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第12話 パーフェクトを取らないと抜け出せない地獄
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基本的にこの手のマルチエンドを採用しているゲームはセーブデータを分ければ作業効率を大きく上げる事ができるのだが、このギュードゥルンはそうもいかない仕様だった。
エンディングへの分岐を決める為のフラグが物語全体に散らばっているので終盤の行動を変えればそれで終わりと行かないのがトロフィー回収の作業を困難にしていた。
このゲームは確かに名作だ。
話は面白いが、同じシーンを立て続けに何度も見てしまえば飽きが来るのも必然。
三週目に突入した逸子は明らかにだれており、いかに早く先に進めるかのタイムアタックに挑戦しているのではないかといった趣すらあった。
継征は集中力が切れて話しかけてくる逸子との雑談を交えながら進んでいくトロフィー回収作業を眺めていく。 とにかくこのゲームはエンディングが多い。
その理由はストーリーの構成によるところが大きかった。 様々な人間と関わっていくので進め方によってはギュードゥルンの餌とするはずの女性達と恋仲になって彼女を捨ててしまうのだ。
そう言った構成のエンディングが無数にあるのでちまちまと進め、フラグが発生するイベントの前でセーブデータを分割し、目当てのエンディングを見てトロフィー回収が済めばそこからやり直す。
効率を最大限に重視してひたすらにトロフィーを集め続け――金曜日。
「――終わったぁー!」
逸子はうーんと伸びをしてその場に倒れ込んだ。
「お疲れ」
画面にはギュードゥルンのトロフィーを集めきった事を示す画面が表示されている。
「さて、次は俺だが、もういい時間だし明日に――」
「ちょっとぐらいやろうよぉ~。 見てるだけだったし詰まんなかったでしょ?」
「……はぁ、分かったよ。 ちょっとだけだからな」
こうなるのは何となく分かっていたので継征はディスクを交換してゲームを起動。
プレイするタイトルは十柱戯。 麻雀に関してはルールの勉強中なので可能であれば後に回したかった。 そんな訳でこのゲームを選択する事となったのだが――
十柱戯。 簡単に言えばボウリングのゲームだ。
パッケージ裏にはプロが監修したとデカデカと煽り文句がかかれていたが、ゲームで間接的にやるよりは実際にやった方が楽しいのではないかと思っていたので期待値は低い。
ゴロゴロとボールが転がる。
ピンに向かって真っすぐには転がらず僅かに軌道が逸れて溝へと落ちた。
「あちゃー、ガターだねぇ」
逸子が後ろでそう呟く。 継征は無言。
ボウリングのゲームだけあってやる事がそれしかない。
難易度を選択し、それに応じた対戦相手が現れ、スコアで上回れば勝利だ。
トロフィーもそれだけしか存在せず「難易度~をクリア」しかない。
最後の一つが全ての難易度をクリアするなので、全部勝てばコンプリートとなる。
単純に見えなくはないが、これが中々に難しい。 操作としては狙いを定めてタイミングよく数度ボタンを押すだけ。
遅すぎるとファールラインを越えた扱いとなるので得点が入らない。
だからと言って早めに投げると途中で軌道が逸れてストライクにならなくなる。
「これ、タイミングがかなりシビアだな」
継征は思わずそう呟く。 低い難易度ならそれでも勝てなくはない。
ただ、難易度が上がれば上がる程、高得点を取る事を強いられるのでミスが出来なくなる。
全部で十の難易度が存在するのだが、八以上になると最低でも全てスペアを取らなければならない。
「だぁ! クソッ、ミスった」
現在、難易度九に挑戦中なのだが、一度外した時点で負けが決まるのでやり直しが必須になる。
五回、十回、十五回と繰り返している内に継征の表情に苛立ちが募り、カタカタと体を揺すり始めた。
「お、お兄ちゃん? そろそろ休憩とかしない?」
それを見て逸子は「これヤバいかも」と休憩するように促したが、継征は無視して再トライ。
二十、二十五、三十、三十五回と繰り返す内に継征の表情から怒りすらも抜け落ちる。
そして四十三回目の挑戦。 九回までノーミス。
