リンゴの園の阿吽ー俺でなく従者候補達がチート持ちなんですが?-

バイブルさん

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1話 とりあえず仮という事で

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 頬を擽るような優しい風にあてられて意識が覚醒し始める。

 うーん、気持ちいいな……ここで二度寝はジャスティス。

 迷いもなく二度寝を敢行しようとした俺の額にソッと触れられる小さな冷たい手にびっくりして深く閉じられようとしてた目を見開いた。

 パッチリと見開いた俺の瞳に映ったのは、目を覚ました俺を覗きこんでいた銀髪のゆるふわなボブカットの少女が嬉しそうに微笑む姿であった。

 びっくりして凝視する俺に幼さの中に美しさを感じさせる微笑を浮かべる銀髪の少女が垂れる髪を耳裏に掻き上げながら身を起こす。

 ど、どういう状況!?

 身を起こした銀髪の少女が正座をして柔らかな微笑を浮かべるのに視線を奪われながら身を起こす俺は名残惜しさを感じつつも視線を切って辺りを見渡した。

 あれ? 道場はどこだ?

 辺りを見渡した俺の視界には木々、森という感じではなく、一定の間隔で植林されたような木々が広がり、当然のように道場の影も形も見当たらない。

 俺の家は確かに日本家屋で土地だけは広いっていえば広いがこんな木々を植える広さはないし……それとこの木ってリンゴの木だよな?

 周りにある木々には赤々としたリンゴが実っており、更に銀髪の少女の背後にはそびえ立つように大きな木がある。

 呆けるようにして神社や寺にあれば祭られてそうな大きな木を見上げていると目の前の銀髪の少女が、上品に頭を垂れて顔を上げ、優しげに目を細めて俺に話しかけてきた。

「初めまして、主様」
「あ、主様!?」

 俺の素っ頓狂な返事にも動じる事もなく、上品に頷く銀髪の少女。

 主様って何? いや、言葉の意味は分かるんだけどさ……それはともかく現状確認が先か?

 俺はゴホンと咳払いをして、銀髪の少女に向き直り倣うように俺も正座する。

「主、云々はちょっと脇に置いて、聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「はい、なんなりと」

 俺が棚上げよ? と言わんばかりに目の前の見えないモノを脇に寄せる素振りをしたが、不審がる様子も見せず軽く首を傾げて嬉しそうに俺を見て頷く。

 まずはどう聞くべきか……しかし、俺を見つめて嬉しそうに頭頂部の耳をピコピコさせるこの子は……ええっ! 耳!?

 待て、なんか気を失う前に見たような……アクセサリー、いや、本物ぽくない?

 聞いてみようかな? と悩んでいると話し始めない俺を見て、今度は逆の方向に首を傾げて頬に指を当てて見つめる銀髪の少女を見て、被り振って当初の質問をする事にした。

「変な事を聞くようだけど、ここはどこ? 気を失う前まで俺は家に居た筈なんだけど」
「はい、まずは主様が居られるこの場所は獣人の国にあるイナルという街です。主様のお住まいはおそらく世界を隔てた向こう側になるかと思われます」

 世界の向こう!? と驚く俺にどこか申し訳なさそうに頷く銀髪の少女。

 どういう事? これってつまり異世界転移とかいうアレか?

 それとも俺は一度、死んだとかなのか……つーことは俺はジジイに殺されたことに。

 死んでるかどうかはともかく、あのジジイの最後のアレがきっかけになってるくさいな……あのクソジジイがぁぁ!!

 がるるぅ、と怒りを爆発させようとしたがバカらしくなった俺は大きく溜息を吐く事で霧散させた。

「えっと、君……名前なんだっけ?」
「あっ、申し訳ありません。嬉しくて浮かれておりました。私は白猫族のクリームと申します」

 驚きを小さな手で口許を隠しつつも白い肌を染める赤くなった頬は隠せず平伏する銀髪の少女、クリームを見て、頭を掻きながら俺も名乗る。

「俺の名前は阿吽。頭を上げてくれないか? 謝る理由なんてないしさ」

 申し訳なさからか小さくなっているクリームを見て頬を掻く。

 背中しか見えない形になってるので視線がクリームの衣服に目がいく。

 パッと見、巫女衣装というのがしっくりくる。内側が赤というより橙色といった感じなのと下がキャロットスカートのようになってる感じだ。

 頭を上げて? と言っているがどうやら下を向いたまま首を横に振る。

 耳が赤い様子からすると恥ずかしさ、彼女が描いていた未来図とだいぶ差が生まれたとかでテンパってるのかもしれない。

 クリームは少し時間を置いた方が良さそうだと思った俺は空を仰ぎながら混乱気味の状況を整理し始める。

 生死はともかく、どうやらジジイとの稽古中の事故で俺は世界を跨いだらしい。

 正直、信じられないという思いもあるが、意識を失う前に俺がぶつけた木は目の前にある大きな木だったと思うところから気を失ってから運ばれた事はなさそうだ。
 しかも家の近くというか、これだけ広いリンゴの木が植えられた場所なんて外国にでもいかないと見れないと思う。
 丁度、ここは小高い丘の上で少し立つだけで見渡せるが俺の視力で分かる範囲はリンゴの木ぽい。

 本気で眠らされて海外に連れてこられたとかでない限り、クリームの言葉を否定する気になれない。

 なんとなくなんだが、空気が違う気がする。これでも呼吸法を扱うから空気に関してはカンが働くというかなんというか……

 それにな……耳がね?

 聞いてみたい……しかし、今は先に聞かないといけない事が。

「ねぇ、クリームちゃんでいいのかな? 色々と聞きたい事があるんだ」

 そう言って肩を掴んで起こすようにすると抵抗せずに顔を上げてくれる。

「……申し訳ありません」
「いやいや、本当に謝るような事はないんだよ?」

 モジモジするクリームの目尻に涙があるところからすると本気で恥ずかしかったようだが、絵面的に完全に俺が悪者だな。

 本気で俺は悪くないんだって! 客観的に見れば、目尻に涙を浮かべる美幼女と対面にいる17歳の俺、俺でも間違いなく俺を犯罪者呼ばわりしただろうけどね!

「ここが元いた世界と違うというのは百歩譲ったとして、どうして面識のない俺を主様って?」

 最初に初めまして、と言ってたから間違いはないとは思ったが一応確認すると頷かれる。

「私は神託に従い、ここのリンゴの大木を目指して旅をして参りました。災厄を祓う使者と会い、そして、その使者様の従者になる為に」

 まだ少し頬と鼻の頭は赤いが、真摯な瞳で俺を見つめて言ってくる。

「しかし、それが俺と限らないんじゃ……」
「いえ、間違いありません。主様が光の中から飛び出したと同時に故郷の祠でしか聞けなかった守り神様のお声で『その者だ』という神託がありました」
「それでもなぁ~」

 神託とか言われても無神教と言われる現代の日本で生活してた俺としては眉唾だ。

 よしんば信じたとして災厄を祓うとか出来ん。

 それに聞く順番を間違ったが異世界だと仮定して元の世界に帰れるかを先に確認するべきだよな。

 元の世界じゃ、ダチ……むさい野郎だけか。

 親は親父は物心付いた頃に亡くなってるし、母さんは「やっと巣立ったか。親孝行よね、予定より1年も早く」とか言いそう。

 俺が大学とか行ったらどうするんだ! と言いたいが残念ながら俺も行く気なかったし、多分、現実的に……

 何より、彼女もいない、現状ね、現状ね?

 泣いてくれる人いねぇーな、なんか帰りたくなくなってきたぞ? 別に質問する必要なかったか?

 美幼女とはいえ、こんな可愛い子に『主様』って呼んでくれる世界に居た方が良くねぇ?
 まあ、災厄を祓ったり出来んけどね?

 あっ、泣きそうなのが1人いたな。

 継承者がいなくなったとジジイが泣きそうだが、どうでもいいな。おそらく原因はジジイで自業自得だから放置確定。

 などと考えていると膝の上で両手を組んでモジモジするクリームが恥ずかしそうに俺を見上げて言ってくる。

「仮にあの時に神託がなくても同じでした。私も主様を一目見た瞬間、『この人だ』と強く思いましたから」

 ウルウルとした瞳で上目遣いをするクリームに俺は打ち抜かれる。

 かわええ~わ、もう細かい事どうでもいいよ! この際、お兄ちゃんって呼んでくれてもいいんやで?

 そんな欲望が胸で渦巻いているのを見せずに俺は微笑みながらクリームに手を差し出す。

「もう何が何だかだけど……とりあえず、仮の主、仮の従者という事でどうだろう?」

 そう言うと驚いた表情を見せるクリームは俺と俺の手を交互に見つめて、ホッとした様子を見せると手を掴んでくる。

 立ち上がっても身長差があるので俺を見上げながら顔を綻ばせた。

「有難うございます。必ず、従者と認めて頂けるように精進します」

 頑張るという意思からか少し肩に力が入ってるのが分かって、それが可愛くてつい頭を撫でてしまう。

「あん、擽ったいです。主様」
「ごめん、ごめん」

 擽ったそうにするクリームに街に案内すると手を引かれて丘を降り始める。

 手を引かれ、後ろからクリームを眺める俺は頷く。

 あの頭頂部の耳は本物でした。

 白猫族とか言ってたからきっとネコ耳。

 撫でた時のリアルさと撫で心地良さを思い出しつつ、時折、振り返りつつイナルという街がどういったところかという説明に頷きながら既に俺はこの異世界を楽しみ始めていた。
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