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伊豆綺談
|あやかし《ひとならざるもの》への差別やイジメ
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あやかしへの差別やイジメ
何と戦っているかわからないけど、少しづつでも戦うことしかできない。これが、差別やイジメに対する戦い方となっていきます。道が修理されないなら、修理をする。婚姻を拒否されるならば、説得していく。敵が判れば対処のしようもありますが、敵の判らぬ戦い程に地道な戦いはありません。
差別やイジメということに対して重要なことは、戦っている相手には、イジメているとか差別しているという認識が無かったりします。つまりは、差別やイジメを認識できないのです。まずは、差別やイジメを認識させることが、最初の課題となります。
認識させるには、普段から見かけることができるような、相手のテリトリー内に、いつの間にか入っていれば、相手に自分を認識させることができます。
大江山で酒呑童子が討たれた頃から、あやかし達が仕事を持ち、人とかかわるようになっていった。瘴気祓いや穢れ祓いをおこなう穢れ多き者。芸や謡い、踊りといったカワラモノ達。湯女狐として、杜湯を司る者達も、人の傍らに存在する状況を造りだすものでありました。
渡辺綱だけでなく、人とあやかしとの交配がすすめば、住んでいる者達の多くが、あやかしの血を引くこととなる。自分の父や母だけでなく、爺ちゃんや曾祖母といった薄くなっても、血が繋がり拡散することによって、差別やイジメの対象そのものを拡散させる。
住人の大半が、あやかしの血を引けば、あやかしに対しての差別やイジメは減っていく。
ただ、これは、差別やイジメが減っていくということではない。あやかしにも差別があり、仕事の性質や身体的な特徴による差別やイジメが生まれることもある。
さらに言えば、あやかし同士であっても同じで、妬みや嫉妬というのは、集団で生きる者にとって、必然とも言うべき、差別やイジメとなっていくことがあるものです。
すでに難波の町や、岸和田、博多といった湊を中心とした地域、京洛の市場といった人が多く集まる場所では、当たり前のようにあやかしが往来を歩いているという状況がありました。
玲の場合は、竜族が持つ淡き蒼白い肌であり、人が持つ肌との違いが目立ち過ぎるということがありました。竜族は少なく、ほとんどの竜族が竜が島の竜宮から出てこないこともあって、淡き蒼白い肌は、人の世では、まだまだ目立つのでありました。
為朝は、玲を抱きしめるようにしながら、キスを交わして、
「俺は、玲の肌は好きだぞ、しなやかで綺麗だ」
玲は、嬉しそうに、くすぐったそうに笑って、
「こまったな、これでも齢だけならば四十に近いのだがな」
竜族の成長は遅いということかと思って
「玲や光は、千年とか生きるのか」
為朝が、ちょっと面白そうに聞いて来ると
「ほほほ、そんなには生きられぬよ、せいぜい百年くらいであろう」
「そうなのか。それでも百年かぁ」
竜族の寿命に驚くと、玲が言って来た、
「長く生きようとするならば、人の方が長生きぞ」
「え、何故だ、人は五十年くらいだろ」
「ほほほ、そうでも無いぞ、久米仙人を知らぬか」
「知ってるぞ。女に当てられて天から落ちた仙人だろ」
「そうじゃ、妾は久米の爺様と呼んで居るが、三百年は生きておるハズじゃが、未だに元気じゃぞ」
「久米仙人は、生きているのか、玲。御伽噺じゃなくて」
「あぁ、三十年ほど前に、大婆様のところへ遊びに来たのじゃ、蝦夷で新たな奥方を見つけたとな」
「凄い、爺様だな、三百歳で嫁を迎えたのか」
「ほほほ、為朝。あの爺様は、気に入った娘を嫁に迎えて契りを交して一緒に暮らして、子を為して育てると、嫁が亡くなり弔いを済ませれば、また修行の旅に出ておる。まるで、修行そのものが、嫁探しの旅みたいじゃと聞いたら、笑っておったぞ」
