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廃墟を歩く
しおりを挟む次の朝は、リュクについていたピッピッピと鳴る、時計の音で目を覚ます。
いつもは朝の用意をしてから、博士を起こすのだが、今日からはしばらくカンパンと缶詰などや、長持ちしそうな甘いお菓子類で我慢してもらわなくならない。
しかしどれも量は十分ある。
私はカンパンのうち2つ食べて、3つは胸のポケットに忍ばせた。
「おはようございます。博士、お目覚めはどうですか?」
「良くない」
博士は、毛布に包まれすわっている。機嫌の悪い子どものようだ。私はそんな博士に少し腰を折り曲げながら話しかける。
「大丈夫です。今は、トワに居ます。昼のあいだならガイドの話しでは、安全な様です。きっと不老不死に関する手がかりが見つかりますよ」
「わかっている」
そう言って、博士は私の手からカンパンの袋を受け取り黙って食べる。
博士は今、プライドを思い出し、博士と言われる最低限の人格を保つ事を思いだしたようた。昨日ように私に対して怒った態度で、口をふさがせる事はしてこない。
それにしても骸骨が動きまわるこの状態は、お話通りだ。ならもしかしたら不老不死の秘密だけでも、何か見つかるのかもしれない。
もしかして不老不死に関する、決定的な何かまで……。
しかし骸骨がこの街から出られないように、不老不死となってしまった博士は、この街から出られるのだろうか?
しかし令嬢は出られるが、出ないだけと考える事も出来る。この地に王子の死体があれば令嬢は彼に繋ぎ止められているだけ、そういう仮説も出来る。
令嬢は、王子がここにいるからこの国からでない。そして骸骨は彼女がここにいるから……。
「ラシク」
「…………」
「ラシク?」
「あっはい?、すみません、少しいろいろあったので、考えこんでしまいました」
「お前は、これを食べたか?」
「あ……、はい、少しだけ」
「なら、もう少し食べておけ」
そう言って、博士はわざわざ私のもとまでやって来て、カンパンを私の手の中に押し込む。博士の顔はいつも通り険しい顔だ。
「ありがとうございます……」
私はそう言ってカンパンを3つ程食べた。博士の中で今の何が起こっているのかわからないが、今までこんなに事はなかった。
ナイもマダも博士は厳しい人だからしっかりねと、言っていた。2人の代わり私に優しくなったらとかはないだろう。
「では、行こう」
「はい」
私はリュクを持ってに力を込め、博士の後に続く。
博士は入り口の手前で、足を止めるとまわりをうかがうように見る。ここからまわりを見渡すと白いと感じていた街並みはどちらかというとピンクよりの茶色の街並みだった事がわかる。
そして骸骨のいたヤシの木が見えるが、昨日の骸骨の残骸はここからでは見る事は出来ないようだ。
いつまで用心深く、入り口に立っている博士の横から私はトワへと足を踏み入れる。もたもたして夜になるのは避けたかった。
博士は、私の後から付いて来た。
やはり街は、誰か整備をしているようで、まっすぐと伸びた道路は砂に埋もれている様子はない。
そして昨日あれだけばら撒かれた骨も消えいる。骨に、街をきれいにしょうなんて心か宿るだろうか?
