高校デビューできずに異世界デビュー

バイブルさん

文字の大きさ
88 / 124
5章 竜が見る夢

82話 油断出来ないオッチャンが沢山います

しおりを挟む
 冒険者ギルドから出た俺はプリプリと怒りながら依頼書の写しを眺めつつ、メインストリートをルナと美紅に挟まれるようにして歩いていた。

 そんな俺を苦笑しながら見つめる美紅が腫れモノに触れるように話しかける。

「ま、まあ、仕方がないじゃないですか? 一応、悪いと思ってお食事を御馳走して頂いてたんですし?」

 美紅に「お酒の席の事ですから」と言われるが……


 そりゃね? ダンさんの酒癖の悪さはペイさんから愚痴を聞かされて知ってるよ? でも青少年の心の大きな傷になるような事はどうかと思うんだ?

 普段はダンディな紳士というイメージがあるダンさんだが、酒が入るとお調子者にクラスチェンジする片鱗は『マッチョの集い亭』で食事の時、少し酒が入るだけでタガが外れかけてるのを見て知ってたよ?

 そんな二つ名を撒かれるような事される程、俺が何をした!?


 納得いきません、とばかりにプイっと美紅から顔を背ける先では、どうでも良さそうにしてるルナが通りの屋台に目を惹かれていた。

 そんなルナがこちらを見ずに俺の袖を引っ張りながら言ってくる。

「ねっ、ねっ、徹! あの串焼きを買ってくれたら徹の味方になれる気がするの!」
「金で繋がる関係も悲しいが、串焼きで買える信頼も悲し過ぎるな!? 当然、買わないけどな」

 身も蓋もなく言う俺を驚愕な表情で見つめるルナに冷たい視線を送る。

 俺を鬼か悪魔の類なのかと疑う視線を向けてくるルナを俺は本気で殴りたい衝動と戦いながら言う。

「昨日、リンゴ買ってくれたら1週間は強請らないと約束して買ったばかりだろ!」
「そんな昔の事は忘れたの!!」

 キリッとした表情で間を置かずに迷いなく言い切る男前なルナ。


 こ、この子、デキる!!


 一瞬、感心しかけたが我に返る俺は美紅が、しょうがないですね、とばかりに眉を寄せて財布を取り出そうとしてるのを止める。

「駄目だ、美紅! ルナを甘やかしたら駄目だと俺達の意思は統一されたはずだ!」
「はっ! そうでした……余りにルナさんが可愛い感じだったので、つい……」

 本当に申し訳なさそうにする美紅に「分かればいいんだ」と優しく肩に手を置く。

 ニャァ! と怒れるルナが俺に噛みつくように言ってくる。

「徹、何をするの! もうちょっとで美紅に買って貰えそうだったのに!」
「お小遣いを貰った日に全部一気使いするようなヤツに払う金などない! 俺は知ってるんだからな!」

 俺の言葉にギョッとしたルナが「な、何の事なの!?」とシラを着るので、その可愛らしい鼻を抓んで引っ張る。

「指抜きグローブのデザイナーが作ったという不細工なウサギの人形をザックさんに取り寄せて貰って、お小遣いがもうないと知ってるんだからな?」
「ぶ、不細工じゃないの! ウチの子のウサミンは世界一可愛い子なの!」

 本人は買った事もその不細工なウサギの人形、もとい、ウサミンを秘密裏に行ったつもりらしいが、寝る時に抱っこしているので隠せてる訳がなかった。

 美紅もあの人形を「その不細工な感じが可愛い」と評価してる辺り、男と女の感性が交わる事は相当難しいのだろうと思わされたりした。

 そして、どうしてアレ、ウサミンをルナがザックさんから買ったか知っているかというと、どうやら、ルナのお小遣いでは底値の1割にもならないほどの人気商品(正気を疑うが本当に一部のマニア垂涎の一品らしい)だったらしく、俺はザックさんに呼び出された。

「という訳で、カンパしろや、トール?」
「な、なんでルナの為に俺がお小遣いを放出せんとアカンの!?」

 ルナを溺愛する娘のようにするザックさん一家(ヤ○ザとは言ってない)に囲まれている俺。

 どうやらルナには金額が足りてない事を言ってないらしく、その補填を自分達で呑もうと考えもあったらしいが商売人としての矜持が邪魔したらしい。

 そのせめぎ合いで俺から少しでも補填しようという考えに至ったのは説明されなくても俺でも分かった。

 これは逃げれないと悟った俺は困ったという顔をしながら頭を掻く。

「ああ、俺も最近、出費が多くて……これだけしか?」

 そう言って『てへぺろ』しながら差し出す銀貨1枚。

 銀貨を見つめるザックさんは目が笑ってない笑みを浮かべながら言ってくる。

「トール、ジャンプしてみろや?」
「……」

 異世界の路地裏で悪漢(俺視点)に囲まれた真ん中でピョンピョンとジャンプさせられる少年の姿があった。


 俺ですけどねっ!!

