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廃墟に化物は憑物だ

はーち

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「へぇ、君凄いね。食人鬼にそこまで齧られて自我を保ってる人間なんて、初めて見たよ」

振り返った先に漆黒の巫女装束を身に纏う男が、俺に向かって歩いて来る。恐らく二十代中頃。肩に付くか付かないかくらいの綺麗な髪。紫に近い黒の瞳。
手には赤い水晶が先端に付いた、身の丈程ある杖。
そっか。祓い師か。よかった。

「本当ならそこで火達磨になってる奴みたいに焼き尽くして祓うんだけど、君に選択させてあげる。死にたい?生きたい?」

一瞬、何を言われてるのか分からなかった。祓い師は化物になりかかってる奴に、決して甘くないと思ってたのに。
化物になって自我を失くして人を喰べるくらいなら、殺される方がいいと思ってたのに。そんなこと言われたら、決意が揺らぐじゃんかぁ……。

「泣かなくても。泣くってことは、生きたいってことでいいのかな?」

「そんなの、生きたいに決まってるだろ……!」

「そ。じゃあ、君を助けてあげる。その前に…灼け!」

いつの間にか祓い師の足に掴もうとしてた化物の身体が、更に大きな炎に包まれる。
はっとして針山を見ると、針山も大きな炎に包まれて絶叫を上げながらのたうち回ってる。

「お、おい!やめてくれ!こいつ俺の友達なんだよ!俺よりこいつを助けてくれよ!」

祓い師の腕を掴む。針山を一瞥した後、切なそうに俺を。

「悪いけど、この子を助けることは出来ないよ。君みたいに自我を保ったままなら、なんとか出来たけど。ごめんよ。……灼き尽くせ!」

一際大きな炎が爆発して天井まで燃え上がる。炎は何事もなかったかのように消えて、何事もなかったかのように、そこには何もない。

「そ……んな」

俺の、俺のせいだ。止められたはずなのに。もっと早くに化物の存在に気づいてれば。

「君のせいじゃないよ。あいつを仕留め損ねた僕のせい。自分を責めないでいい。……あれま、来ちゃ駄目って言ったのになぁ。君の友達も猫又の式も、いい子達だねぇ」

「……え?」

祐司達と雨がここまで来る?
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