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4章 DT、表舞台に立つ
幕間 3人のエルダ―エルフ
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ダンガの遠く離れた南方、大陸の最南端には広大な森林が存在する。
そこはエルフ達の王都と言っても過言ではなく、その最奥にはエルフといえど無闇に侵入する事が許されない領域が存在していた。
何故ならば、エルフにとって王、いや、それ以上の神に近しい存在と認識されているエルダ―エルフが住まう地であった為である。
そのせいか、他国にもエルフの王都のような認識されている場所であるが、閉鎖的で他種族の者の出入りが凄まじく厳しい。
確認されているだけでエルダ―エルフは3人居り、今もその地に2人が常にいる。
最後の1人は世界を見張ると言って千年ほど前にこの地を去っていた。
その者からの帰郷するという連絡の手紙と同時にナイファ国の者達に同胞が拉致されていたという情報が舞い込む。
床に胡坐を掻いてナイファ国の報告書を読んでいた長い髭が特徴のエルフが目を細めて報告書から顔を上げる。
「人間め、何度同じ事をすれば学習するのだ。我らエルフの恐ろしさを今回も刻んで見せよう」
昔からの習わしで、同胞が不当な目に遭えば一族総出で対応するというものがある。
泣き寝入りをしていたら、やりたい放題を許す事になるので今回もそういうつもりで覚悟を決めたような顔をする髭の豊かなエルフであったが、同じように床に胡坐を掻いている目の前の幼女見えるエルフがそれを止めてくる。
「ちょっと待ってよ、ミラ・ビフロラの手紙で準備はしていいけど、自分が帰ってくるまで動くな、って書いてるよ」
「アロカシア・バンビー、あれは本当にそう書いてるのか?」
髭の豊かなエルフは髭を撫でながら、「アヤツがこういう事に口出ししてくるのは珍しい」と唸る。
その髭の豊かなエルフを見つめるアロカシア・バンビーは肩を竦める。
「確かにね、でも少しここを出ていた同胞が帰ってくるんだ、何かあるんだろうね。ミラーが帰ってくるまでは動かずに待ってあげようよ、ロゼア」
「アロカシア・バンビー! 我らの誇りある名前を略すなと普段から口を酸っぱく言っているだろう」
肩を怒らせる髭の豊かなエルフはアロカシア・バンビーを諭すように言ってくる。
その様子にヤレヤレと声を洩らすロリエルフ、アロカシア・バンビーは指を突き付けて言ってくる。
「君こそ、たかが1000年ほどで忘れたのかい? ミラ・ビフロラはこの名前で呼び合うのを嫌い、略した名前を言い合わないと本人曰く、可愛いイジメをしたくなる、とヘラヘラと笑ってくる事を……本当に忘れたのかい? クルシア・ロゼア」
ムゥ、と唸るクルシア・ロゼアに、「ミラーを一番苦手とする君らしくないね」可愛く微笑む。
クルシア・ロゼアは諦めたように溜息を吐くとアロカシア・バンビーに疲れた声で伝える。
「そうだったな、アイツが来た時にボロが出ないように今の内から矯正しておくとするか。どうせ、アイツの事だ、用が済んだらフラッ消える。アイツが居る間だけだからな? カシア」
「うんっ、それでいいと思うよ。もう3人しかいない同胞だからね。帰った時ぐらい向こうに合わせてあげようよ」
本当にミラーが苦手なロゼアは、困った顔をして嘆くよう片手で顔を覆うようにする。
カシアが見てる限り、ロゼアがミラーに勝ったところなど見た事がない。
だから、合わせてあげようよ、と言わないでも合わすしかないように仕向けられる。
だが、こう言っておいて仕方がない状況を作って置いてあげないとミラーが去った後のロゼアの全開の愚痴に付き合うのは骨が折れるのである。
勿論、これをしても愚痴に付き合う事にはなるが、だいぶマシになるのは経験で分かっていた。
苦笑するカシアを横目にロゼアは人を呼ぶ。
来た者に戦の準備をするように伝えるが、すぐに出発という訳でないので、しっかりと準備をするようにと連絡を伝えた。
それから1日が経ち、ロゼア達がいる部屋へと死んだ魚の目をした男、ミラーがいつもの笑みを浮かべてやってきた。
カシアに「やぁ」と気軽に手を上げて挨拶を済ませて、ロゼアを見つめるとびっくりしたような顔をしたミラーが床に座りながら声をかけてくる。
「あれっ? ロゼア、髭に白いモノ混じってきた?」
「ああっ、久しぶりに心労を伴う相手をしなくてはならなくなったせいでな」
ロゼアをからかうミラーに皮肉交じりに答えを返す。
ロゼアは元々、銀髪である。勿論、髭も銀なので白いモノが混じるというのもない。
そのうえ、自分達が意識した時点で今の姿だった不変のエルフ、エルダ―エルフに容姿の変化などありはしないのは、ミラーとて実体験で分かったうえでの言葉であったが、苦手意識からか眉を寄せて嫌そうな顔をするロゼア。
そんなロゼアの皮肉もミラーの厚い面には効果がなく、サラッと流されて、隣にいるカシアに「ちょっと身長伸びた?」と同じようなやり取りをしていた。
楽しそうに会話をする2人を疲れた顔をして、しばらく見つめる。
ミラーの益体もないやり取りを続けるのを嫌ったロゼアは、楽しそうに談笑する2人を止めて話を促す。
「そろそろ、無駄話を止めて、本題に入ろう」
「相変わらず、余裕のない生き方ですね。私達の時間は無駄に有り余ってるというのに」
「それがロゼアの持ち味だよ。僕はもう慣れたよ」
笑い合う2人に頭痛を覚えるロゼアは、「俺達が良くても、子供達の時間は有限だ」といい、2人を睨みつけるように見る事でミラーとカシアは肩を竦めて、話し合いをする体勢になる。
聞く体勢になった2人を見て、ホッと安堵の溜息を吐くロゼアは、早速、ミラーに問う。
「では、まずは何故、同胞の子達の報復行動に待ったをかけた?」
「それはですね、ほっといたらナイファ国に進軍していたと思ったからですよ」
ロゼアの言葉にミラーは迷う事なく答える。
それを聞いたロゼアは、何を当たり前な事を? といった顔をしてミラーを見つめる。
ロゼアは、ミラーは何を考えていると考え、探るように問い返す。
「それは当然であろう。この事をやらかした宰相は勿論、それが所属していた国に責任を取らせる。これは昔からやってきた事だという事をわざわざ説明が必要なお前ではないだろう?」
「ええ、昔からそうやってきたのは分かりますし、同胞を好き勝手やった者達に容赦をかける気もありませんよ。ですが、毎回やってる事だからと行動すると痛い目では済まない事態もあるという事を気付かせようと思いましてね」
ミラーはヘラッとした笑いを浮かべながら気負いもなく言ってくるセリフがロゼアに入ってこなかった。
何を馬鹿な事を? と思っただけであった。
それを見ていたカシアがミラーに否定して欲しそうな顔をして問いかける。
「ミラーの言葉を聞いてると返り討ちに遭うような言い回しに聞こえるんだけど?」
嫌な汗が頬に伝うのを嫌って、拭いながらミラーを見つめるカシア。
「間違いなく、返り討ちに遭いますね」
2人は驚愕の表情を浮かべて生唾を飲み込む。
自分を振る立たせるようにロゼアは腕を横に振り払い、叫ぶ。
「我らが本気になっても、勝てないと言うのか、ミラー!」
「死ぬ気で頑張ればナイファ、パラメキ国の人口の9割までは削れるでしょうが、その時はエルフは絶滅していてもおかしくはありません。いくら、私達、エルフが強い力があるといっても2カ国も相手にして無事には済みません」
ミラーの言葉を聞いたカシアが首を傾げて問いかける。
「どうして2国と戦う事になるの?」
ロゼアも同じように不思議に思い、ミラーを見つめる。
ロゼアが求めたのは、エルフを奴隷にした事に対する報復処置だったのだからナイファ国と戦争するつもりでいたのである。
「説明の前に確認を、同胞を捕まえていたナイファ国と戦争を、と考えていますね?」
そのミラーの言葉に頷く2人を見て、ミラーは確認を続ける。
「その首謀者のゴードン宰相とその一派が隣国のパラメキ国に亡命し、捕まえた同胞達を買い取り先だと言ったら、2人はどうしますか?」
その言葉を聞いて絶句する2人。
どうやら、その情報はまだなかったようで額に汗を浮かばせる。
暴走するようにナイファ国に宣戦布告をしていたら下手したら2国を相手に戦う恐れがあった。
ミラーがそんな迷いもなく言ってくるところを見て、この情報の確度は高いモノだと判断した。
そんな2人の様子を気にした風でもなく、ミラーは続ける。
「ナイファ国は、捕えた同胞を辱めた者達が亡命して、自分達に責任がないと声高に叫ぶ事もできるのに謝罪する場を求めてきています。出来るだけの謝罪とゴードン達を捕えて差し出すように努力すると言ってきています」
それでも宣戦布告をしますか? と言いたげにミラーに見つめられた2人は、カシアは、肩を竦めて両手を上げて降参と言わんばかりに苦笑いをし、ロゼアは唸りながら腕を組んで考え込む。
それを見つめて嘆息するミラーはロゼアに言い含める。
「私達は、巷では神のように思われてますが、そうではない事は私達が一番知っています。元々、エルダ―エルフの私達は5人いました。2人がどうなったか言うまでもないですよね?」
その2人のエルダ―エルフは、自分達を本当に神と思いこみ、神のきまぐれと称して街や村を焼き払っていた。
そして、人と獣人が手を組んで包囲されてあっさり殲滅させられた。
それがキッカケになり、エルフを襲うモノが増えた事が理由で今のように同胞に何かあったら一族総出で戦って自由を勝ち取るという下地が出来上がった。
「ロゼア、貴方は、その傲慢な3人目になりたいのですか?」
ミラーにそう言われたロゼアは、悔しそうに視線を切ると「好きにしろ」と言うのを聞いたミラーは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「いやぁ~、ロゼアが正常な判断をしてくれて良かったですよ。ナイファ国にいる神と精霊の加護を受けた者を敵に廻さずに済みますから」
その言葉を聞いた2人は今まで一番驚きを見せて、思わず、立ち上がった2人がミラーを恐れるように見下ろす。
ミラーは会心のドッキリが成功したと言ったイヤラシイ笑みを浮かべる。
「それを最初に言われていたら何も抵抗もせずに賛成したものを!」
「そうだよ、そうだよ。僕もそれを聞いてたらロゼアを叩き伏せてでも言う事をきかせたよっ!」
「フッフフ、それでは駄目なんですよ。それを言ったら話し合いではなく、力押しですからね」
楽しそうに言うミラーにロゼアは、悔しそうにしながら、「似たようなもんだっただろうが」と唸る。
ミラーに言われた言葉が浸透して落ち着いたカシアが頬を紅潮させて嬉しげに語る。
「ミラーの言う通りだったら、その者は……」
そこまで言うとミラーに人差し指で唇を押さえられて言葉を止めてしまうカシア。
「ここで答えを急がなくても良いでしょう。会って自分の目で確かめればいい」
そう言われたカシアは嬉しそうにすると、「何千年ぶりかのお出かけだぁ」と飛び上がると部屋から飛び出していく。
飛び出していくカシアを見て、クスクスと笑うミラーにロゼアはジッと見つめる。
「とりあえず、ナイファ国と歩調を合わせると使者を送る。そして……私も出る」
そう言うと軍の再編と出立の準備の為、ロゼアも部屋から出ていくのを見て、ミラーは首をコキコキと鳴らしながら肩を揉む。
「ふぅ、これでエルフとナイファ国と戦うのを回避されるでしょう。とりあえず私の仕事はこれで終わり……いえ、もう1つありましたね。私としてはどちらに転んでも楽しそうなのでどちらでも良いですがね」
