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星の御伽噺
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夜のとばりが星をまねく。暗闇に浮かぶその明滅は儚げに揺れながら、その広い世界を俯瞰していた。
寝静まった森を、いたずらに触り舐っていく冷たい風。枝をゆらし、葉をゆらし、その身を寄せ合うように音を鳴らす鬱蒼の緑の先。
彼女は居た。
「……」
その色彩は、白ひとつ。
まるで光そのものが人の姿に下りたように、この上なく神々しい麗人だった。
身に纏う祭服のような其れも、また純白。常人が見れば神徳によって目が潰れてしまうであろう彼女の容。
”彼女”と呼べるのは、その起伏ゆたかな女性的輪郭が、身体の線を象っていたからである。
生い茂り、月光に影を伸ばす森林の中央。突として開け放たれたそこは、ただひたすらに広がる草原。
一人佇む彼女は、また一神でもあった。
月の無い夜。星灯りをたよりに、夢の寄るべを歩む人々。その夢が幸福であれと願いながら、人々の神として草原の丘に佇んでいる。
首をもたげ、なかぞらを見据えていた。
__人が死んだとき、人は星になる__此の世界にある、そんな御伽噺。
誰かは云った。そんなものは所詮、空想でしかないのだと。
誰かは云った。そんなものは、故老が死んだあとの慰めに考えたのだと。
『__人は死んだら、お星さまになるの?』
さすらう夜風の戯れに乗って、幼児の声が彼女に届く。
世界のどこか遠い遠い場所の、閨のうえから。
「……ぇぇ」
おむもろに、彼女は微笑んだ。
恰も、その声にいらえを送るように。艶めかしい、美徳のこもった其れ。
「そのとおりです」
彼女が呟いた途端、風が草木を大きく撫ぜる音。
地面から上ったそれが、草花を散らして。そのうちに遠い遠い彼方へと去っていった。
今度は、その言葉を人へ送るために。
小さな花弁が、ひらひらと虚空で舞う。
綺麗な華をみつけた蝶のように踊りながら、星灯りに輝いた。
彼女は知っている。
星の明滅は、残してしまった家族や友人に、まだ自分を忘れて欲しくないという故人の囁きであることを。そして、死によって切断された生者の幸福を、また繋ぎ合わせる為のしるべであることを。
生者と死者の記憶を切断しないための、星の耀き。想いでを照らす輝石。
そうして故人が役目を終えると、星々は夜闇へと眠りにつくのだ。
「……」
遼遠の空の下。寂莫の大地で、女神はうっそりと笑んでいる。
蔭りのない人々のいとなみが、彼女をあたたかくし続けるから。
__嗚呼。今日も本当に、美しい空。
そうして、また何処かで聞こえてくる。__”これは空想にすぎない御伽噺だ”と。
……確かに、確かに。そうかもしれません。
けれど、こういう空想も良いではありませんか。幸せな空想に浸れば、きっといい夢が見れるのですから。
では、おやすみなさい。
寝静まった森を、いたずらに触り舐っていく冷たい風。枝をゆらし、葉をゆらし、その身を寄せ合うように音を鳴らす鬱蒼の緑の先。
彼女は居た。
「……」
その色彩は、白ひとつ。
まるで光そのものが人の姿に下りたように、この上なく神々しい麗人だった。
身に纏う祭服のような其れも、また純白。常人が見れば神徳によって目が潰れてしまうであろう彼女の容。
”彼女”と呼べるのは、その起伏ゆたかな女性的輪郭が、身体の線を象っていたからである。
生い茂り、月光に影を伸ばす森林の中央。突として開け放たれたそこは、ただひたすらに広がる草原。
一人佇む彼女は、また一神でもあった。
月の無い夜。星灯りをたよりに、夢の寄るべを歩む人々。その夢が幸福であれと願いながら、人々の神として草原の丘に佇んでいる。
首をもたげ、なかぞらを見据えていた。
__人が死んだとき、人は星になる__此の世界にある、そんな御伽噺。
誰かは云った。そんなものは所詮、空想でしかないのだと。
誰かは云った。そんなものは、故老が死んだあとの慰めに考えたのだと。
『__人は死んだら、お星さまになるの?』
さすらう夜風の戯れに乗って、幼児の声が彼女に届く。
世界のどこか遠い遠い場所の、閨のうえから。
「……ぇぇ」
おむもろに、彼女は微笑んだ。
恰も、その声にいらえを送るように。艶めかしい、美徳のこもった其れ。
「そのとおりです」
彼女が呟いた途端、風が草木を大きく撫ぜる音。
地面から上ったそれが、草花を散らして。そのうちに遠い遠い彼方へと去っていった。
今度は、その言葉を人へ送るために。
小さな花弁が、ひらひらと虚空で舞う。
綺麗な華をみつけた蝶のように踊りながら、星灯りに輝いた。
彼女は知っている。
星の明滅は、残してしまった家族や友人に、まだ自分を忘れて欲しくないという故人の囁きであることを。そして、死によって切断された生者の幸福を、また繋ぎ合わせる為のしるべであることを。
生者と死者の記憶を切断しないための、星の耀き。想いでを照らす輝石。
そうして故人が役目を終えると、星々は夜闇へと眠りにつくのだ。
「……」
遼遠の空の下。寂莫の大地で、女神はうっそりと笑んでいる。
蔭りのない人々のいとなみが、彼女をあたたかくし続けるから。
__嗚呼。今日も本当に、美しい空。
そうして、また何処かで聞こえてくる。__”これは空想にすぎない御伽噺だ”と。
……確かに、確かに。そうかもしれません。
けれど、こういう空想も良いではありませんか。幸せな空想に浸れば、きっといい夢が見れるのですから。
では、おやすみなさい。
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