109 / 124
5章 竜が見る夢
103話 旅をしたかった
しおりを挟む
ロキに武器だけに頼らない攻撃、蹴り技や懐に入れば肘を入れるなどの攻撃を繰り出す。
しかし、どの攻撃もクリーンヒットどころかまともに入る事もなく、綺麗にガードされる。
くそうっ! 駄目だ!
今のロキをルナや美紅に近づけば、確実に殺りにいくイメージしか沸かない……
俺が止めないと!!
どれだけ不意を打つような攻撃を入れようともロキに完全に見切られる、いや、見てからでも充分、対応されて俺は悔しさから唇を噛み締める。
俺が必死にコンマ1秒だけでも早くなれ、と願いながら振り続ける俺の剣戟を軽々と受け止めるロキの口には楽しげに口の端を上げて笑う。
「いいぞ、いいぞ、若干、刃合わせはブレてるが、体に染みついた動きはちゃんと出来てるじゃねぇーか……だがよ、まだいけるだろ? Bランクパーティとやった時のてめぇはそんなもんじゃなかったぜぇ?」
うらぁ! と俺が振り下ろしたカラスを軽々と受け止めた剣を振り抜いて軽いモノを吹き飛ばすように俺は飛ばされる。
地面を滑るようになんとか耐えた俺だが、足を止めたせいか一気に疲れがきて片膝を着いてしまう。
そんな俺の様子を見てヤレヤレと言いたげに長剣で肩を叩くロキは俺を嘲笑うようにして気絶する美紅の方を見るとゆっくりと歩き始める。
「トオルちゃんはご休憩かよ? なら、待ち時間で手始めに美紅でも血祭にするかな?」
「ま、待て! 俺はまだやれる!!」
カラスを杖にして震える足を叱咤して立ち上がろうとする俺の視界でルナが精神集中する姿があった。
ロキもそれに気付いて目を向けたと同時にルナはエアーブレットを放つ。
「いい加減にするの! ロキ、どうしてそんな酷い事をするの!」
「はぁ、ロキと呼ぶんじゃねぇ、轟さんって言ったろうが? まあ、そういう天然なところがあるお前さんは嫌いじゃねぇーがな」
放たれたエアーブレットを見つめて、一瞬、目を細めたロキは魔法を切り裂くように剣を振り抜く。
真っ二つにされた事にたいしてルナは眉を寄せる程度しか変化を見せなかった様子からそうなる予想は着いていたようだ。
だが、ルナの予想を超えたのはその後であった。
「きゃあぁぁ!!」
「ルナァ!!」
エアーブレットが切られて間もなく悲鳴を上げながら壁に叩きつけられるルナは3回の衝撃を受け、押し込まれるように壁を陥没させれ、気を失う。
何が起こった!?
一度しか振ったように見えなかったロキの剣戟で3回の衝撃だと!?
驚く俺の顔を見て理解が出来てない事に気付いたロキは、ニヤリと口の端を上げて言ってくる。
「言ったろうがぁ? 『重ね』は応用が利くってよぉ、トオル?」
「――ッ!」
確かに言っていた。
ロキにそう言われて、俺は『マッチョの集い亭』で紙を触れずに動かす練習をしていた事を思い出し、歯を食い縛る。
くそっ! そういう意味だったのか!!
ロキに課されてた訓練の意味も理解せずに大きな勘違いをして放置したままにしていた事を目の前でやってのけられ、ひたすらに悔しい。
立った状態から動きを見せない俺に呆れて再び、美紅に近寄るロキに慌てて飛びかかる。
しかし、突進力が落ちているのが俺自身でもはっきり分かるほど遅く、溜息を吐いたロキに拳で地面に叩きつけられる。
「勘違いしてねぇーか? これは訓練じゃねぇ、殺すか殺されるかの戦いだ」
倒れる俺に長剣で突き刺すように振り下ろすロキの動きを見て、目を見開くが体は咄嗟に動いてかわす動きでロキに足払いを入れる。
少し驚いたような表情を浮かべたロキが飛び上がって避けながら笑みを浮かべる。
「それでいい。ただ逃げるだけじゃぁ、戦いには勝てねぇからな」
「これだけだと思ったかよ!!」
飛び上がったロキに俺の背から生まれた炎の翼が襲いかかる。空中で自由に動けなかったロキを炎の翼で掴まえると熱さからか少し眉を寄せさせただけで余裕の笑みを崩すには至らない。
抵抗しようとする動きを見た俺は魔力を高めて炎の翼で抑えにかかる。
きつく拘束されたロキが舌打ちをするのを見て、荒い息を肩でしながらロキを見上げる。
「ろ、ロキ、今なら一緒にルナと美紅に謝ってやる。冗談だって言えよ!!」
「ちっ……まだ、そんな甘い事を考えてやがるのかよ。相変わらずの甘ちゃんだな、トオルよぉ?」
くだらない提案を聞かされた人のような目で見つめてくるロキを見て俺は悔しくて強く下唇を噛み締め過ぎて血を流す。
ロキ、頼むから性質の悪い冗談だったって言ってくれ!!
