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第26話
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林下 陽斗は戦意を漲らせていた。
手元にある魔導書は二冊分。 一度の勝利を経て自信を付けた彼は次の勝利を得る為に迷宮を進む。
――と、本人は思い込んではいるが、実際はやってしまった事に対する逃避行動に近い。
一度勝利しており、魔導書も二つになって悪魔も二体使役できるようになっている。
今の自分なら大抵の相手には勝利できるはずだ。
そう思いつつも内心には強い焦りが渦を巻く。 最も大きな理由は殺人を犯してしまった事による同様だ。
口では威勢のいい事を言っている陽斗だったが、日本での最大のタブーとされる殺人を行った事によって精神にかかった負荷は大きい。 やってから後悔する典型ではあるが、裏を返すと彼の中にまだまともな倫理観が残されている証拠でもあった。
だが、常識が通用しないこの状況では半端にまともな精神は邪魔でしかないのかもしれない。
相手もやる気になっていた事もあって、全てが彼の過失かと問われると少し違うだろうが相手は死に彼は生き残ったという結果だけが全てだった。
そして魔導書のページが増えた事が、彼の勝利と殺人を行った事実を雄弁に語る。
彼自身が誰よりもそれを理解しているので、仲間を探して団結する選択肢を奪い取ったのだ。
恐らく誰も陽斗を信用せず、信頼する事もないだろう。 逆の立場なら絶対に信用しないと彼自身が思っているので尚更だった。
彼がもう少し、割り切れる人間であったなら、もう少しだけ自らの行いに関して寛容であるなら進む道も変わり、別の選択肢を得られたかもしれないが今の彼には不可能でもう他の参加者を皆殺しにして全てを有耶無耶にする事でしか彼は自分を維持できない。
だから――
闇の奥から響くペタペタと歩く足音を聞いても殺す以外の選択肢を見いだせなかった。
現れたのは半裸――というよりはほぼ全裸の男。 腰に巻いている布以外、何も身に着けていないその姿は異様だったが、陽斗にはもはや関係のない事だった。
「あ? てめ――」
――<第二小鍵 24/72>
――<第二小鍵 25/72>
相手が反応する前に二体の悪魔を嗾ける。
殺すつもりではあるが、覚悟は半端なので直接手を下す事に抵抗がある。
そんな心理が第三位階以上の使用を躊躇わせた。
二体の犬のような悪魔は男に襲いかかる――が、陽斗は一つ重大な勘違いをしていた。
自分は一人殺した以上、二人目も三人の殺す事に変わりはない。
他と違って自分は覚悟を決めている。 自覚しての事ではないが、彼は「悲劇を背負った自分」に酔っていたのだ。 だから、他とは違うといった歪んだ優越感が存在していた。
――だから相手の事を致命的に見誤まう。
――<第四小鍵 29/72>
彼の勝利への確信は目の前で巨大な姿へと変貌した男の前に霧散する。
竜のような胴体に鳥のような巨大な羽。 怪物としか形容できない存在だ。
二体の悪魔は尻尾の薙ぎ払いと踏みつけによって瞬く間に倒される。
文字通りの瞬殺だ。 想定を大きく上回る結果に陽斗の思考に大きな空白が生まれる。
何かをしなければならないとは理解していたが、咄嗟の事で何をしていいのかが分からないのだ。
死線を潜り抜けた。 命のやり取りを経験した。 自分は奪う側の存在になった。
色々と威勢の良い考えが脳裏に渦を巻いたが、本質的な部分で彼は勘違いしている事に彼は最後まで気付く事はないだろう。
何故なら次の瞬間には彼は竜の巨大な足に踏み潰されたからだ。
虫か何かのようにあっさりと彼の命は飛び散った。
「ガキが、舐めてんじゃねぇぞ」
男はそう呟き、元の姿に戻ると陽斗の死体に唾を吐きかけると魔導書を拾い上げた。
持ち主が死んだ事で陽斗の持っていた魔導書は男の物へと変わる。
あっさりと片付きすぎた事が若干の不満だったが、結果には満足した男はそのままペたぺたと足音をさせて先へと進んだ。 残されたのは押し花のような有様になった死体だけだった。
この場所に来てからそろそろ一日が経過しようとしていた。
人は極限状況になれば真価を発揮す。 それは裏を貸せば本性が見えるという話を聞いた事がある。
