託した想い

ねこまる

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託した想い She's side

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 ここは生死の境の世界。
生前の方が思いを巡らせながら死後の世界へ旅立たれる一時の休憩場。
ここに来るほとんどの方は寿命を全うに生きた方、何かしらの事柄に巻き込まれて命を落としてしまった方。
 でもたまに事故のショックで一時的にこちらへ迷い混む方がいます。現世で身体が無事に残っているのに魂だけがこちらへ飛ばされて来てしまう方。
 私はそんな方々を進むべき所に向かわせるのがお仕事です。お仕事と言っても私が好きでやっていることなので大変ではないです。
 私は元々は人間でした。普通に過ごして、普通に人を好きになって、結婚して、普通に一生を終えました。
 私は旦那様より早くに死んでしまったので旦那様を待ちながらここでお仕事のお手伝いをしています。

 ここに来てしばらくして分かったのが、ここでは時間の概念がないらしく、さまざまな身なりの方が見られます。
 着物を纏った戦国の世から来たであろう方や、大正ロマン輝く着物を纏ったお姉さんや軍服を纏った兵隊、現代的な服装の方等々……

 さてさて。
 今日もまた一人ここに来られましたね。
いつものようにそう思いながら入り口に行った。
「あっ………」
 そして一目見た瞬間、その人が誰だか分かった。
 分からないはずかなかった。
 だって………だって。
ずっと会いたかったあの人が目の前にいる。
でも私にあっても反応がない。
………そうなのね。
 あなたは私が知っているあなたはではないのね。
 あなたは私に会う前のあなたなのね。
 本当は跳び跳ねたいくらいうれしい。
 今すぐに抱きしめたい。容姿も声も仕草もあの頃の彼のまま、とってもうれしい。
 でも彼はまだ私の事を知らない。あの時助けてもらったこと、何回かデートしたこと、プロポーズしてくれたときは嬉しくて涙が出た。幸せな夫婦生活だった。私の方が先に居なくなっちゃってごめんね。

「はじめまして。ここはあの世とこの世の狭間の地点、ここからは私が案内致します。」
溢れる気持ちを必死に隠しながら表情を繕い事務的な挨拶をした。
 変な顔になっていないだろうかと思ったがそんなことを考えている場合ではない。今は仕事に集中しようと自分に言い聞かせる。

 それからは大変だった。彼ったらここで働くなんて言うしこっちの気持ちも考えてよね。
でもやっぱりまた一緒に居られると思うと嬉しかった。いつか来る限定の期間だけど、その時までは……
 でもやっぱり楽しい時間はすぐに終わっちゃうものだよね。黄泉渡り時間と違って生き返りの時間は誰も分からないし急に訪れるもの。

 その日の彼は朝からなぜか物を持ちづらそうにしていた。理由はすぐに分かることになった。
 思ったより早かったな、彼にとってはとても良い事なんだけどね。
「この部屋は外の景色が一番よく見える部屋なんですよ。」
 あまり時間が無いのが分かっていたので、落ち着いて話が出来るよう、見晴らしの良い部屋に彼を案内した。
「この灯籠の一つ一つにはあの世に行く方々の想いがこもっています。この灯籠が無事にあの世に着いたなら来世でもその想いは繋がり残ると言われています。ちょっと座りましょうか。」


「現世に戻り未来を進むあなたにはきっと大変な事があると思います。そんなあなたに私からの贈り物です。」
 私は花瓶から一輪の赤い花を取り出しました。本当は行儀が悪いからダメなんだけど、彼の最後だからね。それにこの花の意味はあなたから教えてもらったのよ。
「この花は彼岸花と言います。お彼岸の頃に咲くので彼岸花と言うのですが、死人花や幽霊花とあまりよく言われない花なんです。でも私はこの彼岸花が好きです。この花は元々農家の人たちが畑仕事中の害獣対策として役立っていた花で実はすごいんですよ、それにこの赤い色が想いを込めた炎のようで素敵だと思います。つまりですね、意味のない物なんてこの世には無いんですよ。人生はまだまだ続きます。だからあなたも元の世界に戻ったらまず夢中になれることを探してくださいね。」
 落ち込んでいた私のプレゼントにと彼が彼岸花をくれたとこがあった。最初は夏が近いからかと思ったけどやっぱり最初は何とも言えない気持ちだった。でも、彼の説明を受けてなぜか気分が楽になるような気がした。その後、彼岸花の花言葉を調べてベットで悶絶してしまった。
 私と出会うまでのあなたのことは知らない、でもあなたには幸せでいて欲しいから。
「人は生きるためには夢や目標、生きる為の動機が必要です。それを見つけられるようにしてください。どんな形でも私はあなたを応援しています。」
 あぁ、私は今どんな顔をしているのだろう。
 ちゃんと笑えているのかな。

 この部屋に来て話始めてから少し経った。彼の体は光に包まれていた、いつもの光景だ。普段ならば「またのお越しを」と言うところなのだけど今回だけはどうにも言えそうになさそう。だってこんなに逝って欲しくないと思ってしまっているんだから。
「それでは僕はそろそろ………」
「あの………」
「どうしましたか?」
「いえ……何でもありません。」
 もっと一緒に居たくってつい、声が出てしまった。駄目だ、まだあの人は私の事は知らない。出会ってない。
 交通事故から助けてくれた彼は誰を助けたかなんて見えてなかったっていってたっけ、あの人らしい……
 だからこそ、この人はまだ死んでいい人じゃない。
「じゃあ…ありがとうございました」
 そう言うと彼の輪郭が薄れていく、あぁ現世に戻るんだね。
目覚めたあとはきっと良いことがあるよ。
だから、せめて、私からお願いをしてもいいのなら………

「生きて私と出会ってね………」

 ほとんど消えてしまった彼に向かって静かにつぶいた。


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