俺の思いが届け、とばかりに見つめるが見つめられたロキは嘆息して俺から目を逸らす。
「まったく……長く居過ぎたかねぇ……」
「ロキ! 俺に聞こえるように言いやがれ!!」
ボソボソと遠くを見るようにして何かを呟いたロキに言い募るが相手にしないロキは眉間に皺を寄せたと思ったら短く気を吐くと同時に炎の翼を力づくて吹き飛ばす。
こんなにあっさりと破壊されるとは思ってなかった俺が硬直した僅かの時間で詰め寄ると胴を真っ二つにするような剣戟を放たれ、慌ててカラスとアオツキを間に挟むのをかろうじて間に合わす。
「くっ!!」
「トオル、その甘さはお前だけじゃなく周りも巻き込むぜぇ?」
もう何度目か分からなくなっている俺は壁に叩きつけられながらロキに言われる。
本当にもう駄目なのか! 俺が甘すぎるのか!!
ロキは本当に俺を殺しに来てる……今の剣戟も防げたのも運が良かった……
「くっそたれ!!」
しゃがみ込みそうになった体を叱咤して俺は再び、飛び出してロキに斬りかかる。
乱撃するように斬りかかる俺の剣戟の速度が上がり始めるのを見てロキが楽しげに笑みを浮かべるのを見て、俺はどうしようもなくなる。
バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ……
この言葉だけで頭が一杯になる。
そんな中、俺の剣戟を完璧に受け止めたように見えたロキの頬に浅く切れ、薄らと血が滲む。
自分の頬の変化に気付いたロキが目だけで確認した後、空いてる手でソッと拭い、掌に付いている血を見つめて今までで一番の笑み、凶悪と言ってよい鬼気迫る笑みを浮かべる。
「くくっくっ……そうだ、それでいい。トオル、てめぇは可能性である事を俺に示し続けないといけねぇ! さあ、もっと俺に見せてくれぇ!!」
ロキの隠し続けていた、1度だけ美紅が目撃して気のせいと忘れるように努めた表情に俺は思わず怯んで後ろに逃げる。
「攻めてる時に無意味に逃げるのは下策の下策だろうがぁ!!」
激昂したロキの今日一番の剣戟を受け止めようとした俺だったが踏ん張る事も出来ずに吹き飛ばされる。
「がはぁ!」
ルナや美紅のように壁に陥没させられた俺はなんとか動こうとしたが壁から抜けるのが精一杯でその場でうつ伏せで倒れる。
「トオル、もうおネンネかよ? しゃーねぇーな、美紅と今度こそ遊ぶとするか……ん?」
止めろ、と叫ぼうと思った俺の視界に映るロキの眉を寄せて辺りを慌てて見る姿に思わず黙り込んでしまう。
辺りを確認し終えたロキが舌打ちをする。
「美紅がいねぇ……ルナもいねぇし、あのピンクのオッサンもいねぇじゃねぇか!?」
「えっ!?」
ロキの言葉を聞いた俺も半身を起こして辺りを見渡すが確かに3人の姿はなかった。
面白くなさそうにしたロキが俺に近づこうとしたが目を見開いたと同時に後ろに飛ぶ。
「3人なら我が魔法で外に出した」
「ちぃ! 死にかけで動けない擬態をしてる気か? と思ってたが、やっぱりてめぇかよ!」
離れた場所で座り込んで動きがなかったフレイが俺とロキの間に姿を現すとロキの鳩尾を振り抜いた拳で殴りたたら踏ませる。
不意打ちだったせいか、単純にフレイの力が強かったのか思わず片膝を付くロキから飛び離れて俺の下にフレイがやってくる。
「トール、大丈夫か?」
「ま、まだやれる!」
必死に立ち上がろうとするが立てない俺を見て、なにやら覚悟を決めた様子のフレイは俺が右手に持つ漆黒のカラスを右手ごと持ち上げる。
何を、と言う前にフレイは自分の血で染まる指先でカラスの刀身に見た事がない文字を高速で書き始める。
書いた端からフレイの筆跡を追うように光り始め、剣先まで書き切り、全部の文字が光るとカラスの漆黒に光が飲まれるように消える。
