高校デビューできずに異世界デビュー

バイブルさん

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2章 2度目の再会はアローラで

34話 以後、お見知りおきを!

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「つまり、魔神は外に放たれた後? おっさんが言ってた女の子は?」
「魔神の気配がない以上、もうここにはいないの。結界はまだ機能してるから、女の子は中で無事なはず」

 そこまで答えたルナが急に黙り込む。

 空間の亀裂を睨むように見つめながら嫌な汗を掻き始めた。

「徹、中に女の子以外にも何かがいるの。しかも相手も気付いていて、こっちに来いと挑発してきてる……逃げる事も不可能ぽいの」

 そう呟くルナに

「今すぐ逃げて、どこまでなら逃げれそうだ?」

 と問うと難しい顔をして答えてくる。

「頑張って、山を降りれるかどうか……」


 これは、ガチのヤツだな。

 せめて、街にまで逃げれたら……駄目だな、勝手した俺がクラウドの人に迷惑を擦り付けるような真似はできない。


 俺は精一杯不敵な笑みに見えるように意識してルナに笑いかける。

「せっかくのご招待だ。断ったら失礼になる。行こうか、ルナ」

 迷いも感じさせない足取りで、空間の亀裂を目指して歩き始める俺をルナが慌てて肩を掴んで止めに来る。

「無理なの! 相手も自分の勝ちを信じてるから挑発してきてるの。私達では届かない……」
「関係ないな」

 サラッとそういう俺を凝視して固まるルナ。

 そんなルナに笑いかける俺は、

「だってよ、逃げるのは無理なんだろ? だったら前に進んで道を切り開くしかねぇーだろ? 死中に活あり、俺の好きな言葉の1つだ」

 ニッと笑う俺は、空間の亀裂に片手を突っ込みながら言う。

「先のない逃げは駄目だ。どっちも選べない停滞はもっとだ。残る道は?」
「前に進む……なの」

 絞り出すように言うルナに俺は、小馬鹿にするように言う。

「えっ? 空を飛んで逃げるという選択肢ないの?」

 ルナは一瞬ポカンとした顔を見せるが、すぐに顔を真っ赤にして頬を膨らませる。

「徹! ふざけ過ぎなの!」
「そうそう、暗い顔してるより何倍もいいぞ? 生還率にも影響すると偉い人が言ってたからな」

 俺が胸を張って言うと、ルナに誰と問われて、「俺の爺ちゃん」と答えると肩を竦められる。

「徹より信用できそうなの」
「おい、それはどういう意味だよ!」

 噛みつく俺に、アッカンベーをするルナは俺より先に空間の亀裂を越えていく。


 さっきまで、あれほど尻込みしてたのに、あっさりと入ったな……女の子は強いと酒を飲んでない時も口を酸っぱく言ってた爺ちゃんの言う通りかもな。


 亀裂の向こうから、ルナが俺を呼ぶ声に肩を竦めて、俺も遅れて空間の亀裂を抜けていった。





 中に入るとだだっ広い草原に出てきた。

 俺が抜けた後、後ろの空間の亀裂が修復されるように閉じるのを見て、嫌な予感が突き抜けるが開き直るように笑いながらルナに問う。

「これは、今夜は帰さないというラブコールか? 巨乳の美人のお姉さんが相手なら喜んで、いや、俺が帰さないけどな?」

 馬鹿を言う俺に嘆息したルナが俺の頭を叩く。

「馬鹿言ってる場合じゃないの。塞いだヤツを倒さない限り出る事はできないの!」
「まあ、逃げる気はなかったけど、選択肢の1つが潰されたのは面白くないな」

 上手く隙を付けて、女の子を連れ出す事ができれば、空間を渡った後、ルナに障壁を張って貰って閉じ込める手も一応考えていた。

 ルナができたかは分からないが、結界の割れを修復できたらな~とは思っていたからであった。

 一応、ルナに空間をこじ開けれるかと聞いたが、できるけど時間がかかると言われ、先程の手は死んだ。

 ヤレヤレと肩を竦めて辺りを見渡すと少し離れた先にある森の中央に光の柱がそびえ立ってるのが見える。

「あの光の下に結界の触媒にされた女の子がいるはずなの」

 俺が光の柱を見つめているのに気付いたルナが説明してくれた。

「一応聞くが、女の子は無事なんだよな?」
「生きている限り、あの光の柱は存在するの」

 つまり死んだら消えるという事なのだろう。

 ルナの見解では、こちらに挑発していたのは、まず間違いなく魔神の関係者。

 このままチンタラしていたら女の子の命の保証はどこにもない。というより、放置する事はないだろう。
 何せ、魔神を封印できる唯一の存在なのだから。

 ルナは光の柱の方向を指差しながら言ってくる。

「挑発してるヤツは、私達と光の柱を挟むようにしてジッとしてるの。きっと……」

 ルナは続きを口にしなかったが、何を言いたかったかは、はっきりと伝わった。

 王者を気取ってる馬鹿が挑発しながら待ち構えているようだ。


 良かった。そんな馬鹿なら、希望を見出す事はできるが、それでもルナが、はっきりと勝てないと思ってる相手だ。

 気休め程度にしかならないだろうが、0%と1%には大きな開きがある。

 そう、可能か不可能かだ。

 やってやる!

