駄女神の玩具箱ーどうして、お前はそんなに駄目なんだ?-

バイブルさん

文字の大きさ
2 / 31
事後承諾もない分かち合い

1話 私の手の内なのですぅ

しおりを挟む
 シホーヌ達の前には、領主の館と言われると小振りな館の前にやってくる。

 趣味の良い庭園が広がり、庭師達が、楽しそうに剪定などをしながら、意見をぶつけ合う姿が見えた。
 その剪定をする過程で出たゴミを掃き集めるメイド達が、そのやり取りを楽しげに見つめて、笑うというアットホームという言葉が似合う屋敷であった。

 ホルンは、そのやり取りを遠くから見て、ここの領主の人柄を見たような気分になり、そんな場所で、我が友人が住める事を心から自分達の上司達に感謝の念を送る。

「街に入る為に、領主さんにサクッと身分証明書を作って貰うのですぅ~」

 何も考えてなさそうな友人、シホーヌが意気揚々と歩き出すのを、ホルンは止める。

「ちょっと、待ってね? どうやって作って貰うつもりなの、いえ、それより先にどうやって会おうとしてたの?」
「それは決まってるのです。玄関に行って、『領主さんいますか? 遊びに来たので、開けてください』って言えば、いらっしゃい、って歓迎されるのですぅ!」

 どやぁ、と言い放った後のような顔をしたシホーヌが、ホルンに告げる。

 ホルンは、シホーヌに、「ちょっと待ってね?」と言いながら、眉間を揉みながら考えに耽る。
 天界に居る頃は、多少の無茶が通るから、なぁなぁ、で通る部分があった。だが、天界から出た神は、人よりしぶといが、死ぬ恐れは、人と大差はない。

 ホルンは、決心した。シホーヌの相方になる人物については、口煩いと言われようが、絶対、まともな人選になるように口出しをしようと……

 それまでは、自分が頑張るしかないと、気持ちを引き締める。

「あのね、シホーヌ? 確かに、ここの領主は人柄が良さそうな気がするけど、それで入れてくれるような領主は存在しないわよ?」
「そんなのやってみないと分からないのですぅ!」

 シホーヌは、自分の考えに一分の隙もないと言わんばかりに、胸を張ってくるのを見て、長年の経験上、言葉では退かないと感じたホルンは強権を発動する。

 シホーヌの柔らかい頬を両端から抓んで引っ張りながら、染み込ませるように語りかける。

「いい? 不特定多数の人に目撃されたら、記憶操作などをする力を使わないといけない。でも、神々会議でも言われてたでしょ?」

 頬を引っ張られて、涙目のシホーヌは、ホルンの手を掴みながら、何の話?と言いたげな顔を向けてくるので、ホルンのコメカミに血管が浮く。

 シホーヌの柔らかい頬がどこまで伸びるかチャレンジを始めたホルンが続きを語る。

「神の力を使うのは必要最低限にするようにと言われたでしょ? ここの使用人達の記憶を操作するのは、それに適用されるとは思えないわ」

 ホルンに頬を引っ張られているシホーヌは、「ごふぇんなしゃい」と連呼しながら、滂沱の涙を流しながら必死に謝ってくるので、溜息と共に手を離してやる。

 頬を赤くして、両頬を摩り、恨めしそうにホルンを見つめるシホーヌは聞いてくる。

「じゃあ、どうしたらいいというのですぅ?」
「それはね?……」


 ダンガの領主、ペペロンチーノは、使用人達の頑張りでいつも美しい庭園を眺めながら、ノンビリとお茶をするこの時間が好きであった。

 今日も、お気に入りのカップと銘柄のお茶で楽しみながら、新しく入った新米メイドの奮闘の姿が見えるような、不揃いのクッキーを齧り、お世辞にも美味しいと言えないが、優しい気持ちにさせられながら庭園を眺めていた。

 ペペロンチーノは50歳を迎える年ながら精悍な顔つきをしており、武人の趣を感じさせる。

 実際に、5年前まで、近衛騎士の副団長をこなしていたバリバリの武人であったが、年と体の衰えを理由に親から引き継いだダンガ周辺の土地を守るという第2の人生を楽しんでいた。

 ダンガ周辺には貴族も少なく、そのせいか、権力競争をするものは、ほぼ皆無で穏やかな日常を過ごしていた。

 そんなある日、庭を眺めていると、背後に気配を感じて、慌てて立ち上がる。

 振り返った先には少女2人が立っていた。幼いほうは白いワンピースを着ており、成人しそうな少女は、黒いジャケットを羽織り、軽く腕まくりをして、パンツ姿は男装の麗人かと思えば、カッコ良いというより、可愛いが勝っている少女であった。

 2人の目から敵意は一切感じないが、万が一があると一瞬身構えるが、ジャケット姿の少女が、ゆっくりとお辞儀をしてくる。

 それに毒気を抜かれたペペロンチーノは、「何の用じゃ?」と問いかける。

「ダンガで生活するための身分証明書を作って頂きたいのです。勿論、無茶なお願いをしてる事は、理解しております。ですが、どうか、お願いできませんでしょうか?」

 普通なら、帰れ、と一蹴するか、人を呼ぶかするところであったが、どうにもこの少女の目を見て、頭ごなしに拒否する気になれなかったペペロンチーノは、顎に手をやり、悩み始める。

 自分でもおかしいとは思うが、どうにかして、この少女のお願いを聞いてあげたいと、作る言い訳を考えている自分に失笑しそうになる。
 そうする事が、自分にとっても良い結果を生むと現役時代、何度となく自分を救ってきたカンが囁くのである。

 黙って見つめ合う2人を見て、じれったくなったらしい幼いほうの少女がしゃしゃり出る。

「焦れったいのですぅ! ここは私にお任せなのです!」
「待ちなさい、この馬鹿ぁ!」

 幼い少女は少女の手から逃れるとペペロンチーノの前へと躍り出る。

 目の前にくると、イタズラをしにきた幼い頃の自分の娘を思い出すような顔をすると、懐から糸と穴のあいたコインのようなモノを出してくる。

 糸をコインの穴に通して吊るし上げる。

 吊るしたコインを背伸びをして、ペペロンチーノの目線に合わせようとするが、届いてないが、本人は届いていると信じ切った顔をして、呟きだす。

「おじさんは、私に身分証明書を作りたくなるぅ~、なっちゃうのですぅ~」

 ペペロンチーノは、馬鹿な事をと一瞬思うが、これはチャンスかもしれないと目を細める。
 たいした反応がない事に、徐々に涙目になっていく幼い少女は口をワナワナさせていく。
 この残念な子の手に乗ろう、と腹を決める。

「うん、ワシは身分証明書が作りたくなってきたな~」

 ペペロンチーノは、自分でも棒読みだな、と思うが、強引に押し切る。

 フラフラと操られているような仕草をしながら、自分の机に行き、書類とペンを取り出すと、幼い少女の名前を聞くと書き始める。

 『我がペペロンチーノの名の下、シホーヌ一同の身分を保障する者とする
                      ダンガ領主ペペロンチーノ』

 そう記載したものを、幼い少女に手渡す。
 それを嬉しげに受け取り、後ろにいる少女に勝ち誇るようにする。

 そして、幼い少女はペペロンチーノに、「ありがとうなのですぅ!」と元気の良い返事をして、堂々とドアから出ていく。
 それに出遅れたように顔を片手で覆う少女が、ペペロンチーノを見つめると、ペコペコと頭を下げてくるのを、気にするな、と言いたげな顔をしながら手を振る。

 少女も後を追いかけるようにドアから出ていく姿を見届けた後、ペペロンチーノは、元のお茶をしていた席に戻り、冷めたお茶を一口飲む。

「まあ、悪い子じゃないだろうから、困った事にはならんだろう」

 そう呟くペペロンチーノであったが、彼のカンは本物であった事を知るのは、先の話である。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...