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第57話
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「……取り合えず、方針は決まったが具体的にはどう動くかだな」
場所は開けた空間。 落ち着いた所で水堂はそう切り出した。
祐平は意見以外は言わない方がいいと判断して周囲の警戒、櫻居、伊奈波は前者は発言権がなく、後者は語彙力の問題で沈黙。 話すのは彼と御簾納、卯敷の三人となる。
「潟来君の友人を手にかける相談をする事には抵抗があるが、私としても黙って殺される気はない。 水堂君は探し出して殺そうと考えているね?」
「あぁ、どっちにしろやる事には変わりはねぇからな。 さっさと仕留めてさっさと終わらせよう。 首尾よく片付いても他の参加者に黒幕のクソ野郎も残ってるんだ。 いつまでも棚上げは無理だ」
水堂は当然だと言わんばかりに頷くが、御簾納は小さく首を振る。
「潟来君の話だと彼女は理性の怪物と化しているんだろう? 理性のない獣であるならそれもいいだろうけど、理性しかない彼女なら逆に罠を張って我々を待ち構えている可能性はないかね?」
「……向こうの口の中に飛び込むよりはこっちで待ち構えた方がいいって事か」
水堂は一理あると頷く。 彼は実際に笑実を見ていないので、判断材料が足りていない部分もあった。
しかし、知り合いであるはずの祐平ですら殺すしかないと言わしめた相手だ。
判断自体に誤りはないと思うが、どの程度壊れているのかは何とも言えないのが本音だった。
ちらりと卯敷に視線をやる。
「待ち構えるって案には賛成っすね。 ただ、あの女は相当数の魔導書を持っているはずなので、どうやって出し抜くかは考えた方がいいと思うっす」
罠を張ったとしても何らかの手段で探知されれば返り討ちに遭う。
それを懸念しての意見だった。 卯敷は直接笑実を見ているだけあって、可能な限り万全を期して仕留めるべきだと考えている。
「それに関しては私に考えがある。 魔導書の能力で定期的で未来を見れば少なくとも奇襲を受ける心配はないはずだ」
「……確かにそれをやれば確実に先手は取れるが、あんたの負担は相当だぞ。 案自体は採用するが、それをやるなら俺かそこの二人のどっちかに魔導書を渡した方がいいんじゃないか?」
水堂は今更御簾納を疑うような真似はしていない。
これは純粋に彼の事を心配しての事だ。 同じ使うなら寿命的に余裕のある他が使用するべきと思っての言葉だった。 それを察した御簾納は苦笑。
「今更君達を疑っている訳ではないよ。 本音を言えば押し付けてしまいたいが、娘とそう歳の変わらない若者ばかりに無理をさせて隠れてしまえば私は家族の目をまともに見れなくなってしまう。 だから、もう少しだけ頑張ってみるよ」
では早速と御簾納が魔導書を起動させ、未来を見て――目を見開いた。
悟った彼の行動は早く、水堂を突き飛ばす。 水堂が射線から外れた事を確認して安堵の息を吐く。 そして次の瞬間、彼の頭が弾け飛んだ。
「――っ!? クソがぁ!」
御簾納が何を見て何を選択したのかを悟った水堂は吼えながら魔導書を起動。
――<第三小鍵 07/72>
彼の全身が炎に包まれてその身に悪魔の力が現れる。
御簾納は完全に即死だ。 彼の死を悼みたかったがそんな事をやっている時間はなく、そして立ち止まる事は彼の命を懸けた行動を踏み躙る行為に他ならない。
だから、水堂は銃弾が飛んで来たであろう場所に火球を放つ。
見えてはいないが方向は分かる。 もはや何かを考える余裕もなく、人体が確実に燃え尽きるであろう火力は闇の向こうへと吸い込まれ――爆発した。
そこでようやく反応の追いついた卯敷と伊奈波が魔導書を使用。
二人とも出し惜しみをしている場合ではないと悟って第三位階で悪魔と同化を行う。
「クソ、来るの早すぎだろうが!」
卯敷が焦りと恐怖の混ざった口調で叫び、伊奈波は奇声を上げながら無数の炎の礫を飛ばす。
「ちょっと……冗談じゃない。 冗談じゃないわよぉぉ!」
櫻居は悲鳴を上げて逃げ出し、祐平は警戒していたのに何故こうなったのだと自責の念もあって、完全に棒立ちだ。 伊奈波が闇へと突っ込んでいき、水堂がそれを追いかける。
――何故、気が付かなかった? 何故、奇襲を許した?
