169 / 365
5章 DT、本気みせます!
幕間 気付いた時は手遅れ
しおりを挟む
飛び去る雄一に向かって、憤慨した様子のポプリを後ろから眺めていたミレーヌは微笑ましげに見つめる。
そして、周りを見渡すと雄一にやり込められた文官達も素直な笑みを浮かべている。普通なら笑みが浮かぶ事はないし、あって嘲笑であろう。
ここが雄一の不思議な魅力である。
敵対する立ち位置にいると恐怖の対象だが、敵に廻るのを嫌い、内側に入ると気付けば、その姿を目で追ってしまう、稀有な存在である。
そんな事を考えているとナイファ城でエイビスに会った時の事を思い出していた。
▼
「そうそう、ユウイチ様の事は色眼鏡で見られない事をお勧めしますよ?」
王の間を退出しようとしてたエイビスがいきなり振り向いたと思ったら、そう言い放たれたミレーヌとゼクスは虚を突かれる。
おそらく驚きが顔に出てしまったようで、エイビスの口元に小さな笑みが浮かぶ。
それに気付いたミレーヌは、小さく咳払いをして問い返す。
「それはどういう意味ですか? 警告か脅しですか?」
「いえいえ、脅しなどしません。ですが、警告ですか……的外れではありませんね……」
そう言ってくるエイビスに少し苛立ちを感じる。
何故なら損得勘定から勿体ぶるように距離感を取ろうとしているのではなく、純粋にミレーヌの反応を楽しんでいるように見えた為である。
そんなミレーヌの感情の動きを捉えたエイビスは、失敗したと苦笑するように困った顔をする。
その様子からミレーヌが感じたモノが合っている事と少なからず、エイビスも悪い事をしたと反省をしているようである。
エイビスほどの商人が自分の感情を読まれるような下手は打たない。
だが、それを詳しく観察しなくても分かるように見せたのは、エイビスの誠意の表れと判断して先程の感情を飲み込む。
「申し訳ありませんが、腹芸せずに教えて頂けますか? 色々、バックアップして頂けるのでしょ?」
「本当に言葉通りなんですが、ユウイチ様を高く評価して見ようが、低く見ようが、そのギャップにやられるとお伝えして、常に自然体でおられるようにと思ったまでです」
ミレーヌは、エイビスが何を言いたいのか、さっぱり分からず眉を寄せる。そのままの意味と言われても現時点で雄一がした事というのは偉業と言わずにはいられない。
当然、高い評価をしているに決まっている。伊達に自分を切り売りするように嫁になろうと考えた訳ではない。
だが、隣にいるゼクスが笑みを浮かべて頷いているのを見て、ミレーヌは見つめ、エイビスは同士を見つけたような顔をして話しかける。
「王子も既に?」
「ええ、本当に貴方は良く見ておられます。私も言われるまで気付いてませんでしたが、確かに私もそれにやられてしまった者です」
2人が楽しそうに笑みを交わすのを見せられ、疎外感を味わうミレーヌは、自信を失ったかのように、おずおずと伺うように聞く。
「どういう事なの、ゼクス?」
「え―と、どうお伝えしたらいいか……素のユウイチ父さんに触れると理由とか条件とかどうでも良くなって、その温かいユウイチ父さんと繋がりを持っていたいと思えるんです」
「彼は、損得勘定の向こう側にいるのです」
エイビスがそう言った瞬間、弾けるようにゼクスはそちらに見つめ、同意するように笑みを浮かべて頷く。
「さすが商人様です。どうか、僕がこの国を導く立場になったとしても良い関係をお願いします」
「有難きお言葉。こちらこそ、御贔屓にお願いしますよ」
エイビスとゼクスが仲の良い親戚の伯父と甥のよう笑みを浮かべ合うのを見てミレーヌの混乱具合が加速する。
理解に至れてないミレーヌをエイビスとゼクスは苦笑するように見つめる。
「そうですね、お母様は分からないままでも問題ないかもしれません。いずれ、身を持って知るでしょうし」
