弓張月異聞 リアルチートは大海原を往く

Ittoh

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南洋紀行

南洋紀行 14. 南方嵯峨と変わる南洋

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 講談師、見て来たように嘘を吐く。されど、真実混ざってこその嘘であります。
 日本の国技に、相撲がありますが、ハワイのポリネシア系の力士が活躍しております。高見山、小錦、曙、武蔵丸といった巨躯を持ち、豪快な相撲を戦った力士達が南方の戦士達でもあったのです。同族系である、サモアやマオリの方々が、フットボールやラグビーなどで活躍するのも非常に大きな体格と筋力を持っているためとも言われている。
  そういう意味では、強き者が生まれる民族なのかもしれない。



 南方嵯峨は、非常に大きな環礁ラグーンを形成した島嶼であった。斎の記憶からすると、史実で言うと、トラック諸島の位置にある。周五十里(二百キロ)の環礁に囲まれた島々であった。



玲は、少し大きくなったお腹を支えるようにして、甲板に立ち、波の静かな、島嶼内海の状況を見て言った、
「話には聞いていたが、凄いものよな。百の大船であっても、この地ならば拠点とできよう」
「そうだな。玲」
傍らで、玲を支えるように為朝がついていた。玲の下帯だけの長羽織姿は、玲の身体が持つ、しなやかで艶やかなラインを豊かに描いていた。目立っていた、お腹を冷やさぬために、腹部に革を巻いていた。



 イツキが住んでいた島に近づくと、煙がモクモクと上がっていた。
「あれは、戦だな。柊、玲を頼む。行くぞ」
「はい」
「為朝。あの方向だと、イツキの村やも知れぬ」
「わかった」
 玲の言葉を聞くや聞かぬやで、為朝は、飛び出して行って、紀平次と張節が続こうとした。
「紀平治ッ」
「はッ」
「村での戦は、混乱しやすい。敵が攻め寄せたならば、船があるハズ。そちらから村へ向かえ」
「承知」
紀平治は、ミヅチ口からではなく、舷側を駆けて、櫂に飛び乗った。
櫂に乗った、紀平治が水先となって、本隊を誘導していった。
武雷タケミカヅチ」は速度を落とし、「庚寅かのえとら」は速度を上げて、島へと向かって行く。
玲は、高楼に入って行くと、斎、火耶、寧々が待っていた。
「寧々、見ゆるか」
玲は、海鳥たちを先行させた、寧々に尋ねる。
「浜に四丈(12メートル)早船が五艘、上がった敵二百程」
「大将は、判るか、寧々」
「一人、父様より大きい、村の男達を薙ぎ倒している。他にも六尺を超える者が何人か居る」
「ほぉ、為朝より大きいか」
玲は、少し考えていると、
「だ、駄目ですよ、玲様」
柊が止めに入った。
「まだ、産み月には早いぞ」
「いえ、そんなことではありません。大事な身体なのです」
「ほほほ、神功皇后よりは、良かろうよ。将っ」
下層より声がかかる。
「行くの、玲」
「ミヅチ口に行っていてくれるか、あたしも出る」
「玲。あたしも行きたい」
斎が声を掛ける。
「ふむ、、、着いて参れ」
「あ、あの玲様」
柊が、泣きそうな顔で、縋るように玲の長羽織を掴む。玲は、困ったように柊の手を取って、
「すまぬな。強いというても、心配なのじゃ。船を頼む、柊」
そのまま柊をギュッとしていると、下層からカグラが声を掛ける。
「あたしも行くよ、冴が乗せてくれるって言ってくれた。柊、玲はあたしが護るよ」
ちょっとふくれたような顔で、困ったようにしながらも、玲の羽織から手を放す。
「もう、知りませんッ」
甲板下のミヅチ口で、準備を整えて、待っている将と冴
将に、玲は乗り込んで、斎をミヅチ鞍の前に乗せた。波割と呼ばれるミヅチ鞍は、シャチや鮫の背びれを、三角の錐形にした先端を持ち、流れるようなミヅチの身体に革を張って、跨って乗れるようにしていた。
 怪我をした凱琉が、
「玲母様。おれも出たい」
「ダメじゃ、そなたは、怪我を治すのが先じゃ、良いなッ」
悔しそうにしていて、引き下がるけど、抜け駆けしそうであった。
「凱琉」
「は、はい」
声が裏返っていた。抜け駆けする気で合ったのだろう。
「凱琉。妾まで出撃すれば、この「武雷タケミカヅチ」は手薄となる。カヌーが攻め寄せた時には、凱琉、そなたが頼りじゃ。そなたの弟や妹を護ってやってくれ、頼む」
「え、あぁ、、、わかった。任せろ」
頼られると、元気になる凱琉は、良き男となる。
「頼んだぞ」
「おぉッ」
凱琉の声が響き、将に乗った、玲が長羽織を腰帯を締めずに、双剣を腰帯に縛って出撃していった。
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