「よし、よし、頼むぞ。 俺ならできる。 俺ならできる」
「お兄ちゃん頑張れー」
コントローラーを握る手に力が籠り、小さな軋みを上げる。
逸子は継征の集中を乱さないように小声でエールを送った。
運命の一投。 継征は全神経を集中し、コントローラーのボタンを押す。
「――っ!?」
僅かに早かったかもしれない。 指を離した瞬間、継征の背に冷たい汗が流れる。
彼の焦りに反してボールは真っ直ぐに転がり、ピンをなぎ倒す。
「よし、よし、やっ――」
九本のピンはあっさりと倒れたが残り一本が不安定に揺れて――倒れずに残った。
「あああああああああああああああ!! ちっくしょおおおおおおおおおお!!!」
継征は衝動的にコントローラーを放り出して床をのたうち回る。
「お、お兄ちゃん。 こんな時間に叫んだら駄目だよ。 気持ちは分かるけど落ち着こう?」
部屋の外からうるさいと母親の声が響き、逸子が慌てて飛び出して平謝り。
継征は魂が抜けたように倒れていた。 流石に不味いと思ったのか逸子はおずおずと継征の体を揺する。
「か、代わろうか?」
「うるさい。 このクソゲーは俺が倒す」
据わった目をした継征はまるでゾンビのような虚ろな目で立ち上がるとプレイを再開した。
五十、六十と回数を重ねていく。 途中で失敗するとすぐにリセットするので回転が速いのだ。
そして回数が百回を超えた所でついに――ボールが全てのピンを薙ぎ倒した。
「うおおおおおお! ざまあみやがれこのクソゲー!」
継征は勝利の咆哮を上げる。 声は抑え目なので母親が怒鳴り込んで来る事はなかったが、逸子は若干はらはらしながらその様子を眺めつつ小さく拍手。
そして――
「じゃあ最高難易度がんばろっか?」
――無情な現実を告げた。
その瞬間の継征は天国から地獄に突き落とされたかのようだったと後に逸子は語る。
流石に気力が尽きたのか継征は寝ると言い出したのでその日はお開きとなった。
土曜日の昼からリスタート。
継征は再びボウリングという名の地獄に身を投じたが、一度寝て気持ちをリセットしたお陰か五十回目の挑戦でクリアとなった。 パーフェクトスコアを出す必要がある関係で難易度九とそう変わらないので、同じ事をやれば勝てるのだ。 トロフィーの回収が完了した画面を見て継征は拳を強く握り、一言。
「二度とやらねー」
そう呟いた。
エンディングへの分岐を決める為のフラグが物語全体に散らばっているので終盤の行動を変えればそれで終わりと行かないのがトロフィー回収の作業を困難にしていた。
このゲームは確かに名作だ。
話は面白いが、同じシーンを立て続けに何度も見てしまえば飽きが来るのも必然。
三週目に突入した逸子は明らかにだれており、いかに早く先に進めるかのタイムアタックに挑戦しているのではないかといった趣すらあった。
継征は集中力が切れて話しかけてくる逸子との雑談を交えながら進んでいくトロフィー回収作業を眺めていく。 とにかくこのゲームはエンディングが多い。
その理由はストーリーの構成によるところが大きかった。 様々な人間と関わっていくので進め方によってはギュードゥルンの餌とするはずの女性達と恋仲になって彼女を捨ててしまうのだ。
そう言った構成のエンディングが無数にあるのでちまちまと進め、フラグが発生するイベントの前でセーブデータを分割し、目当てのエンディングを見てトロフィー回収が済めばそこからやり直す。
効率を最大限に重視してひたすらにトロフィーを集め続け――金曜日。
「――終わったぁー!」
逸子はうーんと伸びをしてその場に倒れ込んだ。
「お疲れ」
画面にはギュードゥルンのトロフィーを集めきった事を示す画面が表示されている。
「さて、次は俺だが、もういい時間だし明日に――」
「ちょっとぐらいやろうよぉ~。 見てるだけだったし詰まんなかったでしょ?」
「……はぁ、分かったよ。 ちょっとだけだからな」
こうなるのは何となく分かっていたので継征はディスクを交換してゲームを起動。
プレイするタイトルは十柱戯。 麻雀に関してはルールの勉強中なので可能であれば後に回したかった。 そんな訳でこのゲームを選択する事となったのだが――
十柱戯。 簡単に言えばボウリングのゲームだ。