考えるまでもない。 祐平の視認できる範囲の外から狙撃されたのだ。
頭では理解はしていた。 笑実が、幼馴染がどういった存在に変わってしまったのかを。
だが、実際に目の当たりにした時のショックは大きかった。 彼女はここまで冷静に、冷徹に殺人を実行するとは――いや、できると信じたくなかったのかもしれない。
本当なら蹲ってしまいたいが、頭部を失った御簾納の死体がそれを許してくれなかった。
祐平は御簾納が取り落とした魔導書を拾い上げて起動させる。
――<第四小鍵 22/72>
もう、小出しにして誰かを犠牲にする事に彼は耐えられそうになかった。
祐平の姿がメキメキと軋みを上げて獣のそれへと変貌する。
寿命を燃料にし、彼に人間を大きく超えた力を齎す。 そして『22/72』の能力は未来を見通し、これから何が起こるのかを正確にその脳へと叩き込む。
第四位階を始めて使用したが、なるほどとどこか冷静に彼は考える。
御簾納の死、笑実の襲撃、脳裏に渦巻く大きな混乱は凄まじい万能感の前に消し飛んだ。
人間を超越した力、知覚、そして五感とは違う新たな感覚に酔いそうになるが、危機は過ぎ去っていない。 打開する為に行動しなければならない。
見える。 悪魔と化した事で暗視の範囲も拡大し、更に深く闇を見通せるようになった。
目を凝らせば闇の奥にひっそりと佇む人影が、探し求めた姿が映る。
笑実。 彼女は最後に見た時とはまるで別人だった。
古めかしいマスケットを肩に担ぎ、無表情、そして無機質なガラス玉のような視線は真っ直ぐに祐平の方を見つめている。 視線が絡み合う。
祐平が笑実を認識しているのと同じに、彼女もまた祐平の存在を認識していた。
――再会を喜び合えるはずだったのに――。
彼女は祐平の予想通り、もはや人の形をした怪物と化していた。
そして彼女の次の手も同時に見通す。 水堂達には見えていないが、未来予知と併せて正確にこれから起こる出来事を見据えていた。
マスケットを構える笑実。 その周囲には彼女が使役している悪魔の群れ。
全部で四十二体。 水堂達の視界も計算に入れているのか半円状に取り囲むように布陣していた。
場所は開けた空間。 落ち着いた所で水堂はそう切り出した。
祐平は意見以外は言わない方がいいと判断して周囲の警戒、櫻居、伊奈波は前者は発言権がなく、後者は語彙力の問題で沈黙。 話すのは彼と御簾納、卯敷の三人となる。
「潟来君の友人を手にかける相談をする事には抵抗があるが、私としても黙って殺される気はない。 水堂君は探し出して殺そうと考えているね?」
「あぁ、どっちにしろやる事には変わりはねぇからな。 さっさと仕留めてさっさと終わらせよう。 首尾よく片付いても他の参加者に黒幕のクソ野郎も残ってるんだ。 いつまでも棚上げは無理だ」
水堂は当然だと言わんばかりに頷くが、御簾納は小さく首を振る。
「潟来君の話だと彼女は理性の怪物と化しているんだろう? 理性のない獣であるならそれもいいだろうけど、理性しかない彼女なら逆に罠を張って我々を待ち構えている可能性はないかね?」
「……向こうの口の中に飛び込むよりはこっちで待ち構えた方がいいって事か」
水堂は一理あると頷く。 彼は実際に笑実を見ていないので、判断材料が足りていない部分もあった。
しかし、知り合いであるはずの祐平ですら殺すしかないと言わしめた相手だ。
判断自体に誤りはないと思うが、どの程度壊れているのかは何とも言えないのが本音だった。
ちらりと卯敷に視線をやる。
「待ち構えるって案には賛成っすね。 ただ、あの女は相当数の魔導書を持っているはずなので、どうやって出し抜くかは考えた方がいいと思うっす」
罠を張ったとしても何らかの手段で探知されれば返り討ちに遭う。
それを懸念しての意見だった。 卯敷は直接笑実を見ているだけあって、可能な限り万全を期して仕留めるべきだと考えている。
「それに関しては私に考えがある。 魔導書の能力で定期的で未来を見れば少なくとも奇襲を受ける心配はないはずだ」
「……確かにそれをやれば確実に先手は取れるが、あんたの負担は相当だぞ。 案自体は採用するが、それをやるなら俺かそこの二人のどっちかに魔導書を渡した方がいいんじゃないか?」
水堂は今更御簾納を疑うような真似はしていない。
これは純粋に彼の事を心配しての事だ。 同じ使うなら寿命的に余裕のある他が使用するべきと思っての言葉だった。 それを察した御簾納は苦笑。
「今更君達を疑っている訳ではないよ。 本音を言えば押し付けてしまいたいが、娘とそう歳の変わらない若者ばかりに無理をさせて隠れてしまえば私は家族の目をまともに見れなくなってしまう。 だから、もう少しだけ頑張ってみるよ」
では早速と御簾納が魔導書を起動させ、未来を見て――目を見開いた。
悟った彼の行動は早く、水堂を突き飛ばす。 水堂が射線から外れた事を確認して安堵の息を吐く。 そして次の瞬間、彼の頭が弾け飛んだ。
「――っ!? クソがぁ!」
御簾納が何を見て何を選択したのかを悟った水堂は吼えながら魔導書を起動。
――<第三小鍵 07/72>
彼の全身が炎に包まれてその身に悪魔の力が現れる。
御簾納は完全に即死だ。 彼の死を悼みたかったがそんな事をやっている時間はなく、そして立ち止まる事は彼の命を懸けた行動を踏み躙る行為に他ならない。
だから、水堂は銃弾が飛んで来たであろう場所に火球を放つ。
見えてはいないが方向は分かる。 もはや何かを考える余裕もなく、人体が確実に燃え尽きるであろう火力は闇の向こうへと吸い込まれ――爆発した。
そこでようやく反応の追いついた卯敷と伊奈波が魔導書を使用。
二人とも出し惜しみをしている場合ではないと悟って第三位階で悪魔と同化を行う。
「クソ、来るの早すぎだろうが!」
卯敷が焦りと恐怖の混ざった口調で叫び、伊奈波は奇声を上げながら無数の炎の礫を飛ばす。
「ちょっと……冗談じゃない。 冗談じゃないわよぉぉ!」
櫻居は悲鳴を上げて逃げ出し、祐平は警戒していたのに何故こうなったのだと自責の念もあって、完全に棒立ちだ。 伊奈波が闇へと突っ込んでいき、水堂がそれを追いかける。
――何故、気が付かなかった? 何故、奇襲を許した?
考えるまでもない。 祐平の視認できる範囲の外から狙撃されたのだ。
頭では理解はしていた。 笑実が、幼馴染がどういった存在に変わってしまったのかを。
だが、実際に目の当たりにした時のショックは大きかった。 彼女はここまで冷静に、冷徹に殺人を実行するとは――いや、できると信じたくなかったのかもしれない。
本当なら蹲ってしまいたいが、頭部を失った御簾納の死体がそれを許してくれなかった。
祐平は御簾納が取り落とした魔導書を拾い上げて起動させる。
――<第四小鍵 22/72>
もう、小出しにして誰かを犠牲にする事に彼は耐えられそうになかった。
祐平の姿がメキメキと軋みを上げて獣のそれへと変貌する。
寿命を燃料にし、彼に人間を大きく超えた力を齎す。 そして『22/72』の能力は未来を見通し、これから何が起こるのかを正確にその脳へと叩き込む。
第四位階を始めて使用したが、なるほどとどこか冷静に彼は考える。
御簾納の死、笑実の襲撃、脳裏に渦巻く大きな混乱は凄まじい万能感の前に消し飛んだ。
人間を超越した力、知覚、そして五感とは違う新たな感覚に酔いそうになるが、危機は過ぎ去っていない。 打開する為に行動しなければならない。
見える。 悪魔と化した事で暗視の範囲も拡大し、更に深く闇を見通せるようになった。
目を凝らせば闇の奥にひっそりと佇む人影が、探し求めた姿が映る。
笑実。 彼女は最後に見た時とはまるで別人だった。
古めかしいマスケットを肩に担ぎ、無表情、そして無機質なガラス玉のような視線は真っ直ぐに祐平の方を見つめている。 視線が絡み合う。
祐平が笑実を認識しているのと同じに、彼女もまた祐平の存在を認識していた。
――再会を喜び合えるはずだったのに――。
彼女は祐平の予想通り、もはや人の形をした怪物と化していた。
そして彼女の次の手も同時に見通す。 水堂達には見えていないが、未来予知と併せて正確にこれから起こる出来事を見据えていた。
マスケットを構える笑実。 その周囲には彼女が使役している悪魔の群れ。
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