Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第90話

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 空から降り注ぐのは光の雨、そして空間を乱反射する光は蜘蛛の巣の様だった。
 ここまで戦い抜いてきた歴戦の強者と言ってもいいプレイヤー達が近づく事も叶わず成す術もなく次々と撃墜されていく中、平然と突破する者達がいた。

 Aランクプレイヤー達だ。
 真っ先に突っ込んだのはクラゲ型エネミーの時にも先陣を切った黒い機体。 
 周囲から襲い掛かってくる光線を躱していくが、最も驚愕するべき点は機体が展開する不可視の障壁だ。
 
 光は捻じ曲げられ黒い機体に一切届かない。

 「ふ、俺は闇、闇は光の対極故に交わらない。 貴様の光は闇の深淵まで照らす事は叶わんだろう。 だが、潜るというのならこの闇の支配者が貴様を光なき世界へと誘おう」
 
 プレイヤー名は『ベリアル』機体名は『プセウドテイ』。
 痛々しい言動とは裏腹に彼の実力は本物だ。 凄まじい挙動で敵の攻撃を掻い潜り、イソギンチャク型エネミーの懐に入る。

 「闇に呑まれよ!」

 エネルギーブレードでイソギンチャク型エネミーを切りつけるが、ブレードが霧散。
 僅かに眉を顰め、軽く周囲を窺うとなるほどと内心で納得した。
 イソギンチャク型エネミーの装甲は光学兵器を無効化する機能が付いている様だ。

 その証拠に乱反射する自分の攻撃が当たっているのに一切ダメージを受けていない。
 ならばと武器を実弾に切り替えると効果はあったが重装甲の所為で通りが悪かった。
 ベリアルはなるほどと小さく呟いて別の攻撃手段を試し始める。

 彼を始め、Aランクプレイヤーは己のプレイスタイルを突き詰め、完成形まで練り上げた者達だ。
 その力は通常のプレイヤーを逸脱しており、早々に多くのプレイヤーに絶望の二文字を刻んだこのエネミー相手にも充分に通用していた。

 エネミーの猛攻を突破し、地面を這うように飛んでくる機体がある。

 「突破ぁ! このまま、沈めてやるわ!」
 
 その声はユニオン『栄光』のトップであるカナタのものだった。
 白を基調とした機体で背には巨大な剣。 白の機体はイソギンチャク型エネミーを攻撃圏内に捉えたと同時に地面をガリガリと削りながら着地し、背の大剣を抜く。

 大剣は刃の部分が中心から割れ、バチバチと膨大なエネルギーを放出する。 
 そして形成されたのは長さ百メートルに届かんばかりの巨大な光の大剣。
 
 「ぶった斬れろぉぉぉぉ!!」

 一閃。 光の剣はイソギンチャク型エネミーの表面を焼くが完全には届いていない。
 それを見てカナタは小さく舌打ち。 大剣のエネルギー供給を切って即座に飛び上がる。
 一瞬後に無数の光が彼女の居た位置を通り過ぎる。 ハイランカーと巨大エネミーの攻防はこれまで戦いとはまるで次元が違い、低ランクのプレイヤー達は呆然と眺める事しかできなかった。



 正直、洒落になっていなかった。 Aランクプレイヤーの戦いを見てヨシナリが思った事だ。
 果たしてあの連中は本当に自分と同じゲームを遊んでいるのだろうか?
 そんな疑問が浮かんでは消えた。 巨大なエネルギーブレードを振るう機体や巨大な火球を撃ち出す機体。 攻撃手段や形状もまるで異なるトルーパーの体系外だと言われても納得できてしまいそうな規格外な機体達。 それを操る凄腕のプレイヤー。

 ハイランカーと言われるだけの技量と性能の機体だ。
 あの化け物みたいなエネミー相手に正面から殴り合えている時点で異常と言っていい。
 少なくとも通常の機体ではあのエネミーに近づく事すら敵わない。 

 あのイソギンチャク型エネミーの周囲に待っているチャフの範囲に入ってしまうと光線に射抜かれる危険と隣り合わせになるので、入ったら数秒も保たずに撃墜されると確信していた。
 Aランクプレイヤー達はそれをどうやって凌いでいるのか? 光学兵器を無効化する防御兵装を積んでいるか、何らかの手段で躱しているのかのどちらかで対処している。

 前者はともかく後者はどうやっているのかさっぱり分からなかった。
 あれは俺もできるようになるのだろうか? 少なくとも今の自分には無理だと断言できる。
 
 ――まだ遠いな。

 前回は何もできずにあっさりと沈んだ。 
 だから今回こそはと入念に準備してきたつもりだったが、上はまだまだ遠い。
 一体、いつになったらこのゲームの深奥に辿り着けるのか?

 残念ながら今のヨシナリでは物語の主人公のようにあのイソギンチャク型エネミー相手に誰もが驚くような一撃を入れる事も性能差を踏み倒し、Aランクプレイヤーを差し置いて大活躍する事も難しい。
 できる事と言えば狙撃銃を片手にチマチマとドローンを撃ち落として戦況の好転に協力する程度だ。

 エネルギー系の武器は跳ね返されるので実弾を使用する狙撃銃等、射程の長い武器を持っている者はドローンの処理を行い、持っていないものはあちこちに落ちている蟻型エネミーが使用していた火炎放射器でチャフを処理していた。 直接戦闘で貢献できない以上、敵の優位性を多少なりとも削るぐらいしかできる事がないのだ。

 視界の端には凄まじい密度の攻防が繰り広げられており、敵の巨体に少しずつだが傷が刻まれ始めている。 彼等こそがこの戦場の主役で自分はただの添え物。 
 そう考えると焦りにも似た感情がじりじりと身を焼く。 俺も早くあそこに混ざりたいと。

 そんな渇望を抱きながらヨシナリは次々とドローンを撃墜していたが、視界の端に常にエネミーを捉えるようにしていたお陰か、ある変化に気が付いた。

 ――何だ?

 イソギンチャク型エネミーのレーザーを吐き出す巨大な口の周りにある触手。
 接近する機体を叩き落とす為のものかと思われたが、そうでもなかったようだ。
 十数本の触手がエネルギーをため込んでいるのか輝き始めた。
 
 何だ? 何をするつもりだ?
 そして何故このタイミングで使うと疑問が沸き上がったが、即座に解決した。
 理由はエネミー自体が放つ光線だ。 本体にも当たっているのに効いていないのは無効化しているからだと思っていたが、恐らくは吸収して溜め込んでいる。

 その証拠にAランクプレイヤー達のエネルギー兵器の攻撃を受ける度にその輝きを増しているからだ。
 彼等の武器は威力自体が規格外だけあって、完全に無効化されていないのだ。
 だからこそ実弾に切り替えずにそのまま力技で突破しようと使い続けている者が多い。

 恐らくだがそれを逆手に取られたのだろう。
 触手の輝きが臨界に達しようとしていた。 何をしてくるかは不明だがそのままにしておくと不味い。
 気付いた一部のプレイヤーが触手を狙うがもう遅い。 ヨシナリはアノマリーを放り捨て近くに落ちていたトルーパーの残骸が持っていた盾を二枚拾うと火炎放射器でチャフの処理を行っていたマルメルの機体を掴み、自分の背に隠すように引っ張った後、地面に並べて突き立てた。

 「おい、何を――」

 ふわわの姿を探したが見当たらなかったので諦め、そのまま盾に機体を押し付けるように身を守る。

 ――そして光が解放された。
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