魔王がやって来たので

もち雪

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僕の日常にやって来た魔王 (本編はここからです)

彼女との出会い

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 緊張感のある会話の中、お茶だけが僕の心を落ち着かせてくれてたいたが……。

 僕のお茶も、魔王のお茶も無くなってしまったようなので、再び魔王のコーヒーカップにお湯を注ぎお茶のTパックを入れる。前回もそうだが、Tパック引き上げる時に、魔王もTパックをゆらゆらさせてたけれも……。
 それは魔界でも常識なのだろうか? それとも説明を読むタイプ?

 まぁ……そんなこと聞ける雰囲気でもない。

 
 そしてとうとう本題の魔王の部下のかたに、ついて聞く事になった。人外の部下に思いをせる。見知らぬ魔物に、異世界の人間界が滅ぼされる未来が、取り越し苦労だったらいいのに……。さっきからそれが、頭から離れないので……せめて部下の人物像だけ聞くことにする。
 
「とりあえず部下の方の人となりがわからないと、なんとも助言のしようもないので写真など有りますか?」
 
「わかった。 部下の今の姿だけでも見せよう」

 そう魔王は快くこころよく言い、呪文を唱え始める。


 そうすると、何もない空間が輝きだし、その光が安定するとともに深い湖の湖面にも似た、テレビの液晶画面の様なものに姿を変える。画面がゆらめく様にして、ある石造りの城の内装を映しだしていく。
 
 薄暗い中に多くの書庫が並び、その中で等間隔に置かれてる重厚な机には、いくつもの引き出しが付いている。そこの上に置かれた蝋燭の燭台しょくだいがその中で一番、華美であり明るい光を放っている。その光に照らされ様に書類の山やペン、インク瓶が整えられ置かれている。
 
 その時、書類の山の一番上の書類を取る、繊細な指が映し出された。

 その指からカメラのズームが、寄る様にまだ幼さが残る、僕より少し幼いだろう女の子を大きく映しだす。

 白銀しろがねの髪は肩より長い。
 頬かかる髪以外は全て後ろで赤い木の実の集まった様な髪飾りによってまとめられている。その髪の間からは狐の様なふさふさな耳が覗き、彼女の表情と同じ様にせわしなく動いている。瞳は、魔王と同じ金色こんじき色をし、美しいと言うよりは可愛らしい容姿をしている。
 
 思わず僕の胸が高鳴るほどに。
 
 彼女は、手に持った書類について考えている様だ。その時、彼女が突然、驚きの表情で顔を上げ画面越しの僕と目があった。彼女はそのまま静かに手に持った書類を手前の机に置く。そして彼女は、画面に手が届く所まで近づいて来た。

 歩み寄って来た彼女が、自分を隠すように手を前に出しだすと最初に少しのノイズが画面に走る――。ノイズが徐々に広がり。画面の歪みになっていく。見ているだけしか出来ない僕の前で、歪みの中心から……。
 ――最初に形の良い爪ついたの指先が現れる。
 それは右手の様で、少しず出現するその手はマントをはらう様な動きをしたと思うと、ベリーダンスのファンベールの様に彼女を登場を、美しく、華やかに演出して消えていった。
 
「魔王様!? それにここは?」
 
「フィーナ!?  こっこれは……」

 うろたえた魔王は僕を見るが、僕はこっそり首を横に振り(ぼくに振られても困ります)という気持ちを伝える事しか出来なかった。

 しかしすぐさま魔王は閃いたという様な顔をしたと思うとーー。

「そう……偵察なのだ…… お前が言う様に、人類と共存出来るかどうか……可能性を探る為に、異世界の人間界へもやってきているのだ」

「じゃあ何故、私の事を覗き見していたのですか?」

 少しの沈黙の後、魔王がふたたび僕を見た、何かを促す様に……。
 
「魔族とか魔界とか信じられないので、いろいろ見せてもらってました……」
 と、少しの嘘を僕はつく。

「そうだったのですね」
 
「はい……そうです」

 魔王がニャリと笑う。その逆に僕は、フィーナさんに申し訳ない気持ちと、魔王に対して少し不愉快な気持ちになった。僕の気持ちが顔に出ていたのか、視線を感じ見てみるとフィーナさんと目が合った。

 (――本当に可愛いなぁ……)

 そう思っていると、彼女は、目をそらして横を向く。

(不躾に見過ぎて、嫌がられてしまっただろうか……?)

 そう心の内で慌てていると……彼女の耳が僕の方をみて止まった。視線を感じ見てみると彼女と目が合う。

 『ドキッ』と大きな心臓の動きを始まりに、僕の心臓の鼓動が早くなる。僕は彼女から目が離せなくなっていると、彼女がゆっくりと盗み見る様にこちらを見る。

 彼女は、顔もほんのり桜色に染まつている。

 僕の顔も同じように薄さくら色に染まっているのだろうか? 彼女とみつめあっていると、とても恥ずかしく、心地よい気持ち。

「なんだ!?」
 魔王の声が、時を動かす。
 
「いえ!?何でもありません!」
 そう言うと彼女は視線を外す。

 僕は恥ずかしい気持ちと、まだ彼女を見ていたい自分の気持ちを、誤魔化す為に魔王の方を見た。魔王の方も『そうか?』そう言いながら、僕と彼女を交互に見つめる……。
 僕の気持ちが、顔にあられてしまっているのか、納得出来ないという顔の魔王に、僕は内心ハラハラしていた。
 
「それで魔王様、観察してみてどうですか?」
 
 彼女が話を変える。残念なようなうれしいような複雑な気持ちだ。
 
「まだわからぬ」
 
 魔王も内政モードに気変わったのか、いままでにない真面目な顔つきだ。こうやって見ると、魔王も端正な顔をしている。そうやってみていると、額の目だけと目が合った。
 額に冷や汗かきながら彼女を思う気持ちのドキドキとは、別ものの心臓がドキッとそして心の底を冷やすような気持ちを自身に初めて感じ取る。
 
 彼女に対する恋する様な気持ちをいだいて、魔王に対して秘密なを気持ちをもって、初めて魔王の視線、特にすべてを見通すような額の瞳に対して、僕は彼に、真に心から恐怖した。
 
「魔王様、私が言い出した事ですので……魔王様の手を話ずらせる事の無いよう、私が魔王様に納得しただける提案を、この異世界で探しだしてみせます!」

「このフィーナにお任せ下さい」
 彼女がこちらがに!? ぼくの心が躍る。
 
 「駄目だ!なんか駄目だ!」
 そう言った魔王は、また僕と彼女を交互に見る。
 
「そんな…… でも、仕方ありません……今後、魔王様に信頼していただく為に、よりいっそう努力致します」
 
 彼女はその綺麗な瞳に、少し落胆の色が浮かんだ。たぶん自分の力の無さに落胆したのだろうが、たぶん魔王が危惧しているのは違う事だろうけど。
 
「では、今日はこれくらいで帰るとしょう」
 
「また来る 、ハヤトよ」
 
 ここに大事な部下は置いて置けないと言うように、早々と切り上げようとする魔王。

「はい」
 とは言ったものの、正直な気持ちもう来ないで欲しい……。
 
「さよなら 人間よ」

 彼女はあっさりそう言った。僕は少し落胆したが、仕方のない事だ諦めよう。所詮違う世界の人間だ。そう思う事にしたが、心の中にわりきれないものがあった。

「……さようなら」

 二人は魔法なのだろう、さっき魔王がしたように空間に湖面の様ものを作りそこから帰って行く。
 
 いつもより広く感じる部屋で、彼女の事、帰り際に一度も振り返らなかった事などを、僕はうじうじと考えてしまっていた。
 
 少し日が傾き、窓からの日差しが僕の目に眩しく映る。そこでようやく眩しい光をさえぎる為に、重い腰をあげ窓辺へと近づく……。窓辺に近づくとありえないものが、ふと僕の目に入る。目を凝らすと、僕の机の上には見知らぬ封筒があり、それがいつ、誰に置かれたものか見当もつかない。

 でも……、手紙の差し出し主が誰かと言う事に関して、心をざわざわとさせる、確信的な予感があった。その確信が、希望なのか、願望、妄想なのか……。
 

 ――もしかして……。

 馬鹿げた期待だけが、僕の胸の中に、心に大きく広がっていく。彼女は一度もぼくの机に近づかなかったのに……胸は、鼓動の高鳴りとなって大きく、そして無視出来ないものになっていく。僅かな時間の中で、もう自分の思いを期待を止められはしない。
 
 僕はゆっくり封を開ける。

 封の開かれた封筒からは、一枚の花びらが舞いでる。それは数をまし、小さな薄紅色の嵐を舞い起こす。僕の視線から何かを、隠すように……目の高さまで、嵐が大きくなる。

 その時、一枚の花びら僕の視界を覆う。それが合図だったように、静かに嵐は動きを止め、まるで別れを惜しむ桜の様にひら、ひらと僕の前で舞い落ちる。
 
 舞う花びらから少しずつ彼女が姿を現す。
 
 彼女は、その瞳を閉じていた。
 
 刹那せつなの時間であったが、彼女の金色こんじき瞳を思い浮かべ待ち焦がれた。彼女の目が開き、彼女のその右手が薄紅色の花びらの舞う中、僕に差し出される。

 ーーそれは誘惑。
 
 その手を取れは、僕は戻る事は出来ない。
 理性が僕に発信する警戒。それを感じるより早く彼女の手を掴み、彼女を僕の方へと引き寄せていた。警戒は、すぐ幸福にとって代わった……。
 
「ハヤト様」
 
 彼女の声がぼくの名前を呼んだ。
 痺れにも似た幸福に、僕は酔っていた。
 
「この花を受け取って下さいますか?」
 彼女は、その小さな両手のてのひらの上に乗っている。

 ーー彼女は、ピンクの花々を差し出す。

「はい……」
 
「あっありがとうございます」
 彼女の顔が、今度はバラ色に変わる。
 
「あの……絶対にまた来ます! それまで待っていてください」
 
 いろいろな気持ちを混ぜ合わせたような笑顔で、彼女は言った。

「はい! 僕が本当に勇者ならば、君が来るより先に君の所まで飛んでいきます」
 
 そこで彼女は少し恥ずかしそうに下を向く。そのすべてが可愛らしく、このまま傍に居て欲しいとさえ僕は思った。僕のその視線に気づき上目遣いに、彼女は僕を見た。

「私はフィーナです、 絶対! 絶対! 会いましょうね。」
 
「またね」
 
 そう言うと花びらが舞い散る中に消え入る様に、彼女は居なくなった。
 
「またね」

 もう誰も居ない空間に、僕は静かにつぶやく。僕と彼女、フィーナの居る世界、異世界を隔てる空間がそこにあった……。

(何もないのに遠いな……)
 
 視線を下に落とす、手のひらの上の花は跡形もなかった。

 ーーすべてが夢だったかのように。
 
 これが世界を救わない、僕の冒険の始まりだった。

 つづく
 
 
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