魔王がやって来たので

もち雪

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魔界の新たな闇

彼女の事情

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 魔王の王座の間を退場する時、ぬいぬいが「また、ダイニングキッチン借りていいか?」と魔王に告げる。

「好きにすれば良かろう」

「俺も行ってやろう」
 魔王のまわりで面白く無さそうに見ていたよしのさんが、王座の間の外までついてきてそうぬいぬいに声をかけた。

「どの立場でだ?」

 軽く言葉を投げ掛けたよしのさん対し、ベテラン冒険者はいささか不機嫌な様子だった。そして振り向きざまに、彼にそう問いかける。

「もちろん、親の立場でだ」

 歩きだした、ぬいぬいに並走するような形で歩く彼。

 どちらもすぐ、不機嫌になるタイプだが今回は、よしのさんが押されているようだ。

「お前はお前がしようとしている事を、父親に求めたか?」

「だが、俺と父親とは立場が違って……」

 よしのさんは歩みを止めてそう言う。彼は少し自問自答しているようではあった。

「よくわかっているじないか、お前が魔王からはなれない限り我々とも立場か違う。そしてお前の変化を誰も求めてない。お前自身もだ」

 そういとぬいぬいは、さっさと歩いて行ってしまう。

「よしのさん大丈夫です。ハヤトも一緒にいてくれるし、私はもう弱い子どもではありません」

「ああ……わかった」

 今のやり取りを見て、魔王と共に長く生きるって事は、成長を置いていかれるって事ならきついな。そう僕は思った。

 だけど彼はそれを受け入れているようだ。

 午前中に引き続きダイニングキッチンに僕らは集まる。ぬいぬいが自然と上座へと座った。
 
 その事で、進行がぬいぬいに決まった。最後に入って来たルイスが扉を閉めて、会議が始まる。

「では、始める。昼飯後の魔王の話し、ここで話しはデリケートな内容ばかりだ。実にめんどくさい。だから1度掘り起こす事にする。黙秘は認める。フィーナ、お前と狐の里について、強要しないが話せる事は全て話せ。その方が話しが早い」

 それを聞いて彼女はゆっくり立ち上がる。瞳の輝きは色褪せておらず、彼女の覚悟を感じようだ。

 しかし話題は、彼女の繊細な部分に触れる事だろう。心配だが、僕は彼女の強さを知ってる。

「狐には2種類の狐がいます。不思議な能力を多くもつ私の様な白銀狐とそれに従う普通の狐逹。今回私がハーピーの事件の首謀者に限りなく近くにいると思っているのは、普通の狐の長的位置にいた白煙です。白銀狐しろがねぎつねの当主だった、私の両親を殺す様に命じた人物である。そう私が思っている人物でもあります。そして今、白銀狐は里にただ一人。その私の従兄弟のみなとは、白煙しらけむりの孫です」

「それで君はどうしたいの? フィーナ、君の望みを叶えるために僕はこの世界に来た。だからしりたいんだ……」

 僕は座りながらだが、机の上に置く彼女の左手を握り言った。
 それは僕の懇願だった。

「私は湊の悲しむ事はしたくないんです。でも、狐の里の決まりは当主が決める事です。それを彼が行わないのなら、わずかに残った白銀狐として私は出向かねばなりません。魔王様の部下として、貴方がたの仲間として、これが私の事情です」

 そう言って彼女は静かに座り。僕は彼女の手を、どこにも行ってしまわないように強く結んだ。

   つづく
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