「凄い仙人も居たものだな」
久米仙人は、久米寺を創建したと言われる仙人です。見女麗しく、艶やかに美しい女性の肌に見惚れて、天から落ちてそのまま添い遂げたそうです。奥方と仲睦まじく暮らしていて、亡くなられて弔った後は、仙人に戻って飛び去って行ったそうです。
為朝も、清和源氏の流れであり河内源氏源為義の八男ですが、カワラモノと呼ばれる者を母としていますので、身分的にはかなり低かったと考えられます。七尺の巨躯と弓矢の武芸を持って天下無双と呼ばれておりました。
母方の身分が低いが、上皇様の目に留まり、為朝の武人らしい素直な性格や強さを気に入られ、結果的には周囲に反感と嫉妬を買って、西国へと送られたのであります。
これもまた、差別とイジメということになります。
知らなければ、差別やイジメがなくなるというのは、間違いだったりします。差別やイジメの本質は、見たくないもの、異質なものを排除しようとする人によって造られます。見たくないような存在があれば、イジメる理由となるのです。肌の色が違うや思想が違う。収入が違う、学校歴が違う、理由などいくらでも造りだされるものである。
だからと言って理由を知っておくことも重要なのである、差別やイジメというものは、やった側もやられた側も、心に傷を残すモノである。
内容によっては、人間とすらみなして貰えない。それが、差別やイジメの先に生じます。人間でなければ、殺しても罪にならない。宗教というのは、困ったことに、究極のイジメや差別を生み出していくことがあるのです。
東の空が、少し紫に煙るようになる頃。少しづつ、宵闇が移ろうように西へと偏っていく。
「俺は、戦に勝てるようになるのか、玲」
「そなたが、過去の柵を棄てて、一家を立てるならば、いくらでも護れよう」
「過去の柵か、難しいな」
「ゆっくりで良かろうよ。為朝」
「そうか」
少し、気にしながらも、少し笑って、玲とキスを交わす為朝であった。夜明け前の、ほんのひと時の出来事でありました。
何と戦っているかわからないけど、少しづつでも戦うことしかできない。これが、差別やイジメに対する戦い方となっていきます。道が修理されないなら、修理をする。婚姻を拒否されるならば、説得していく。敵が判れば対処のしようもありますが、敵の判らぬ戦い程に地道な戦いはありません。
差別やイジメということに対して重要なことは、戦っている相手には、イジメているとか差別しているという認識が無かったりします。つまりは、差別やイジメを認識できないのです。まずは、差別やイジメを認識させることが、最初の課題となります。
認識させるには、普段から見かけることができるような、相手のテリトリー内に、いつの間にか入っていれば、相手に自分を認識させることができます。
大江山で酒呑童子が討たれた頃から、あやかし達が仕事を持ち、人とかかわるようになっていった。瘴気祓いや穢れ祓いをおこなう穢れ多き者。芸や謡い、踊りといったカワラモノ達。湯女狐として、杜湯を司る者達も、人の傍らに存在する状況を造りだすものでありました。
渡辺綱だけでなく、人とあやかしとの交配がすすめば、住んでいる者達の多くが、あやかしの血を引くこととなる。自分の父や母だけでなく、爺ちゃんや曾祖母といった薄くなっても、血が繋がり拡散することによって、差別やイジメの対象そのものを拡散させる。
住人の大半が、あやかしの血を引けば、あやかしに対しての差別やイジメは減っていく。
ただ、これは、差別やイジメが減っていくということではない。あやかしにも差別があり、仕事の性質や身体的な特徴による差別やイジメが生まれることもある。
さらに言えば、あやかし同士であっても同じで、妬みや嫉妬というのは、集団で生きる者にとって、必然とも言うべき、差別やイジメとなっていくことがあるものです。
