4 / 26
第4話 「郷愁」
しおりを挟む
訓練が形になって来た所で次に国から与えられたのは装備品だ。
奏多達はスキルに合った装備と鑑定を防ぐ耳飾り、異世界人は元々鑑定スキルを与えられている事もあってこの耳飾りがあれば一方的に相手の情報を見る事ができる。
「……取れない?」
奏多は支給されたそれを身に着けると何故か取れなくなった。
他も同様で違和感に眉を顰めている。
「あのー、取れないんですけど?」
津軽がそう尋ねると持ってきた国の魔術師は奪われない為の措置と説明して来た。
この耳飾りは国宝クラスの非常に貴重なアイテムで代わりが利かない貴重な代物らしい。
希少品だけあって効果は凄まじく、他からの鑑定を妨害してステータスの詳細を見る事ができなくなる。
実際、身に着けた津軽や巌本に鑑定を試したが、名前とレベル程度しか見る事ができなくなった。
耳飾り自体も強力に守られており、鑑定を弾くらしく詳細が読み取れない。
津軽と深谷は凄いアイテムだと喜んでいたが、古藤は露骨に不審に思っているようでしつこく外そうとしていた。
後はそれぞれ武装となる。 巌本は巨大なタワーシールドと全身鎧。
攻撃を司るスキルを持っていないので完全に防御に振った装備構成となっている。
津軽は動きを邪魔しない構造の軽鎧に風の属性を付与されている槍。
深谷は魔法的な能力を引き上げるローブに杖。
千堂は気配を消す事ができる外套に魔力によって矢を形成する魔力弓。
古藤は深谷と似た機能を持つローブと短杖。
奏多は煌びやかな装飾の施された剣に軽鎧。
剣は聖剣と呼ばれる最上位の武具で待とう五色の煌めきはあらゆる邪悪を払うとされている。
試しに握って見たが見た目以上にずっと軽い。 試しに振ってみると羽を持っているかのように滑らかに軌跡を描く。 装備を手に入れて喜んでいる津軽と深谷、気が進まないといった調子の巌本。
無表情に装備の具合を確かめる千堂と露骨に嫌そうにしている古藤。
奏多は努めて表には出さなかったが、感想としては古藤に近かった。
こんな大層な武器を与えられれば嫌でもこれから命のやり取りをしなければならない事を実感させられるからだ。
この世界に来て大体、一か月と少し。
その間にこの世界を取り巻く情勢に関してもある程度の情報は与えられていた。
地図で見るとこの世界は非常に分かり易い形をしている。
巨大な大陸が一つあって中央の砂漠を挟んで北と南に魔族と人族に分かれて争っていた。
魔族は種族的にも多様性に富んでおり、様々な形状をした個体が存在する。
対する人族は「人」という種族として集団を形成しているので国王こそ存在するが、人族の国としか呼称されないのだ。
魔族との確執の歴史は非常に長く、この国が建国した時点で既に争っていたらしい。
文献などで遡っても根本的な原因は不明で、一説には魔族は種族間での差別意識が強く何度も国内で小規模の戦争を起こしていたので好戦的な種族が人族の国に攻め込んで来た事ではないかと言われている。
人と比べ魔族は身体能力に優れ、種族特有のスキルなどを保有しているので普通にぶつかれば押し込まれるのは当然だった。
そんな中、発掘された勇者召喚の魔法陣によって異世界から勇者を招く事に成功。
召喚された勇者の力は凄まじく、相手のステータスを見通す鑑定スキルと個々に戦闘や支援に特化した強力なスキルが与えられる。
それでも魔族を滅ぼす事は叶わず、戦況は数十年、数百年と膠着したままだった。
時折、疲弊によって両軍が後退し、僅かな休戦期間を挟みつついつまでも戦いを続けており、それは今でも続いている。 和解や停戦を行うには両者は血を流しすぎた。
この戦いはどちらかを滅ぼし尽くすまで終わらないだろう。
過去の勇者はこの異世界の戦いでその命を燃やし尽くし、英雄としてこの国で祀られてはいるが奏多からすれば何の慰めにもならない。
奏多は小さく溜息を吐いて城内の廊下を歩く。
前には肩を落として歩く古藤が居たので流石に心配になって声をかけた。
「あの、古藤さん。 大丈夫ですか?」
「……え? あぁ、神野さん。 ごめんなさいね。 大丈夫よ」
明らかに大丈夫じゃなかった。
放置することもできなかったので良かったら話を聞きますよと食堂に誘って移動。
