脳内暮らし

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プロローグ

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引きこもりとは2種類居ると思う。

皆さんが思い浮かべる引きこもりとは、おおよそ仕事もせず、部屋から出ず、親にパラサイトな人物だろう。

だけど、全ての引きこもりがそうではないと思う。

皆さんは自分の脳内で会話する事はないだろうか?

「考えている時に聴こえる声と会話する」

そこにはちゃんと情景があったり、なんならお茶菓子があったりもする。

当然、実際にはないもの。

しかし、それは現実の自分に大きな影響力がある物。

いつからこんな事を熱心にやるようになったか分からない。

かれこれ13年はやっている。

仕事はしている。しかし、友人はろくに居ない。

休みの日は外にも出る。

しかし、脳内会話をしているので、あまり外に意識が行かない。

人とのやり取りを実際には殆どしていない。

コンビニの会計時に「レシートご利用でしょうか?」に対して「要りません。」程度のものだ。

必要最低限だ。

僕はこれがもう一つの引きこもりだと思っている。

外の情報は脳内会話を促進する。

自分の頭の中に、自分が心地のいい世界が広がる。

ある種の麻薬のようなものだ。

どんな悲劇すら脳内では幸福な結末に収まる。

だって、自分の頭の中なのだから。

僕はそれを辞める事が出来ない。気が付けば脳内では新たな物語が生まれている。

細かい内容ではないが、本当であれば2時間近くある映画の物語のクライマックスシーンのみだったり、仲間との別れのシーンだったり。

一つの物語で最初から最後まで完結する事はほとんど無い。

なぜなら、物語を全て作ることは決して自分の望むものではないからだ。

物語を作るなら小説家や脚本家でも目指せばいい。

しかし、ぼくの求めているものは、心地よさ。

誰からもこの世界について否定されない。批判もない。誹謗中傷も受けない。

この世界で作り出した人物は僕を肯定的に捉える。褒める。助けてくれる。仲間だ。

そんな心地のいい世界にどっぷり浸かる。

ファンタジーがいい。SFだっていい。些細な日常の世界も、またいい。

そんな事を続けていた。

自分では気付かない内に、現実にも干渉してくるキャラクターも生まれた。

アドバイスをしてくれたり、一緒に悩んでくれたり、励ましてくれたりする。

だんだんと独りで居ることの快感は増していった。

人と言葉を交わす事なんて、傷や痛みを伴うことばかりだ。

そうしているうちに、僕はある変化に気付き始める。

気付いた時にはもう遅かった。

この脳内で一生暮らしていくしかなくなった。

この話はそんな哀れな孤独人間のお話。

勝手に世界を憎んで隔絶した馬鹿な男のお話。
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