こちら亜人ちゃん互助会~急募:男性ファミリー~

バイブルさん

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16話 今の冒険者は……

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 ゴブリンを撒いて、ダンガに戻った太助達はミラーにゴブリン討伐の延期を頼みに冒険者ギルドの向かった。

 カリーナのコントロールの訓練の為に時間を欲した為である。

 しかし、一度、受理した依頼は2~3日程度の遅れは目を瞑れるがそれ以上になると失敗になるとミラーはガンとして首を縦に振らない。

「そこをなんとかお願い出来ませんか?」
「聞けませんね。論外ですよ」

 あくまで冒険者ギルドは中立でエコ贔屓をしないと肩を竦められる。

 太助は無理を言っている自覚はあったので仕方がないと引き下がる事にした。失敗扱いになったとしても雑用依頼、しかも只でさえ、不良案件になりがちになっているもの中で皆がやりたがらない依頼を1週間させられる程度で済むので足掻く意味は薄かったからであった。

 その説明をミラーにされているカリーナの嫌そうな表情を見て、カリーナは嫌がるだろうな? と太助は苦笑する。

 案の定、顔を真っ赤にしたカリーナがカウンターをバンと叩いて怒鳴る。

「どうして私がドブ掃除や糞尿集めしないといけないの!」
「そういう決まりですからねぇ? しょうがないでしょう、ノーコン姫?」

 カリーナの剣幕にもピクリともさせない普段通りの魚の死んだ目を維持するヘラッとした笑みを浮かべるミラー。

 だが、太助の足下にいたティカとリンは驚いて太助の足に飛び付いて抱っこちゃんになる。

「びっくりデシ」
「カリーナ、怒ってばかりなのだ!」

 その2人の声に反応したように急に振り返ったカリーナに首を竦める太助達3人であるが、視線は太助にロックオンされる。

 わなわなと震えるカリーナが太助に詰め寄る。

「ば、ばらしたの!?」
「ばらしてない、ばらしてない! 理屈は分からないけどミラーさんに隠し事は基本的に出来ないよ」

 フゥーフゥーと興奮状態のカリーナにドゥドゥと落ち着かせようとするが逆効果のようで脛を蹴られて跪かされる。

 涙目で脛を撫でる太助は雄一がミラーに隠し事をしても何故かばれるとぼやいてたのを思い出す。
 実際に太助の現役時代でもミラーに隠し事が出来た覚えがなかった。

 太助を蹴っ飛ばしたカリーナに怒った幼女のティカとリンがカリーナの太股をポクポクと叩く。

 叩きながら口をへの字にして見上げるティカとリンを見てバツ悪そうに眉を寄せる。
 思わず感情的になって蹴ってしまったが確かに蹴る理由が特にあった訳ではない事を自覚したからである。

 そんな2人を抱き抱えて、ペコリと頭を下げるカリーナ。

「私が悪かったわ」
「謝る相手が違うのだ!」
「そうデシ! タスケ兄ちゃんにゴメンナサイなのデシ!」

 2人に怒られたカリーナが、やや唇を尖らせながら太助を見つめる。徐々に顔が赤くなっていくカリーナが奥歯を噛み締めて覚悟を決めたように言う。

「あ、謝って欲しいなら謝って上げてもいいわよっ!」
「えーと……」

 本当に困ったように頬を掻く太助と「違うぅ!」とティカとリンに頬をペチペチされるカリーナ。

 それを見ていたミラーが肩を竦め、そして手を叩いて注目を集める。

「知られた理由などいいでしょう? まあ、失敗して帰ってくるだろうな、とは思ってました」
「し、失敗じゃないわ! 威力を弱めてでも範囲を広くとれば倒す事はできたわ……ッ!」

 まだ何かを言い募ろうとしたカリーナの鼻の頭を指先を当ててジッと見つめるミラーの行動に焦ったカリーナが慌てて後ずさろうとする。
 しかし、硬直して動けずに目を白黒させる。

 息まで止められたような錯覚に焦るカリーナからミラーが指を離すと体が自由に動く。
 魔法を唱えられたような気配がないのに動きを封じられたカリーナは後ろにいる太助の甚平を背中から抓むようにしてミラーを覗き見る。

 少し怯えもあるが興奮気味だったカリーナが落ち着いたと判断したミラーが話し始める。

「カリーナ、君がこれからも雑用依頼に毛が生えた程度の報酬のゴブリン討伐で生活していくというなら止めませんが発展を求めるなら自分の力は自在に使えるようになるのは必須ですよ?」
「ど、どうしてよ? 扱えた方がいいのは分かるけど、ゴブリンより大きくて動きが遅いモンスターもいるじゃない?」

 そう言うカリーナが近くにある掲示板を指を指す。

 指された場所には色んな討伐依頼が張られており、例えば、ボア、猪などは直線は早いが小回りが利かないので、その隙を狙えば当てるのは容易である。
 リザード系のモンスターも似たようなものであった。

 ミラーが少し首を傾げ、太助を見つめる。

「タスケ君、カリーナにダンジョンの説明をしてないのかな?」
「あ、はい。正式に冒険者になってからでいいと思ってたので……」

 忘れていた疑いもあると肩を竦めるミラーは追求せずにカリーナに目を向ける。

「冒険者ギルドで生活の糧を得ていこうと考えるならダンジョン探索が必須になります。何故なら地上にいるモンスターは繁殖力の高いゴブリンなどしか居ない為です」
「どうしてよ?」

 首を傾げるカリーナに「誰かのお爺様が勢いでモンスターを殲滅して繁殖力が弱いモンスターは絶滅危惧種になったせいです」とミラーが太助をチラリと見ると見られた太助はそっぽ向いて鼻の頭を掻く。

「えっ? あそこで話してる人達もダンジョンに行く気なわけ?」

 辺りにいる冒険者達が掲示板などを見て「このモンスターを狩りに行こう」などと話してるのをカリーナが指を指しながら言ってくる。

 カリーナの言葉に頷いてみせるミラーは地図を取り出し、×印がついている数ヵ所を指差す。

「ええ、貴方が生まれた世界とこちらが繋がった時、トトランタに多数の異次元への入口が生まれました。その中にはこちらにもいたモンスターを始め、未知のモンスターも……」

 ミラーは場所によるとモンスターだけでなく、マジックアイテムを発見する幸運の冒険者もいると話す。

 モノによってはそれを売れば一生働かなくても生きていける財産を得る事も夢ではない。

 だから、今は冒険者ギルドの依頼がついででマジックアイテムを探す冒険者が多数である。
 当然のようにそれを専門にする者達もいるぐらいであった。

 ミラーからの説明を受けて、どうやらカリーナは何を言いたいか分かったらしく、少し拗ねたように唇を尖らせながら言ってくる。

「ダンジョンだから外のように広くない……つまり……」
「そうです。コントロールは必須ですし、基本、ダンジョン攻略はパーティです。ノーコンのメンバーなど誰も欲しはしないでしょう?」

 そう言うミラーは多少、広い場所もあるが、基本は通路に毛が生えた程度なのでフレンドリーファイアにならないようにコントロールは必須だと念押しをしてくる。

「わ、分かったわよ。ちゃんと訓練すればいいんでしょ! 正直、ゴブリンと毎日、顔を合わせるような日常はイヤだし……」

 素直に頷きたくないというのが本音のようだが、意地を張ってあのゴブリンの醜悪な顔を毎日拝むのは本気で嫌らしく大きく溜息を洩らすカリーナ。

 そんなカリーナにウンウンと頷くミラーが机から今朝、太助が出した依頼書を取り出して持ち上げる。

「それでは、この依頼は失敗という事でよろしいですね……おや?」

 失敗と言われてペナルティを思い出して嫌そうな顔を更に深めたカリーナであったが、ミラーが首を傾げて依頼書を見つめるのを見て同じように首を傾げる。

 動きが止まったミラーを見てどうしていいか分からなくなったらしいカリーナは後ろにいる太助を眉尻下げて困った顔をして見上げる。

 見上げられた太助も訳が分からないが固まっているミラーに話しかけた。

「ミラーさん、どうしたんですか?」
「いやいや、私としたことが……こういうミスをほとんどしないんですがね?」

 近寄ってきた太助の眼前に依頼書を見せつけてくる。

 それを受け取った太助が紙面に目を走らせ、ある事に気付いて破顔させると目の前にいるミラーに感謝を込めた笑みを浮かべる。

「いやはや、依頼書の受理のサイン忘れをしておりました。これでは失敗にする事は出来ませんね?」
「えっ!? 本当に? ペナルティはなし?」

 手を叩くようにして合わせたカリーナが喜びの表情を浮かべて、近くにいたティカとリンと嬉しそうにするのを横目に太助はミラーに近寄る。

 ミラーにだけ聞こえるように伝える。

「事前に手を打ってくださって有難うございます。わざと書かなかったのでしょ?」
「はて、何の話か分かりません。私は、ただ仕事のミスをしただけ……お礼を言われる覚えはありませんよ」

 そう嘯くミラーであるが太助はこの変なところで優しいエルフの本音を理解する。

 失敗すると分かっていたミラーがペナルティを受けないでいいように受理処理をしなかった。

 太助は目礼をするようにして、再び、「有難うございます」と告げる。

「まあ、そう思うのは自由ですから?」
「では、勝手に感謝しておきます。それでは失礼します」

 帰ろうと振り返るとペナルティがないと分かって未だに喜び続けるカリーナを見て、そこまで糞尿処理が嫌だったのかと苦笑いしつつも一旦、帰る事を告げて太助はカリーナ達を連れて冒険者ギルドを出ていこうとする。

 冒険者ギルドから出ていく太助を見送り、姿が消えるまで見ていたミラーがヘラッとした笑みを浮かべる。

 先程、太助に見せていた依頼書を机に置き、再び、机から紙を取り出して並べておく。

「まだまだ甘いですね。手を打つ、というのは、どういう事態になっても困らないようにするものですよ」

 そう言ってミラーが見つめる先には太助に見せた依頼書と瓜二つでカリーナのサインも入っており、受理欄にミラーの名前がしっかり書かれたものであった。

 ミラーのサインが入っている書類を持ち上げて、真っ二つに切り、両手で丸めて掌に載せると一瞬で燃え上がって掻き消える。

 掌に何も無くなったように見えるがミラーは息を吹きかけ、そして、クスクスと珍しく感情の色が見える笑みを浮かべる。

「まったく私も人の事は言えませんね……甘いのは私も同じですね」

 そう言って肩を竦めたミラーは脇に避けていた書類を手に取り、仕事を捌き始めた。
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