アプリで知り合ったイケおじと××する話

市井安希

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アプリで知り合ったイケおじが×××する話

34 見られてた でも…

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「いっおり~ん!ちょっといい?」

妙なハイテンションな田邊がやって来たのは放課後、ほうきで教室を掃いている最中だった。今日は掃除当番で、俺の他に男子2人が掃除当番に割り当てられている。

教室の隅で掃除の邪魔にならないように大河と光太郎がスマホをいじって待っていた。


「もうちょいで終わるから待ってろ」
「待てないって~、お願い!こっちの方がすぐ終わるからさぁ!」

大声をあげ、俺に手を合わせてくるが、実際は他の掃除当番の2人に圧をかけている。
その様を見て大河と光太郎が目配せしてちょっと顔をしかめている。田邊はイライラするとこんな風に大袈裟な態度をとる。
声や顔は笑っているけど目が笑っていない。

俺が「ごめん、ちょっと抜けていい?」という前に2人が「あとは僕たちでやっておくから大丈夫だよ」と愛想笑いした。

「おっ、悪いね~、いおりん借りて行きまーす」

田邊に肩を掴まれどこかへ連れて行かれる。

「ちょっと、どこ行くの」
「まーちょっとねー。大したことないけど秘密の話したくて」
「秘密の話……?」

首を傾げるもスルーされ長い渡り廊下を歩く。足が止まったのは男子トイレの前で、扉には使用禁止の張り紙がある。
数日前、ここのトイレだけ流れが悪く、水漏れしているところもあるから使わないようにと担任から言われていた。
秘密の話するからこんな場所なのね、と1人で納得してたら田邊がバーンッ!と足で扉を開ける。
その音の大きさにビクッと肩を震わせたのも束の間で、次に目にした光景に言葉を失う。
トイレの床に正座して俯いている男子が3人並んでいた。田邊はズカズカと荒々しい動作でトイレに入っていき、仁王立ちして3人を見下ろした。
ドアのそばで立ち止まってボーゼンとしてると田邊が顎の先を動かしてこっちにこいと催促する。

「は……なに……?」
「んー。なんでしょうねー?」
「ちょっと、マジでわかんないって。なんなの」
「うん。そーだと思うよ」

全く事情を説明してくれない。頭を掻きながら田邊の隣に並び、おどおどビクビクしてる3人を見ると、なんとなく見覚えがあることに気づく。
あの時……俺が吐いてた時、誰かの悪口を言っていた田邊のクラスの連中だ。
俺のこと言ってたりしてって思ってたけど……。

「おい、なんか言えよ。裕治困ってんじゃん。お前ら裕治の時間無駄にするつもり?掃除当番だったけどわざわざ抜けて来てくれたんだぞ」

記憶を辿っていると田邊が低い声で凄んだ。
3人のうち1人がようやく顔をあげ、声を震わせながら言った。

「あ、ありがとう井折くん」
「は、違うだろ?ありがとうじゃなくて時間を無駄にしたこと詫びろよ」
「あっ、あっ、ご、ごめん!ごめん井折くん!」

ブスなヤツが顔を真っ赤にして頭を下げる姿はあまりにも見苦しくて、だんだんこの異常な空間にも慣れていく。

「でさ、なんなの。いい加減言えよ」

落ち着き払って高圧的に言うと田邊が片方の口角だけを上げてニヤリと笑った。

「マジで気ィ悪くしないで欲しいんだけどさ……。こいつら裕治がエンコーしてるって言ってたんだよ」
「……ふーん」
「ね、言ってたよな?」

田邊の言葉に3人が頷きながら消え入りそうな声で「はい」と返事をする。

「なんでそんなこと言ってんの」

一応、そう尋ねはしたが秋雄さんといるところ見られたんだろうなって予想できる。ってかそれしかない。
しかし焦りや恐怖は感じない。俺は憮然とした態度をとって3人を見下ろす。写真でも出されたらさすがに困るけど。

「あ……その……」
「おい、裕治が聞いてんの。答えろや」
「あ、あの……」

 真ん中にいたヤツがモゴモゴしだし、隣の2人が小声で「言えよ」「早く」と急かす。

「前に……井折くんと似た人とオッサンが腕組んで歩いてるの見て……」
「それで?」
「父親でもなさそうだし……金もらってヤッてるんじゃないかって……思って……」

どんどん声が小さくなっていく。ついて行ってホテルに入ったところも見られたかと思ったがそこで話は終わって拍子抜けする。
田邊がヘラヘラ笑って「だってさ」と言ってから急に真顔になった。

「で、いおりんはエンコーしてんの?」
「……してない。するわけないじゃん。バカじゃねぇの」
「あは、だよね」

嘘は言っていない。秋雄さんとはえっちしてるだけで金銭のやりとりはしていないから。
白状させられたヤツはすがるように俺を見上げていたが、「してない」と言った途端憎しみがこもった目で睨まれる。
田邊がいる手前「ホモ野郎」「嘘つき」そんな言葉を吐き出すのを必死に堪えているのがわかる。バカだなぁ勝手にすがったり憎んだりして……。
めざとく表情の変化に気づいた田邊が「なんだよそのツラは」と指摘する。

「こいつらみんなで裕治が援交してる、顔だけはいいからなって盛り上がってたんだよ。陰でこそこそとさぁ。
お前さぁ、似てるってだけで人のことそんな風に言って広めてさぁ。名誉毀損だよね。フツーに犯罪じゃん」
「ご、ごめん」
「俺に謝ってどうすんだよ、裕治に謝れよ」
「ごめん、井折くん!」
「ってかさー。さっきからごめんごめんってなんか誠意感じないんだけど。日本人なら本当に悪いって思ってたらどうすればいいかわかるだろ?」
「え……?」
「こうなったのもお前が原因だしさぁ、代表して責任とってもいいと思わん?なぁ?それで『今日は』許してやるよ」

つまり土下座しろってことだ。トイレで同級生に土下座なんてこんな屈辱はないだろう。両隣の2人からチラチラと視線で圧をかけられまさしくとりつく島もないという状況だ。コイツさえ土下座すればこの最悪な状況から解放されるのだから。
人を追いつめる手際が良すぎて引いてしまう。俺だってこのクソみたいな状況から抜け出したくてしょうがない。
こんなやつの土下座なんか見たくもない。秋雄さんのだってそんなに見たくないのに。

「どうすんの」と言った田邊の肩に手を置き「やめとけ」と止めに入る。

「あ?なんでよ?ムカつかねぇの?」
「あのなぁ夜道に気をつけろとか東京湾の水は冷たいってのも夜道には気をつけろよってのも脅迫罪になるし、土下座もやれっつったら強要罪だぞ」
「ふーん……」

厳密に言うと違うけど、ヒートアップする田邊は止めるには十分なワードだった。

「もうどうでもいいよ、帰ろうぜ」
「あぁ、うん」

田邊は急に素直になって3人に背を向けさっさとトイレを出る。
再び長い渡り廊下を歩いて教室へ戻る。
その間、田邊の父親が再婚して、会ったこともない26歳の女が母親になることを打ち明けられた。しかもその女は妊娠していて、今度の土曜日顔を合わせるという。

そりゃ荒れるな……。

「みんなにはそのうち話すから内緒な」とヘラヘラする横顔が痛々しかった。
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