不滅の国 トワ

もち雪

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旅をする奴隷とご主人様

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 月の光と、ラクダの荷物に備え付けられったランプの光が地面を照らし揺れている。

 その光の下で砂漠の砂が丘の下へとサラサラと流れ落ち、前を歩く足跡が転々と付いている。

 オアシスの町セルカフで雇ったガイドに先導されながら、体力の消耗減らすため暑い昼を避け、黄昏時に私たちは旅立った。

 昼間とは打って変わり冷え込む砂漠の夜。

 真ん丸にはまだ早い、月の下を私たちはラクダに乗り進んでいく。

 不滅の国トワへと。
 

 ダグラス博士に買われただろう私は、博士の大きな屋敷に住むことにった。

 そこでの生活は、私の知っている生活と少し違っていた。

 電気、水道、ガス、車が外を走り、駅へ行けば電車も走っている。小学校などの学校、病院、教会。

 インターネットで何で知る事が出来る。

 鏡で見た私の顔は思ったより幼く、おかっぱで、黒い瞳、可愛い部類である気はするが、中性的で、双子の片割れの様に女性らしい儚い美しさは無かった。

 そして背中には、あの見た事のない悲しい人の施した、読めない魔法陣の様な直径10センチ程の魔法の刻印が刻まれいる。

 それはナイやマダと同じもので、肩甲骨の直径10センチ普通に服を着る分には見えない位置。

 その刻印を見るたびに、空想だった魔法使いの存在を思い知る。

 そして奴隷を販売する事は犯罪で、しかし奴隷を持つ事合法な事。これはナイとマダも奴隷の身に落ちて初めて知った事らしい。

 この屋敷では見える世界から、隠れた真実がいろいろ埋まっている。

 アンダーグラウンドの世界がこの豪華で、華美な屋敷にはある。

 博士の家で、家事仕事を覚えるほかに、新聞やたくさんの本を読む事にる。
 
 博士の好みは詩と歴史、そして不老不死に関するものだ。
 ベニクラゲ、竹取物語、始皇帝、八百比丘尼、吸血鬼、どれも知識を欲し、浪漫を求める博士が調べるに値するもの。そしてその向こうに永遠に尽きないだろ知識と博士自身の未来の姿が博士には見えているのだろうか?

 
 この館へ来た当初は、会話の出来ない馬鹿とは博士は話したくないらしく、日常ではほとんど話す事はなく、時折、読まされている本に関する質問をされるぐらいだった。
 
 しかし最近では馬鹿認定から外されたらしく、質問される量が増えてきていた。

「お前は、不滅の国トワの話を覚えているか?」

「もちろんです。博士」

 不滅のトワは、博士の好きな不老不死の話しだ。
 
 ある日、トワの王位第一継承者の王子が、戦さで帰らぬ人になる。

 彼と恋仲であった、令嬢が彼の死を悲しみ、彼の復活を望み黒魔術師の弟子となる。

 そして令嬢は黒魔術師の家に代々伝わる禁術を存在を知り、それを師匠の目を盗み自分に秘術を使い、彼女はネクロマンサーへと変貌を遂げてしまう。そして彼女は目の前の人間を自分の意思と関係なしにただの骨へと変えてしまい、人々を恐怖に陥れてしまう。

 そして不滅の国、トワは滅んだ。

 そして不滅の国からトワではネクロマンサーの令嬢が今でも王子が目覚めるのを、彼の眠る教会で待っている。

 たぶん、この教訓は、禁忌に手を出すな。で、それ以上でも、それ以下でもない。
 
「不滅の国トワの場所を、ある黒魔術師が捉えたようだ」

「おめでとうございます。博士」
 
「しかしその国へ進入すれば、死が待っていると言う。では、お前ならどうする?」

 正解は行くだが、私はちっとも行きたくなかった。

「私は行きません。不老不死を得るには適性があります。きっと私みたいな者には無いでしょう。泣き喚き骨となるのが落ちです」

 私はそう答えた。博士は私の答えがあまり気にいらなかったのか。

「そうか……」
 だけ言って行ってしまった。

 それから一週間後、不老不死の秘密を手に入れる為、博士は不滅の国トワと向かう事を決めた。

 そして私たちは、3人の奴隷を連れて旅に出る。

 そして、今、私たちは、皆、長袖、長ズボン、そして顔にはグルグル布を巻きつけている。それでも昼との温度差のせいか寒さを感じる。

 そんな私の前のラクダ乗り進むダグラス博士は、珍しく浮かれているようだ。博士の鼻歌が聞こえる。

 いつもしかめっつらをしている博士は、今は、どんな顔しているのだろう。出来たら不滅の国トワが博士の目的地でありますようにと、ラシクと呼ばれる私のためにも切に願う。

「ラシク、お前は永遠の命を得たらどうしたい?」

 その時、博士の突然の声に心臓が止まりそうになった。

「はい……、私は永遠はいりません。そんなに長い間、ご飯を毎日食べられないと思うので困ります」

「そんな事を言うな。生きている間はいう事を聞けば、食事をとらせてやるし、住む家も提供してやろう。人数が減ったが新しい子ども用意し、困らないようにしてやろう」

 博士は知らない人が聞けば、慈悲深く聞こえるような事を、私に向かい言っている。

「ありがとうございます」
 
 先導するガイドは、頭や顔を布で覆いその表情はあまりわからないが私の事を振り返りみる。

 ガイドは初めて会った時、お世辞で「可愛らしいお嬢さんですね。妹さんですか?」彼は私を見て、博士にそう言った。

「アレは、うちの奴隷上がりの助手だ」と、博士は、ぶっきらぼうに答えた。
 
 それからあのガイドは、私の事を振り返り見つめるようになった。もしかして私の事を哀れんでいるのだろうか? しかし本当に可哀想なナイ、マダだ。

 私たちは3人は、博士に連れられ旅に出た。ナイとマダ、私より3つ上の双子の兄妹だったのに、死ぬ日は別の日になってしまった。

 虹の橋を渡って2人は会えただろうか?

 しかしここは砂漠、奴隷に救いの手は来ないように、雨のない砂漠では、虹の橋を渡るのは容易ではないのかもしれない。

             ☆

 私たちの行き先に、何かが見え始める。
 
 「お客さん方、あれが不滅の国トワの城壁です。私は城壁の手前で帰りますが、お客さん方も命が惜しければ夜が明けるまであの国に入らないでください」

「もちろんわかっています」博士は紳士的そう言った。

「お嬢さんもですよ。お嬢さんは可愛いから、それを妬んでネクロマンサーの女が現れるかもしれない! 絶対入っちゃダメですからね」

「はい……博士の言い付けを守るようにします」

「お願いします。私に貴女方の遺体を回収させないでください」

 彼は私たちはに、懇願するように言う。おかしなものだ……回収がいやなら死体など捨てて置けばいいのに。

 きっとすぐに、風が砂で私たちを覆い隠してしまうはず。

「わかった、わかった。夜にはあの国から出て外で過ごす」

「お願いします。では、約束の2日後に来ます」

 そう言ってガイドは、つながれたラクダたちの先頭のラクダに乗り、オアシスの町セルカフへと帰って行く。

 奴隷と言う人間の下の存在の、居ない国に育った彼は私にも優しくしてくれた人だった。

 彼が遠くへ行き、見えなくなる前に博士は私に言う。

「行こうラシク、人払いのされている今だからこそ、不老不死という扉を開ける鍵と出会えるはずだ」

「はい、博士」

 まだ、星の瞬く星空の下、人に害を成すと言われるネクロマンサーのいる不滅の国トワへ、セルゾナ博士は、白いコートをひるがえしながら、大きめのリュクを背負う助手の私ラシクとともに不滅の国トワへと足を踏み入れるのだった。
 
      つづく


 
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