 異世界で元の世界でも伝説と化してる「音してるじゃねぇーか?」というネタとしか残ってないと思われる事をさせられると思ってなかったよっ!!


 無駄な抵抗をせずに払えばいいものを、と鼻で笑うザックさんは俺から撒き上げた小銭を片手でお手玉しながら去るのを俺は口をへの字にして見送った。


 泣いてないからなっ!


 もうちょっとお金を部屋に置いてくれば良かったと後悔した事を思い出しつつ、遠い目をする俺は心を元の場所に復帰させる。

「絶対に串焼きは買わないからな!」
「もうっ! 徹のケチンボ!!」

 とプイッと顔を背けるルナを見つめる俺は思う。


 ケチンボってルナ、お前の年はいくつなんだ?


 分かる俺もどうかしてるかもしれないと思っていると美紅が俺が持つ依頼書の写しを覗き見て話しかけてくる。

「しかし、この依頼書だけでは何も分かりませんよね」
「ん? ああ、向かう場所と『荷物を預かりに来ました』という符丁になる言葉以外分からんしな。言う相手も口頭でシーナさんに酒場の店主と聞かされてなかったら、どこで使うかも分からんし……」

 Bランクに飛び級したのを他の冒険者ギルドに納得させる為の実績作りだと言われて受けさせられた依頼であった。

 向かう時間もシーナさんに陽が沈んでから、と口頭で伝えられただけで依頼書には明記されてない。

「依頼内容も分からない、依頼主も分からない……正直、シーナさんが手渡してきたモノじゃなかったら即答で断る依頼だよな」
「もうこれだけで、依頼も大変でしょうけど、依頼主も厄介な相手なのだろうな、と分かってしまいますね……他の冒険者ギルドを納得させるに充分な依頼でしょうから仕方がないかもしれませんが……」

 そう言って暗くなりかける美紅に極力明るく俺は話しかける。

「まあ、夜になってからの話だし、今は初代勇者に詳しい人に会いに行こう。前々から気になってた事を聞かせてくれるだろうし、な?」

 まだ昼にもなってない時間で時間が余っている事もあり、触りだけでも話を聞けたり、コンタクトを取って次、会う約束をするのもいい、と思った俺達はミランダに教えられた貴族でもあり、学者でもある人の屋敷を目指して歩いていた。

 ミランダに聞かされた言葉を思い出す俺は意地悪な笑みを浮かべる。

「ミランダ曰く、変な人らしいぞ? きっと真正の変態だな!」

 マッチョなオカマのミランダに変と言わせるのだから逆に真っ当な可能性もあるかも、と思いつつ笑う俺は酷い子。

「ミランダさんに言って叱って貰いますよ?」

 俺の考えを見抜いたらしい美紅に脅されて立場逆転させられ、悪戯っ子のように笑う美紅に平謝りしながら俺達は件の貴族の屋敷へと向かおうとするが着いてこない人物に気付き、俺と美紅は踵を返す。

「串焼き、欲しかったの……」

 指を咥えながら呟くルナの襟首を掴んで引っ張りながら俺は美紅に必死に交渉を続けつつ、再び、貴族の屋敷へと向かった。





 ミランダに手渡された地図を頼りにやってくると大き過ぎず、小さ過ぎずといった屋敷に到着した。

 入口の門は開放されていたので、おそるおそる入ると中央には小さい噴水にその周辺には綺麗に花が植えられていた。

 まるで少女漫画に出てきそうな乙女チックな作りだが、全体的に趣味の良い屋敷であった。

 男である俺には理解しがたいが、ルナは素直に綺麗と思っているようだが、特に美紅が嬉しそうに花を眺めていた。

「とても趣味の良い方なんですね! きっと良い人ですよ、トオル君!」
「だといいんだけどな?」

 俺は嫌な想像が付き纏っていた。

 ミランダの知り合いらしい人がどんな人だろうと考えて、この庭を見た瞬間、『マッチョなプリマドンナ』を連想してしまったのである。


 生き地獄だ……


 まさか、そんな出落ちが待ってるはずがない、と自分に言い聞かせて俺は前に進み、玄関を目指す。

 玄関に着き、生唾を飲み込んでドアノッカーを叩く。

 しばらくするとゆっくりと開くドアに息を呑むがそこから出てきた人を見た瞬間、男前な顔で笑みを浮かべる。

「はい、どちら様でしょうか?」
「私、ミランダの知人の冒険者のトールと申します」

 俺は出てきた年上の冷たい感じはさせるが美人メイドに揺るぎのない鉄壁の笑みで微笑む。

 少し、首を傾げるようにする美人メイドは「マッチョの集い亭の?」と言ってくるのに爽やかに頷く俺。

 あまり笑わない人なのか、「少々、お待ちください」と言ってこの場を離れる美人メイドを見送る俺は鉄壁の笑みで見送る。

 どれくらい鉄壁かというと、

「ぶぅ!」
「もうっ!」

 両方からお尻を抓られても決して表情で出さないぐらいに鉄壁であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...