27 / 65
第27話
しおりを挟む
「どっすか? 聞こえますか?」
「おう、しっかりと聞こえてるぜ。 いや、しっかしお前の悪魔マジで使えるな」
水堂の言葉に祐平は苦笑して見せる。 戦闘能力が重視されそうなこの現状ではあるが、手放しで褒められる事に少しだけ複雑な気持ちだった。
「――にしても誰とも出くわさねぇな」
「さっきから誰かが戦り合ってるらしい音は聞こえるんですけど、ここの構造の所為かどこかよく分からないんですよね……」
彼等はこの迷宮を進んでいる間、何度も戦闘のものと思われる衝撃や音を何度も感じているが、反響して大雑把な方角しか分からず距離もはっきりと掴めなかった。
祐平としては近寄りたくもなかったが、笑実を探す必要があるので少しでも人がいるであろう場所へと向かわざるを得ない。 水堂としても捜索に協力するつもりであったので、異論はなかった。
方針は定まっているので後は進むだけなのだが、黙々と進むのも時間の無駄なので『11/72』の能力を色々と試していたのだ。
その過程で火力以外での貢献はできそうだった。 この状況下でなければ素直に凄いと感心できるものではあったが、驚くべき事にこの世界には魔法が存在するのだ。
体系化されて魔術と呼称されているらしいが、大枠では似たようなものなので様々な事ができる。
感覚的なものを多分に含むので水堂にしっかりと説明はできないが、何ができるかの共有はできた。
ついさっきまで話していたのもその内の一つだ。
「水やらなんやらの問題は概ね解決したが、飯はどうするかな。 ここをうろついてる化け物って食えるのか?」
「一応、食える奴もいるみたいですが、毒を持ってる奴も多いんで見極めをしっかりしないと死にますね」
「……マジかよ。 ちなみに見分けはできそうか?」
「多分、行けますね。 残念ながら料理には自信がないんで、単純に焼いて食う事にはなりそうですが」
「こんな状況だし贅沢は言わねぇよ。 腹減って動けなくなるよりはマシだ」
「そうですね。 取りあえず何か出てきたらお願いします。 食えそうならその場で焼いて食ってしまいましょう」
最初は他愛もない雑談だったが、話題も尽きた現状は祐平が魔導書で得た知識を披露する形になっていた。 祐平はずっと喋っていてウザいとか思われていないかなと少し不安を感じていたが、水堂としては黙っていると気が滅入るので話題が途切れないのは素直にありがたいと思っていたので快く彼の話に付き合っている。
こんな薄暗く、視界が碌に利かない場所。 長時間居ると精神に異常をきたしそうな環境だ。
祐平が会話を途切れさせたくないのは無意識に自分の心を守る為だったのかもしれない。
「魔法だの魔術だの漫画みたいな力ってマジであるんだな。 まぁ、魔導書使っている時点で今更って感じだがな」
「どうも人間には魂ってのがあってそこから引き出せるエネルギーが魔力って奴みたいなんですが、どうも引き出し方にちょっとコツがあるらしいですね」
「簡単にできるようならとっくに皆使ってるだろうしな。 なんか特別な手順とかある感じか」
「そうですね。 魂は人間の精神的な何かの一番奥にあるのでそこに手を突っ込んで引っ張り出す感じです」
「はは、何だそれ。 さっぱり分からねぇ」
祐平はやや貧弱な語彙で魔術に関しての説明を行っていた。
彼曰く、魔力というのは魂から湧き出るエネルギーで魔法はそれを火や水に変換するようだ。
それを効率よく行い、体系化したのが魔術との事。 魔導書も動く理屈は同じなのだが、湧き出るエネルギーだけでは賄えないので源泉そのものからエネルギーを汲みだすので結果、寿命が大きく減る。
「普通に生きてりゃ絶対に死ぬまで知れない知識だな」
「生きて帰れたらちょっとした芸として稼げそうですね」
「動画撮影でもするか? 報酬くれたら手伝ってもいいぜ」
「生きて帰れたらよろしくお願いしますよ」
祐平は苦笑してそう返し――足を止めた。 水堂もその場で立ち止まる。
何故止まったのかは聞かない。 魔法によって祐平はこの闇の中でもかなり視界が効く。
そんな彼が足を止めた理由は一つしかない。 何かがいるからだ。
「どっちだ?」
水堂が小声で囁く。
「人間ですね」
祐平がそう返したと同時に闇の奥から足音が響く。
「あ、あの、話を聞いてください」
現れたのは二十代ぐらいの女性。
表情には怯えが混ざっており、祐平達を認識した瞬間、僅かに一歩下がっていた。
その反応に水堂は駆け寄るような真似はせずに沈黙し、祐平は女性の魔導書へ視線を向ける。
「わ、私、一人で不安で、あの、その……」
女性はオロオロと途切れ途切れに不安を口にする。
「……取りあえず魔導書は一冊分ですね」
「そうだな」
女――櫻居 虹子は目の前の男二人の反応を見て内心でほくそ笑む。
警戒はしているようだが、近寄りさえすればどうにでもなる。
彼女の魔導書に宿る悪魔――『12/72』は情欲を操る事の出来、異性間の愛情を増幅する事ができる。 それにより男を誑し込んで操ろうと企んでいた。
最初に遭遇した二人組には何故か感付かれて攻撃されたが、今回は同じ失敗をしないように細心の注意を払って近寄る。 とにかく目の前の男二人の警戒心を削ぎ落すのだ。
弱い女を演じ、庇護欲を煽る。 演技に見えない不安を見せつけるのだ。
いや、不安だと思い込め。 自分すらも騙せと櫻居は全力で目の前の男二人へ媚びを売る。
スーツを着た若い男と学生風の男だったが、スーツの男はポケットに手を突っ込んで動かない。
反面、学生風の男はキョロキョロと周囲を警戒している。 その姿を見て内心でひやりと冷たい汗をかく。
前回と同様、第二位階で召喚した悪魔を背後に控えさせているが、今回は少し距離を離しているので見つかる心配はないはずだ。
警戒させない為に出さない事も考えはしたが、前回はいきなり攻撃されたので万が一を考えると出さざるを得なかった。
学生風の男が手に口を当てると、小さく頷いた。
それを警戒を解いたと解釈した櫻居はおずおずといった様子で近寄る。
一歩、二歩、慎重に距離を詰めて接近していく。 この距離では効果が出ない。
第二位階では最低限、触れる距離まで近寄る必要がある。
「止まれ」
三歩目を踏み出したところで男がそう口にし、櫻居はギクリと足を止めた。
「おう、しっかりと聞こえてるぜ。 いや、しっかしお前の悪魔マジで使えるな」
水堂の言葉に祐平は苦笑して見せる。 戦闘能力が重視されそうなこの現状ではあるが、手放しで褒められる事に少しだけ複雑な気持ちだった。
「――にしても誰とも出くわさねぇな」
「さっきから誰かが戦り合ってるらしい音は聞こえるんですけど、ここの構造の所為かどこかよく分からないんですよね……」
彼等はこの迷宮を進んでいる間、何度も戦闘のものと思われる衝撃や音を何度も感じているが、反響して大雑把な方角しか分からず距離もはっきりと掴めなかった。
祐平としては近寄りたくもなかったが、笑実を探す必要があるので少しでも人がいるであろう場所へと向かわざるを得ない。 水堂としても捜索に協力するつもりであったので、異論はなかった。
方針は定まっているので後は進むだけなのだが、黙々と進むのも時間の無駄なので『11/72』の能力を色々と試していたのだ。
その過程で火力以外での貢献はできそうだった。 この状況下でなければ素直に凄いと感心できるものではあったが、驚くべき事にこの世界には魔法が存在するのだ。
体系化されて魔術と呼称されているらしいが、大枠では似たようなものなので様々な事ができる。
感覚的なものを多分に含むので水堂にしっかりと説明はできないが、何ができるかの共有はできた。
ついさっきまで話していたのもその内の一つだ。
「水やらなんやらの問題は概ね解決したが、飯はどうするかな。 ここをうろついてる化け物って食えるのか?」
「一応、食える奴もいるみたいですが、毒を持ってる奴も多いんで見極めをしっかりしないと死にますね」
「……マジかよ。 ちなみに見分けはできそうか?」
「多分、行けますね。 残念ながら料理には自信がないんで、単純に焼いて食う事にはなりそうですが」
「こんな状況だし贅沢は言わねぇよ。 腹減って動けなくなるよりはマシだ」
「そうですね。 取りあえず何か出てきたらお願いします。 食えそうならその場で焼いて食ってしまいましょう」
最初は他愛もない雑談だったが、話題も尽きた現状は祐平が魔導書で得た知識を披露する形になっていた。 祐平はずっと喋っていてウザいとか思われていないかなと少し不安を感じていたが、水堂としては黙っていると気が滅入るので話題が途切れないのは素直にありがたいと思っていたので快く彼の話に付き合っている。
こんな薄暗く、視界が碌に利かない場所。 長時間居ると精神に異常をきたしそうな環境だ。
祐平が会話を途切れさせたくないのは無意識に自分の心を守る為だったのかもしれない。
「魔法だの魔術だの漫画みたいな力ってマジであるんだな。 まぁ、魔導書使っている時点で今更って感じだがな」
「どうも人間には魂ってのがあってそこから引き出せるエネルギーが魔力って奴みたいなんですが、どうも引き出し方にちょっとコツがあるらしいですね」
「簡単にできるようならとっくに皆使ってるだろうしな。 なんか特別な手順とかある感じか」
「そうですね。 魂は人間の精神的な何かの一番奥にあるのでそこに手を突っ込んで引っ張り出す感じです」
「はは、何だそれ。 さっぱり分からねぇ」
祐平はやや貧弱な語彙で魔術に関しての説明を行っていた。
彼曰く、魔力というのは魂から湧き出るエネルギーで魔法はそれを火や水に変換するようだ。
それを効率よく行い、体系化したのが魔術との事。 魔導書も動く理屈は同じなのだが、湧き出るエネルギーだけでは賄えないので源泉そのものからエネルギーを汲みだすので結果、寿命が大きく減る。
「普通に生きてりゃ絶対に死ぬまで知れない知識だな」
「生きて帰れたらちょっとした芸として稼げそうですね」
「動画撮影でもするか? 報酬くれたら手伝ってもいいぜ」
「生きて帰れたらよろしくお願いしますよ」
祐平は苦笑してそう返し――足を止めた。 水堂もその場で立ち止まる。
何故止まったのかは聞かない。 魔法によって祐平はこの闇の中でもかなり視界が効く。
そんな彼が足を止めた理由は一つしかない。 何かがいるからだ。
「どっちだ?」
水堂が小声で囁く。
「人間ですね」
祐平がそう返したと同時に闇の奥から足音が響く。
「あ、あの、話を聞いてください」
現れたのは二十代ぐらいの女性。
表情には怯えが混ざっており、祐平達を認識した瞬間、僅かに一歩下がっていた。
その反応に水堂は駆け寄るような真似はせずに沈黙し、祐平は女性の魔導書へ視線を向ける。
「わ、私、一人で不安で、あの、その……」
女性はオロオロと途切れ途切れに不安を口にする。
「……取りあえず魔導書は一冊分ですね」
「そうだな」
女――櫻居 虹子は目の前の男二人の反応を見て内心でほくそ笑む。
警戒はしているようだが、近寄りさえすればどうにでもなる。
彼女の魔導書に宿る悪魔――『12/72』は情欲を操る事の出来、異性間の愛情を増幅する事ができる。 それにより男を誑し込んで操ろうと企んでいた。
最初に遭遇した二人組には何故か感付かれて攻撃されたが、今回は同じ失敗をしないように細心の注意を払って近寄る。 とにかく目の前の男二人の警戒心を削ぎ落すのだ。
弱い女を演じ、庇護欲を煽る。 演技に見えない不安を見せつけるのだ。
いや、不安だと思い込め。 自分すらも騙せと櫻居は全力で目の前の男二人へ媚びを売る。
スーツを着た若い男と学生風の男だったが、スーツの男はポケットに手を突っ込んで動かない。
反面、学生風の男はキョロキョロと周囲を警戒している。 その姿を見て内心でひやりと冷たい汗をかく。
前回と同様、第二位階で召喚した悪魔を背後に控えさせているが、今回は少し距離を離しているので見つかる心配はないはずだ。
警戒させない為に出さない事も考えはしたが、前回はいきなり攻撃されたので万が一を考えると出さざるを得なかった。
学生風の男が手に口を当てると、小さく頷いた。
それを警戒を解いたと解釈した櫻居はおずおずといった様子で近寄る。
一歩、二歩、慎重に距離を詰めて接近していく。 この距離では効果が出ない。
第二位階では最低限、触れる距離まで近寄る必要がある。
「止まれ」
三歩目を踏み出したところで男がそう口にし、櫻居はギクリと足を止めた。
0
あなたにおすすめの小説
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
花鳥見聞録
木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。
記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる