不滅の国 トワ

もち雪

文字の大きさ
4 / 7

廃墟を歩く

しおりを挟む

 次の朝は、リュクについていたピッピッピと鳴る、時計の音で目を覚ます。
 いつもは朝の用意をしてから、博士を起こすのだが、今日からはしばらくカンパンと缶詰などや、長持ちしそうな甘いお菓子類で我慢してもらわなくならない。

 しかしどれも量は十分ある。

 私はカンパンのうち2つ食べて、3つは胸のポケットに忍ばせた。

「おはようございます。博士、お目覚めはどうですか?」

「良くない」
 博士は、毛布に包まれすわっている。機嫌の悪い子どものようだ。私はそんな博士に少し腰を折り曲げながら話しかける。
 

 「大丈夫です。今は、トワに居ます。昼のあいだならガイドの話しでは、安全な様です。きっと不老不死に関する手がかりが見つかりますよ」

「わかっている」

 そう言って、博士は私の手からカンパンの袋を受け取り黙って食べる。

 博士は今、プライドを思い出し、博士と言われる最低限の人格を保つ事を思いだしたようた。昨日ように私に対して怒った態度で、口をふさがせる事はしてこない。
 
 それにしても骸骨が動きまわるこの状態は、お話通りだ。ならもしかしたら不老不死の秘密だけでも、何か見つかるのかもしれない。

 もしかして不老不死に関する、決定的な何かまで……。

 しかし骸骨がこの街から出られないように、不老不死となってしまった博士は、この街から出られるのだろうか?

 しかし令嬢は出られるが、出ないだけと考える事も出来る。この地に王子の死体があれば令嬢は彼に繋ぎ止められているだけ、そういう仮説も出来る。

 令嬢は、王子がここにいるからこの国からでない。そして骸骨は彼女がここにいるから……。

「ラシク」
「…………」
「ラシク?」
 
「あっはい?、すみません、少しいろいろあったので、考えこんでしまいました」
 
「お前は、これを食べたか?」
「あ……、はい、少しだけ」

「なら、もう少し食べておけ」
 
 そう言って、博士はわざわざ私のもとまでやって来て、カンパンを私の手の中に押し込む。博士の顔はいつも通り険しい顔だ。

「ありがとうございます……」
 
 私はそう言ってカンパンを3つ程食べた。博士の中で今の何が起こっているのかわからないが、今までこんなに事はなかった。
 
 ナイもマダも博士は厳しい人だからしっかりねと、言っていた。2人の代わり私に優しくなったらとかはないだろう。

「では、行こう」

「はい」
 私はリュクを持ってに力を込め、博士の後に続く。

 博士は入り口の手前で、足を止めるとまわりをうかがうように見る。ここからまわりを見渡すと白いと感じていた街並みはどちらかというとピンクよりの茶色の街並みだった事がわかる。

 そして骸骨のいたヤシの木が見えるが、昨日の骸骨の残骸はここからでは見る事は出来ないようだ。

 いつまで用心深く、入り口に立っている博士の横から私はトワへと足を踏み入れる。もたもたして夜になるのは避けたかった。

 博士は、私の後から付いて来た。

 やはり街は、誰か整備をしているようで、まっすぐと伸びた道路は砂に埋もれている様子はない。

 そして昨日あれだけばら撒かれた骨も消えいる。骨に、街をきれいにしょうなんて心か宿るだろうか?

 そんな事を考えるトワの住民は、たぶん1人きりだ。彼女が生きているのなら、危険度は骸骨の比ではない。

「あそこだ!」
 私が顔を上げた時、博士はもう教会の屋根に取り付けられたシンボルを見つけ、私を追い抜き走って行ってしまった後だった。

 私は慌てて博士を追いかけるが、整備されているといっても、大きな大穴が空いていないとか、砂に深く埋もれていないだけなので、大きなリックを背負っている私には博士に追いつけようがない。

「博士待ってください……」

 私は博士に聞こえない声で言った。聞こえる声でも博士は止まってくれない、同じ事だ。
 
 博士はすぐに教会の入り口から中へと入ってしまった。私はその後を追って、少し遅れては入ろうとした時、空を見上げた。

 そこにあるはずの教会のシンボル、しかしこの教会では何度となく令嬢が、王子の無事を祈り、復活を祈ったのだろう? けれどもそれは叶わず、彼女はこの檻に捉えられているようだ。