パッケージ裏にはプロが監修したとデカデカと煽り文句がかかれていたが、ゲームで間接的にやるよりは実際にやった方が楽しいのではないかと思っていたので期待値は低い。
ゴロゴロとボールが転がる。
ピンに向かって真っすぐには転がらず僅かに軌道が逸れて溝へと落ちた。
「あちゃー、ガターだねぇ」
逸子が後ろでそう呟く。 継征は無言。
ボウリングのゲームだけあってやる事がそれしかない。
難易度を選択し、それに応じた対戦相手が現れ、スコアで上回れば勝利だ。
トロフィーもそれだけしか存在せず「難易度~をクリア」しかない。
最後の一つが全ての難易度をクリアするなので、全部勝てばコンプリートとなる。
単純に見えなくはないが、これが中々に難しい。 操作としては狙いを定めてタイミングよく数度ボタンを押すだけ。
遅すぎるとファールラインを越えた扱いとなるので得点が入らない。
だからと言って早めに投げると途中で軌道が逸れてストライクにならなくなる。
「これ、タイミングがかなりシビアだな」
継征は思わずそう呟く。 低い難易度ならそれでも勝てなくはない。
ただ、難易度が上がれば上がる程、高得点を取る事を強いられるのでミスが出来なくなる。
全部で十の難易度が存在するのだが、八以上になると最低でも全てスペアを取らなければならない。
「だぁ! クソッ、ミスった」
現在、難易度九に挑戦中なのだが、一度外した時点で負けが決まるのでやり直しが必須になる。
五回、十回、十五回と繰り返している内に継征の表情に苛立ちが募り、カタカタと体を揺すり始めた。
「お、お兄ちゃん? そろそろ休憩とかしない?」
それを見て逸子は「これヤバいかも」と休憩するように促したが、継征は無視して再トライ。
二十、二十五、三十、三十五回と繰り返す内に継征の表情から怒りすらも抜け落ちる。
そして四十三回目の挑戦。 九回までノーミス。
「よし、よし、頼むぞ。 俺ならできる。 俺ならできる」
「お兄ちゃん頑張れー」
コントローラーを握る手に力が籠り、小さな軋みを上げる。
逸子は継征の集中を乱さないように小声でエールを送った。
運命の一投。 継征は全神経を集中し、コントローラーのボタンを押す。
「――っ!?」
僅かに早かったかもしれない。 指を離した瞬間、継征の背に冷たい汗が流れる。
彼の焦りに反してボールは真っ直ぐに転がり、ピンをなぎ倒す。
「よし、よし、やっ――」
九本のピンはあっさりと倒れたが残り一本が不安定に揺れて――倒れずに残った。
「あああああああああああああああ!! ちっくしょおおおおおおおおおお!!!」
継征は衝動的にコントローラーを放り出して床をのたうち回る。
「お、お兄ちゃん。 こんな時間に叫んだら駄目だよ。 気持ちは分かるけど落ち着こう?」
部屋の外からうるさいと母親の声が響き、逸子が慌てて飛び出して平謝り。
継征は魂が抜けたように倒れていた。 流石に不味いと思ったのか逸子はおずおずと継征の体を揺する。
「か、代わろうか?」
「うるさい。 このクソゲーは俺が倒す」
据わった目をした継征はまるでゾンビのような虚ろな目で立ち上がるとプレイを再開した。
五十、六十と回数を重ねていく。 途中で失敗するとすぐにリセットするので回転が速いのだ。
そして回数が百回を超えた所でついに――ボールが全てのピンを薙ぎ倒した。
「うおおおおおお! ざまあみやがれこのクソゲー!」
継征は勝利の咆哮を上げる。 声は抑え目なので母親が怒鳴り込んで来る事はなかったが、逸子は若干はらはらしながらその様子を眺めつつ小さく拍手。
そして――
「じゃあ最高難易度がんばろっか?」
――無情な現実を告げた。
その瞬間の継征は天国から地獄に突き落とされたかのようだったと後に逸子は語る。
流石に気力が尽きたのか継征は寝ると言い出したのでその日はお開きとなった。
土曜日の昼からリスタート。
継征は再びボウリングという名の地獄に身を投じたが、一度寝て気持ちをリセットしたお陰か五十回目の挑戦でクリアとなった。 パーフェクトスコアを出す必要がある関係で難易度九とそう変わらないので、同じ事をやれば勝てるのだ。 トロフィーの回収が完了した画面を見て継征は拳を強く握り、一言。
「二度とやらねー」
そう呟いた。
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