「王子も酷いですね。まあ、確かに、政治的配慮から1人の女としてに変わるだけといえば、その通りなので問題はありませんね」
笑みを浮かべる2人に言われて、素晴らしい人物であるとは既に分かってると心で思いつつ、「そうですか」と気のない振りをする。
それでもまだ、笑みを浮かべ続ける2人に見透かされているようで気分が悪かった。
▼
そんな事を思い出しながら雄一が飛び立った方向を見つめるミレーヌは自分の胸に手をあてると弾むように鼓動を打つ自分の心臓に、落ち着きなさいと心で苦笑する。
先程、雄一が王の間から出ていく時、リューリカから4大精霊獣の残りの3体が見初めてこちらにやってきたと言われてからの行動と雄一の顔を思い出す。
思い出すだけで、心が弾む。
そして、頬が紅潮しそうになるのを意思の力で必死に抑え込む。
だが、体を包む甘い痺れは抑える事ができずに我知らず、ミレーヌは自分を抱き締める。
もしかしたら、初めてかもしれない。誰かにときめきを感じたのは……
あれほど強者としての顔を持つ雄一が、戦いを挑みに来た訳ではなく好意を寄せてやってくるのが同時に3体いると知るだけで困った笑みを浮かべて、焦って逃げを打つのである。
これは反則である。これは警戒していようとやられてしまう。
あの時はいきなりの事だったので呆けてしまったが落ち着いてくるとあの時の雄一は、可愛かったのである。あんな大男が成す術もなく逃げる様子はギャップが激し過ぎる。
ゼクスの言う通り、身を持って知ったし、あの時、理解してなくても何ら問題はなかった。
こちらを楽しげに見つめるゼクスの視線に気付いたミレーヌは、少し拗ねた顔をして「イジワル」とゼクスに聞こえるように伝えると笑みを爆発させる。
すると、後ろにやってくる人の気配に気付いて振り返ると文官達で、ミレーヌの前に来ると片膝を着いて頭を垂れる。
「まずは今までの怠慢、非礼をお詫びします」
文官の代表が謝罪をするのをミレーヌは寛容に頷いてみせる。
「ユウイチ様も仰っていたようにこれからが大事なのです。貴方達の働きを期待してますよ?」
文官達は更に深く頭を垂れて、「ナイファ国の為に粉骨砕身、力が及ぶ限り尽くします」と改めて、ナイファ、ミレーヌに忠誠を誓う。
文官達に頭を上げるように言うと上げた面子の文官代表が楽しげにしてミレーヌに話しかける。
「しかし、彼は面白いですね?」
「彼とは?」
誰の事を差しているのかは分かっていたが、正直、文官代表が雄一の事を好意的な感想を言うと思っていなかったからである。
「勿論、ユウイチ様の事です。正直な所、なんとか出し抜いて痛い目に合わせてやろうと思っておりました」
ミレーヌが見つめていたように雄一が飛んで行った方向を目を細めて見つめる文官代表は、こちらに視線を戻して苦笑いを浮かべる。
「たった1人でナイファ軍、エルフ軍を怯ませる相手で、しかも我らより機転を見せ、尚且つ、彼の周りには優秀な者が集っている。こんな完璧な存在を認められるかっ! と思っておりました。ですが……」
苦笑いから照れ笑いに変わる文官代表にミレーヌは微笑みを浮かべる。
「ですが?」
「それが求婚されそうだと分かると尻尾を撒いて逃げる……唖然としましたよ。同時に楽しいと思わされました。敵になるより近くで彼を見ていたい。ああ、ノーヒットDTとはこういう意味だったのかと、スッと心に収まり納得してしまいました」
その言葉を聞いて、ミレーヌはクスクスと笑う。
ミレーヌの後ろでは先程まで雄一に怨嗟の声を上げていたポプリも同じような顔をして笑みを浮かべていた。
またここにも雄一にやられた被害者が生まれる。男女問わず見境なしである。
その和やかな空気の今が例の話をするのに適していると判断する。その重要人物が不在であるが逆に考えれば好材料かもしれない。
