魔王がやって来たので

もち雪

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ホイルトツェリオ魔法学校

ようこそ魔法学校へ

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 魔法訓練から帰って勇者の間に帰り、風呂に入った僕は濡れた髪をタオルで乾かしながら廊下を歩いていた。

 
 しかし魔法を覚えて嬉しかったことの1つは、なんと言ってもいつでも、温かいお風呂にいつでも入れる事だ。
 今までは、シャルルさんが決まった時間に来て沸かしてくれるだけだったのでお風呂の為に時間を調整することに不自由さを感じていたところだったので、魔法の力で沸かしたお風呂に入るなんて素晴らしく、ファンタジーな魔法の使い道ではある。
 
 と、思っていたが、今日、帰宅した僕を上から下まで眺めたルイスが、お風呂場の窯に火をつけて暖かいお風呂を沸かしてくれた。それにしても、午前中居なかっただけで部屋も、お風呂も見違えるほど、きれいになりシャンプなどの備品の配置も整えられていた。

 廊下から客室から出てきたルイスとすれ違ったので、今日の練習結果の事、それによって午後の練習は中止になった事は伝えた。ルイスは、僕の事を気遣ってくれお茶を入れてくれた。

「それにしてルイス、屋敷内が見違えるほどきれいになりました」

「いろいろして貰ってありがとうございます」

「お役にたてれば幸いです」
 彼はしずかに微笑む。

「あのですねぇ……ルイス、同じパーティーメンバーとして聞くのだけど、午後もやはり忙しいですか? これから兵士の練習場でご飯を食べて、街の見学をして来ようと思っていて……。一緒に行きませんか? 」
 
「屋敷の方は、シャルルさんの手入れが良かったので差し支えない様です、午後は喜んで一緒にお供いたします。では、準備をしてまいります、しばしお待ちいただけますか?」

「はい、喜んで」
 僕、急いで準備しなけば、初めて異世界の街に降り立ち、買い物出来るなんて素晴らしい。服装などの予備も買わなければいけないが、お城からどれくらいの予算が割り当てられているのだろうか? 少しワクワクする気持ちになる。

 僕と、ルイスは、城の小さなトンネルをくぐり門の前を横切り、兵士訓練所へ向かう。僕のTシャツ、ジーンズの恰好とシルクハットと燕尾服のルイスでは凄い落差だったようで……。

「練習着以外の服も買いませんとねぇ……」と、ルイスに言われる始末であった。

 兵士訓練所前には、ぬいぬいとシルスさんが待っていて早速、食堂へ向かう。今日は時間が少し早かった様で兵士達の並ぶ列が食堂から少しはみ出ていた。今日のランチメニューの肉料理とパンと温サラダを食べた。
 赤ワインで、煮込んでるらしい肉はとても柔らく美味しい。そこに甘く煮たニンジンとブロッコリーが添えられていた。料理を食べている途中に、ぬいぬいが魔法学校の見学の許可が下りた事を告げた。僕はその素晴らしい予定に驚きひじでコップを落としそうになるが……。

 コップは、ルイスがキャッチし、水はぬいぬいが空中へと浮かしてくれ難を逃れた。

「いいから落ち着け」
「そうですね、魔法学校はあまり逃げませんし」
 ふたりにお礼をいい席に座った。
 ……たまになら逃げるんだ、魔法学校……。

 食事が終わった僕達から、食堂の入り口で、午後は別の仕事に就くシルスさんとは別れる事になった。兵士訓練所から出ている、定期馬車に揺られて街に移動する。城のからの坂道を下って行くと、にぎやかな街の中に入る。
 
 魔法学校は、その街の外れにあった。魔法学校をぐるっと囲む塀の中に入ると、一人の魔法使いが待っていた。
 馬車からおり挨拶すと、頑固そうな魔法使いの彼は、おおむね紳士的な態度で僕達を迎えてくれた。

「ようこそ勇者様、アルト様、そして久しぶりだね、ぬいぬい君。私が、この魔法学校の教頭をしております。フランツです」

「そしてぬいぬいくんの恩師でもある。日ごろは自分をそんな風に言う事はないが、そこはさしっしてくれるとありがたい」
 
「はは……今日はありがとうございます、よろしくお願いします」
 
 ぬいぬいと教頭の間に何があったか、想像がつくような、つかないような微妙な空気感を乾いた笑いでやり過ごし、僕はフランツ教頭に挨拶をした。
 
「お初にお目にかかります、フランツ教頭、本日は、よろしくお願いいたします」
 そう、挨拶した僕とルイスとは違い、ぬいぬいは少しぶっきらぼうに挨拶した。

「どうも、教頭お久しぶり」

「アルル君はお元気かね?」

「あぁ、今は息子が生まれたので産休中だが」

「それは何より、彼女に似てきっと優秀な魔法使いになるだろう。まぁ積もる話もありますが、時間は有限です。ではさっそく、皆さんを魔法学校ツアーご案内しましょう」

 彼は、両手を広く上げそのまま振り返る。そして歩くとともにその手を下した。彼は玄関までの白いレンガ道を無言で歩き、オレンジ色のレンガで作られた校舎の扉に手をかけた。

「あぁ!」
 僕の声にみんなの視線が集まる。

「あぁ……この校舎、どこかで見た事があるなっと思ったら……。僕の世界にある東京駅って駅に、雰囲気が似てるんです」

「それはお洒落な駅なんでしょうね」
 フランツ教頭が感慨深げに話す。
 
「この学校の開校は、この国あげての事業だったので、東西南北の天才が集まってこの学校も作られました。校舎の外装を手掛けたのも、その中の天才の一人です。そして何より学校に集まる生徒は、ぬいぬいを含め魔法に関しては、身分の差を越えて集められたエリート揃いです。しかし悲しいかな戦いになればそのエリートが、先陣に立ち戦わなければならない。その為、民衆が城へ避難する間、魔法学校内に彼らが、籠城ろうじょう出来るよう。頑丈に、そして数多くの仕掛けがこの魔法学校には、散りばめられています。そして戦い初めの舞台になるだろう、この地に作られました。魔法学校の前面だけ、城壁の作りが脆弱なのもそのためです。有事にも少ない犠牲、いえ誰も死なよう生徒達には在学中に我々、教師がすべての叡智を生徒達に叩きこみます」

「では、その一端をお見せしましょう」
 ギィーという重い音を奏でながら、フランツ教頭の手で魔法学校の扉は開かれた。


        つづく
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