貰ったお茶の入ったコップを差し出して向かいの席に着く。
「……神野さんは怖くない?」
しばらくの間、コップに揺れる水面を眺めていた古藤だったがややあって口を開いた。
「怖いですよ。 それでもできないと逃げ出す事も出来ないから皆、無理に前向きになっているだけですよ」
そう言いながらも津軽や深谷はゲーム感覚で楽しんでいると思っているので我ながら適当な慰めを言っているなと自嘲する。 本音を言うなら奏多自身も逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
向こうに残した幼馴染の事も気になるので一刻も早く日本に戻りたかった。
あの事故で優矢が死んでいるかもしれないと考えると体が震える。
あれから随分と時間が経っているので何とか生きていてくれる事を祈る事しかできない。
それに自分が死んでいると思われて忘れられる事を思うと恐怖すら感じる。
知らない所で葬儀が済まされ中身のない墓を置かれ、悲しみを共有し、最後には『過去』というラベルを貼られて記憶の片隅に捨てられる。
両親に、友人にそして何より優矢にそう思われる事が彼女には耐えられなかった。
だから嫌で仕方がないが、帰る為に奏多は戦う事を決めたのだ。
それを聞いて古藤は力なく笑う。
彼女は「ちょっと聞いて貰えるかしら」と前置きして自分の事情を語り始めた。
古藤 泰子。 主婦、家族構成は夫と娘の三人家族。
あの日は旦那と買い物に行く予定だったが、明らかに仕事で疲れていたので自分だけで行って来ると一人でモノレールに乗ったのだ。 こうなるなら「車を出そうか?」と提案した旦那に従うべきだったと泣きそうな声で付け足す。
古藤は肩を落とし「夫に会いたい、娘に会いたい」とすすり泣く。
奏多はしばらく待つと少しして落ち着いた古藤は幾分かすっきりした表情で小さく「ありがとう」と感謝を告げた。 その後は取り留めのない話をした後、解散となった。
翌日から少しだけ古藤が前向きに訓練に参加するようになったので、話せて良かったと奏多はほっと胸を撫で下ろした。
奏多達はスキルに合った装備と鑑定を防ぐ耳飾り、異世界人は元々鑑定スキルを与えられている事もあってこの耳飾りがあれば一方的に相手の情報を見る事ができる。
「……取れない?」
奏多は支給されたそれを身に着けると何故か取れなくなった。
他も同様で違和感に眉を顰めている。
「あのー、取れないんですけど?」
津軽がそう尋ねると持ってきた国の魔術師は奪われない為の措置と説明して来た。
この耳飾りは国宝クラスの非常に貴重なアイテムで代わりが利かない貴重な代物らしい。
希少品だけあって効果は凄まじく、他からの鑑定を妨害してステータスの詳細を見る事ができなくなる。
実際、身に着けた津軽や巌本に鑑定を試したが、名前とレベル程度しか見る事ができなくなった。
耳飾り自体も強力に守られており、鑑定を弾くらしく詳細が読み取れない。
津軽と深谷は凄いアイテムだと喜んでいたが、古藤は露骨に不審に思っているようでしつこく外そうとしていた。
後はそれぞれ武装となる。 巌本は巨大なタワーシールドと全身鎧。
攻撃を司るスキルを持っていないので完全に防御に振った装備構成となっている。
津軽は動きを邪魔しない構造の軽鎧に風の属性を付与されている槍。
深谷は魔法的な能力を引き上げるローブに杖。
千堂は気配を消す事ができる外套に魔力によって矢を形成する魔力弓。
古藤は深谷と似た機能を持つローブと短杖。
奏多は煌びやかな装飾の施された剣に軽鎧。
剣は聖剣と呼ばれる最上位の武具で待とう五色の煌めきはあらゆる邪悪を払うとされている。
試しに握って見たが見た目以上にずっと軽い。 試しに振ってみると羽を持っているかのように滑らかに軌跡を描く。 装備を手に入れて喜んでいる津軽と深谷、気が進まないといった調子の巌本。
無表情に装備の具合を確かめる千堂と露骨に嫌そうにしている古藤。
奏多は努めて表には出さなかったが、感想としては古藤に近かった。
こんな大層な武器を与えられれば嫌でもこれから命のやり取りをしなければならない事を実感させられるからだ。
この世界に来て大体、一か月と少し。