カラスを見つめる俺がフレイに視線を向ける。
「何をしたんだ?」
「ふっ、良い事だ。それよりトール、良く聞け。今のお前にはどうやってもあの魔神の加護を得た二代目勇者に勝つのは無理だ。今は逃げよ」
そう言うと俺に手を翳したフレイは甲高い音を喉を楽器のようにして奏で出す。
残る、と反論しようとしたがその音が凄過ぎて耳を押さえてしゃがんでしまう。
ロキも堪えたようで片耳押さえた状態でゆっくりとこちらにやってくる。
「まだトオルにゃ、用事があるんだ。逃がさねぇよ!」
不意にフレイの歌のような音楽のような叫びが収まると俺を覆う透明の球体がある事に気付く。
「なんだこれ?」
戸惑う俺を余所に宙に浮き始めた球体はここから出ていくようにルナ達が現れた出入口に飛んで行く。
「ちぃ、まだ用があるって言ってるだろうがぁ!」
「それはそちらの都合。こちらにはこちらの都合がある」
飛び出そうとしたロキに組み付く事で阻止するフレイ。
一瞬の拮抗を見たがあっさりとロキに軍配が上がったようで押され始める。
優勢に関わらず、訝しげに眉を寄せるロキがフレイに問う。
「てめぇ、本当に死にかけなのかよ? さっきまであった内側に隠してた膨大な力はどこにやった?」
「ふっ、全部、トールにくれてやったわ!」
フレイの言葉に目を点にしたロキだったが驚きから立ち直ると口の端を上げる。
「それは初代の思惑かよ?」
「さあな、我もカズヤの思惑は全部分かっておらん。これは我の意志だ」
フレイの言葉を聞いたロキは弾けるように高笑いを上げ始める。
「最高だぁ! 俺がぁ、描いてた絵より上にいってやがる!」
「ふん、お前を喜ばせるのが目的じゃないがな」
2人から発する不穏な空気を感じた俺は必死に自分を覆うようにある透明な球体を叩き割ろうと斬りつける。
「フレイ、何をしようとしてる! ロキ、止めてくれ、本当に止めてくれ!!」
内なる訴えに逆らわずにそのままの言葉を放つ。
そんな俺の言葉を聞いたフレイが穏やかな笑みを浮かべて振り返る。
「一緒に旅をしてみたかった。本当に我はトールと一緒に旅をしてみたかったのだ」
「な、何を言ってるんだ……過去形にするんじゃねぇ!!」
カラスやアオツキでなく、拳で叩き始める俺の頬に涙が流れる。
そんな俺に少し申し訳なさそうに目を伏せるフレイは小さく被り振ると再び俺を見つめる。
「トール。お前はカズヤの足跡を追うのだ。そして『エクレシアンの女王』を尋ねよ」
「俺が聞きたいのはそんな事じゃない。ここから無事にみんなで出る話だ! まるで、まるで……」
言葉に詰まる俺。
まるで、遺言みたいに言うなよ、フレイ……
少し泣きそうな表情で俺を見つめるフレイが最後の言葉を告げる。
「カズヤを恨まんでやってくれ……難しいだろうがな。あれでも我が初めて友と認めた男なのだ。頼む、トール」
「わ、分かったからフレイ、ロキを振り払って逃げろ!」
ロキとフレイの姿が出入口へと移動して見辛くなったのでうつ伏せになって視界を確保しながら叫ぶ。
俺の言葉に微笑み、嬉しそうに見つめ返す。
「ありがとう、トール。だが……」
「くっくく、トカゲ。いい仕事したから一発で楽にしてやらぁ」
フレイに掴まれていた手を振り払い、長剣を振り上げたロキは迷いも見せずフレイの首を狙って振り下ろす。
それを見た俺は何かを叫んだ気がするが何と言ったかは俺も分からない。
ただ、振り抜いたロキの長剣の血を払う動作と同時にフレイの頭が地面に転がるのが見えた。
「フレェェェイィィ!!!!!」
最後にそう言葉にしたと同時に俺の視界が真っ暗になり、記憶もそこで途切れた。
5章 了
しかし、どの攻撃もクリーンヒットどころかまともに入る事もなく、綺麗にガードされる。
くそうっ! 駄目だ!
