高校デビューできずに異世界デビュー

バイブルさん

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5章 竜が見る夢

高校デビュー あなざー スワンの大冒険④ 後編

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 チョンチョンと腰と手に持つ触れるな注意なブツをゴブ郎は振って満足げに頷くと振り返る。

「社長、今すぐアッシが向かいます!」

 コシミノを引き上げてゴブ郎は悲鳴が聞こえた広場の方へと駆け出す。

 進行方向先の広場が視界に入ると反対側の森へと繋がる獣道へと簀巻きにされたスワンを担ぐリザード種の民が2人で両端を持って走るのが見える。

 必死に追いかけるゴブ郎とリザード種の民との距離が徐々に縮まる。しかし、森に入った事で見失いそうになるがゴブ郎は懸命に追走した。

「くぅ、アッシ、結構、走るの苦手なんっすよね……そうも言ってる場合じゃないっすね」

 自分の中にあるギアを上げてゴブ郎は更に加速してリザード種の民を追いかけた。





 徐々に距離を縮めてはいたが追い付く前に拓けた場所にゴブ郎は飛び込んだ。

 その拓けた場所の中央には3mはあろうかという壺のようなものに水を張られており、浮かぶ野草や果物のような目に入る。その周りには少し興奮気味のリザード種の民達が集まっている。

 その下では火が焚かれ、壺の中にある水が沸騰しているのが分かった。

 スワンがその壺の方に連れて行かれるのを見て、ゴブ郎が草むらで化粧直し、もとい、解放してた時に聞こえてきた会話の意味を理解する。

「あれは社長を食べる算段だったんっすね? ヤバいっす!」

 スワンがマッサージだと思っていたのは肉をほぐすための叩きの代わりで、香りづけされていると思っていたのが味付けだった事を知る。

 時間がないとばかりに必死の形相でスワンを追いかけるゴブ郎の前に待ち構えていた30はいると思われるリザード種の民達がとうせんぼをしてきた。

 各々に武器を手にしたリザード種の民達を見てゴブ郎は咆哮を上げる。

「これでもアッシはゴブリンキングだったゴブリンっす!! 命が惜しくないヤツからかかってくるっす!」

 数の有利を信じているのか、怯みもせずにゴブ郎に一斉に襲いかかる。

 手にしてる武器、鈍器から始まり、剣などもあるが同時に叩きつけられ、リザード種の民達のせいでゴブ郎の姿が埋もれる。

 一瞬の沈黙が生まれるが低い唸り声が漏れたと思うとゴブ郎を取り巻くようにしていたリザード種の民達が一斉に吹き飛ぶ。

 その中心から両手を広げて叫ぶ無傷のゴブ郎の姿があった。

「痛くも痒くもないっす!! メル姉さんの弄りや、スラ吉さんの攻撃と比べたらないのと一緒っす……」

 初めは強気な表情であったが、普段から味方であるはずの者達から受ける肉体、精神に与えられるダメージがいかに酷いか再確認してゴブ郎は男泣きを始めた。

 ゴブ郎の打たれ強さが無駄に凄い事に怯みを見せたリザード種の民達を見てゴブ郎は階段を使って壺の口に連れて行かれるスワンを追いかける。

 だが、スワンを食べる事を楽しみにしていたリザード種の民達は慌ててゴブ郎の腰にタックルしたり、道を塞ぎにかかる。

 その行動に苛立ったゴブ郎はタックルしてきたリザード種の民の頭を掴むと地面に叩きつける。

「アッシを邪魔するじゃないっす! 今のアッシはキレキッレっすよ!!」

 目の前に立ち塞がったリザード種の民の喉元を掴んで持ち上げ、宙ぶらりんになった尻尾を持って旋回を始める。

 リザード種の民を鈍器扱いにしてゴブ郎を取り巻くようにした残りのリザード種の民を薙ぎ払う。


 ゴブ郎、無双!!!!