その間にこの世界を取り巻く情勢に関してもある程度の情報は与えられていた。
地図で見るとこの世界は非常に分かり易い形をしている。
巨大な大陸が一つあって中央の砂漠を挟んで北と南に魔族と人族に分かれて争っていた。
魔族は種族的にも多様性に富んでおり、様々な形状をした個体が存在する。
対する人族は「人」という種族として集団を形成しているので国王こそ存在するが、人族の国としか呼称されないのだ。
魔族との確執の歴史は非常に長く、この国が建国した時点で既に争っていたらしい。
文献などで遡っても根本的な原因は不明で、一説には魔族は種族間での差別意識が強く何度も国内で小規模の戦争を起こしていたので好戦的な種族が人族の国に攻め込んで来た事ではないかと言われている。
人と比べ魔族は身体能力に優れ、種族特有のスキルなどを保有しているので普通にぶつかれば押し込まれるのは当然だった。
そんな中、発掘された勇者召喚の魔法陣によって異世界から勇者を招く事に成功。
召喚された勇者の力は凄まじく、相手のステータスを見通す鑑定スキルと個々に戦闘や支援に特化した強力なスキルが与えられる。
それでも魔族を滅ぼす事は叶わず、戦況は数十年、数百年と膠着したままだった。
時折、疲弊によって両軍が後退し、僅かな休戦期間を挟みつついつまでも戦いを続けており、それは今でも続いている。 和解や停戦を行うには両者は血を流しすぎた。
この戦いはどちらかを滅ぼし尽くすまで終わらないだろう。
過去の勇者はこの異世界の戦いでその命を燃やし尽くし、英雄としてこの国で祀られてはいるが奏多からすれば何の慰めにもならない。
奏多は小さく溜息を吐いて城内の廊下を歩く。
前には肩を落として歩く古藤が居たので流石に心配になって声をかけた。
「あの、古藤さん。 大丈夫ですか?」
「……え? あぁ、神野さん。 ごめんなさいね。 大丈夫よ」
明らかに大丈夫じゃなかった。
放置することもできなかったので良かったら話を聞きますよと食堂に誘って移動。
貰ったお茶の入ったコップを差し出して向かいの席に着く。
「……神野さんは怖くない?」
しばらくの間、コップに揺れる水面を眺めていた古藤だったがややあって口を開いた。
「怖いですよ。 それでもできないと逃げ出す事も出来ないから皆、無理に前向きになっているだけですよ」
そう言いながらも津軽や深谷はゲーム感覚で楽しんでいると思っているので我ながら適当な慰めを言っているなと自嘲する。 本音を言うなら奏多自身も逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
向こうに残した幼馴染の事も気になるので一刻も早く日本に戻りたかった。
あの事故で優矢が死んでいるかもしれないと考えると体が震える。
あれから随分と時間が経っているので何とか生きていてくれる事を祈る事しかできない。
それに自分が死んでいると思われて忘れられる事を思うと恐怖すら感じる。
知らない所で葬儀が済まされ中身のない墓を置かれ、悲しみを共有し、最後には『過去』というラベルを貼られて記憶の片隅に捨てられる。
両親に、友人にそして何より優矢にそう思われる事が彼女には耐えられなかった。
だから嫌で仕方がないが、帰る為に奏多は戦う事を決めたのだ。
それを聞いて古藤は力なく笑う。
彼女は「ちょっと聞いて貰えるかしら」と前置きして自分の事情を語り始めた。
古藤 泰子。 主婦、家族構成は夫と娘の三人家族。
あの日は旦那と買い物に行く予定だったが、明らかに仕事で疲れていたので自分だけで行って来ると一人でモノレールに乗ったのだ。 こうなるなら「車を出そうか?」と提案した旦那に従うべきだったと泣きそうな声で付け足す。
古藤は肩を落とし「夫に会いたい、娘に会いたい」とすすり泣く。
奏多はしばらく待つと少しして落ち着いた古藤は幾分かすっきりした表情で小さく「ありがとう」と感謝を告げた。 その後は取り留めのない話をした後、解散となった。
翌日から少しだけ古藤が前向きに訓練に参加するようになったので、話せて良かったと奏多はほっと胸を撫で下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる