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第132話

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 下位互換や値段が下の装備を見るとかなり大型で頭部に収まらずヘルメットを被っているような見た目になってしまう。 機能を維持したままグレードを落とす場合は背中に箱のようなものを背負うタイプとなる。 

 そんな奴が戦場をうろついていたら真っ先に狙われるだろう。 ついでに重いのでいい的になる。
 機能的には非常に便利ではあるのだが、デメリットが二つの意味で重すぎるので使えない。
 シックスセンスと同等の機能でGで買える代物となるとその背負うタイプになりそうだった。
 
 「……というかこれフレーム買うのとそんなに変わらないだろ……」

 厳しすぎる値段格差にヨシナリは悲しくなったが、ここまで上がっている以上は少しは賞金が入るのでそれで何か考えるかと考えてショップのメニュー画面を閉じる。
 
 ――本当にこのイベントに出てよかった。

 ハイランカーの戦いを間近で見て、センサーの有用性、そしてこの世界の新しい見方――その片鱗を掴むまでに至ったのだ。 正直、この時点でかなり満足していたが、まだまだあの二人の戦いを観察する機会があるのは楽しみで仕方がない。 一応ではあるが、二人はヨシナリの事をある程度評価はしているのか、要所でチャンスをくれる。 特に前回の狙撃に関してはAランクの撃破を達成できたのは彼等が当てるまでの道を付けてくれたことが大きい。 

 何だかんだと当て易いように動いてくれていたのでヨシナリとしてはちょっとだけチームになれている気持ちになって嬉しかった事もあった。 次はどう動くかを考えているとウインドウがポップアップ。
 内容は二回戦が終了したので三回戦がこれから開始されるとの事。 相手を確認するとさっきの六本腕のいるチームだ。 レギオン名は『ベクヴェーム』機体構成はリーダーのAランク一機、エンジェルタイプ四、パンツァータイプ五と変わった構成だった。 前回の試合は味方が全滅した後だったのでしっかり見れていない事もあって思わず首を捻る。

 構成からパンツァータイプで後方から削って残りで仕留めていく感じなのだろうか?
 リプレイは終わらないと見れないのであの時点では確認できなかったのだ。
 
 ――まぁ、もう始まるので確認している暇はない。 自分の目で確認しよう。
 
 それに序盤の展開は目に見えている。 
 ラーガストが突っ込んでユウヤがそれに続いて敵を引っかき回すだろう。
 余裕があったらヨシナリに何か振ってくる。 もはやいつもの流れと化してきたが、指示待ち人間と思われるのも嫌なのでここは積極的に貢献して周囲の評価を上げておきたい。

 少しだけSランクやAランクプレイヤー様に俺は使える奴だろうと思わせてやりたい気持ちもあったので頑張っていこう。

 ――後はフィールドの地形次第か。

 最初は荒野、二回戦は渓谷地帯。 三回戦は?
 答えは即座だ。 移動して真っ先に現れたのは一面の白。
 凄まじい吹雪で視界が完全にホワイトアウトしている。 それでも見える範囲で見えてくるものもある。 吹雪の吹き方から遮蔽物の少ない広々とした場所だという事が分かった。

 遮蔽物は少ない? 足元は雪だが、少し先は氷だ。
 海か湖だろうか? 下手をすれば足を取られる可能性もあるので足元には注意が必要だろう。
 ラーガストは早々にどこかへ飛んでいき、ユウヤもいつの間にか姿を消していた。
 
 「見えねぇ」
 
 思わず呟く。 ここまで視界がない状態だと対応しきれないな。
 こんな時、アルフレッドとのセンサーリンクがあれば色々と見えるんだろうがいない所を見るとユウヤの方のサポートに回ったのだろう。 いくらAランクの機体でもこの状態だと視界に制限がかかる。
 
 条件は敵も同じはずだがどう動くつもりだ? 闇雲に動いても仕方がないので敵の構成から行動を予測――

 「――って、マジかよ!?」

 思わず叫びながらスラスター噴かして後退。 前進すると地面が氷になってしまう。
 地面スレスレを飛べば問題はないのだろうが下手に着地して足を取られても笑えない。
 あちこちにミサイルが着弾。 爆発が連続で発生している。

 「無茶苦茶するなぁ……」

 恐らくミサイルを大量にばら撒いて焙り出すつもりだ。
 発射する際に痕跡が残るはずなので位置が分かるはずだったのだが……。

 「……見えない」

 距離があるのか何処から飛んでくるのか分からない。 垂直に上がってから落ちるタイプなので出所が見えないのだ。
 ミサイルは次々と飛んでくるのだが、徐々にではあるが狙いが正確になってきていた。
 着弾した場所が燃えおり、その近くをホロスコープが通る事で発生する熱源の揺らぎを観測しているのだろう。 そうして位置を割り出して精度を上げると。

 分かっていてもどうにもならない。 ミサイルは広範囲にばら撒かれているのであちこちで上がっている炎を避けて通るのは難しい。 かと言って派手に噴かして飛び上がればブースターの噴射熱で居場所が完全に割れる。
 厄介な相手だ。 火力でゴリ押すタイプかとも思ったがしっかりと追い込んで来る辺り、ここまで上がってきたチームなんだなと気を引き締める。

 他の二人はどうなったと思っていると吹雪というヴェールの奥で無数の光線と衝撃音。
 別の場所では空中で瞬く光とその光に紛れて交錯する機体の影。
 前者はユウヤがエンジェルタイプに攻撃されており、後者はラーガストが敵の隊長機と一騎打ちしている所か。 残りのパンツァータイプでヨシナリを仕留めに来ているのだろう。

 役割分担としてはしっかりしている。 ヨシナリにどれだけ割いているのかは不明だが、ミサイルの飛んでくる間隔から最低でも二機は張り付いていると見ていい。
 現状を軽く確認した所でヨシナリは深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 このままだと嬲り殺しだ。 助けは期待できない。 
 視界はほぼゼロ。 ホロスコープのセンサーシステムでは敵の位置を捕捉するのは難しい。
 ミサイルの飛んでくる間隔からそこまで離れていないので位置さえ掴めれば反撃は可能。

 飛んでくる方角を見極める為に着弾の瞬間をじっくり見たい。
 敵の攻撃を都合よくやり過ごせる場所があればいいのだが……。
 ヨシナリは周囲をぐるりと見回し、ある場所で止まる。

 「――やるか」

 そう呟いて機体の方向を変えた。
 

 ユニオン『ベクヴェーム』の作戦は非常に分かり易かった。
 理由としては単純で前衛、後衛を完全に分ける事により、どんな状況でもやる事が変わらないからだ。 良くも悪くも自らのスタイルを貫く事でどんな環境でも一定のパフォーマンスを発揮するチームと言える。

 特に今回に限って言えば地形と気候が彼等に味方したのは彼等にとっては僥倖だ。
 後衛のパンツァータイプは戦闘が始まれば即座に下がって支援できる場所に陣取ってミサイルか砲弾をばら撒く。 視界が通るならミサイルで敵の行動を制限しつつ砲弾で牽制し、可能であれば撃破を狙う。 そうでないならミサイルをばら撒いて敵を焙り出す。
 
 今回の場合は後者だった。
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