のるか、反るべきかと楽しげに呟きながらミラーもこの部屋から姿を消した。
そこはエルフ達の王都と言っても過言ではなく、その最奥にはエルフといえど無闇に侵入する事が許されない領域が存在していた。
何故ならば、エルフにとって王、いや、それ以上の神に近しい存在と認識されているエルダ―エルフが住まう地であった為である。
そのせいか、他国にもエルフの王都のような認識されている場所であるが、閉鎖的で他種族の者の出入りが凄まじく厳しい。
確認されているだけでエルダ―エルフは3人居り、今もその地に2人が常にいる。
最後の1人は世界を見張ると言って千年ほど前にこの地を去っていた。
その者からの帰郷するという連絡の手紙と同時にナイファ国の者達に同胞が拉致されていたという情報が舞い込む。
床に胡坐を掻いてナイファ国の報告書を読んでいた長い髭が特徴のエルフが目を細めて報告書から顔を上げる。
「人間め、何度同じ事をすれば学習するのだ。我らエルフの恐ろしさを今回も刻んで見せよう」
昔からの習わしで、同胞が不当な目に遭えば一族総出で対応するというものがある。
泣き寝入りをしていたら、やりたい放題を許す事になるので今回もそういうつもりで覚悟を決めたような顔をする髭の豊かなエルフであったが、同じように床に胡坐を掻いている目の前の幼女見えるエルフがそれを止めてくる。
「ちょっと待ってよ、ミラ・ビフロラの手紙で準備はしていいけど、自分が帰ってくるまで動くな、って書いてるよ」
「アロカシア・バンビー、あれは本当にそう書いてるのか?」
髭の豊かなエルフは髭を撫でながら、「アヤツがこういう事に口出ししてくるのは珍しい」と唸る。
その髭の豊かなエルフを見つめるアロカシア・バンビーは肩を竦める。
「確かにね、でも少しここを出ていた同胞が帰ってくるんだ、何かあるんだろうね。ミラーが帰ってくるまでは動かずに待ってあげようよ、ロゼア」
「アロカシア・バンビー! 我らの誇りある名前を略すなと普段から口を酸っぱく言っているだろう」
肩を怒らせる髭の豊かなエルフはアロカシア・バンビーを諭すように言ってくる。
その様子にヤレヤレと声を洩らすロリエルフ、アロカシア・バンビーは指を突き付けて言ってくる。
「君こそ、たかが1000年ほどで忘れたのかい? ミラ・ビフロラはこの名前で呼び合うのを嫌い、略した名前を言い合わないと本人曰く、可愛いイジメをしたくなる、とヘラヘラと笑ってくる事を……本当に忘れたのかい? クルシア・ロゼア」
ムゥ、と唸るクルシア・ロゼアに、「ミラーを一番苦手とする君らしくないね」可愛く微笑む。
クルシア・ロゼアは諦めたように溜息を吐くとアロカシア・バンビーに疲れた声で伝える。
「そうだったな、アイツが来た時にボロが出ないように今の内から矯正しておくとするか。どうせ、アイツの事だ、用が済んだらフラッ消える。アイツが居る間だけだからな? カシア」
「うんっ、それでいいと思うよ。もう3人しかいない同胞だからね。帰った時ぐらい向こうに合わせてあげようよ」
本当にミラーが苦手なロゼアは、困った顔をして嘆くよう片手で顔を覆うようにする。
カシアが見てる限り、ロゼアがミラーに勝ったところなど見た事がない。
だから、合わせてあげようよ、と言わないでも合わすしかないように仕向けられる。
だが、こう言っておいて仕方がない状況を作って置いてあげないとミラーが去った後のロゼアの全開の愚痴に付き合うのは骨が折れるのである。
勿論、これをしても愚痴に付き合う事にはなるが、だいぶマシになるのは経験で分かっていた。
苦笑するカシアを横目にロゼアは人を呼ぶ。
来た者に戦の準備をするように伝えるが、すぐに出発という訳でないので、しっかりと準備をするようにと連絡を伝えた。
それから1日が経ち、ロゼア達がいる部屋へと死んだ魚の目をした男、ミラーがいつもの笑みを浮かべてやってきた。
カシアに「やぁ」と気軽に手を上げて挨拶を済ませて、ロゼアを見つめるとびっくりしたような顔をしたミラーが床に座りながら声をかけてくる。
「あれっ? ロゼア、髭に白いモノ混じってきた?」
「ああっ、久しぶりに心労を伴う相手をしなくてはならなくなったせいでな」
ロゼアをからかうミラーに皮肉交じりに答えを返す。
ロゼアは元々、銀髪である。勿論、髭も銀なので白いモノが混じるというのもない。
そのうえ、自分達が意識した時点で今の姿だった不変のエルフ、エルダ―エルフに容姿の変化などありはしないのは、ミラーとて実体験で分かったうえでの言葉であったが、苦手意識からか眉を寄せて嫌そうな顔をするロゼア。
そんなロゼアの皮肉もミラーの厚い面には効果がなく、サラッと流されて、隣にいるカシアに「ちょっと身長伸びた?」と同じようなやり取りをしていた。
楽しそうに会話をする2人を疲れた顔をして、しばらく見つめる。
ミラーの益体もないやり取りを続けるのを嫌ったロゼアは、楽しそうに談笑する2人を止めて話を促す。
「そろそろ、無駄話を止めて、本題に入ろう」
「相変わらず、余裕のない生き方ですね。私達の時間は無駄に有り余ってるというのに」
「それがロゼアの持ち味だよ。僕はもう慣れたよ」
笑い合う2人に頭痛を覚えるロゼアは、「俺達が良くても、子供達の時間は有限だ」といい、2人を睨みつけるように見る事でミラーとカシアは肩を竦めて、話し合いをする体勢になる。
聞く体勢になった2人を見て、ホッと安堵の溜息を吐くロゼアは、早速、ミラーに問う。
「では、まずは何故、同胞の子達の報復行動に待ったをかけた?」
「それはですね、ほっといたらナイファ国に進軍していたと思ったからですよ」
ロゼアの言葉にミラーは迷う事なく答える。
それを聞いたロゼアは、何を当たり前な事を? といった顔をしてミラーを見つめる。
ロゼアは、ミラーは何を考えていると考え、探るように問い返す。
「それは当然であろう。この事をやらかした宰相は勿論、それが所属していた国に責任を取らせる。これは昔からやってきた事だという事をわざわざ説明が必要なお前ではないだろう?」
「ええ、昔からそうやってきたのは分かりますし、同胞を好き勝手やった者達に容赦をかける気もありませんよ。ですが、毎回やってる事だからと行動すると痛い目では済まない事態もあるという事を気付かせようと思いましてね」
ミラーはヘラッとした笑いを浮かべながら気負いもなく言ってくるセリフがロゼアに入ってこなかった。
何を馬鹿な事を? と思っただけであった。
それを見ていたカシアがミラーに否定して欲しそうな顔をして問いかける。
「ミラーの言葉を聞いてると返り討ちに遭うような言い回しに聞こえるんだけど?」
嫌な汗が頬に伝うのを嫌って、拭いながらミラーを見つめるカシア。
「間違いなく、返り討ちに遭いますね」
2人は驚愕の表情を浮かべて生唾を飲み込む。
自分を振る立たせるようにロゼアは腕を横に振り払い、叫ぶ。
「我らが本気になっても、勝てないと言うのか、ミラー!」
「死ぬ気で頑張ればナイファ、パラメキ国の人口の9割までは削れるでしょうが、その時はエルフは絶滅していてもおかしくはありません。いくら、私達、エルフが強い力があるといっても2カ国も相手にして無事には済みません」
ミラーの言葉を聞いたカシアが首を傾げて問いかける。
「どうして2国と戦う事になるの?」
ロゼアも同じように不思議に思い、ミラーを見つめる。
ロゼアが求めたのは、エルフを奴隷にした事に対する報復処置だったのだからナイファ国と戦争するつもりでいたのである。
「説明の前に確認を、同胞を捕まえていたナイファ国と戦争を、と考えていますね?」
そのミラーの言葉に頷く2人を見て、ミラーは確認を続ける。
「その首謀者のゴードン宰相とその一派が隣国のパラメキ国に亡命し、捕まえた同胞達を買い取り先だと言ったら、2人はどうしますか?」
その言葉を聞いて絶句する2人。
どうやら、その情報はまだなかったようで額に汗を浮かばせる。
暴走するようにナイファ国に宣戦布告をしていたら下手したら2国を相手に戦う恐れがあった。
ミラーがそんな迷いもなく言ってくるところを見て、この情報の確度は高いモノだと判断した。
そんな2人の様子を気にした風でもなく、ミラーは続ける。
「ナイファ国は、捕えた同胞を辱めた者達が亡命して、自分達に責任がないと声高に叫ぶ事もできるのに謝罪する場を求めてきています。出来るだけの謝罪とゴードン達を捕えて差し出すように努力すると言ってきています」
それでも宣戦布告をしますか? と言いたげにミラーに見つめられた2人は、カシアは、肩を竦めて両手を上げて降参と言わんばかりに苦笑いをし、ロゼアは唸りながら腕を組んで考え込む。
それを見つめて嘆息するミラーはロゼアに言い含める。
「私達は、巷では神のように思われてますが、そうではない事は私達が一番知っています。元々、エルダ―エルフの私達は5人いました。2人がどうなったか言うまでもないですよね?」
その2人のエルダ―エルフは、自分達を本当に神と思いこみ、神のきまぐれと称して街や村を焼き払っていた。
そして、人と獣人が手を組んで包囲されてあっさり殲滅させられた。
それがキッカケになり、エルフを襲うモノが増えた事が理由で今のように同胞に何かあったら一族総出で戦って自由を勝ち取るという下地が出来上がった。
「ロゼア、貴方は、その傲慢な3人目になりたいのですか?」
ミラーにそう言われたロゼアは、悔しそうに視線を切ると「好きにしろ」と言うのを聞いたミラーは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「いやぁ~、ロゼアが正常な判断をしてくれて良かったですよ。ナイファ国にいる神と精霊の加護を受けた者を敵に廻さずに済みますから」
その言葉を聞いた2人は今まで一番驚きを見せて、思わず、立ち上がった2人がミラーを恐れるように見下ろす。
ミラーは会心のドッキリが成功したと言ったイヤラシイ笑みを浮かべる。
「それを最初に言われていたら何も抵抗もせずに賛成したものを!」
「そうだよ、そうだよ。僕もそれを聞いてたらロゼアを叩き伏せてでも言う事をきかせたよっ!」
「フッフフ、それでは駄目なんですよ。それを言ったら話し合いではなく、力押しですからね」
楽しそうに言うミラーにロゼアは、悔しそうにしながら、「似たようなもんだっただろうが」と唸る。
ミラーに言われた言葉が浸透して落ち着いたカシアが頬を紅潮させて嬉しげに語る。
「ミラーの言う通りだったら、その者は……」
そこまで言うとミラーに人差し指で唇を押さえられて言葉を止めてしまうカシア。
「ここで答えを急がなくても良いでしょう。会って自分の目で確かめればいい」
そう言われたカシアは嬉しそうにすると、「何千年ぶりかのお出かけだぁ」と飛び上がると部屋から飛び出していく。
飛び出していくカシアを見て、クスクスと笑うミラーにロゼアはジッと見つめる。
「とりあえず、ナイファ国と歩調を合わせると使者を送る。そして……私も出る」
そう言うと軍の再編と出立の準備の為、ロゼアも部屋から出ていくのを見て、ミラーは首をコキコキと鳴らしながら肩を揉む。
「ふぅ、これでエルフとナイファ国と戦うのを回避されるでしょう。とりあえず私の仕事はこれで終わり……いえ、もう1つありましたね。私としてはどちらに転んでも楽しそうなのでどちらでも良いですがね」
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