すでに難波の町や、岸和田、博多といった湊を中心とした地域、京洛の市場といった人が多く集まる場所では、当たり前のようにあやかしが往来を歩いているという状況がありました。
玲の場合は、竜族が持つ淡き蒼白い肌であり、人が持つ肌との違いが目立ち過ぎるということがありました。竜族は少なく、ほとんどの竜族が竜が島の竜宮から出てこないこともあって、淡き蒼白い肌は、人の世では、まだまだ目立つのでありました。
為朝は、玲を抱きしめるようにしながら、キスを交わして、
「俺は、玲の肌は好きだぞ、しなやかで綺麗だ」
玲は、嬉しそうに、くすぐったそうに笑って、
「こまったな、これでも齢だけならば四十に近いのだがな」
竜族の成長は遅いということかと思って
「玲や光は、千年とか生きるのか」
為朝が、ちょっと面白そうに聞いて来ると
「ほほほ、そんなには生きられぬよ、せいぜい百年くらいであろう」
「そうなのか。それでも百年かぁ」
竜族の寿命に驚くと、玲が言って来た、
「長く生きようとするならば、人の方が長生きぞ」
「え、何故だ、人は五十年くらいだろ」
「ほほほ、そうでも無いぞ、久米仙人を知らぬか」
「知ってるぞ。女に当てられて天から落ちた仙人だろ」
「そうじゃ、妾は久米の爺様と呼んで居るが、三百年は生きておるハズじゃが、未だに元気じゃぞ」
「久米仙人は、生きているのか、玲。御伽噺じゃなくて」
「あぁ、三十年ほど前に、大婆様のところへ遊びに来たのじゃ、蝦夷で新たな奥方を見つけたとな」
「凄い、爺様だな、三百歳で嫁を迎えたのか」
「ほほほ、為朝。あの爺様は、気に入った娘を嫁に迎えて契りを交して一緒に暮らして、子を為して育てると、嫁が亡くなり弔いを済ませれば、また修行の旅に出ておる。まるで、修行そのものが、嫁探しの旅みたいじゃと聞いたら、笑っておったぞ」
「凄い仙人も居たものだな」
久米仙人は、久米寺を創建したと言われる仙人です。見女麗しく、艶やかに美しい女性の肌に見惚れて、天から落ちてそのまま添い遂げたそうです。奥方と仲睦まじく暮らしていて、亡くなられて弔った後は、仙人に戻って飛び去って行ったそうです。
為朝も、清和源氏の流れであり河内源氏源為義の八男ですが、カワラモノと呼ばれる者を母としていますので、身分的にはかなり低かったと考えられます。七尺の巨躯と弓矢の武芸を持って天下無双と呼ばれておりました。
母方の身分が低いが、上皇様の目に留まり、為朝の武人らしい素直な性格や強さを気に入られ、結果的には周囲に反感と嫉妬を買って、西国へと送られたのであります。
これもまた、差別とイジメということになります。
知らなければ、差別やイジメがなくなるというのは、間違いだったりします。差別やイジメの本質は、見たくないもの、異質なものを排除しようとする人によって造られます。見たくないような存在があれば、イジメる理由となるのです。肌の色が違うや思想が違う。収入が違う、学校歴が違う、理由などいくらでも造りだされるものである。
だからと言って理由を知っておくことも重要なのである、差別やイジメというものは、やった側もやられた側も、心に傷を残すモノである。
内容によっては、人間とすらみなして貰えない。それが、差別やイジメの先に生じます。人間でなければ、殺しても罪にならない。宗教というのは、困ったことに、究極のイジメや差別を生み出していくことがあるのです。
東の空が、少し紫に煙るようになる頃。少しづつ、宵闇が移ろうように西へと偏っていく。
「俺は、戦に勝てるようになるのか、玲」
「そなたが、過去の柵を棄てて、一家を立てるならば、いくらでも護れよう」
「過去の柵か、難しいな」
「ゆっくりで良かろうよ。為朝」
「そうか」
少し、気にしながらも、少し笑って、玲とキスを交わす為朝であった。夜明け前の、ほんのひと時の出来事でありました。
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