御簾納 容一郎は集団を上手に率いてここまで来たのだが、早々に破綻の兆しが見えて来た。
人数がいれば様々な考えが発生する。 御簾納のように比較的、冷静な者もいるがそうでない者も当然ながら存在するのだ。 彼等は一刻も早くこの状況からの脱出を願っていた。
先の見えない状況に不安が募り、募った不安は精神の均衡を崩す。
精神の均衡が崩れれば正常な思考が難しくなり、それは視野を極端に狭窄させる。
そんな人間が取る行動は一体何か? それは非常に分かり易く、安易な答えを求めるのだ。
「み、御簾納さん。 もっと、もっと先の未来を見てください。 もしかしたら脱出のヒントが見つかるかも……」
「お願いしますよ。 家に帰りたいんだ」
「家に子供を残してるんです。 何とかしてください」
下手に使ったら死ぬにもかかわらず好き勝手な要求をする者達に御簾納は怒りを覚えていたが、どうにか宥めすかしてその場を凌いでいた。 しかし、少し時間が経てば同じ質問を繰り返す。
やんわりと止める者も居はしたが、自分が楽になる事しか考えられない者達には通用しない。
落ち着けと言われると全員ではないが火が付いたように怒り狂うのだ。
――どうすればいいんだ。
集団行動を甘く見ていた。 極限状況によるストレスや不安も人数がいれば緩和できるとの考えだったが、それがいかに浅はかだったのかを痛感する。
人数がいる事である程度の安全を確保できるメリットは大きいが、デメリットがそれを差し引いても大きすぎた。 これは下手をすれば後ろから刺されかねない。
現在、分かり易く不安を口にする者は三名。 最初は一人だったが、その不安が伝線したかのように他の二人も同調を始めたのだ。 明らかに引っ張られて不安に襲われている。
こいつを引き入れたのは失敗だったと内心で後悔したが、初見で判断するのは無理だ。
外れを引いたと割り切るべき場面なのかもしれないが、彼自身にも余裕がなくなりつつあった。
本音を言うなさっさと魔導書を使って脱出のヒントを探りたかったが、あくまで未来を見るだけの能力で答えが提示されるのかは怪しい。 下手をすれば見えるのは未来ではなく末路では――
御簾納は内心で首を振る。
未来を知りたい誘惑は強かったが、同じぐらいに不安が大きかった。
手元にある魔導書は二冊分。 一度の勝利を経て自信を付けた彼は次の勝利を得る為に迷宮を進む。
――と、本人は思い込んではいるが、実際はやってしまった事に対する逃避行動に近い。
一度勝利しており、魔導書も二つになって悪魔も二体使役できるようになっている。
今の自分なら大抵の相手には勝利できるはずだ。
そう思いつつも内心には強い焦りが渦を巻く。 最も大きな理由は殺人を犯してしまった事による同様だ。
口では威勢のいい事を言っている陽斗だったが、日本での最大のタブーとされる殺人を行った事によって精神にかかった負荷は大きい。 やってから後悔する典型ではあるが、裏を返すと彼の中にまだまともな倫理観が残されている証拠でもあった。
だが、常識が通用しないこの状況では半端にまともな精神は邪魔でしかないのかもしれない。
相手もやる気になっていた事もあって、全てが彼の過失かと問われると少し違うだろうが相手は死に彼は生き残ったという結果だけが全てだった。
そして魔導書のページが増えた事が、彼の勝利と殺人を行った事実を雄弁に語る。
彼自身が誰よりもそれを理解しているので、仲間を探して団結する選択肢を奪い取ったのだ。
恐らく誰も陽斗を信用せず、信頼する事もないだろう。 逆の立場なら絶対に信用しないと彼自身が思っているので尚更だった。
彼がもう少し、割り切れる人間であったなら、もう少しだけ自らの行いに関して寛容であるなら進む道も変わり、別の選択肢を得られたかもしれないが今の彼には不可能でもう他の参加者を皆殺しにして全てを有耶無耶にする事でしか彼は自分を維持できない。
だから――
闇の奥から響くペタペタと歩く足音を聞いても殺す以外の選択肢を見いだせなかった。
現れたのは半裸――というよりはほぼ全裸の男。 腰に巻いている布以外、何も身に着けていないその姿は異様だったが、陽斗にはもはや関係のない事だった。
「あ? てめ――」
――<第二小鍵 24/72>
――<第二小鍵 25/72>
