脳内暮らし

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芽生え

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「涼君、今日も学校終わったらセンター行ってね。」

母は朝食の後片付けをしながら、リビングに居る僕に向けて言った。

僕は片親だ。上の兄が2人居て、この頃は小学生になりたてだった。

母は仕事で銀行に務めていた。

僕は学校が終わると、18時まで小学校の隣にある神社の前にひっそりと建っている「育成センター」に預けられた。

母が帰ってくるのは19時だったか、20時だったか覚えていない。

最初の頃は普通に通っていた。

母と一緒にいる時間は他の子達と比べて少なかったと思う。

寂しかった事はかなり記憶にある。

独りで泣いたりもした。

でも、母には言えなかった。

何故言えなかったのかは覚えていない。

母が帰ってきた時にはとても満たされたのは覚えている。

きっと遊んでもらいたかったのだ。

父は僕が保育園に入ってすぐくらいに亡くなった。

急性アルコール中毒。

この事実を知るのはもっと先の話だが、父の死も関係していたと思う。

小学2年生くらいから、全く宿題をやらなくなった。

遊びたかったのだ。とにかく。その衝動を抑えられなかった。育成センターで、皆が宿題をやっている間、僕はパズルやプラレールで遊んでた。

育成センターの先生に「宿題は大丈夫なの?」と聞かれても、「大丈夫。家でやる。」と答えていた。

当然、家でもやらなかった。

家ではゲームばかりしていた。

母は僕が宿題をして居ないことは知らなかった。

何も聞かれなかった。

学校で何があったかも、話した記憶が無い。

毎日遊んだ。ゲーム、育成センターの仲間と鬼ごっこ。缶蹴り、ケイドロ、かくれんぼ。

そんな中で僕だけの遊びがあった。

恐らくこれが始まりだと思う。

ゲームのキャラクターを頭の中で思い浮かべ、自分の好きなストーリーに書き換えて、玩具で遊んだ。

フィギュアを使って独りでやる時は家に居る時。

友達も混ぜて、自分が敵キャラクターになって遊んだ事もある。

それはドンドンとエスカレートした。

ボールペンが槍みたいに見えて、それをフィギュアの武器に見立ててみたり、マジックペンの蓋をバスター砲に見立ててみたりした。

こんな事を考えて遊ぶ子供なんて居ないと、当時、自分の秘密の遊びになっていった。

だが、これだけで終わればよかったのだが、遂にはキャラクターをより正確に再現したくて、フィギュアの右腕だけ分解してみたり、頭のパーツだけで遊んだりし始めたのだ。

一部のパーツだけ手に持っていれば、実際にはない部分も理想通りのキャラとして、頭の中で遊べた。

本当に夢中になっていた。

何故こんな事をし始めたのか、普通の子供なら絶対にしない。

母や兄達も、全く何も言わなかった。

小学生ながらにして、母と遊べなくても安心して居られる方法を見つけてしまったんだろう。

小学3年生になった頃には、育成センターもサボって誰も居ない家に帰っていた。

自分では、独りで居ることに慣れたと思っていた。

強くなったと思っていた。

当時は平気だった。

でも、このある種「自分を守る方法」はこの先の、最も大事な思春期に、相当な大ダメージを与える事になる。

僕は後悔しかない。

誰にも言えなかった。

共感して欲しかったし、助けて欲しかった。

こんな気持ちは、今も心の中で、暗い夜の中、大雨に晒されて、叫び続けている。

事件は中学2年の頃から始まる…
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