妹とゲームする

kawa.kei

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第21話 環境が変わると人間関係も変わる

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 結局、日曜をフルに使っても勝ちきれなかった継征はコントローラーを投げ捨て、月曜に備えて眠った。
 そして月曜日。 これまでにないほどに不機嫌な継征を刺激したくなかったのか逸子は早々に出たようで姿はなかった。 母はどうしたの?と尋ねたが、継征は別にとやや不機嫌に返す。

 登校途中、継征の頭にあるのはあのクソゲー――ではなくウイニングストライカーⅡの事だ。
 完膚なきまでに叩き潰してやる。 そんな思考が脳内でループしもはや敵チームの事を親の仇のように憎んでいた。 怒りに濁った思考は眠った程度では払拭できず、起きてからもあの敵チームをどうやって粉砕してやろうかとそればかりだ。

 教室に辿り着き、席に着いた継征は腕を組んで目を閉じる。
 叩き潰す事は決定事項だが、ネームドを解禁して妥協しようといった考えもなくはなかった。
 だが、それをやると負けたような気持になるので意地でもやらない。

 「おはよー。 なんか機嫌悪そうだね?」

 そう言って声をかけてきたのは藤副だ。 継征は「おはよう」とやや不機嫌に返す。
 
 「その様子だとウイニングストライカーで苦戦してるみたいだね」
 「まぁな。 一応、決勝までは行ったからあと一回勝てばエンディングだ」
 
 休日の全てを費やしただけあって決勝までは行けたが、最後の一勝の壁が分厚い。
 バランス調整したという話は何だったのか? 明らかに前作よりも手強くなっており、継征の様子を見かねた逸子もプレイしてみたのだがあっさりと返り討ちに遭っていた。 トロフィーに関してもサクセスモードのクリアとネームドなしでクリアの二つを残すのみとなっているので次で勝てばまとめて取れるので、本当にあと一回勝てばこの刑務作業のような苦行も終わるのだ。

 「ふーん。 そうなんだ。 終わったらまた買いに来る感じ?」
 「まぁ、そうなるだろうな」
 「大変そうだけど頑張ってね」
 
 言われるまでもない。 バイトが終わったらリベンジだ。
 さっさと片付けてこの地獄から抜け出す。 継征はあぁと頷いて、どう攻略するかを反芻する思考のループへと戻っていった。


 翌日。 藤副 笑実はバイト先でうーんと伸びをする。
 昨日、今日と継征は目の下に隈を作り、虚ろな表情と瞳には怒りとも憎しみともとれる謎の輝きを宿しており、明らかに危険な様子ではあったが本当に大丈夫なのだろうか?

 知人以上、友人未満ぐらいの関係ではあるがそこそこ話すようになった相手なので流石に心配していた。 
 今日も瞳に激情を宿らせ、ゾンビのような動きで消えていったので間違いなく現在プレイ中のウイニングストライカーⅡに苦戦しているようだ。
 
 藤副の知る限り、あのゲームは店に大量の在庫があるサッカーを題材としたゲームソフトにしか過ぎないのであそこまで人を狂わせることができるのかと少しだけ怖くなった。
 気になったので幼馴染に尋ねてみたのだが、確かに難しいがそこまでマジになれるか?と首を捻っていた。 幼馴染もプレイした事はあったらしいが、途中で投げてトロフィーは集めていないとの事。

 クリアだけなら難しいだけのゲームだが、トロフィーのコンプリートを狙うのなら難易度は跳ね上がる。 トロフィー、実績、アチーブメント。
 そのゲームにおいてのやり込み具合を決める指針のようなものだと彼女は認識していた。

 達成率が高ければ高いほどそのゲームを極めたといっても過言ではないだろう。
 コンプリートすればそのゲームは遊びつくしたと胸を張って言える。 
 ただ、わざわざそこまでやる必要があるのかというのが彼女の偽らざる本音だった。

 妹の頼みに真剣に付き合うからこそあの兄妹は良好な――良好すぎる関係を築けているのだろう。
 正直、距離が近すぎてヤバいのではないのだろうかと少し思っていたが、藤副の見る限り仲が良すぎる止まりといったところか。 

 「――はぁ、何を言っているんだ私は……」

 他人の関係をとやかく言う前に自分の方を何とかするべきだろう。
 彼女も人間関係で少し悩んでいた。 問題がある訳ではないが、原因は幼馴染にある。
 高校に入り、周囲の環境が変わり、見える景色もまた変わった。

 簡単に言うと周りが彼氏を作り始めたのだ。 
 女の友情というのは儚いものでどいつもこいつも男ができた途端に付き合いが悪くなった。
 友達付き合いが減ったので時間が空いた事が彼女がバイトを始めた理由だ。

 中学時代からの付き合いの友人たちがSNSで彼氏自慢をしているのを見て、藤副は最初こそ白けた態度を取っていたが幼馴染の彼氏とその話をすると「俺の友達も彼女作りだしてさ」と似たような話をし出した。 それを聞いて彼女の脳裏に浮かんだのは強い焦りだ。

 幼馴染が彼女を作って自分から離れていく姿を想像して自分でも驚くほどに動揺してしまった。
 そこで彼女は気が付いたのだ。 藤副は幼馴染の事を異性としてみていると。
 どうにか自分以外の女に取られないようにあれこれと手を打っているのだが、思った以上に上手く行かない。 継征と話しをするようになったのは行き詰っていた頃だった。

 何だかんだと面倒見のいいクラスメイトは可能な限りのアドバイスをくれたので、少なくともお世話になっているとは思っている。 
 そんな理由で継征の今の状態を心配しているのだが――

 ――不意に店の自動ドアが開き、誰かが店に来たようだ。

 レジのカウンターからちらりと入口へ視線を向けると継征と逸子の姿が見えた。
 逸子は普段通りだったが継征は消耗しきっており、しなびた野菜のように力がない。
 
 「ほら、お兄ちゃん! 早く早く!」
 「疲れた。 マジで疲れた……。 寝たい」

 二人はそのまま店の奥へ向かい例のP3ガチャを引きに来たのだろうと思ったのだが、藤副の予想とは裏腹に真っすぐにこちらに向かってきた。

 「あ、笑実ちゃんだ! こんばんは!」
 「はい、こんばんは。 どしたの? ガチャを引きに来たんじゃない感じ?」
 「うん。 ちょっと探してるのがあって」
 
 別の用事できたのか。 なら新発売のソフトか何かかと思っていると――

 「『絶界―運命の切り札― 強化セット』なんだけど……」
 
 ――??

 咄嗟に何それと思ったがややあって逸子が引いたゲームのタイトルだという事が分かった。
 
 「……強化セット?」

 聞き返すと継征が苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
 詳しく事情を聞くと納得したが、何とも闇の深い話だなと小さく溜息を吐いた。
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