相手が反応する前に二体の悪魔を嗾ける。
殺すつもりではあるが、覚悟は半端なので直接手を下す事に抵抗がある。
そんな心理が第三位階以上の使用を躊躇わせた。
二体の犬のような悪魔は男に襲いかかる――が、陽斗は一つ重大な勘違いをしていた。
自分は一人殺した以上、二人目も三人の殺す事に変わりはない。
他と違って自分は覚悟を決めている。 自覚しての事ではないが、彼は「悲劇を背負った自分」に酔っていたのだ。 だから、他とは違うといった歪んだ優越感が存在していた。
――だから相手の事を致命的に見誤まう。
――<第四小鍵 29/72>
彼の勝利への確信は目の前で巨大な姿へと変貌した男の前に霧散する。
竜のような胴体に鳥のような巨大な羽。 怪物としか形容できない存在だ。
二体の悪魔は尻尾の薙ぎ払いと踏みつけによって瞬く間に倒される。
文字通りの瞬殺だ。 想定を大きく上回る結果に陽斗の思考に大きな空白が生まれる。
何かをしなければならないとは理解していたが、咄嗟の事で何をしていいのかが分からないのだ。
死線を潜り抜けた。 命のやり取りを経験した。 自分は奪う側の存在になった。
色々と威勢の良い考えが脳裏に渦を巻いたが、本質的な部分で彼は勘違いしている事に彼は最後まで気付く事はないだろう。
何故なら次の瞬間には彼は竜の巨大な足に踏み潰されたからだ。
虫か何かのようにあっさりと彼の命は飛び散った。
「ガキが、舐めてんじゃねぇぞ」
男はそう呟き、元の姿に戻ると陽斗の死体に唾を吐きかけると魔導書を拾い上げた。
持ち主が死んだ事で陽斗の持っていた魔導書は男の物へと変わる。
あっさりと片付きすぎた事が若干の不満だったが、結果には満足した男はそのままペたぺたと足音をさせて先へと進んだ。 残されたのは押し花のような有様になった死体だけだった。
この場所に来てからそろそろ一日が経過しようとしていた。
人は極限状況になれば真価を発揮す。 それは裏を貸せば本性が見えるという話を聞いた事がある。
御簾納 容一郎は集団を上手に率いてここまで来たのだが、早々に破綻の兆しが見えて来た。
人数がいれば様々な考えが発生する。 御簾納のように比較的、冷静な者もいるがそうでない者も当然ながら存在するのだ。 彼等は一刻も早くこの状況からの脱出を願っていた。
先の見えない状況に不安が募り、募った不安は精神の均衡を崩す。
精神の均衡が崩れれば正常な思考が難しくなり、それは視野を極端に狭窄させる。
そんな人間が取る行動は一体何か? それは非常に分かり易く、安易な答えを求めるのだ。
「み、御簾納さん。 もっと、もっと先の未来を見てください。 もしかしたら脱出のヒントが見つかるかも……」
「お願いしますよ。 家に帰りたいんだ」
「家に子供を残してるんです。 何とかしてください」
下手に使ったら死ぬにもかかわらず好き勝手な要求をする者達に御簾納は怒りを覚えていたが、どうにか宥めすかしてその場を凌いでいた。 しかし、少し時間が経てば同じ質問を繰り返す。
やんわりと止める者も居はしたが、自分が楽になる事しか考えられない者達には通用しない。
落ち着けと言われると全員ではないが火が付いたように怒り狂うのだ。
――どうすればいいんだ。
集団行動を甘く見ていた。 極限状況によるストレスや不安も人数がいれば緩和できるとの考えだったが、それがいかに浅はかだったのかを痛感する。
人数がいる事である程度の安全を確保できるメリットは大きいが、デメリットがそれを差し引いても大きすぎた。 これは下手をすれば後ろから刺されかねない。
現在、分かり易く不安を口にする者は三名。 最初は一人だったが、その不安が伝線したかのように他の二人も同調を始めたのだ。 明らかに引っ張られて不安に襲われている。
こいつを引き入れたのは失敗だったと内心で後悔したが、初見で判断するのは無理だ。
外れを引いたと割り切るべき場面なのかもしれないが、彼自身にも余裕がなくなりつつあった。
本音を言うなさっさと魔導書を使って脱出のヒントを探りたかったが、あくまで未来を見るだけの能力で答えが提示されるのかは怪しい。 下手をすれば見えるのは未来ではなく末路では――
御簾納は内心で首を振る。
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