魔王がやって来たので

もち雪

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閑話 5

狐の住処(すみか)と鳥の世話係

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 俺達は、フィーナの故郷の狐の里にやって来た。

 なるほど、もう帰れない故郷を思い出す。耳としっぽが無ければ違えてしまいそうなほどに……。

 今までいろいろな事があった。飯が食べれなかった事! 飯が食べれなかった事! ヤーグが、フィーナが居なくなり腑抜けてしまった事などだ。辛い、辛い腹減りだった。

 昔、故郷の周辺の強い奴を倒し、畑仕事で、都に出る為お金を貯め、故郷を出たあの日……、まずは𠮷原へ見に行くだけ、見に行くだけでも、と思って一歩足を踏み入れたらこっちの異世界だった時ぐらい辛かった。

 だが、今回は暴れる元気などないほど辛かったのだ。


 フィーナと、シルエットが旅立ってから数日たち、魔王ヤーグが、一日中物思いにふけっている事がおおくなった。

 そんなある日、そんなヤーグを激励してやろうと思い立ち、最近飯が滞っていたお礼参りも兼ねて背後から襲ってみた。

 まぁ俺は可愛い青い鳥だからな。

 だが、奴の背中へ触れたとたん痺れの様なものを感じ、はねの先から感覚がなくなっていった……。どうやら一度にごっそり生気を抜かれ様で暫く声も出せずにいた。何とかその時生きていられたのは、ヤーグによる何らかの魔法が、俺にかけられていたかららしかった。その魔法により弾かれ危機を脱する事は出来た。

 それからしばらくただ羽をばたつかせていた様に思う。やっとなんとか羽先の感覚が戻った時、不自由だった体をすこし移動させただ耐えた。

 こんな目にあうなんて……俺が一体何をしたのだ……そう考えると思い当たる節は確かにあった。しかしそれを置いておいて困っていた。

 時間経過とともに動ける様になった俺は、力の出る内に王座の裏の俺のねぐらまで行って、昨日取って来た葉っぱを食べる。それまでに至るまでにはどれくらいの時間がかかったのだろうか?

 飛べるようになった時、試しに、咲いてしまった食料の花を、ヤーグの肩に落としてみた。

 恐ろしい早さで枯れ、そして干からびる。

(こんな生活耐えられない……)、そんな気持ちで、風呂場から洗面器をなんとか口ばしにくわえヤーグのもとまで運び、頭に落としたならば、奴はやっと俺の方を見た。

「こんな事をして楽しいのかお前は?」

 呆れかえったと言う顔で、金色の目で語ってってくる。しかし俺は冷静に……、「今日は、何日か言ってみろ?」と奴に問う。

「10月の15か?」

「10月の21日だ! この馬鹿!? この姿じゃあ、さすがに飢え死ぬわ!!」

「わかった今、用意をする待っていろ」

「だめだ、俺はお前の意識を取り戻すまで、生気は吸われるは大変だったんだぞ!! 海に幸だ! 今から噂に聞いた海の幸を食べに行くぞ!!」

 だが、魔界には死の海しかなく、観光施設が狐の里にしかないとか言いやがった為、ここ狐の里に来たわけだ!
 
 しかし一抹の課題は残る。人間界を調べる時、ヤーグはこんぴゅーたーなる物を使っているが、今回は、それもせず己の知識のみで、狐の里しかないと言ったのだ。

 ほかにあるのではないだろうか? 素晴らしい宿が、今度フィーナに調べさせよう。

 さすがにフィーナの実家に関係の宿に泊まるわけにもいかず、街中より遠く離れた場所を選んだ。さすがにこちらに、手を出してくる事はないだろうが気を引き締めなければ。

 しかし温泉宿であるその宿には、俺の萎びた故郷には無いものた多分たぶんにあった。そして少しだけ気が緩む。

 魔王の視察と言う名目で行ったのだが、金は払わないでいいのか? と言ったが、奴は問題ないと言い、宿の女将には、温泉のもとと言う物を手土産渡していた。きっと温泉の根本に関わる重要なものに違いないだろう。

 それからは我が物顔で歩いた。宿の中は、すべてが和の世界。魔王城や俺の故郷にない、掘りごたつ、卓球台、フルーツ牛乳など都にしかなかっただろう物を見られて感慨深い思いだった。
 
 多くの温泉と料理の数々を堪能し、温泉街を歩いていた時、事は起こった。

 時治ときじと言う少年が、ある墓の前で立っていた。その狐の少年の生きる生気の無さは、昔の魔王の様だった。すべてを諦めそして墓を見据える少年の目。

「お前は、何をしている?」

 ヤーグが、そう言った時、正直まずいと思った。

「おっ母さんの墓を見ている」

 その少年がこっちを見た時、目はらんらんと輝き魔王を見据えた。さっきまでとはうって変わってその目は何かを決意した目で、たぶんそれは復讐だろう。らんらんと輝く目の奥に深い闇が刻まれている。

「見ていてどうする? 墓には骸しかあるまい?」

「それでも俺にとっては、ただ一人残ったおっ母さんの骸の眠った墓です」
 少年のやりきれなさが、その声から伝わり、そして今後の展開が俺には薄々わかった。

「では、お前に行く当てはあるのか?」

「ありません、今はおっ母さんの勤めていた宿にお世話になっていますが、俺の親族から帰って来た手紙の返事は『俺みたいな子どもの、おいて置ける食い扶持ぶちはない』と言うものでした」

「それでどうするのだ?」

「もう少し田舎に向かおうと思っています。俺は男だから畑仕事をし、贅沢を言わねば生きるだけのかろうじての、食料と雨露をしのげる軒を借りてるかもしれない……」

「では、我の城に住むがいい、そして鳥に餌をやりさえすれば、お前の食い扶持位なんとかしてやる」

「本当ですか?」
 時治は、魔王ヤーグを見た、その時少しだけ目に希望の火がともった。

「あぁ、後は任せたよしの……」

 そして魔王は、出番は終わったとばかり、勝手に先へ行きやがる。

「よしの様よろしくお願いします」

 少年は、深々と頭を下げた。知ってた。この展開、たぶんフィーナの時もそうだったのだろう。シルエットの時は、あっちが勝手について来た部分がおおかったが。

「いいか、俺は最近はフルーツが好きだ!」

「はい! そうだ俺は、時治ときじと言います。これからよろしくお願いします」

 と、言った時治は、魔王城へ来ると己が鳥の俺の世話をする側だと知ると目を丸くしたが、それでもヤーグと一緒に俺の為に健気に働くのであった。

       つづく
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