魔王がやって来たので

もち雪

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僕の日常にやって来た魔王 (本編はここからです)

魔王がやって来た朝

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　あるアパートの室内、つい先ほどまで何もない空間から彼は現れ、それはまるで、それは魔法……。

　彼は、金色こんじきの長い髪が彼の整った顔を撫でる様に髪は流れる。

　彼の浅黒い肌を引き立てている。金色こんじきの瞳、自信に溢れている様さまを物語る口元。そして最後に彼の額には、もう1つの瞳。その瞳だけは、他の２つの瞳と動きをともにしておず、それのみで思考しているかの如く動く。
　
　彼の着るローブのから覗のぞく腕には、幾何学模様の紋様もんようが形を変え、色を変え静か蠢きうごめいている。。

　彼は、アパートの主であろう青年のベットに近づき覗きみる。

　あどけなさはもうないが、しかし大人でもない年頃である彼のベッド。そこに備え付けの小さな本棚には『草薙ハヤト』と、いう人物に対する真新しい寄せ書きが置かれていた。

　高校卒業し実家から巣立ったばかりの若者、髪の色は、少し青みのある黒で、顔はどちらかと言うと可愛いよりな青年。

　青年は何も知らず、魔王が、魔王である事に恐怖することなく眠り続けている。

　魔王は、最初はただ見つめていた。しかし魔王は眉間に皺を一筋つくったと思うとーー。

「勇者よ！目を覚ますのだ!!」

　普通の生き物では近づくだけで、恐れおののく魔王の言葉にも、青年は起きる事はない。彼は勇者だから？　

　そして突然現れた魔王、ヤーグの目的はなにか？　青年が起きなけれは、すべては始まらず主導権は眠っている青年が持っていた。

「ぐぬぬ」

　痺れをきらし？　思い通りにいかない苛立ちか、魔王はそうつぶやく。

　苦虫噛むような顔をしている魔王に対して、勇者の青年は眉毛ひとつ動かさずすやすや眠り続け、苛立ちを納め青年に呆れつつただ見つめている内に、逆に冷静さ取り戻した魔王が……。
　
「起きよ勇者！　勇者ハヤトよ！」

　今度は少し近所迷惑声で、勇者に呼びかける。やはり魔王ともなると近所に配慮して生活するって考えはなく、そして無駄な考えなのだろう。

　そして青年の近所からの好感度を破壊するような声は、青年の耳にも届いたようである。

　残念ながら、この出会いは青年に利益はないようですが……。

「ヴゥーン」と微かつぶやき、片手を伸ばし目を開ける青年。しかし残念、また眠ってしまった。

「ふたたび、寝るな！」

　魔王の大きな声が、辺りにふたたび響いていく。

　さすが魔王、玉座に座り知能を巡らせ、その意思を配下の者に伝達することが主だった仕事だけに、普通なら警察を呼ぶレベルの発声量を誇っていた。これで青年の近所さんとの人間関係は死に絶えた筈。

　はずだったのですが……、辺りは、怖い位静まり返っている。

　そこでやっと、ベッドで眠っていた青年は、目をこすりながら目を覚ましました。

「あ……なんで、コスプレイヤーがうちに？うーん出て行って欲しいのですが……。美少女コスプレーヤーなら考えなくもなかったんですけどね」

　彼は、まだ夢うつつの内に居るのか、魔王に対し恐怖も、驚きや戸惑いもない。

「わかった……」
　魔王は、静かに、冷静に言う。

「わかったのなら、帰って欲しいです」

　と、目をこすりながら彼はベッドから立ち上がり、魔王を玄関へと誘導しょうとした、その時。

　アパートの床板が木の枝へと姿を変え、彼の足先へと絡み付く。そしてそれは青年の体をまるで蛇の様に這いあがり、寝起きに初めて味わう、生命の危機に彼はなすべがなかった。

　予想通り足先からほんの少しずつ、確実に青年の身体を、締め上げてい。少しの時間のあいだに彼の首より下まで、身体をぐるぐるまきに拘束されていた。

「ぐわぁ……」
　
　青年のもらしたその声のみが、彼の出来る精一杯。後は目だけが固定された様に、目前の魔王をただ見る事を余儀なくされる。

　枝が彼を締め上げるので声もあげる事が出来ない状態に、ようやく魔王も気が付いたのでしょう。

　魔王の僅かな動きで彼の拘束が少しだけ緩む。

「これは、出来の悪い夢……」
　彼は独り言をただ呟く。

「そうではない」
　魔王は、わずかの彼の希望も打ち壊く。さすが魔王。

「本当に？　貴方のその洋服も、何かのどっきリではなく？……」

「そうだ……」

「僕はいったい、どういう状況なのですか？」
　青年は、少し涙をこぼす。

　その時、魔王は何故か目を背けて、後ろを向いた。その事に青年は絶望し、苛立ったようだ。

「答えろよ！、もういい加減夢なら覚めろ」
　
　青年の声がアパートの一室に響き、静かに消えていく。

「わかってたって言ったのに嘘つき、本当に何でですか！？」

「とりあえず、お前みたいな人間には実力行使しかないと言う事が、わかったと言っただけだ……」
　
　魔王は、何かを考えこむ様に、思い出す様に静かに語った。

　そしてふたたび魔王は、振り返り帰り青年をまっすぐに見つめる。青年はその表情から何かを読み取ろう取ろうとしたが徒労に終わる。
　
「お前みたいな人間って……」
　
　この物語の主人公草薙ハヤトは不服と戸惑い、悲しみをすべてを合わせて、魔王を見つめるしか出来なかった。

　つづく

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