高校デビューできずに異世界デビュー

バイブルさん

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3章 頑張る冒険者家業

56話 徹の可能性論

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「「春奈って誰?」」

 異口同音するルナと美紅がお互いの顔を見合わせるが答えに行き着くだけのヒントすらない2人は分かるはずもなかった。

 分からない2人は心配するフリをしながら、項垂れている俺の揺するルナは「ハルナって誰? 私は会った事あるの?」とストレートに聞き、美紅は、「何を落ち込まれてるのですか? 話せば楽になれますよ?」とルナと違ってカモフラージュを使う。


 ああ、いいコンビだ。

 欲望に素直な反応するルナをエサに美紅が心配してるように見せかける。普通のヤツなら騙されてただろうが、徹さん、騙されない!

 この事実が知られたら、きっと俺の手元には返ってこない!

 だから、守る!

 俺の初めての彼女エロホン


 俺は毅然と涙を流しながら立ち上がる。そして、腰にある両刀を手にするとインプを睨みつける。

「返して貰おうか。それは俺の命は勿論、世界より大事なモノだ!」
「嘘だって分かってるからね? ちゃんと魔法で命よりは価値がない事は調べているから」

 いや、ないない、と言いたげな素振りで被り振るインプを口をへの字にして睨む。


 彼女エロホンが世界より価値が上っておかしい?

 シャラップ!

 俺は叫ぶ。

 『異世界の神殿の奥で彼女エロホンが大事と叫ぶ』このタイトルで俺は純文学がきっと書けそうだ、と世迷言が言える!

 ん? そんなタイトルじゃ校正さんが大変だって?

 大丈夫、きっと読んだ人が「ナシよ?」と手で×して、そこに行きつかないから!


 言葉で取り返せないと判断した俺がインプに斬りかかる。

「返して貰う!」
「だから、駄目だって? 契約した後なんだから」

 インプが天井に逃げるのを追いかけるように腕を伸ばしてショートソードをブンブンと振り回す、癇癪を起こして泣いている少年が俺に似てるという噂があったかもしれない。

 肩で息する俺の頭を優しく撫でる。

「で、ハルナって誰なの?」
「ムキィ――! お前はブレないなっ!!」

 野生化する俺はルナの頬を掴もうとするが、目の端で考え込むように顎に手を添える美紅の存在に危険信号を感じる。


 あか――ん、なんか美紅が策を練り始めてる気がするぅ!!

 これって伝説のアレと一緒ちゃうの!?

 テスト勉強するから、と家にやってきた女友達が「お茶ぐらい出せ」と部屋の主である俺を追い出そうとしてソワソワするアレちゃいますの!?

 まずは定番のベッドの下からとか、というやつ?


 最悪のシナリオに震える俺を放って、美紅はインプに話しかける。

「その契約は相手の持ち物を貴方の物にする事ですか? それとも奪う事に意味があるのですか?」
「ん? 奪う事に意味があるよ。だって、他の人にとって大事な物を集めても意味ないからね?」

 インプの答えに微笑みを浮かべる美紅に本日最大の警報が鳴る。

 美紅を止めようと飛び出そうとする俺をルナが羽交い締めにしてくる。


 うぉぉ! このお腹減った魔人の癖に今日は察しが良過ぎだ!!


 1つ頷いて見せた美紅がインプに交渉する。

「では、トオル君に返しませんので、それを見せてくれませんか?」
「見るぐらいならいいよ?」
「インプ頑張れぇ! 美紅に渡しちゃ、らめぇぇ!!」

 インプから美紅に手渡される彼女エロホンをルナに羽交い締めにされながら見つめる。

 そんな俺をルナに後方に投げて飛ばされ、俺は空中で一回転して着地すると美紅を目指して飛び出す。

「シールドなの!」

 その言葉と同時に見えない壁にぶち当たる俺。

 道を塞がれた俺に満足したルナがスキップするような軽い足取りで丁寧に紙袋を開封する美紅の下へと向かうのをおもちゃ売り場のショーウィンドゥに張り付く子供のように見つめる。

「美紅! ルナ! 俺もまだ見てないんだ! 頼む、止めてくれ!!」

 俺の叫びに一瞬の躊躇を見せる美紅であったが好奇心が勝ったようでルナに「早く見るの」と急かされただけで飲み込んだようだ。

 紙袋から取り出される彼女エロホンの表紙を見た2人の表情から感情が抜け落ちる。


 これって、渋々、お茶を持ってやってきて部屋に戻ったらコレクションを発見されて熟読しながら、「この趣味はないわぁ~」と批評されてるパターンちゃうの!

 誰かぁ! 助けてぇ!!


 感情が削げ落ちた美紅が彼女エロホン衣服ビニールを乱暴に剥ぎ取る。

 そして、中を開いてルナと共に覗き込む。

 2人は初めに見たページだけで、そっと閉じると死んだ目で俺を見つめてくる。


 あれぇ? これって噂のレイプ目って言うヤツ?


 凄く俺のカンがヤバいと訴えるのを否定したくて馬鹿な事を考える俺。

「これは汚物です。焼却処分します」
「賛成なの」
「アカン、本当に俺、まだ見てないんだぁ!!」

 淡々と語る2人の本気度に震える俺はルナが作ったシールドを必死に叩く俺に美紅が言う。

「それは良かった。尚更、すぐに焼却処分します」
「ぎゃぁぁ!! お慈悲をぉ!!」

 俺の言葉を無視した美紅が彼女エロホンをルナに手渡すと詠唱を始める。


 あれは、インフェルノ!?

 神殿に来る途中の雑談で「今、練習中の一番強力な魔法なんです」と語ってたヤツですやん!

 どれだけ、本気だ、美紅!!


 必死に拳でシールドを叩く俺を余所に詠唱が済んだ美紅がルナに頷いてみせるのを見た俺は渾身の拳をシールドに叩きつける。

 ガラスが割れたような音と共に彼女エロホンを投げるルナ。

 飛び出す俺が必死に手を伸ばしながら走るのを横目に美紅が手を翳した所に凶悪な炎が生まれる。


 俺は彼女エロホンを守る!!


 ただ、それだけを思い、彼女エロホンに手を伸ばす俺の目の前で残酷にも美紅のインフェルノが直撃して彼女エロホンが塵も残さずに燃やされる。

 彼女エロホンがいた場所を掻き抱くようにする俺を見つめるインプが憐れみを込めて呟く。

「まあ、これで完全に履行扱いにしてあげられるけど、君達、オニだね?」

 インプに言われた2人は目を逸らす。

 エグエグと泣く俺にさすがに罪悪感が隠しきれない2人はお互い顔を見合わせる。

「徹、元気出すの! でも、さすがにアレは駄目だったと思うの」
「そうです、アレはトオル君の教育上よろしくありません!」
「お前等は俺の母さんかっ!!」

 行き場を失っていた俺の感情が爆発して飛びかかろうとした俺は自分で理解する前に明後日の方向に飛んで逃げる。

 すると俺がいた場所に両刀が刺さる場所から伸びる半透明の力の奔流が触手のようになり叩きつける。

「あぶなっ!」
「僕を無視して遊んでるから説明する前に起こってしまったねぇ?」

 そう言うインプがルナ達を連れてこっちに来い、と指示してくる事に首を傾げながらルナ達を見ると2人が頭を抱えてしゃがみ込んでいるのが見える。

「いやぁ、何、分からないの、怖い!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 どういう状況か分からないが、様子のおかしい2人を抱えると襲いかかる力の奔流を避けながらインプの下に向かうと見えない壁があるように力の奔流だけが弾かれる。

 ホッと胸を撫で下ろして2人を降ろすが、相も変わらず、2人は同じような事を呟き続ける。


 2人に何が起きてる!?


 俺は事情を知ってそうなインプを睨みつけるようにして詰問する。

「どういう事だ!?」
「本来なら契約が成立前に説明する流れなんだけど、お兄さん達が自由過ぎて順番が目茶苦茶だよ」

 困った、困ったと言いながら肩を竦めるインプの喉を握るように掴む俺が凄身をきかせて聞く。

「御託はいい! 早く説明するか、ルナ達を元に戻せ!」
「わ、分かったから首を締めるのは止めてぇ……」

 本当に苦しいらしいインプが弱々しく言うのを聞いて、焦ってる自分を認識して舌打ちすると手を離す。

 咳き込むインプを睨む俺に怖い怖いと首を竦めると話し始める。

「お兄さんとの契約が成立したから、あの剣に触れれるようになったのさ。契約前はあの剣の周りは一種の結界のようなモノに囲われてた。つまり、今は結界がなくなって抜ける状態になった訳」
「それは分かったが、ルナ達がこうなった理由は?」

 焦る俺に、「今、説明するよ」と忙しい俺に困った顔をするインプ。

「その結界は剣に触れる者から守るモノと同時にオルデールを閉じ込めるモノでもあるんだ。とは言っても完全解除されてる訳じゃないけど、その漏れ出す力に反応して2人の恐怖を刺激してるのさ?」
「なら、俺はどうして平気なんだ?」

 そう質問する俺にイヤラシイ笑みを浮かべるインプが言ってくる。

「これがさっきの大事な物を奪う事の意味になってくる。大怪我を負ってる時に擦り傷が痛いと感じるかい?」

 言葉の意味を理解した俺は嫌そうな顔を向けるがインプは涼しい顔をしてみせる。


 だいたい分かってきたが、後はルナ達を救う方法だ!


「で、ルナ達を救う方法は? アイツを倒せばいいのか?」
「まあ、それでも可能だけど不可能だね。お兄さんが先にオルデールを倒す力はないよ。だから、先に剣を抜いて、アレをモノにできたら……」

 俺は迷いもなく頷く。

「それしかないならする。御託を叩いてる暇はなさそうだ!」

 横にいるルナと美紅がどんどん疲弊していく様子に眉を寄せる。

 そんな俺を見つめるインプが言ってくる。

「いいのかい? あの剣を抜く意味は説明したよね? 初代勇者ですら失敗した。そのうえ、オルデールが邪魔してくるよ?」
「やるさ。俺が初代勇者と違う以上、可能性はゼロじゃないだろう?」

 俺の答えに目を丸くするインプ。


 何を驚く事がある? 俺が初代勇者と違うという事は、まだ失敗してない事を意味してる。

 ただ、それだけの事。


 驚きから回復したインプは笑い出し、それを抑えながら話を続けてくる。

「あっはは! お兄さんは本当に面白いね? 本当はこれは契約内容にない事だけど、剣の下までオルデールの妨害を防ぐ道を作って上げるよ。でもそこからはお兄さん次第だよ?」
「サンキュー、インプ」

 サンキュー? と首を傾げるインプだが、どうでもいいかと笑みを浮かべると剣がある方向を指差す。

「ここを真っ直ぐに剣までの道を作ったよ。頑張ってね、お兄さん?」

 俺はインプにサムズアップだけで応えるとインプが指差す方向にある剣を目指して駆け出した。
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