魔王がやって来たので

もち雪

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僕の日常にやって来た魔王 (本編はここからです)

僕の部屋へ魔王再来!

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 朝、携帯の目覚ましが鳴り、僕に起床をうながす。僕は、すぐさま携帯のアラームを解除し、再び眠りにつく。アラームは、後、3度の猶予ゆうよがある……それまでに起きれば今日は遅刻をする事はないだろう……。
 
 そんな日常を送っていると……。
 
 
「朝のニュースです」

「昨日、花咲動物園でパンダの赤ちゃんのお披露目がありました」
 
 スイッチを入れた覚えのないテレビが、今日も明朗活発めいろうかっぱつに朝のニュースをげる。

(うん……?)
 
 僕は、眠い目を擦りながらパソコンの方を見た。そこにはパソコンを観ながらくつろぐ、誰かの大きく、その割には運動でもしているのだろう……やけに背筋の真っ直ぐな背中がそこにはあった。小さく見える椅子に対し、不釣り合いの体格良い人物は、振り返えるとその額にもう1つの瞳があった。


 その瞳は、以前に僕の部屋に来訪した魔王の記憶を、僕の記憶の海から呼び覚まさせた。


「勇者、おはよう どうだ? 最近の調子は?」

 僕の事を気遣う様に、しかし僕の好きそうなジャンルの話は思いつかなったが、せっかく会えたのだから話をしょう、というようなこの歯がゆい感じ……。

「なんで、久しぶりに会った父親みたいな感じなのですか?……」
 
 僕は正直に疑問を口にした。
 
「なんで? と、言ってもアレだ!  最近の若者は、いろいろ難しいじゃないか? なぁ?」
 
 魔王の姿は、始終思春期にの息子に戸惑う父親のソレだ。
 
「なるほど……」
 
 僕は、僕で寝起きで、まわない頭で妙に素っ気ない受け答えしか出来ない。それでもどうにか、突然の来訪者をもてなす為に起き上がる。
 
「あのコーヒーがいいですか? それとも緑茶を飲まれますか?」
 
「うむ……緑茶を頼む」
 魔王は何の戸惑いもなく答えた、完全に馴染みのお客様である。
 
「はい」
 朝の特有の緊張感の中で、互い言葉少なに最低限の事をこなす。僕は、回らない頭でキッチンに向かうと、電気ポットを水で洗い電源を入れた。しばらくキッチンの壁にもたれかかり、寝室の魔王の様子をただ眺めているだけの僕に、トースターは『チーン』といういつもと変わらない音で、パンが焼けた事を知らせる。パンと思いつきで買ったい苺ジャムを一緒のお盆に乗せて運ぶと、何故かお湯を入れるだけだったインスタントコーヒーと入れた覚えのないTパックの緑茶が飲める状態で僕を出迎えた。


 魔王が飲み物を用意をする姿を思い浮かべ……思わず『グフォ』って吹きただしたが、思春期の息子の父と化した魔王は……。
 
「うむ」と、ただ言うので、そこも僕の笑いのツボに刺さってしまって笑いが止まらなくなった。しかし魔王は、そんな僕を気のもしていないように、僕の置いた目の前のパンを取り黙って食べている。
 
 一日目だったら、きっとぼくはまた魔王の魔法によって拘束されていたのだろう……。
 もともとこの魔王の性質は、対話を好む人柄なのかもしれない? やはりこの魔王に興味は尽きない。
 
(目の前のこの人は、部下の彼女の為だけに、彼女と近い種族であり、同じ年頃の僕にただ相談をしに来たかもしれない)と言う仮説に僕はとてもワクワクした。

 魔王の相談に答える為にも、魔王を知らなければいけないとも僕は考えた。

 ……その前に聞かなければいけない事がある。

「何故、貴方がここに?」

「何故、今更その質問を?」
 そう言った後、魔王はしばし沈黙した。

「もしや、今まで寝ぼけていたのか!?」
 そう言った魔王の何か言いたげな顔が、昔、ネットで流行った。
 ――『サバンナでも同じこと言えんの?』ならぬ、『魔界でも同じこと言えんの?』を連想させて再び笑いが止まらなくなった。

(きっと戦いに明け暮れる魔界に住む魔王に、とって人間界の僕は平和ぼけした存在なんだろうな……。)

 
「貴様が怒っているのかと、ハラハラしたのぞ……後、火などを使う際は、もっとちゃんとせねばならんぞ。魔法も少しのミスで、味方全てを巻き込むファイヤーストームになるのだからな」

 今、我が家のお父さんは大笑いする思春期の息子は置いといて、まず注意することにしたのだろう。
 
 いくら何でもこれ以上は失礼すぎるので、笑いを堪て謝罪をしなければならない。
「僕の寝起きの悪さはどうしょうもないですが、笑ってしまってすみませんでした」

「火のついても、気をつけるようにします」

「うむ、思春期の若者にはいろいろあるものだ、気にするな」
 
 そう言って魔王はニャリと笑う。ぼくは、魔王を見つめる。

 ――魔王、魔王様、貴方、先生、貴様、お父さん……。

 ――お父さん……お父さん……僕とフィーナさんの結婚を許してください。

 急に自分を見つめながら、黙りこんだ僕に、魔王は痺れを切らして「なんだ……?」と僕に問う。その事に少し焦りながら僕は話し出す。

 
 「あの僕が一応、勇者であるなら貴方の事を、魔王様って言うと差し障りがあると思うので……。僕は貴方の事を魔王って呼ぶべきだと思うのですが、差し支えがないかな? っと思いまして…」

「気にするな! 気にするな!お前とは血で血を洗う戦いをするのだからな」
  
 明朗快活に答える魔王。
 

「どうも……」
 
(争い事には、急に一般常識が無くなるなぁ……さすが魔族……)
 
「では、魔王、今日は何の用事で来たんだ」

 襟を正して、背筋を伸ばし、僕も魔王に負けず、明朗快活言ってみた。
 
「…………」
 僕はしっくりこない感じ、虚勢をはった自分の言葉に、納得出来ずに言い直す。
 
「来たんですか?」

 言い直した僕の顔をみつめ、魔王がニャリと笑う。歳上に、タメ口はいい慣れないのだから仕方がない。

 しかし今日は、長い一日になりそうだ。

 つづく
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