 登場した時、以来のゴブ郎の活躍。

 本来の自分の立ち位置に戻った気がしたゴブ郎は男前な顔をして周りに立つ者がいなくなったのを確認して手にしてたリザード種の民を放り投げる。

 壺の方に目を向けると今まさに放り込まれようとしているスワンに気付き、ゴブ郎は走る。


 そう、行き場を失くした自分に手を差し出してくれた主、社長のスワンを救う為に……


「うおおおおぉぉぉでやんすぅぅ!!!」

 放り込まれそうになって涙をちょちょぎらすスワンに向かってゴブ郎は跳躍する。

 さすがは元ゴブリンキングであるゴブ郎の跳躍力は凄まじく空を切って一気にスワンに肉薄した。

 慌てたリザード種の民はスワンを壺の中に放り込もうと投げ込む。

「ぎゃあぁぁ! 助けろ、ゴブ郎!!」

 この世の終わりとばかりに叫ぶスワンを見てゴブ郎は下唇を噛み締める。

 間に合わない、とゴブ郎は思ってしまう。

 しかし、被り振ると叫んで必死に手を伸ばす。

 必死に手を伸ばすゴブ郎とハッとした顔をしたスワンが見つめ合った瞬間、時間の流れがコマ送りになる。

 幻想、まさにファンタジーであった。

 言葉を交わさないでも目と目で通じあったゴブ郎はスワンと上司と部下という垣根を越えた友情、親愛のようなものを感じ取った。

 今、この時に初めて本当の意味で2人が通じ合ったとゴブ郎は確信する。

「絶対、この手から社長を零したりしないっすぅぅぅぅ!!!!」

 まさにヒロインを救おうとするヒーローのような男前な顔をしたゴブ郎と何故か頬を朱に染めるスワン。

 スワンを後少しで掴めるというギリギリの距離に来た瞬間、ゴブ郎はフッと微笑してみせる。

「アッシが来たからには安心っす……」
「ど、どうしてそこまで……」
「アッシと社長の間には言葉は不要っす」

 そして、ゴブ郎の手がスワンに届こうとした瞬間、横手から半透明の触手が飛んでくるとスワンを巻きつけると同時に凄い勢いで引っ張られる。

「へっ?」

 状況が理解出来ずに間抜けな顔と声を洩らすゴブ郎はスワンが引っ張られた方向を見るとカトリーヌを連れたメルと触手でスワンを確保しているスラ吉の姿があった。

「おお、スラ吉、良く来てくれた! やはり、使える部下はお前だけだな、わっはははは!!」

 触手で簀巻きから解放されたスワンがスラ吉の背中をバシバシと叩くのを目を見開いて見つめるゴブ郎が叫ぶ。

「なんで、そうなるのっ!!」

 そして、勢いが止まったゴブ郎は万有引力に従って壺の中へとダイブした。





 ゴブ郎が大火傷をするという悲しい結果だけが残り、スワンはリザード種の民達を社員としてではなく、子会社の従業員として薄給で雇う事で今回の事はなかった事にする事にしたようだ。

 ちなみに壺に満たされていたスープにするはずだったものは、その場で引っ繰り返されて捨てられた。

 リザード種の民達が言うにはゴブ郎が浸かったせいで臭かったらしい。

 勿論、普段から風呂や体を洗う事をゴブリンとしては珍しい習慣があるゴブ郎が文句を言おうとしたが臭い匂いを伝えられたゴブ郎は思わず黙らされる。

 追いかける直前にしていた行動と足にかかったアレを思い出して、まさか、それだけで? とは思ったが追及するのを止めた。

 そして、今は、リザード種の民達から調達した筏に乗って川を下っている所である。

 舵取りをしているのは大火傷で包帯でぐるぐる巻きにされているゴブ郎であった。

「あの~アッシ、これでも重体なんっすけど? スラ吉さん、メル姉さん、代わってくれません?」

 呼び掛けるが一切反応を示さない2人に涙を流すゴブ郎。

 言ってはみたが代わって貰えるとは思っていなかったゴブ郎は諦めの溜息を洩らして渋々、舵取りをする視線の先では無駄に胸を張ったスワンが沈みゆく太陽を見つめて笑う。

「わーはっはは! 次はどんな商談が待ってるか……楽しみだな、そうだろう、ゴブ郎?」
「……そうっすね」

 適当な相槌のような返事でも満足そう笑うスワンに毒気を抜けれて肩を竦めるとゴブ郎は次の目的を夢想しつつ、スワンが見つめる太陽を同じように見つめた。
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