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第16話
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巨大な怪物が崩れ落ちる。
それを成したのは魔導書を持った者達。 彼等は第二位階で呼び出した悪魔を消してほっと勝利に胸を撫で下ろす。
「お疲れ様、戦った皆は後ろに下がって交代だ」
御簾納 容一郎はそう言って怪物と対峙した者を下げて他に前に出るように促す。 彼を筆頭に十名の人間がここに集まっており、それぞれが協力してこの迷宮を彷徨っていた。
ここまでの人数を集める事が出来たのは運と彼自身の才覚もあったが、魔導書に宿る悪魔の能力によるものが大きい。
『47/72』。 敵対者との間に友愛を齎すとされている異能を操るが、低い位階での使用では警戒心を抑える程度の効果しかない。 御簾納は最初から他人を操るつもりは毛頭なかったので、話しさえ聞いてくれる状況さえ作れれば良かったのだ。
操るつもりもそうだが、騙すつもりもないので彼は主催者の思い通りにならない為にも仲間を募って皆で知恵を出し合おうと説得して回っていた。
彼は妻子持ちで家には妻と娘が待っているので何としても帰ると決めている。
特に娘はある事件が切っ掛けで外を出歩けなくなってしまったので自分の助けが必要だ。
何の落ち度もない娘が話題欲しさのよく分からない連中に群がられ、心を病んでいくのを黙って見ている事ができなかった。
娘は巻き込まれただけで被害者だというのに何故世間は我々家族をそっとしておいてくれないのだ?
世間への怒りを抱きつつ、御簾納は娘の為に長年住んでいた家から見知らぬ地へと引っ越して環境を変え、これから様々な事が上向きになって行くはず。
そんな大事な時期に家族を残して死ぬなんて事はあってはならない。
だからと言って積極的に見ず知らずの他人の命を奪おうとまでは思えなかったのだ。
黙って殺される訳にも行かないので襲って来るなら戦う覚悟はあるつもりだが、可能であれば手を汚したくない。 何故ならそれをやってしまうといつもと同じように家族に接する事が難しくなると感じていたからだ。
可能な限り犠牲を出さずにこの状況を乗り切り、生きて帰る。
それを貫く為に彼は遭遇する者、一人一人に声をかけてこの集団を形成した。
とにかく情報が足りなかったので、主催者が用意した怪しさしかないこの魔導書に頼らざるを得ない。
魔導書は非常に強力で呼び出す悪魔はどれも強力無比と言っていいだろう。
加えて様々な特殊能力を持っている。 未来を予知したり、水を生み出したりと戦闘以外でも有用だ。
特に水はこの無機質な場所では必須と言っていい。 本来であるなら情報を得られる能力は積極的に使っていくべきなのだが、それができない事情があった。
御簾納の持っている魔導書は『47/72』だけでなく、もう一体分存在する。
『22/72』これは誰かから奪ったものではなく、彼の仲間が残したものだ。
魔導書を使用するに当たって明確なリスクが存在する。 命だ。
この魔導書の能力は未来と過去を見通す力を持っている。
それを用いてこの状況を打開するべく、第五位階を使用した者が居たがこの騒動の結末を見ようとしてそのまま死んだ。 悪魔へと姿を変えた彼はそのまま燃え尽きるように空間に溶けて消えたので、死体すら残らなかった。 あまりにも唐突で呆気なかったので死んだ事が信じられなかったぐらいだ。
魔導書を手にした段階で使い方は何となくだが理解できるのだが、リスクに関してはあやふやだ。
魂を捧げるとしか認識できない。 その魂がどういったものを指すのかを理解できる術を持たなかった彼等は第五位階の使用を止める事ができなかった。 今でも魂の何たるかが分からない御簾納達は危険性こそ理解できたが、具体的な所までは及ばないので使用を控える以外の対処法がないのだ。
だからと言って使用をやめるといった選択肢はないので戦闘は交替で行い、高位階の使用は厳禁とした。 御簾納は手に持つ魔導書へ視線を落とす。
『22/72』の能力は魅力的だ。 先の事を知れるといった誘惑は強い。
前の持ち主は何も伝える事なく、そのまま死んだので彼が何を見たのかは分からず終いだった事も使ってみたいといった誘惑を強める一因だった。
――安易な解決法へ手を出すのは破滅へと繋がる。
頭ではそう理解はしているが、早く帰りたいと願う気持ちは使えと囁く。
娘や妻の顔が脳裏に過ぎる度にその誘惑は強くなっていった。
時計を見るとまだここに来てから半日と少しぐらいだ。 たったの半日でこの有様。
果たしてこの状況が一日、二日と続けば自分はどうなってしまうのだろうか?
この状況に耐えられず、魔導書使用へ踏み切ってしまう自分の姿がはっきりと想像できてしまう。
その欲望を抑える為、彼は第一、第二位階で使用し、直近の未来を見ていた。
表向きは自分がリスクを引き受けると言い、裏では垣間見た未来の先が見たい葛藤と戦っている。
「御簾納さん! また分かれ道です。 どうしましょうか?」
「あぁ、分かった。 見てみよう」
御簾納は表面上、躊躇いつつ、内心では使う口実が出来たと思いながら魔導書を使用する。
「――そこの道に入ると怪物と遭遇する。 手強いが、我々で勝てない相手ではない。 このまま進むと広い空間に出るが、そこから先は分からない」
第一、第二ではそこまで遠くを見通せない。
やはり完璧に見るには第三以上の講師が必要となる。
第二を何度か使ってはいるが、体調に不自然な所はないので、次回以降は第三を使っても良いかもしれない。
いや、危険だ。 彼のようになりたいのか?
彼はいきなり第五を使ったから死んだのであって、第三、第四と使って慣れて行けば使えるようになるのではないか? 試しに一回使ってみてはどうか? 娘と妻が待っているぞ。
だからと言ってそのまま死んでしまえば取り返しがつかない。
自分が中心でこの集団は成り立っている。 仮に自分が死んだら遠からず瓦解するだろう。
だからこそ第一、第二以上のより高精度、広範囲の未来の情報が必要なのだ。
自分を信じて付いて来てくれる仲間の為にも使うべきではないのか?
まるで麻薬だった。 使えば使うほどに満たされず、次が欲しくなる。
使うべきだ。 いいや、危険すぎるので使用は慎重になるべきだ。
この葛藤を繰り返す度に御簾納の正気が軋みを上げる。
自分はまだ狂っていないと信じているが、このままではいつまで正気を保っていられるのかも怪しい。
御簾納は仲間達に大丈夫だと笑顔を見せつつ、狂った自分の姿を幻視して恐怖を抱いた。
それを成したのは魔導書を持った者達。 彼等は第二位階で呼び出した悪魔を消してほっと勝利に胸を撫で下ろす。
「お疲れ様、戦った皆は後ろに下がって交代だ」
御簾納 容一郎はそう言って怪物と対峙した者を下げて他に前に出るように促す。 彼を筆頭に十名の人間がここに集まっており、それぞれが協力してこの迷宮を彷徨っていた。
ここまでの人数を集める事が出来たのは運と彼自身の才覚もあったが、魔導書に宿る悪魔の能力によるものが大きい。
『47/72』。 敵対者との間に友愛を齎すとされている異能を操るが、低い位階での使用では警戒心を抑える程度の効果しかない。 御簾納は最初から他人を操るつもりは毛頭なかったので、話しさえ聞いてくれる状況さえ作れれば良かったのだ。
操るつもりもそうだが、騙すつもりもないので彼は主催者の思い通りにならない為にも仲間を募って皆で知恵を出し合おうと説得して回っていた。
彼は妻子持ちで家には妻と娘が待っているので何としても帰ると決めている。
特に娘はある事件が切っ掛けで外を出歩けなくなってしまったので自分の助けが必要だ。
何の落ち度もない娘が話題欲しさのよく分からない連中に群がられ、心を病んでいくのを黙って見ている事ができなかった。
娘は巻き込まれただけで被害者だというのに何故世間は我々家族をそっとしておいてくれないのだ?
世間への怒りを抱きつつ、御簾納は娘の為に長年住んでいた家から見知らぬ地へと引っ越して環境を変え、これから様々な事が上向きになって行くはず。
そんな大事な時期に家族を残して死ぬなんて事はあってはならない。
だからと言って積極的に見ず知らずの他人の命を奪おうとまでは思えなかったのだ。
黙って殺される訳にも行かないので襲って来るなら戦う覚悟はあるつもりだが、可能であれば手を汚したくない。 何故ならそれをやってしまうといつもと同じように家族に接する事が難しくなると感じていたからだ。
可能な限り犠牲を出さずにこの状況を乗り切り、生きて帰る。
それを貫く為に彼は遭遇する者、一人一人に声をかけてこの集団を形成した。
とにかく情報が足りなかったので、主催者が用意した怪しさしかないこの魔導書に頼らざるを得ない。
魔導書は非常に強力で呼び出す悪魔はどれも強力無比と言っていいだろう。
加えて様々な特殊能力を持っている。 未来を予知したり、水を生み出したりと戦闘以外でも有用だ。
特に水はこの無機質な場所では必須と言っていい。 本来であるなら情報を得られる能力は積極的に使っていくべきなのだが、それができない事情があった。
御簾納の持っている魔導書は『47/72』だけでなく、もう一体分存在する。
『22/72』これは誰かから奪ったものではなく、彼の仲間が残したものだ。
魔導書を使用するに当たって明確なリスクが存在する。 命だ。
この魔導書の能力は未来と過去を見通す力を持っている。
それを用いてこの状況を打開するべく、第五位階を使用した者が居たがこの騒動の結末を見ようとしてそのまま死んだ。 悪魔へと姿を変えた彼はそのまま燃え尽きるように空間に溶けて消えたので、死体すら残らなかった。 あまりにも唐突で呆気なかったので死んだ事が信じられなかったぐらいだ。
魔導書を手にした段階で使い方は何となくだが理解できるのだが、リスクに関してはあやふやだ。
魂を捧げるとしか認識できない。 その魂がどういったものを指すのかを理解できる術を持たなかった彼等は第五位階の使用を止める事ができなかった。 今でも魂の何たるかが分からない御簾納達は危険性こそ理解できたが、具体的な所までは及ばないので使用を控える以外の対処法がないのだ。
だからと言って使用をやめるといった選択肢はないので戦闘は交替で行い、高位階の使用は厳禁とした。 御簾納は手に持つ魔導書へ視線を落とす。
『22/72』の能力は魅力的だ。 先の事を知れるといった誘惑は強い。
前の持ち主は何も伝える事なく、そのまま死んだので彼が何を見たのかは分からず終いだった事も使ってみたいといった誘惑を強める一因だった。
――安易な解決法へ手を出すのは破滅へと繋がる。
頭ではそう理解はしているが、早く帰りたいと願う気持ちは使えと囁く。
娘や妻の顔が脳裏に過ぎる度にその誘惑は強くなっていった。
時計を見るとまだここに来てから半日と少しぐらいだ。 たったの半日でこの有様。
果たしてこの状況が一日、二日と続けば自分はどうなってしまうのだろうか?
この状況に耐えられず、魔導書使用へ踏み切ってしまう自分の姿がはっきりと想像できてしまう。
その欲望を抑える為、彼は第一、第二位階で使用し、直近の未来を見ていた。
表向きは自分がリスクを引き受けると言い、裏では垣間見た未来の先が見たい葛藤と戦っている。
「御簾納さん! また分かれ道です。 どうしましょうか?」
「あぁ、分かった。 見てみよう」
御簾納は表面上、躊躇いつつ、内心では使う口実が出来たと思いながら魔導書を使用する。
「――そこの道に入ると怪物と遭遇する。 手強いが、我々で勝てない相手ではない。 このまま進むと広い空間に出るが、そこから先は分からない」
第一、第二ではそこまで遠くを見通せない。
やはり完璧に見るには第三以上の講師が必要となる。
第二を何度か使ってはいるが、体調に不自然な所はないので、次回以降は第三を使っても良いかもしれない。
いや、危険だ。 彼のようになりたいのか?
彼はいきなり第五を使ったから死んだのであって、第三、第四と使って慣れて行けば使えるようになるのではないか? 試しに一回使ってみてはどうか? 娘と妻が待っているぞ。
だからと言ってそのまま死んでしまえば取り返しがつかない。
自分が中心でこの集団は成り立っている。 仮に自分が死んだら遠からず瓦解するだろう。
だからこそ第一、第二以上のより高精度、広範囲の未来の情報が必要なのだ。
自分を信じて付いて来てくれる仲間の為にも使うべきではないのか?
まるで麻薬だった。 使えば使うほどに満たされず、次が欲しくなる。
使うべきだ。 いいや、危険すぎるので使用は慎重になるべきだ。
この葛藤を繰り返す度に御簾納の正気が軋みを上げる。
自分はまだ狂っていないと信じているが、このままではいつまで正気を保っていられるのかも怪しい。
御簾納は仲間達に大丈夫だと笑顔を見せつつ、狂った自分の姿を幻視して恐怖を抱いた。
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