振り返るとポプリに例の話を今しましょうと伝えると嬉しげに頷かれる。
2人は玉座のほうへと移動すると注目をこちらに向けさせる。
「皆の者、傾注せよ。これから色々、打ち合わせなどを予定していましたが先に大事な話をしようと思います。我らナイファ国とパラメキ国は兄弟国となります」
ミレーヌの言葉にどよめきが起こる。
そんなミレーヌに文官代表が眉を寄せて質問する。
「仰いたい事は分かりますが、それは支配するより難しいかもしれません。国民達からすれば、今までの事があり兄弟国と言われてもピンとこないでしょう。それを納得させるモノは何か考えが御有りなのでしょうか?」
我に秘策あり、とばかりに笑みを浮かべるミレーヌに、一同から感嘆の声が漏れる。
「勿論です。ナイファ国の女王、パラメキ国の女王。私と現王女ポプリ様が同じ人の子を宿せば良いのです」
「確かに、10年ほどの時間はかかるでしょうが、自然な形で纏まるかもしれませんが、問題はその男性は?」
そう問いかけてきたのは団長であったが、文官代表には誰か分かったようである。
ミレーヌとポプリは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「それは、あの人ですよ」
そう言うポプリが先程まで怨嗟の声を上げていた窓を見つめる。
同じように見つめた団長も声を上げて理解に至ると興奮したように「それは素晴らしい!」と拳を握り、喜びを前面に出す。
「そう、彼は君臨はしても統治せず、といった方。そして、両国で彼を軽んじる人などいません。これ以上の人材はありませんよ」
してやったりと笑みを浮かべるミレーヌを臣下達が万歳しながら褒め称える。
その中で気付いたようにゼクスに近寄る文官代表が耳打ちする。
「こんな事をお伝えするのはどうかと思うのですが、王位継承権の問題が出てくると思われますが良いのですか?」
「ええ、生まれた子が王に成りたくないと言わない限りは譲るつもりです。私は、ユウイチ父さんの所でお世話になった時に夢ができたんですよ」
本当に何でもないとばかり言うだけでなく、夢を語るゼクスの様子に驚きを隠せない文官代表は「夢とは?」と聞き返す。
「ご飯を作る人、料理人になりたいと思っています。だから、できたら王位を継ぐ気になる子が生まれる事を祈るばかりですよ」
嬉しげに語るゼクスを眩しく思う文官代表はその優しい夢が叶うといいなと思う。と思うと同時に昨日までなら、不甲斐ないと断じていただろうと思うと苦笑する。
「話が上手く纏まって嬉しいわ」
ゼクスの後ろにやってきたミレーヌがホッとした様子で立っているのを見て、文官代表は慌てて頭を下げるがミレーヌに気にしてないと言われる。
「我が子の理解もあって、臣下達も受け入れてくれて協力してくれる地盤ができて胸を撫で下ろす思いよ」
「商人様、エイビス殿も力を貸してくれると言ってたではありませんか?」
ゼクスにそう言われたミレーヌは眉を寄せて嫌そうな顔をする。
「アテになりませんよ。あの人は私をダシにユウイチ様で遊ぼうとしてただけでしょうし?」
拗ねたように明後日の方を見る母親を見る横顔の愛らしさを見たゼクスは大丈夫と思いつつも言う。
「僕達も協力はしますが、お母様が一番頑張らないとどうにもなりませんよ?」
「ゼクスはイジワルになったわ。ユウイチ様の所から帰ってからかしら?」
そう言い合う親子は楽しげに笑みを浮かべる。
仲慎ましい親子を見つめる文官代表は頷く。
「我らも全力でバックアップします。なんとしても成功させましょう。今度は私達が主役の楽しい戦争を始めましょう!」
「頼りにしてます」
笑顔を振り撒くミレーヌに再び頭を垂れる文官代表は皆の下へと歩くミレーヌの後ろを着いていく。
そして、今回の戦争の後片付けが済んだ頃、文官代表は宰相と呼ばれる事になる。
こうして、雄一包囲網は作成されていくが、当の本人は勿論まだ知らない。
そして、周りを見渡すと雄一にやり込められた文官達も素直な笑みを浮かべている。普通なら笑みが浮かぶ事はないし、あって嘲笑であろう。
ここが雄一の不思議な魅力である。
敵対する立ち位置にいると恐怖の対象だが、敵に廻るのを嫌い、内側に入ると気付けば、その姿を目で追ってしまう、稀有な存在である。
そんな事を考えているとナイファ城でエイビスに会った時の事を思い出していた。
▼
「そうそう、ユウイチ様の事は色眼鏡で見られない事をお勧めしますよ?」
王の間を退出しようとしてたエイビスがいきなり振り向いたと思ったら、そう言い放たれたミレーヌとゼクスは虚を突かれる。
おそらく驚きが顔に出てしまったようで、エイビスの口元に小さな笑みが浮かぶ。
それに気付いたミレーヌは、小さく咳払いをして問い返す。
「それはどういう意味ですか? 警告か脅しですか?」
「いえいえ、脅しなどしません。ですが、警告ですか……的外れではありませんね……」
そう言ってくるエイビスに少し苛立ちを感じる。
何故なら損得勘定から勿体ぶるように距離感を取ろうとしているのではなく、純粋にミレーヌの反応を楽しんでいるように見えた為である。
そんなミレーヌの感情の動きを捉えたエイビスは、失敗したと苦笑するように困った顔をする。
その様子からミレーヌが感じたモノが合っている事と少なからず、エイビスも悪い事をしたと反省をしているようである。
エイビスほどの商人が自分の感情を読まれるような下手は打たない。
だが、それを詳しく観察しなくても分かるように見せたのは、エイビスの誠意の表れと判断して先程の感情を飲み込む。
「申し訳ありませんが、腹芸せずに教えて頂けますか? 色々、バックアップして頂けるのでしょ?」
「本当に言葉通りなんですが、ユウイチ様を高く評価して見ようが、低く見ようが、そのギャップにやられるとお伝えして、常に自然体でおられるようにと思ったまでです」
ミレーヌは、エイビスが何を言いたいのか、さっぱり分からず眉を寄せる。そのままの意味と言われても現時点で雄一がした事というのは偉業と言わずにはいられない。
当然、高い評価をしているに決まっている。伊達に自分を切り売りするように嫁になろうと考えた訳ではない。
だが、隣にいるゼクスが笑みを浮かべて頷いているのを見て、ミレーヌは見つめ、エイビスは同士を見つけたような顔をして話しかける。
「王子も既に?」
「ええ、本当に貴方は良く見ておられます。私も言われるまで気付いてませんでしたが、確かに私もそれにやられてしまった者です」
2人が楽しそうに笑みを交わすのを見せられ、疎外感を味わうミレーヌは、自信を失ったかのように、おずおずと伺うように聞く。
「どういう事なの、ゼクス?」
「え―と、どうお伝えしたらいいか……素のユウイチ父さんに触れると理由とか条件とかどうでも良くなって、その温かいユウイチ父さんと繋がりを持っていたいと思えるんです」
「彼は、損得勘定の向こう側にいるのです」
エイビスがそう言った瞬間、弾けるようにゼクスはそちらに見つめ、同意するように笑みを浮かべて頷く。
「さすが商人様です。どうか、僕がこの国を導く立場になったとしても良い関係をお願いします」
「有難きお言葉。こちらこそ、御贔屓にお願いしますよ」
エイビスとゼクスが仲の良い親戚の伯父と甥のよう笑みを浮かべ合うのを見てミレーヌの混乱具合が加速する。
理解に至れてないミレーヌをエイビスとゼクスは苦笑するように見つめる。
「そうですね、お母様は分からないままでも問題ないかもしれません。いずれ、身を持って知るでしょうし」
「王子も酷いですね。まあ、確かに、政治的配慮から1人の女としてに変わるだけといえば、その通りなので問題はありませんね」
笑みを浮かべる2人に言われて、素晴らしい人物であるとは既に分かってると心で思いつつ、「そうですか」と気のない振りをする。
それでもまだ、笑みを浮かべ続ける2人に見透かされているようで気分が悪かった。
▼
そんな事を思い出しながら雄一が飛び立った方向を見つめるミレーヌは自分の胸に手をあてると弾むように鼓動を打つ自分の心臓に、落ち着きなさいと心で苦笑する。
先程、雄一が王の間から出ていく時、リューリカから4大精霊獣の残りの3体が見初めてこちらにやってきたと言われてからの行動と雄一の顔を思い出す。
思い出すだけで、心が弾む。
そして、頬が紅潮しそうになるのを意思の力で必死に抑え込む。
だが、体を包む甘い痺れは抑える事ができずに我知らず、ミレーヌは自分を抱き締める。
もしかしたら、初めてかもしれない。誰かにときめきを感じたのは……
あれほど強者としての顔を持つ雄一が、戦いを挑みに来た訳ではなく好意を寄せてやってくるのが同時に3体いると知るだけで困った笑みを浮かべて、焦って逃げを打つのである。
これは反則である。これは警戒していようとやられてしまう。
あの時はいきなりの事だったので呆けてしまったが落ち着いてくるとあの時の雄一は、可愛かったのである。あんな大男が成す術もなく逃げる様子はギャップが激し過ぎる。
ゼクスの言う通り、身を持って知ったし、あの時、理解してなくても何ら問題はなかった。
こちらを楽しげに見つめるゼクスの視線に気付いたミレーヌは、少し拗ねた顔をして「イジワル」とゼクスに聞こえるように伝えると笑みを爆発させる。
すると、後ろにやってくる人の気配に気付いて振り返ると文官達で、ミレーヌの前に来ると片膝を着いて頭を垂れる。
「まずは今までの怠慢、非礼をお詫びします」
文官の代表が謝罪をするのをミレーヌは寛容に頷いてみせる。
「ユウイチ様も仰っていたようにこれからが大事なのです。貴方達の働きを期待してますよ?」
文官達は更に深く頭を垂れて、「ナイファ国の為に粉骨砕身、力が及ぶ限り尽くします」と改めて、ナイファ、ミレーヌに忠誠を誓う。
文官達に頭を上げるように言うと上げた面子の文官代表が楽しげにしてミレーヌに話しかける。
「しかし、彼は面白いですね?」
「彼とは?」
誰の事を差しているのかは分かっていたが、正直、文官代表が雄一の事を好意的な感想を言うと思っていなかったからである。
「勿論、ユウイチ様の事です。正直な所、なんとか出し抜いて痛い目に合わせてやろうと思っておりました」
ミレーヌが見つめていたように雄一が飛んで行った方向を目を細めて見つめる文官代表は、こちらに視線を戻して苦笑いを浮かべる。
「たった1人でナイファ軍、エルフ軍を怯ませる相手で、しかも我らより機転を見せ、尚且つ、彼の周りには優秀な者が集っている。こんな完璧な存在を認められるかっ! と思っておりました。ですが……」
苦笑いから照れ笑いに変わる文官代表にミレーヌは微笑みを浮かべる。
「ですが?」
「それが求婚されそうだと分かると尻尾を撒いて逃げる……唖然としましたよ。同時に楽しいと思わされました。敵になるより近くで彼を見ていたい。ああ、ノーヒットDTとはこういう意味だったのかと、スッと心に収まり納得してしまいました」
その言葉を聞いて、ミレーヌはクスクスと笑う。
ミレーヌの後ろでは先程まで雄一に怨嗟の声を上げていたポプリも同じような顔をして笑みを浮かべていた。
またここにも雄一にやられた被害者が生まれる。男女問わず見境なしである。
その和やかな空気の今が例の話をするのに適していると判断する。その重要人物が不在であるが逆に考えれば好材料かもしれない。
振り返るとポプリに例の話を今しましょうと伝えると嬉しげに頷かれる。
2人は玉座のほうへと移動すると注目をこちらに向けさせる。
「皆の者、傾注せよ。これから色々、打ち合わせなどを予定していましたが先に大事な話をしようと思います。我らナイファ国とパラメキ国は兄弟国となります」
ミレーヌの言葉にどよめきが起こる。
そんなミレーヌに文官代表が眉を寄せて質問する。
「仰いたい事は分かりますが、それは支配するより難しいかもしれません。国民達からすれば、今までの事があり兄弟国と言われてもピンとこないでしょう。それを納得させるモノは何か考えが御有りなのでしょうか?」
我に秘策あり、とばかりに笑みを浮かべるミレーヌに、一同から感嘆の声が漏れる。
「勿論です。ナイファ国の女王、パラメキ国の女王。私と現王女ポプリ様が同じ人の子を宿せば良いのです」
「確かに、10年ほどの時間はかかるでしょうが、自然な形で纏まるかもしれませんが、問題はその男性は?」
そう問いかけてきたのは団長であったが、文官代表には誰か分かったようである。
ミレーヌとポプリは顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「それは、あの人ですよ」
そう言うポプリが先程まで怨嗟の声を上げていた窓を見つめる。
同じように見つめた団長も声を上げて理解に至ると興奮したように「それは素晴らしい!」と拳を握り、喜びを前面に出す。
「そう、彼は君臨はしても統治せず、といった方。そして、両国で彼を軽んじる人などいません。これ以上の人材はありませんよ」
してやったりと笑みを浮かべるミレーヌを臣下達が万歳しながら褒め称える。
その中で気付いたようにゼクスに近寄る文官代表が耳打ちする。
「こんな事をお伝えするのはどうかと思うのですが、王位継承権の問題が出てくると思われますが良いのですか?」
「ええ、生まれた子が王に成りたくないと言わない限りは譲るつもりです。私は、ユウイチ父さんの所でお世話になった時に夢ができたんですよ」
本当に何でもないとばかり言うだけでなく、夢を語るゼクスの様子に驚きを隠せない文官代表は「夢とは?」と聞き返す。
「ご飯を作る人、料理人になりたいと思っています。だから、できたら王位を継ぐ気になる子が生まれる事を祈るばかりですよ」
嬉しげに語るゼクスを眩しく思う文官代表はその優しい夢が叶うといいなと思う。と思うと同時に昨日までなら、不甲斐ないと断じていただろうと思うと苦笑する。
「話が上手く纏まって嬉しいわ」
ゼクスの後ろにやってきたミレーヌがホッとした様子で立っているのを見て、文官代表は慌てて頭を下げるがミレーヌに気にしてないと言われる。
「我が子の理解もあって、臣下達も受け入れてくれて協力してくれる地盤ができて胸を撫で下ろす思いよ」
「商人様、エイビス殿も力を貸してくれると言ってたではありませんか?」
ゼクスにそう言われたミレーヌは眉を寄せて嫌そうな顔をする。
「アテになりませんよ。あの人は私をダシにユウイチ様で遊ぼうとしてただけでしょうし?」
拗ねたように明後日の方を見る母親を見る横顔の愛らしさを見たゼクスは大丈夫と思いつつも言う。
「僕達も協力はしますが、お母様が一番頑張らないとどうにもなりませんよ?」
「ゼクスはイジワルになったわ。ユウイチ様の所から帰ってからかしら?」
そう言い合う親子は楽しげに笑みを浮かべる。
仲慎ましい親子を見つめる文官代表は頷く。
「我らも全力でバックアップします。なんとしても成功させましょう。今度は私達が主役の楽しい戦争を始めましょう!」
「頼りにしてます」
笑顔を振り撒くミレーヌに再び頭を垂れる文官代表は皆の下へと歩くミレーヌの後ろを着いていく。
そして、今回の戦争の後片付けが済んだ頃、文官代表は宰相と呼ばれる事になる。
こうして、雄一包囲網は作成されていくが、当の本人は勿論まだ知らない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる