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第136話

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 ヨシナリの戦果は一機撃破と二機の足止め。
 戦果としてはあまりパッとしないものだった。 これが個人戦、またはマルメル達と組んでのユニオン戦であったならそこそこの戦果と言えたかもしれない。 
 
 敵のランクは全員ヨシナリよりも上だ。 格上相手にあの結果ならまあまあといえる。
 だが、今回はSランクである、ラーガストとAランクのユウヤのチームメイトとしてここにいる以上、他の二人に見劣りしない――は高望みだが、サポートとして通用するレベルの活躍をしないと単なるおまけでしかない。 少なくとも傍から見ればヨシナリは二人に寄生しているだけの雑魚だろう。

 Fランクの自分が最上位のプレイヤー二人に追随する事は烏滸がましい話なのかもしれないが、彼にもここまでやってきた自負がある。 誰にも負けたくない気持ちだけはと思っていたのだが、気持ちだけではどうにもならないのは紛れもなく現実だった。

 戻ってきた二人は無言。 早々にやられたヨシナリには特に何も言わずに次の試合を待っている。
 特にユウヤは順当にいけば目当てのカナタと当たるので平静を装っているが、アバターは強く拳を握って震えていた。 その様子からはカナタを完膚なきまでに粉砕してやるといった気持ちが隠しきれていない。

 どんだけあの人の事が嫌いなんだよと思ったが、彼等の事情に踏み入る気はないのでそこは触れない。
 ツガル達にはイベント戦などで助けて貰った借りもあったが、それとは別に模擬戦であっさりと撃破された屈辱は忘れていないのでユウヤとは別で『栄光』と当たる時を楽しみにしていた。

 メンバーはリーダーにカナタ。 後はツガル、センドウ、フカヤと前に当たった面子にイワモトというイベントで見かけたタンク役。 残りは知らない顔だったのでよく分からない。
 機体構成はツガルはノーマルのキマイラタイプ、センドウはキマイラパンテラ。 フカヤはステルス装備のⅡ型。 これはキマイラ、エンジェルタイプより隠密行動を取るのにソルジャータイプの方が適しているからだろう。 恐らく基本スペックは装備とパーツで底上げしているとみていい。

 残りはエンジェルタイプ二機、キマイラタイプが三機。 合計で十機だ。
 カナタはユウヤが仕留めるだろうから無視しても問題はない。 
 なのでヨシナリの目当てはツガル達三人だ。 可能であるなら三人全員、無理なら最低でも一人は仕留めたい。 表には出さないようにしているが、ヨシナリもヨシナリで少しだけ熱くなっていたのだ。

 その為、気持ちの切り替えは早い。
 
 「よぉ、お互い勝ち残ったようだな」
 「あ、どうも」

 声をかけて来たのは試合を片付けて待機室に戻ってきたツガルだ。
 
 「それにしても三人でよくもまぁここまで勝ち上がってきたものだな」
 「まぁ、チームメイトが強すぎるんで。 俺はおまけですよ」
 「それでもだよ。 一回戦で一機撃破、二回戦に至ってはAランク撃破の大金星、三回戦は残念だったけどしっかり一機仕留めてる。 大したもんだ」
 「そうですかね?」
 「あぁ、格上しかいないこの戦いでここまでの戦績を出せるのはマジで自慢していい」
 「はは、どうも」

 返しながらツガルが何をしに声をかけて来たのかが分からずに訝しむ。
 正直、いきなり現れていきなり褒めだしたのだ。 ちょっと気持ち悪いと思ってしまっている。
 経験上、この流れは勧誘か碌でもない頼み事のどちらかの可能性が高い。

 「それで? わざわざそんなことをいいに来たわけじゃないんでしょ?」
 「はは、バレちまったか」
 「バレバレっすよ」 

 ツガルはその場に座り込み、お前も座れと手を小さく振る。
 座る事は話を聞く事に同意するようなものなので、少し嫌だったが逃げるのも感じが悪いと思ったので素直に座った。

 「頼みがある」
 「はぁ」
 「次の試合、あの二人の決着が着くまで他は手を出さないって取り決めをしないか?」
 「その心は?」
 「理由は二つ。 まずウチのボスがユウヤとの一騎打ちをご所望だ」

 その点は問題ない。 そもそもユウヤがカナタを仕留める事が目的でヨシナリとラーガストはそのサポートのようなものだ。 介入する事はあり得ないし、ユウヤ自身も望まないだろう。
 結果、負けたとしてもユウヤの自己責任だ。 ただ、それを丸々呑むとこの大会に参加した意味が薄れてしまう。 わざわざユニオン対抗戦でカナタを叩き潰すのは、しつこく勧誘する彼女をユニオン戦で叩き潰す事で入る事が無意味だと思い知らせる意味合いも含まれている。

 そんな理由もあって吞む事にメリットを見いだせない。
 
 「もう一つは?」
 
 返事を保留して取り合えず話を全て聞いておこうと先を促す。
 ツガルはやや言い難そうにしていたがややあって続きを口にする。
 
 「実を言うとだな。 俺達だとあのSランク様に勝てる気がしない。 倒したいならボスがいないと話にならん。 ――まぁ、そういう訳だ」
  
 つまりカナタが勝つまで待てと? ヨシナリは表には出さなかったが、内心ではかなり白けていた。
 ユウヤ抜き――アルフレッドはユウヤのサポートに入る事を考えると実質九対二の数的有利があってこんな提案をするのか。 更に言うならこの提案をヨシナリが呑む可能性を考慮している点から、ツガルはヨシナリのこの大会に対するモチベーションが低いと認識しているのだ。

 大方、枠が空いているチームだから体よく使われているとでも思っているのかもしれない。
 最大限、好意的に解釈してもそんな所だろう。 正直、かなり不愉快だった。
 ついでにツガルがこの後に言いそうな事も見当がつく。 吞んでくれたら相応の礼はする――そんな所だろう。 

 「当然、ただとは言わねぇ。 金――まぁ、Gだが、それなりの額を支払う用意がある。 本当なら少しでもPを用意したいところだが、俺の手持ちはユニオンの管理だから自由にならねぇんだ」

 ほらきた。 ヨシナリは即答しかけたが、少し黙って間を開ける。
 不機嫌さを抑え込む必要もあったが、それ以上に考えているように見せる時間が必要だった。
 
 「……うーん。 申し訳ないんですが無理っすね」
 「理由は?」
 「まず、ラーガストさんは俺の言う事を聞きません。 その為、仮に吞んだとしても動かないのは俺だけです。 ツガルさんとしてはあの人を黙らせたいんでしょうが、頼みたいなら本人に直接話を持って行った方が良いですね。 仮にあの人が頷くなら俺も協力しても構いませんが……」

 そうは言ったがラーガストは絶対に頷かないと思っていた。
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