弓張月異聞 リアルチートは大海原を往く

Ittoh

文字の大きさ
8 / 96
伊豆綺談

|あやかし《ひとならざるもの》への差別やイジメ

しおりを挟む
あやかしひとならざるものへの差別やイジメ
 
 何と戦っているかわからないけど、少しづつでも戦うことしかできない。これが、差別やイジメに対する戦い方となっていきます。道が修理されないなら、修理をする。婚姻を拒否されるならば、説得していく。敵が判れば対処のしようもありますが、敵の判らぬ戦い程に地道な戦いはありません。
 差別やイジメということに対して重要なことは、戦っている相手には、イジメているとか差別しているという認識が無かったりします。つまりは、差別やイジメを認識できないのです。まずは、差別やイジメを認識させることが、最初の課題となります。

 認識させるには、普段から見かけることができるような、相手のテリトリー内に、いつの間にか入っていれば、相手に自分を認識させることができます。

 大江山で酒呑童子が討たれた頃から、あやかしひとならざるもの達が仕事を持ち、人とかかわるようになっていった。瘴気祓いや穢れ祓いをおこなう穢れ多き者。芸や謡い、踊りといったカワラモノ達。湯女狐として、杜湯やしろゆを司る者達も、人の傍らに存在する状況を造りだすものでありました。

 渡辺綱だけでなく、人とあやかしひとならざるものとの交配がすすめば、住んでいる者達の多くが、あやかしひとならざるものの血を引くこととなる。自分の父や母だけでなく、爺ちゃんや曾祖母といった薄くなっても、血が繋がり拡散することによって、差別やイジメの対象そのものを拡散させる。
 住人の大半が、あやかしひとならざるものの血を引けば、あやかしひとならざるものに対しての差別やイジメは減っていく。

 ただ、これは、差別やイジメが減っていくということではない。あやかしひとならざるものにも差別があり、仕事の性質や身体的な特徴による差別やイジメが生まれることもある。

 さらに言えば、あやかしひとならざるもの同士であっても同じで、妬みや嫉妬というのは、集団で生きる者にとって、必然とも言うべき、差別やイジメとなっていくことがあるものです。

 すでに難波の町や、岸和田、博多といった湊を中心とした地域、京洛の市場といった人が多く集まる場所では、当たり前のようにあやかしひとならざるものが往来を歩いているという状況がありました。

 玲の場合は、竜族が持つ淡き蒼白い肌であり、人が持つ肌との違いが目立ち過ぎるということがありました。竜族は少なく、ほとんどの竜族が竜が島の竜宮から出てこないこともあって、淡き蒼白い肌は、人の世では、まだまだ目立つのでありました。




為朝は、玲を抱きしめるようにしながら、キスを交わして、
「俺は、玲の肌は好きだぞ、しなやかで綺麗だ」
玲は、嬉しそうに、くすぐったそうに笑って、
「こまったな、これでもよわいだけならば四十に近いのだがな」
竜族の成長は遅いということかと思って
「玲や光は、千年とか生きるのか」
為朝が、ちょっと面白そうに聞いて来ると
「ほほほ、そんなには生きられぬよ、せいぜい百年くらいであろう」
「そうなのか。それでも百年かぁ」
竜族の寿命に驚くと、玲が言って来た、
「長く生きようとするならば、人の方が長生きぞ」
「え、何故だ、人は五十年くらいだろ」
「ほほほ、そうでも無いぞ、久米仙人を知らぬか」
「知ってるぞ。女に当てられて天から落ちた仙人だろ」
「そうじゃ、妾は久米の爺様と呼んで居るが、三百年は生きておるハズじゃが、未だに元気じゃぞ」
「久米仙人は、生きているのか、玲。御伽噺じゃなくて」
「あぁ、三十年ほど前に、大婆様のところへ遊びに来たのじゃ、蝦夷で新たな奥方を見つけたとな」
「凄い、爺様だな、三百歳で嫁を迎えたのか」
「ほほほ、為朝。あの爺様は、気に入った娘を嫁に迎えて契りを交して一緒に暮らして、子を為して育てると、嫁が亡くなり弔いを済ませれば、また修行の旅に出ておる。まるで、修行そのものが、嫁探しの旅みたいじゃと聞いたら、笑っておったぞ」
「凄い仙人も居たものだな」



 久米仙人は、久米寺を創建したと言われる仙人です。見女麗しく、艶やかに美しい女性の肌に見惚れて、天から落ちてそのまま添い遂げたそうです。奥方と仲睦まじく暮らしていて、亡くなられて弔った後は、仙人に戻って飛び去って行ったそうです。





 為朝も、清和源氏の流れであり河内源氏源為義の八男ですが、カワラモノと呼ばれる者を母としていますので、身分的にはかなり低かったと考えられます。七尺の巨躯と弓矢の武芸を持って天下無双と呼ばれておりました。
 母方の身分が低いが、上皇様の目に留まり、為朝の武人らしい素直な性格や強さを気に入られ、結果的には周囲に反感と嫉妬を買って、西国へと送られたのであります。
 これもまた、差別とイジメということになります。





  知らなければ、差別やイジメがなくなるというのは、間違いだったりします。差別やイジメの本質は、見たくないもの、異質なものを排除しようとする人によって造られます。見たくないような存在があれば、イジメる理由となるのです。肌の色が違うや思想が違う。収入が違う、学校歴が違う、理由などいくらでも造りだされるものである。
 だからと言って理由を知っておくことも重要なのである、差別やイジメというものは、やった側もやられた側も、心に傷を残すモノである。
 内容によっては、人間とすらみなして貰えない。それが、差別やイジメの先に生じます。人間でなければ、殺しても罪にならない。宗教というのは、困ったことに、究極のイジメや差別を生み出していくことがあるのです。





東の空が、少し紫に煙るようになる頃。少しづつ、宵闇が移ろうように西へと偏っていく。
「俺は、戦に勝てるようになるのか、玲」
「そなたが、過去のしがらみを棄てて、一家を立てるならば、いくらでも護れよう」
「過去のしがらみか、難しいな」
「ゆっくりで良かろうよ。為朝」
「そうか」
少し、気にしながらも、少し笑って、玲とキスを交わす為朝であった。夜明け前の、ほんのひと時の出来事でありました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

処理中です...