 だから私はすぐに前に向きなおり、中へと続く扉を開けた。

 教会の中は静かさかが積もっている。正直あまりいい意味でそう思ったわけではない。日曜大工のように塗られた壁の白、真っ直ぐに並んでいるはずの木の椅子は色褪せ、ガタガタと歪んで置かれている。

 現実から置いて行かれて、切り取られ空間。
 
 1番そう感じる。ウェディングロードの真ん中にある、ポッカリとあいた大きな四角い穴。非現実で、ここにあるだけで災いが吹き出して来そう。

 中を見ると階段のようで、博士を探すために仕方なくゆっくりと降りていく。
 
 地下へと続く階段は、もしかしたらこの国の秘密や不老不死についての答えが閉じ込められているのかのようではあるし、不心得な侵入者たちを地獄へいざなうための階段のようでもあり、そう考えると進む先は暗く深く見えてくる。
 
 私は壁にしっかり手をつけ体を支えてながら、光のない階段を降りていく。この先の地獄の業火にからめ取られないようにと。

 降りて行くと何か音がしているようだ、不機嫌な人間が壁に当たり散らすような音だ。

 博士だろうか? それとも昨日の骸骨が地下では生きている?

 階段の突き当たりの壁が見えるまで下に降りと、廊下につけられている明かりで辺りを知る事が出来るようになった。 私は階段の手すりが、壊れてもいいようにそっとつかまりながら、階段の影からそっと横にある通路に顔を覗かせる。

 そこには博士が居た。
 壁に並ぶ2つ部屋と突き当たりの部屋の内の扉が1つだけある奥の部屋の扉を壊そうとしている。

 私はその扉の中から何が出てくるのかわからず怖くてたまらない気持ちになるが、博士はそん事考えないのだろうか? もしかして博士自体この国の何かに操られていないだろうか? 凄く悪い予感がする。

「博士、大丈夫ですか?」

 博士は、いつもより汚れた服、乱れた髪で私に振り返った。

「全然、大丈夫ではない。ラシク、この扉を開けるための道具を持って来てくれ」

「はい、かしこまりました」

 私は少し安心して、振り返りもと来た階段を上がろうとすると――。

「ラシク!」
「はい! なんでしょうか!?」
 
 急に博士の私を呼ぶ声に私は驚き、手すりを止める木に鉄格子の囚人の様にすがりながら座る。

「気をつけて行けよ」
「……はい、ありがとうございます」

 そう言うと私は階段を登り歩いて行く。博士は、私たちの誰かに死がやってこようとも気遣う事なかった博士が、私を気遣う言葉を発した。

 私が今朝、渡したらパンはもしや腐ってたのか? どうだろう? だが、まだ私のお腹は大丈夫みたいだ。

 私は教会から出るとすぐに、隣りの家に入る事にした。
 扉はやはり開いてはいたが、中の様子は全然手が入っていない様ではないが、やはり2階や部屋の奥へ行くと荒れ果てた状態だった。歩く事によって舞い上がったホコリが、スノードームの様に降り注ぐ様子が目に見える。

 顔に布を巻きつけてはいるが、やはりホコリぽさを感じ、咳やくしゃみがでた。そこまでしたのに1階にある台所付近で、手斧があっさり見つかり先に2階段へ上がるべきではなかったと、非常に後悔した。

 しかし私の後悔する気持ちは、すぐに吹っ飛んだ。

 換気のためだろう壁にあけられた、四角い穴の窓の鉄格子のような木の檻の間から明らかに、砂漠の民特有のストーンとしたワンピースような服を着た長い黒髪の美しい女性が裏通りらしき所を歩いているの目前で見た。

 彼女からはまったく生気を感じなく、儚さだけが際立った印象を受ける。

 これから暑くなる砂漠の朝に、砂漠の民が頭に何も巻かずに、こんな廃墟の街をそんな無防備で出歩いている事などあるのだろうか?

 気づくと私は手斧の刃の部分を上に握りしめていた。
 
 私は慌ててその手を下ろし、念のため手斧を手に持ちゆっくりと、もし彼女がこちらに帰って来ても見つからない様に出来だけ物音をたてず歩きだす。

 彼女があの令嬢なら私たちは、彼女が教会にいる王子のもとへやって来るまでに、不老不死の秘密を見つけ出せるだろうか? 

 そして博士は、彼女に興味を持たないでいられるだろうか?   

 そんな不安を抱えながら私は博士のもとへと帰って行く。

    つづく

 

 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...