今のロキをルナや美紅に近づけば、確実に殺りにいくイメージしか沸かない……
俺が止めないと!!
どれだけ不意を打つような攻撃を入れようともロキに完全に見切られる、いや、見てからでも充分、対応されて俺は悔しさから唇を噛み締める。
俺が必死にコンマ1秒だけでも早くなれ、と願いながら振り続ける俺の剣戟を軽々と受け止めるロキの口には楽しげに口の端を上げて笑う。
「いいぞ、いいぞ、若干、刃合わせはブレてるが、体に染みついた動きはちゃんと出来てるじゃねぇーか……だがよ、まだいけるだろ? Bランクパーティとやった時のてめぇはそんなもんじゃなかったぜぇ?」
うらぁ! と俺が振り下ろしたカラスを軽々と受け止めた剣を振り抜いて軽いモノを吹き飛ばすように俺は飛ばされる。
地面を滑るようになんとか耐えた俺だが、足を止めたせいか一気に疲れがきて片膝を着いてしまう。
そんな俺の様子を見てヤレヤレと言いたげに長剣で肩を叩くロキは俺を嘲笑うようにして気絶する美紅の方を見るとゆっくりと歩き始める。
「トオルちゃんはご休憩かよ? なら、待ち時間で手始めに美紅でも血祭にするかな?」
「ま、待て! 俺はまだやれる!!」
カラスを杖にして震える足を叱咤して立ち上がろうとする俺の視界でルナが精神集中する姿があった。
ロキもそれに気付いて目を向けたと同時にルナはエアーブレットを放つ。
「いい加減にするの! ロキ、どうしてそんな酷い事をするの!」
「はぁ、ロキと呼ぶんじゃねぇ、轟さんって言ったろうが? まあ、そういう天然なところがあるお前さんは嫌いじゃねぇーがな」
放たれたエアーブレットを見つめて、一瞬、目を細めたロキは魔法を切り裂くように剣を振り抜く。
真っ二つにされた事にたいしてルナは眉を寄せる程度しか変化を見せなかった様子からそうなる予想は着いていたようだ。
だが、ルナの予想を超えたのはその後であった。
「きゃあぁぁ!!」
「ルナァ!!」
エアーブレットが切られて間もなく悲鳴を上げながら壁に叩きつけられるルナは3回の衝撃を受け、押し込まれるように壁を陥没させれ、気を失う。
何が起こった!?
一度しか振ったように見えなかったロキの剣戟で3回の衝撃だと!?
驚く俺の顔を見て理解が出来てない事に気付いたロキは、ニヤリと口の端を上げて言ってくる。
「言ったろうがぁ? 『重ね』は応用が利くってよぉ、トオル?」
「――ッ!」
確かに言っていた。
ロキにそう言われて、俺は『マッチョの集い亭』で紙を触れずに動かす練習をしていた事を思い出し、歯を食い縛る。
くそっ! そういう意味だったのか!!
ロキに課されてた訓練の意味も理解せずに大きな勘違いをして放置したままにしていた事を目の前でやってのけられ、ひたすらに悔しい。
立った状態から動きを見せない俺に呆れて再び、美紅に近寄るロキに慌てて飛びかかる。
しかし、突進力が落ちているのが俺自身でもはっきり分かるほど遅く、溜息を吐いたロキに拳で地面に叩きつけられる。
「勘違いしてねぇーか? これは訓練じゃねぇ、殺すか殺されるかの戦いだ」
倒れる俺に長剣で突き刺すように振り下ろすロキの動きを見て、目を見開くが体は咄嗟に動いてかわす動きでロキに足払いを入れる。
少し驚いたような表情を浮かべたロキが飛び上がって避けながら笑みを浮かべる。
「それでいい。ただ逃げるだけじゃぁ、戦いには勝てねぇからな」
「これだけだと思ったかよ!!」
飛び上がったロキに俺の背から生まれた炎の翼が襲いかかる。空中で自由に動けなかったロキを炎の翼で掴まえると熱さからか少し眉を寄せさせただけで余裕の笑みを崩すには至らない。
抵抗しようとする動きを見た俺は魔力を高めて炎の翼で抑えにかかる。
きつく拘束されたロキが舌打ちをするのを見て、荒い息を肩でしながらロキを見上げる。
「ろ、ロキ、今なら一緒にルナと美紅に謝ってやる。冗談だって言えよ!!」
「ちっ……まだ、そんな甘い事を考えてやがるのかよ。相変わらずの甘ちゃんだな、トオルよぉ?」
くだらない提案を聞かされた人のような目で見つめてくるロキを見て俺は悔しくて強く下唇を噛み締め過ぎて血を流す。
ロキ、頼むから性質の悪い冗談だったって言ってくれ!!
