悪魔の頁

kawa.kei

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第29話

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  「――はぁ、それで俺達を操ってこき使おうとしたって事ですか」
 「……そうよ。 私の悪魔じゃまともに戦うなんて無理だし、殺人のリスクも負いたくなかったからしょうがないじゃない」

 祐平の質問に櫻居は開き直ったようにそう答えた。
 取りあえず彼女を保護する事は決めたので、歩きながら自己紹介と情報の共有を行っている。
 櫻居は水堂と話したくないのか距離を置こうとするので止むを得ず祐平が聞く事となった。

 ――とは言っても祐平達にとってあまり実のある内容ではなかったが。

 彼女は怪物の他、魔導書を持った二人組と遭遇しただけだった。
 片方の能力は不明だがもう片方は『58/72アミー』のようだ。
 今回と同様に誘惑しようとしたのだが、どうやったのか感付かれて攻撃されたらしい。

 「……今思えば、あんたみたいに何らかの手段で私の悪魔の能力を判別したか伏せてたのがバレたんでしょうね」
 「でしょうね。 そうでもないならあっさりとあんたを受け入れてたと思いますよ」
 「はぁ、どうしてこうついてないのかしら……」
 「他人を操ってこき使おうなんて考えるからだ」
 「なによ! しょうがないじゃない。 私の悪魔にはそんな能力しかないし、知られたら警戒されるのが目に見えてたから開き直って操ろうとしたのよ! そういうあんたこそちゃんと私の事を守りなさいよ!?」
 
 口を挟んだ水堂に櫻居はややヒステリックに返す。

 「はいはい、やるだけはやるって」
 「本当に頼むわよ? あんた達に見捨てられたら私、死ぬんだからね!?」
 「分かった分かった。 妙な事をしなけりゃちゃんと面倒みてやるよ」

 言い合う二人を見て祐平はそういえばと思い出した。

 「ところで話は変わるんですが二人はここに来る前ってどこにいました?」
 「ん? 集められる直前って事か? だったら俺は飯食おうとショッピングモールのフードコートに居たな。 面接終わって帰る途中でこの有様だ。 こうなるなら他で食えば良かったぜ」
 「櫻居さんはどうですか?」
 「私もフードコートでコーヒーを飲んでたわ」
 「……って事は消えたのはあのフードコートに居た面子って事か?」
 「そうみたいですね。 俺も飯を食いにフードコートに入ったら意識が飛んで気が付けばあそこでした」 
 
 ここに連れて来られた共通点は考えるまでもなくあの場所だろう。

 「つーか、魔導書のナンバリングを考えると行き渡る人数がいれば誰でもいいって感じだな」
 「そうですね。 もしかしたらフードコートの中にいる人間が一定数に達したらあそこに飛ばされる仕組みになっていのかもしれませんね」

 その点に関しては祐平はほぼ確信していた。
 魔導書の総数を考えれば多すぎても少なすぎても駄目だったはずだ。
 ぴったり規定の数に達したと同時に転移する仕組みだったのだろう。
 
 つまりあの場にいさえすれば誰でも良かったのだ。
 行かなければ回避できたと考えるなら、来なければよかったと後悔が湧き上がる。

 「……何よそれ。 偶々、あそこにいたから私達はこんな事になったっていうの?」
 「もしかしなくてもそうだろうな。 あのクソ野郎が何を企んでるのかは知らねぇが、見つけたら一発はぶん殴らないと気が済まねぇ」
 「――というか、あの男の目的って何なの? 魔導書も元々、アイツの持ち物でしょ? それをわざわざ私達に配ってこんな潰し合いをさせる意味が分からないわ」
 「つっても魔導書の代償を考えれば数があったって仕方がないだろ。 第五位階なんて使ってみろ、寿命なんて即座に吹っ飛ぶらしいぞ。 確かに凄い代物ではあるが、ぶっちゃけ割に合わねぇんだよ」
 「そこは俺も気にはなっているんですよね」

 水堂の言う事はもっともだ。 魔導書の力は凄まじい。
 使い方によってはいくらでも悪用ができるだろう。 だが、代償が非常に重いのだ。
 その為、軽々しく扱える代物ではない。 持ち主であるならこの催しを主催した男が知らない訳がないのだ。 

 「手持ちの情報だけで推測するなら、あの男の目的は俺達を潰し合わせる事でそのリスクをどうにかしようとしているとかですかね?」
 「……あぁ、それはありそうだな。 ここで死んだら魂がストックされるとかそんな感じか?」
 「七十二人分の寿命があるなら第五位階を使用するハードルもかなり落ちるのであり得ない話じゃないですね」
 「ちょっと、私達は生贄って事?」
 「もしかしなくてもそうだろうよ。 あいつの言葉を聞いただろう? 明らかに俺達に殺し合いをさせる腹積もりだっただろうが」
 「仮にそうだとしたら殺し合うのはマジで止めた方がいいですね。 数が減れば減る程にあいつの思う壺ですよ」
 「ま、方針自体には変更がないからなんも変わらんがな」
 「増やすのはいいけど、誰彼構わず引き入れるのは危険よ。 殺し合いに積極的な奴は絶対にいるでしょ?」
 「まったくだ。 出会い頭に誘惑して操ろうとするやつもいたから気を付けねぇとな」
 
 櫻居は小さく言葉に詰まるが、彼女の言う事は正しい。 
 現に一度、襲われているので見極めはしっかりと行う必要がある。
 無理に引き入れて内部分裂を招いてしまっては本末転倒だ。
 不和の種になりかねない要因は可能な限り、排除するべきだった。 付け加えるならそういった能力を持った悪魔も存在するので人格的に問題がなさそうでも魔導書によって仲間割れを誘発される事にも気を付けなければならないのだ。

 「やる事は変わらねぇけど、前途は多難だな」
 「そうですね。 どうにか信用できそうな人と合流できればいいんですけど……」
 「ま、幸いにも魔導書の能力は見れば分かるのはデカい。 後は話した感触で見極めれば、かなり絞り込めるはずだ」
 「何をしてくるのか分かるならいきなり襲われる確率はかなり減らせますし、場合によっては先手を打てますからね」
 「そういえば私の魔導書の能力が分かるのは潟来君なのよね?」
 「まぁ、そうですね」
 「なんでそっちの男が知ってたの? 見た感じ話し合っているようには見えなかったけど……」
 
 櫻居の質問に水堂はさぁなと肩を竦め、祐平は苦笑。
 
 「ちょっとな。 必要になったら教えてやるよ」

 不機嫌そうな櫻居を無視して水堂は会話は一段落と口を閉じた。 
 祐平も同様に口を閉じて周囲の警戒に戻る。 ポジションとしては水堂、櫻居、祐平の順番で進んでいた。 これは櫻居を信用していない事もあるが、彼女を守る為の措置でもある。

 有事の際は祐平がフォローに入ると同時に彼女が背後から水堂に対して何かをするのも防ぐ意味でも有用だ。 櫻居は居心地の悪さを感じていたが、殺されなかっただけマシだと言い聞かせて水堂の背を追った。 
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