ!目が覚めたんですね。良かったです。て言うより私の事分からないですよね。ごめんなさい。」
「うそ。何で……」
 夢の中の女性が目の前にいた。
 先生たちの言う「彼女」、もとい僕の事を看病してくれていた女性とは夢の中の彼女だった。
「はじめましてになりますよね。私ははじめましてじゃないですけど。やっとお話をすることができました、本当に良かった。この度は助けて頂いて本当にありがとうございました。」
 あの事故で僕が助けたのは彼女だったのだ。 何でも僕が轢かれた後、混乱状態の中救急車を呼んでくれたそうだ。僕は夢の中の彼女に現実でも会うことができたのだった。
「はじめましてじゃ……ないよ。」
「‥……?あぁ、助けて貰ってますもんね。」
 彼女は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻った。
 夢の中、あの灯籠の流れる座敷で話した内容は覚えていない。ただあの時に感じた思いは残っている。でもこれはまだ言えない。これからの事である。


 その後、退院したあとも彼女と何回か一緒に過ごし告白した。今では幸せな僕の奥さんである。人生何が起こるか分からないものではあるがこれはこう言うお話だったのだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...