そんな事を考えるトワの住民は、たぶん1人きりだ。彼女が生きているのなら、危険度は骸骨の比ではない。
「あそこだ!」
私が顔を上げた時、博士はもう教会の屋根に取り付けられたシンボルを見つけ、私を追い抜き走って行ってしまった後だった。
私は慌てて博士を追いかけるが、整備されているといっても、大きな大穴が空いていないとか、砂に深く埋もれていないだけなので、大きなリックを背負っている私には博士に追いつけようがない。
「博士待ってください……」
私は博士に聞こえない声で言った。聞こえる声でも博士は止まってくれない、同じ事だ。
博士はすぐに教会の入り口から中へと入ってしまった。私はその後を追って、少し遅れては入ろうとした時、空を見上げた。
そこにあるはずの教会のシンボル、しかしこの教会では何度となく令嬢が、王子の無事を祈り、復活を祈ったのだろう? けれどもそれは叶わず、彼女はこの檻に捉えられているようだ。
だから私はすぐに前に向きなおり、中へと続く扉を開けた。
教会の中は静かさかが積もっている。正直あまりいい意味でそう思ったわけではない。日曜大工のように塗られた壁の白、真っ直ぐに並んでいるはずの木の椅子は色褪せ、ガタガタと歪んで置かれている。
現実から置いて行かれて、切り取られ空間。
1番そう感じる。ウェディングロードの真ん中にある、ポッカリとあいた大きな四角い穴。非現実で、ここにあるだけで災いが吹き出して来そう。
中を見ると階段のようで、博士を探すために仕方なくゆっくりと降りていく。
地下へと続く階段は、もしかしたらこの国の秘密や不老不死についての答えが閉じ込められているのかのようではあるし、不心得な侵入者たちを地獄へいざなうための階段のようでもあり、そう考えると進む先は暗く深く見えてくる。
私は壁にしっかり手をつけ体を支えてながら、光のない階段を降りていく。この先の地獄の業火にからめ取られないようにと。
降りて行くと何か音がしているようだ、不機嫌な人間が壁に当たり散らすような音だ。
博士だろうか? それとも昨日の骸骨が地下では生きている?
階段の突き当たりの壁が見えるまで下に降りと、廊下につけられている明かりで辺りを知る事が出来るようになった。 私は階段の手すりが、壊れてもいいようにそっとつかまりながら、階段の影からそっと横にある通路に顔を覗かせる。
そこには博士が居た。
壁に並ぶ2つ部屋と突き当たりの部屋の内の扉が1つだけある奥の部屋の扉を壊そうとしている。
私はその扉の中から何が出てくるのかわからず怖くてたまらない気持ちになるが、博士はそん事考えないのだろうか? もしかして博士自体この国の何かに操られていないだろうか? 凄く悪い予感がする。
「博士、大丈夫ですか?」
博士は、いつもより汚れた服、乱れた髪で私に振り返った。
「全然、大丈夫ではない。ラシク、この扉を開けるための道具を持って来てくれ」
「はい、かしこまりました」
私は少し安心して、振り返りもと来た階段を上がろうとすると――。
「ラシク!」
「はい! なんでしょうか!?」
急に博士の私を呼ぶ声に私は驚き、手すりを止める木に鉄格子の囚人の様にすがりながら座る。
「気をつけて行けよ」
「……はい、ありがとうございます」
そう言うと私は階段を登り歩いて行く。博士は、私たちの誰かに死がやってこようとも気遣う事なかった博士が、私を気遣う言葉を発した。
私が今朝、渡したらパンはもしや腐ってたのか? どうだろう? だが、まだ私のお腹は大丈夫みたいだ。
私は教会から出るとすぐに、隣りの家に入る事にした。
扉はやはり開いてはいたが、中の様子は全然手が入っていない様ではないが、やはり2階や部屋の奥へ行くと荒れ果てた状態だった。歩く事によって舞い上がったホコリが、スノードームの様に降り注ぐ様子が目に見える。
顔に布を巻きつけてはいるが、やはりホコリぽさを感じ、咳やくしゃみがでた。そこまでしたのに1階にある台所付近で、手斧があっさり見つかり先に2階段へ上がるべきではなかったと、非常に後悔した。
しかし私の後悔する気持ちは、すぐに吹っ飛んだ。
換気のためだろう壁にあけられた、四角い穴の窓の鉄格子のような木の檻の間から明らかに、砂漠の民特有のストーンとしたワンピースような服を着た長い黒髪の美しい女性が裏通りらしき所を歩いているの目前で見た。
彼女からはまったく生気を感じなく、儚さだけが際立った印象を受ける。
これから暑くなる砂漠の朝に、砂漠の民が頭に何も巻かずに、こんな廃墟の街をそんな無防備で出歩いている事などあるのだろうか?
気づくと私は手斧の刃の部分を上に握りしめていた。
私は慌ててその手を下ろし、念のため手斧を手に持ちゆっくりと、もし彼女がこちらに帰って来ても見つからない様に出来だけ物音をたてず歩きだす。
彼女があの令嬢なら私たちは、彼女が教会にいる王子のもとへやって来るまでに、不老不死の秘密を見つけ出せるだろうか?
そして博士は、彼女に興味を持たないでいられるだろうか?
そんな不安を抱えながら私は博士のもとへと帰って行く。
つづく
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