 1%あれば上等だ!


 そう思った俺はルナに頷いて見せると光の柱を目指して歩き始めた。


 しばらく歩いて、森の木々が1本1本見分けが付くぐらいに近づいた頃、腰の後ろで手を組んだタキシード姿のカール髭がトレードマークの40歳程の男がいた。

 俺達の姿を見とめるニタァとイヤラシイ笑みを浮かべる。

 せっかくの二枚目の顔だが台無しであった。

 近づきながら、俺はルナに軽口を叩く。

「ダンさんのほうが100倍男前だな?」
「止めるの、比べる事がダンさんに失礼なの」

 俺の軽口に緊張から引き攣りながらも付き合ってくれたルナに笑いかける。

 後、10歩という辺りで足を止めて、ルナは拳を握り締め、俺はショートソードに手を添える。

 こちらは臨戦態勢なのに、相手は一向に構える様子を見せずに慇懃無礼に綺麗に腰を折ってお辞儀すると左掌を胸に当てながら挨拶をしてくる。

「初めまして、サブレと申します。もうお気付きかもしれませんが、魔神の加護を受けし者です」

 そう言うのを聞いた俺は振り返ってルナを見つめるがルナも驚いている。

 サブレは、ルナの驚いてる顔を見て、首を傾げながら片眼鏡を弄る。

「おや? おかしいですね。そこの只の人の少年が私の事が分からなくても、貴方には分かったはずですよ? 女神、ルナマリア?」


 女神?

 ルナが女神だというのか?


 確かに、初めて会った場所からして普通ではなかったが、まさかルナが女神だとは思っていなかった。

 ルナは酷く動揺した様子を見せて、首を横に振る。

 その様子を見つめていたサブレが、肩を振わせ始めると高笑いをし出す。

「あっははは! そう言う事ですか。まったく私とした事が早合点をしたようです。貴方は、『まだ』だったんですね。魔神の脅威に成りえないのに、こんな所で無為に時間を過ごしてしまいました」

 自嘲するように片手で目を覆って、高笑いするサブレの笑い声を恐れるようにして耳を塞いで悲鳴を上げるルナ。

「私を小馬鹿にした罪、死を持って償いなさいっ!」

 凶悪な笑みを浮かべたサブレが凄い勢いでルナに襲いかかる。

 咄嗟に体が動いて、真横に飛び蹴りを入れるとタイミング良くサブレの横っ面を蹴り飛ばす。

 たたら踏ませるだけであったが、ルナへの攻撃を阻止できて、ふぅ、と息を吐き出すと同時に体中から汗が噴き出す。

「おやおや、只の少年だと思ってましたが不意打ちとはいえ、良く私に一撃を入れれました。褒めてあげますよ?」

 顔に付いた土をハンカチを取り出して拭いながら、笑みを浮かべて見つめられた俺は猛禽類に狙われる小動物の気持ちが分かった気がした。

 俺は、どうも、と言葉を捻り出すようにして言うとルナに近寄り、声をかけるが恐慌状態に陥ったルナは叫び続ける。

 俺は耳を塞いでいるルナの手首を掴んで力一杯叫ぶ。

「聞けっ! お前が女神だとかなんだか知らんが、そんな敵が言う言葉なんて今は関係ない。はっきりしてる事は1つだろ! 俺はお前の相棒だ! お前は俺の何だ!」

 俺の叫び声に驚いた顔をするルナに、もう一度、「お前は何だ!」と問いかけると、たどたどしく答える。

「わ、私は、徹の相棒」
「そうだ! 今はそれだけでいい!」

 掴んでいた手首を引っ張りながら、立て、と言うと頷いて立ち上がる。

「いけるか、ルナ?」
「うん、ごめ……有難う、徹!」

 身構えて正面を見ると余裕を見せて、腰の後ろで手を組んで待っていたサブレが話しかけてくる。

「もうお話は済みましたか?」
「終わるまで待っててくれるなんて、えらく余裕だな?」

 そう睨む俺に言われたサブレは、楽しそうにクッククと笑う。

「貴方達程度の、相手など目を瞑っていても、敵にすら成り得ませんよ」
「Easy come, easy go」

 そう呟いた俺を訝しげに見つめるサブレは聞いてくる。

「何ですか? 呪文かお呪いですかな?」

 小馬鹿にした風に言ってくるが、自分が知らない言葉を言われただけで、顔が強張るサブレ見て、俺は希望を見出す。


 コイツ、アドリブが効かないタイプだ。


 精神的に脆い所があるタイプだと見抜いた俺は、1つ目の打開策を見つける。

「なあに、英語という言葉で『得やすいものは失い易い』という意味さ」
「それはどういう意味合いで?」

 そう言ってくるサブレに「自分で考えろ」と言ってやると眉間に血管を浮かび上がらせる。


 おもれぇ、簡単に激昂してきやがる!


 ショートソードを抜き放ち、突き付けると頬を引き攣らせながら聞いてくる。

「君は面白い子ですね。名前を聞いて覚えておいてあげますよ。こんな生意気な小僧がいたとね?」
「俺の名はトール、以後、お見知りおき、だっ!」

 俺は覚悟を決めて、自分を高揚させるように腹の底からの声で啖呵を切った。
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