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4話『愛故に』
しおりを挟む翌日
『ノア=キヴォトス――冒険者』
そう告げられた昨日の出来事に、未だに興奮が冷めないノアはさっそく旅の支度をしていた。
「ウトゥさん。僕は冒険者になることが出来ました」
ウトゥさんと過ごした家。ここにはウトゥさんとの思い出が沢山詰まっている。思い出すだけで涙が零れそうだった。
旅支度を終えて、持っていくもの以外は全て売り払ってしまう。これは、ウトゥさんの遺言だ。
『ノアよ、もし冒険者になった時に儂が死んでしまっていたら、この家の物は出るときに売ってしまいなさい』
今思えば、ウトゥさんは自分の寿命が近い事を自覚していたのかもしれない。だから、ウトゥさんは冗談めかして言ったのかもしれない
『その時は儂をノアの旅に連れて行っておくれ』ニコッと笑ったウトゥさんの顔は世界で一番に優しくてカッコよかった。
「――ノアくんもう行っちゃうの?」
「ん?あ、エムザラか、うん今日旅に出るよ」
幼馴染のエムザラはこの後、ギルド職員の試験を受けに行くらしい。暫く、何年何十年会えなくなるか分からない。もう二度と会えなくなる可能性も低くはない。
エムザラの方を見ると、何か言いたそうにモジモジとしている。
「ッ、ノッくん……」
「――エミー?」
それは、幼い頃に呼び合っていた名前だった。エミー、と呼ぶとエムザラは押さえていた物が崩れ落ちたかのように泣き出してしまった。
僕はそんなエムザラを見ても、どうする事も出来ない。
慰め、優しくするわけにはいかない……
ずっと前から、エムザラの気持ちには気付いていたが、『冒険者』である僕は決してそれを受け入れるわけにはいかなかった。
エムザラを――彼女の人生を狂わせるわけには……
「ノアくん……ワタシ、ノアくんの事が――」
「僕は!!」
言わせるわけにはいかない。
「僕は……どこかで結婚して……幸せになって……いつか、エムザラに自慢しに帰って来るから!」
「うん」
「だから、エムザラも――ン」
それは、初めてのキスだった。優しく、悲しいキスだ。
「ノアくん」
「――泣かないで。無理して苦しまないで――私はノアくんの事が好きです。だから、いつか必ず“生きて”帰って来て」
そう言って、エムザラは去って行った。
「ぼくは……泣いてた……のか……」
我慢していた筈の涙が、無意識のうちに流れてしまっていた。
――あぁ、僕はまだ未熟だ……
頬を伝う大粒の涙を手で拭った。この涙は、僕の罪。そして、僕の心なんだ。
「ありがとう、エムザラ。僕は必ず帰って来るから――君を迎えに行くから」
ノア=キヴォトスはこうして、改めて自分の弱さと決意を自覚したのだった――
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