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3話 『可能性』
しおりを挟む―― 神官視点 ――
――神は残酷だ。
神官という、神に仕える立場でありながらも私は思う。
『十五の儀』という適性職を見るこの儀式で、その人間の将来が決まってしまうのだ。
その者の人生は、果たしてそれだけなのだろうか?
可能性を潰してはいないだろうか?
私はこの時期が来るたびに、そう疑問を抱いてしまう。
この、かつての偉人が作り出した『魔具』は果たして完全なものなのだろうか。
しかし、今やかつての偉人は神と同等の存在であり、疑問を呈する事さえも許されない。
「次、カルロス=ディスペヤー…………『農業』」
そう告げると、少年は絶望を露にする。
また一人、少年の希望を奪ってしまったようだ。
だが、これでいいのだ。適性の有無でステータスに大きな差が出ると言われている。ここで心を鬼にしなければ、苦しむのは彼等のほうなのだ。
はぁ……
「次、エムザラ=アーク…………『商業』」
そう告げると、その少女は顔を綻ばせた。どうやら希望通りの職業だったらしい。
その少女は、「ギルド職員になれますか?」と聞いてきた。
「君はギルド職員に向いているよ――」
実のところ、何になれるかまでは分からないが、希望を潰すこともないだろう。
少女は嬉しそうに一緒にやって来た少年の元へと小走りで戻っていった。
さて、最後は……ノア=キヴォトス……か。
「次、ノア=キヴォトス……――」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
少し、昔話をしよう。
それは十四年前――
私がまだ、若いと言えなくもない年頃。
いつものように、神官になるための修行をこなしてから帰宅した私を待っていたのは、私の命の恩人で、尊敬し敬愛する人物だった。
「ウトゥさん……その子、どうしたのですか?」
そこにいた人物は、ウトゥ=シャマシュ。街で倒れていた孤児の私を救い、育ててくれた人だった。
その人が、子供を連れて家にやって来たのだ。
「ウトゥさんの子ですか?」
ウトゥさんには奥さんはいないが、よく『そういう店』に行っていることは知っていた。
ウトゥさんは、そうじゃ。といった――
「この子は『外の世界』で捨てられていたんじゃ。今日から儂の子じゃ」
「――ウトゥさんらしいですね」
自然と顔が綻ぶのが自分でもわかった。ウトゥ=シャマシュという人物はこういう人なのだ。
「それで、どうして家に?」
「それなんじゃが、儂はこの子を冒険者にしてやりたいと思うんじゃ」
「……なぜですか?」
その子は両親に捨てられたと知ったら『外の世界』を恨んでしまうかもしれませんよ?
とは、思っても口に出さない。
「この子――ノアの親は冒険者じゃ」
「なら、尚更なぜですか?」
冒険者という職業が嫌いになる可能性が高いですよ?
(私にように……)
「――を知って欲しいんじゃよ。それがこの子の運命なんじゃよ」
「…………」
いま、ウトゥさんには何が見えているのだろうか。この幼子に何が見えるのだろうか。
それから十二年後、ウトゥさんは亡くなった――
最後の日、ウトゥさんは神官になった私に言った。
――もし……あの子が、ノアが望むのなら、あの子を『冒険者』にしてやってくれ。
それは、神官の立場として――もしノアという少年が適正職以外を望んだら――神を裏切ってでも叶えてやってくれ、と
そう言われているのだと理解した。
ウトゥは翌日、ノアと家で過ごしながら安らかに息を引き取った――
※※※※※※※※※※※※※※※
「次、ノア=キヴォトス…――」
珍しい黒目の少年。会うのは十四年振りか。
「君は…何になりたい……?」
彼にだけ聞こえる小さな声でそう聞くと、少年は少し驚いた。
本来、この場で質問されることはないと知っていたからだろう。
だが、少年は少し驚いた後、こう言った。
「僕は、『冒険者』になりたいです。僕を我が子のように育ててくれたウトゥさんっていう憧れの人みたいなカッコいい『冒険者』になりたいです」
冴えない印象の少年の目に映る、強い意志の光を私は確かに見た。
表示されている適性職は――『』空欄。何もない。
今まで、こんなことはなかった。ありえないことだった。故障なのかもしれない。
けれど、私はこう思った
――『可能性』
もう、私にはこの子の適性職など見る必要もない。
私は彼の運命を、ウトゥさんの遺志を継ぐこの少年を後押ししたい。
ウトゥさん……神様。私は――――僕は一度だけ、神様を裏切ることをお許しください。
さあ、いっておいで。ウトゥさんと僕たちの『家族』ノア=キヴォトス。
君の決めた、運命だよ――
―― ノア=キヴォトス 『冒険者』
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