俺の思いが届け、とばかりに見つめるが見つめられたロキは嘆息して俺から目を逸らす。
「まったく……長く居過ぎたかねぇ……」
「ロキ! 俺に聞こえるように言いやがれ!!」
ボソボソと遠くを見るようにして何かを呟いたロキに言い募るが相手にしないロキは眉間に皺を寄せたと思ったら短く気を吐くと同時に炎の翼を力づくて吹き飛ばす。
こんなにあっさりと破壊されるとは思ってなかった俺が硬直した僅かの時間で詰め寄ると胴を真っ二つにするような剣戟を放たれ、慌ててカラスとアオツキを間に挟むのをかろうじて間に合わす。
「くっ!!」
「トオル、その甘さはお前だけじゃなく周りも巻き込むぜぇ?」
もう何度目か分からなくなっている俺は壁に叩きつけられながらロキに言われる。
本当にもう駄目なのか! 俺が甘すぎるのか!!
ロキは本当に俺を殺しに来てる……今の剣戟も防げたのも運が良かった……
「くっそたれ!!」
しゃがみ込みそうになった体を叱咤して俺は再び、飛び出してロキに斬りかかる。
乱撃するように斬りかかる俺の剣戟の速度が上がり始めるのを見てロキが楽しげに笑みを浮かべるのを見て、俺はどうしようもなくなる。
バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ……
この言葉だけで頭が一杯になる。
そんな中、俺の剣戟を完璧に受け止めたように見えたロキの頬に浅く切れ、薄らと血が滲む。
自分の頬の変化に気付いたロキが目だけで確認した後、空いてる手でソッと拭い、掌に付いている血を見つめて今までで一番の笑み、凶悪と言ってよい鬼気迫る笑みを浮かべる。
「くくっくっ……そうだ、それでいい。トオル、てめぇは可能性である事を俺に示し続けないといけねぇ! さあ、もっと俺に見せてくれぇ!!」
ロキの隠し続けていた、1度だけ美紅が目撃して気のせいと忘れるように努めた表情に俺は思わず怯んで後ろに逃げる。
「攻めてる時に無意味に逃げるのは下策の下策だろうがぁ!!」
激昂したロキの今日一番の剣戟を受け止めようとした俺だったが踏ん張る事も出来ずに吹き飛ばされる。
「がはぁ!」
ルナや美紅のように壁に陥没させられた俺はなんとか動こうとしたが壁から抜けるのが精一杯でその場でうつ伏せで倒れる。
「トオル、もうおネンネかよ? しゃーねぇーな、美紅と今度こそ遊ぶとするか……ん?」
止めろ、と叫ぼうと思った俺の視界に映るロキの眉を寄せて辺りを慌てて見る姿に思わず黙り込んでしまう。
辺りを確認し終えたロキが舌打ちをする。
「美紅がいねぇ……ルナもいねぇし、あのピンクのオッサンもいねぇじゃねぇか!?」
「えっ!?」
ロキの言葉を聞いた俺も半身を起こして辺りを見渡すが確かに3人の姿はなかった。
面白くなさそうにしたロキが俺に近づこうとしたが目を見開いたと同時に後ろに飛ぶ。
「3人なら我が魔法で外に出した」
「ちぃ! 死にかけで動けない擬態をしてる気か? と思ってたが、やっぱりてめぇかよ!」
離れた場所で座り込んで動きがなかったフレイが俺とロキの間に姿を現すとロキの鳩尾を振り抜いた拳で殴りたたら踏ませる。
不意打ちだったせいか、単純にフレイの力が強かったのか思わず片膝を付くロキから飛び離れて俺の下にフレイがやってくる。
「トール、大丈夫か?」
「ま、まだやれる!」
必死に立ち上がろうとするが立てない俺を見て、なにやら覚悟を決めた様子のフレイは俺が右手に持つ漆黒のカラスを右手ごと持ち上げる。
何を、と言う前にフレイは自分の血で染まる指先でカラスの刀身に見た事がない文字を高速で書き始める。
書いた端からフレイの筆跡を追うように光り始め、剣先まで書き切り、全部の文字が光るとカラスの漆黒に光が飲まれるように消える。
