魔王がやって来たので

もち雪

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はじめての異世界

夜の炎

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 夕食を食べ終わりプレートを返す。
 
 シルスさんは、兵士の事務局に、顔出さねばいけないらしく、別れの挨拶をして帰って行った。そして今、僕達は城壁に登り、赤く燃える炎の前に立ち、炎を見つめる。

「炎だ」
 
 ぬいぬいは、真面目に普通の事を言うので少し可笑しくなったが、我慢した。

「どうしてこの炎はを? 」

「お前の以前使った魔法は、青い炎だった」

「青い炎も組み立てによって、作り出す事も出来るが……。初心者のお前が操るには、技術も経験も足りてないのだから、この炎で微細な精霊の力を感じとれれば御の字」

「出来なければ、また考えるわ」
 
 オリエラとぬいぬい小さな背の二人の顔にも、炎の暖かい光の影が映る。

「師匠、アブラカタブラ」

「ほいほい、アブラカタブラ」

「ハヤト、アブラカタブラ」
 
 そう言って、オリエラは、僕をきらきらした目で見つめる。
 
「アブラカタブラ……ってこれなんですか? 」

「ハヤトは、アブラカタブラ知らないの? 」
 
 オリエラが、後ろに手を組みながら話す、いたずら好きの子猫のように。
 
「アブラカタブラはね――概念的なものと言うか……。魔法使いを目指す者を導く魔法みたいなもので……。精霊が少しでもいる場所で、私は凄い魔法使いになります、だから精霊達よ導いてくださいって感じで言うの」

「でも、最近は魔法学校に入った時、炎の前で言う行事的なものになりつつあるけど」

(クリスマスに、メリークリスマスって言う感じだろうか? )

「まぁ常識をくつがえすと意味もあるし、作り出すと意味もあるな」

「つまり魔法だな」
 
 そう言うと、ぬいぬいは、火に手を近づけそのまま半円を空に描くように動かすと、炎がそれについて舞い上がる。そして体をひねりながら、炎を空中で舞わせる。

「師匠!それめちゃやりたい」
 炎の精霊が居なくなったぬいぬいに、オリエラは、掴みかかるように近づいてそう言うと――。

「だめだ」

「ししょおぉ――――」

「じゃ――お前が上級の魔法使いなれば、考えなくもない」

「やった――!」

「ハヤト、お前も出来るだろうが、やるなよ」

「魔法は危険なものだから、そこら辺のルールが、時に厳しいからな」

「でも、師匠はやるんだ……こんなに可愛いのに」

「可愛いは知らんが、おおぃにうらやましいやがれ」

 ふんともにゃりとも取れる、ちょっとワルいぽい顔をぬいぬいはした。

「じゃ――そろそろオリエラ帰るか、また寮母りょうぼに怒られるからな」

「いや……この時間は怒られると思うな……自主学習に間に合わなそうだもん……」

「なに!?」

「大丈夫だよ師匠……また、一緒に謝ろう!」

「それは、大丈夫と言わん!」

「なんかすみません、僕のせいで」

「ハヤトも大丈夫だよ」
 
「師匠は、可愛いから寮母さんに、子供扱いされて怒られてるだけだから」

「はぁ……」

「じゃ――さっさと帰るぞ」
 そう言った割には、ぬいぬいは普通の早さで歩いていた。ふたりは、兵士の練習場の下まで来ると、レンに呼び止められた。

「おお――い」

「いい所に、レン、こいつを勇者の間まで送ってやってくれないか?」

「いいけど、ハヤトには用事があったから」

「なんだ?」
 ぬいぬいは、動きを止めてレンを食い入る様に見る。

「まぁまぁ怖い顔しないで、ぬいぬい」
 
 レンは、ぬいぬいをなだめる様に手を、前に数度動かす。

「ハヤトのギルドの初級の認定書と、ギルドの身分証明のカードが出たんだ」
 そう言うと、きれいな紙袋をレンは差し出した。

「じゃーん、この紙はホイルトツェリオ城の城下町で、作られる工芸品なんだ」

「後、ギルドの身分証明書は、城下町の身分証明書も兼ねているんだよ!」

「もともと別の証明書が必要だったけど……最近はこれ一枚で良くなったんだよ!」
 いつになくレンが、興奮して話している。

「レン、わかったから」

「じゃ――ハヤトの事頼んだ」

「ハヤト、またな」
「またねぇーハヤト」
 
二人は、兵士の訓練場の奥の馬車のエリアへと消えていった。

「ありがとうございましたーおやすみなさい」

「ふたりともおやすみ――」
 僕とレンは石畳の道を歩き始めた。

   つづく
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