カラスを見つめる俺がフレイに視線を向ける。
「何をしたんだ?」
「ふっ、良い事だ。それよりトール、良く聞け。今のお前にはどうやってもあの魔神の加護を得た二代目勇者に勝つのは無理だ。今は逃げよ」
そう言うと俺に手を翳したフレイは甲高い音を喉を楽器のようにして奏で出す。
残る、と反論しようとしたがその音が凄過ぎて耳を押さえてしゃがんでしまう。
ロキも堪えたようで片耳押さえた状態でゆっくりとこちらにやってくる。
「まだトオルにゃ、用事があるんだ。逃がさねぇよ!」
不意にフレイの歌のような音楽のような叫びが収まると俺を覆う透明の球体がある事に気付く。
「なんだこれ?」
戸惑う俺を余所に宙に浮き始めた球体はここから出ていくようにルナ達が現れた出入口に飛んで行く。
「ちぃ、まだ用があるって言ってるだろうがぁ!」
「それはそちらの都合。こちらにはこちらの都合がある」
飛び出そうとしたロキに組み付く事で阻止するフレイ。
一瞬の拮抗を見たがあっさりとロキに軍配が上がったようで押され始める。
優勢に関わらず、訝しげに眉を寄せるロキがフレイに問う。
「てめぇ、本当に死にかけなのかよ? さっきまであった内側に隠してた膨大な力はどこにやった?」
「ふっ、全部、トールにくれてやったわ!」
フレイの言葉に目を点にしたロキだったが驚きから立ち直ると口の端を上げる。
「それは初代の思惑かよ?」
「さあな、我もカズヤの思惑は全部分かっておらん。これは我の意志だ」
フレイの言葉を聞いたロキは弾けるように高笑いを上げ始める。
「最高だぁ! 俺がぁ、描いてた絵より上にいってやがる!」
「ふん、お前を喜ばせるのが目的じゃないがな」
2人から発する不穏な空気を感じた俺は必死に自分を覆うようにある透明な球体を叩き割ろうと斬りつける。
「フレイ、何をしようとしてる! ロキ、止めてくれ、本当に止めてくれ!!」
内なる訴えに逆らわずにそのままの言葉を放つ。
そんな俺の言葉を聞いたフレイが穏やかな笑みを浮かべて振り返る。
「一緒に旅をしてみたかった。本当に我はトールと一緒に旅をしてみたかったのだ」
「な、何を言ってるんだ……過去形にするんじゃねぇ!!」
カラスやアオツキでなく、拳で叩き始める俺の頬に涙が流れる。
そんな俺に少し申し訳なさそうに目を伏せるフレイは小さく被り振ると再び俺を見つめる。
「トール。お前はカズヤの足跡を追うのだ。そして『エクレシアンの女王』を尋ねよ」
「俺が聞きたいのはそんな事じゃない。ここから無事にみんなで出る話だ! まるで、まるで……」
言葉に詰まる俺。
まるで、遺言みたいに言うなよ、フレイ……
少し泣きそうな表情で俺を見つめるフレイが最後の言葉を告げる。
「カズヤを恨まんでやってくれ……難しいだろうがな。あれでも我が初めて友と認めた男なのだ。頼む、トール」
「わ、分かったからフレイ、ロキを振り払って逃げろ!」
ロキとフレイの姿が出入口へと移動して見辛くなったのでうつ伏せになって視界を確保しながら叫ぶ。
俺の言葉に微笑み、嬉しそうに見つめ返す。
「ありがとう、トール。だが……」
「くっくく、トカゲ。いい仕事したから一発で楽にしてやらぁ」
フレイに掴まれていた手を振り払い、長剣を振り上げたロキは迷いも見せずフレイの首を狙って振り下ろす。
それを見た俺は何かを叫んだ気がするが何と言ったかは俺も分からない。
ただ、振り抜いたロキの長剣の血を払う動作と同時にフレイの頭が地面に転がるのが見えた。
「フレェェェイィィ!!!!!」
最後にそう言葉にしたと同時に俺の視界が真っ暗になり、記憶もそこで途切れた。
5章 了
0
あなたにおすすめの小説
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる