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南海覇王為朝
難波天神の一日香。正午の鐘と大筒
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講談師、見て来たように嘘を吐く。されど、真実混ざってこその嘘であります。
日ノ本には、経度標準点があります。これは、難波天神こと露天神社(お初天神)の位置となります。日ノ本で土御門一門の天文方が置かれている露天神社に建てられた、高楼の位置を基準として測量が行われていました。かつて、太平洋からインド洋にかけて様々な海図を収集し、蓄積された露天神社天文院は、写しを御所へ奉納すると共に、各地の航路を安定させるために、基準となる拠点で烽火を焚く、高楼勧請をおこなっておりました。露天神社の高楼勧請を基準として、難波高楼勧請、大輪田高楼勧請、博多高楼勧請、沼津高楼勧請は、海図と共に公開されていて、遠洋航海をおこなう船の道標となっていました。
日ノ本が船は、一日香という香を使って、太陽が南天から南天までの時刻を図っておりました。このズレが生じると、時差(経度の差)が生じたと判断していました。一日香は、燃える時間を長さで規定された香で、南天から南天まで一尺で燃えるように燃焼速度が調整された香でありました。
午前午後は、太陽が南天にかかり影の長さが最少となる時を正午としていました。この時に、露天神社高楼から大鐘が鳴らされて、正午を知らしめたのであります。高楼勧請の大鐘は、一日香を焚く合図でもありました。
磁石を組み込まれて、日時計としても使えるように造られた可動式の十二方位羅針盤が、大船だけでなく遠洋航海をおこなう船に装備されていた。
難波高楼勧請と大輪田高楼勧請が行われた高楼からは、大鐘の代わりに、水滸伝が英雄凌振設計の大筒が空砲で撃ちあげられていました。普通の人は、一日の始まりを、日の出として、一日の終わりを日の入りとしていました。港近くに住まう者達にとっては、南天に太陽がかかる正午の合図は、一つの区切りでもありました。
小さな港でも始まった、正午の合図は、日ノ本に住まう者達にとって、一つの合図ともなったのです。
羅針盤と北斗によって、方角と偏差が測定されていた。また、地磁気と言うのは地中に埋まっているように磁針が指し示すことから、北半球では伏角が生じ、磁針の傾きで緯度を推定することができる。こういった方位を規定することで、遠洋航海での自己位置推定を可能としていたのである。
高楼勧請が設置された場所では、露天神社の高楼勧請からの位置をできる限り正確に測定していた。博多高楼勧請の建てられた博多港では、-5.1/360のズレがあり、一日香が一分半足リズ(-1.5/100)と言われました。沼津では、3.35/360のズレがあり、一分届カズ余リ(+0.9/100)と言われました。一尺=十寸=百分
南方嵯峨は、16.3/360のズレがあり、一日香で四分半余り(+4.5/100)と言われました。磁針がほぼ水平となり伏角測れずやや北と計測されていました。北斗の角度からすると、7.5/360となった。拠点を公開することは、本拠地の場所を公開することになりますが、交易を優先する場合は、公開した方が船が集まるということになります。特に遠方の場合は、公開しなければ、交易船が訪れることすらない田舎になってしまいます。
玲は、南方嵯峨を公開することと、伊豆からの航路を泉が帆船で抜けたことを利用して、交易圏として確立していきました。特に南方嵯峨では、鉄が取れないことから、玉鋼を大量に輸入したのでありました。
「良いのか玲。鋼を使えば、あやかしが殺せるのではないか」
「為朝。殺せれば、怯えることもあるまい」
玲は、生まれたばかりの子皐太を抱きながら言った。見事なまでの淡い蒼い肌を持つ男の子であった。
「玲」
「良いのだ。怯えるが先にきては、あやかしはいつまでも人に仕える者のままじゃ」
「人と対等であるためか」
「一時の間は、神と間違われても仕方は無い。されど、殺せる神なれば、必要以上に怯えることもあるまい」
「玲。それが、あやかしの本性を顕して生きると言うことか」
「そういうことじゃ、為朝。怖くはなかったか」
ナン・マトールの都へ向かった玲は、西海竜王の姿を晒して海を進んでいった。身の丈が五十里(200キロ)胴回り五里(20キロ)ほどの巨躯が海を駆ける姿は、見た目に凄まじいものがあった。
「怖くないとは言わぬが、玲ではあるのだろ」
「難しいところじゃ、妾ではあるが、大きすぎて人が見えぬからな」
「俺もわからないか」
「為朝や将ぐらいに、強い気を放てばまだ感じられるが、身じろぐだけで大波を起こすとなれば、怖くて化生などできぬものよ」
竜王の姿となれば、強大な大きさが、身じろげば大波が発生し、津波のように環礁を洗っていく。どっかの漫画でいうどでかい海の生き物が、本当に現れたらこんな感じというくらいに竜王の姿は凄まじいものだった。海中より現れると、海から島が飛び出すように、海が溢れるように直径数キロの水柱が立ち上り、轟々と滝から流れ落ちるような潮の崩れる中に、強大な竜の姿が浮かび上がる姿は、生き物の在り様を超えたようなすさまじさであった。
マン・ナトールの島に住まう者達は、神々の姿を見るように平伏し、恐れおののいていた。
「二度は、姿を見せぬ方がよかろうな、為朝」
「あぁ、俺は玲をあの姿に奪われたくないな」
「そうか、嬉しいぞ」
百二十里の海を渡るのに、神経をすり減らすようにしていた玲は、そのまま為朝を押し倒すように抱き始めた。子を宿した頃に寂しかったこともあって、久しくないくらいに激しく欲情して為朝を求めていった。
日ノ本には、経度標準点があります。これは、難波天神こと露天神社(お初天神)の位置となります。日ノ本で土御門一門の天文方が置かれている露天神社に建てられた、高楼の位置を基準として測量が行われていました。かつて、太平洋からインド洋にかけて様々な海図を収集し、蓄積された露天神社天文院は、写しを御所へ奉納すると共に、各地の航路を安定させるために、基準となる拠点で烽火を焚く、高楼勧請をおこなっておりました。露天神社の高楼勧請を基準として、難波高楼勧請、大輪田高楼勧請、博多高楼勧請、沼津高楼勧請は、海図と共に公開されていて、遠洋航海をおこなう船の道標となっていました。
日ノ本が船は、一日香という香を使って、太陽が南天から南天までの時刻を図っておりました。このズレが生じると、時差(経度の差)が生じたと判断していました。一日香は、燃える時間を長さで規定された香で、南天から南天まで一尺で燃えるように燃焼速度が調整された香でありました。
午前午後は、太陽が南天にかかり影の長さが最少となる時を正午としていました。この時に、露天神社高楼から大鐘が鳴らされて、正午を知らしめたのであります。高楼勧請の大鐘は、一日香を焚く合図でもありました。
磁石を組み込まれて、日時計としても使えるように造られた可動式の十二方位羅針盤が、大船だけでなく遠洋航海をおこなう船に装備されていた。
難波高楼勧請と大輪田高楼勧請が行われた高楼からは、大鐘の代わりに、水滸伝が英雄凌振設計の大筒が空砲で撃ちあげられていました。普通の人は、一日の始まりを、日の出として、一日の終わりを日の入りとしていました。港近くに住まう者達にとっては、南天に太陽がかかる正午の合図は、一つの区切りでもありました。
小さな港でも始まった、正午の合図は、日ノ本に住まう者達にとって、一つの合図ともなったのです。
羅針盤と北斗によって、方角と偏差が測定されていた。また、地磁気と言うのは地中に埋まっているように磁針が指し示すことから、北半球では伏角が生じ、磁針の傾きで緯度を推定することができる。こういった方位を規定することで、遠洋航海での自己位置推定を可能としていたのである。
高楼勧請が設置された場所では、露天神社の高楼勧請からの位置をできる限り正確に測定していた。博多高楼勧請の建てられた博多港では、-5.1/360のズレがあり、一日香が一分半足リズ(-1.5/100)と言われました。沼津では、3.35/360のズレがあり、一分届カズ余リ(+0.9/100)と言われました。一尺=十寸=百分
南方嵯峨は、16.3/360のズレがあり、一日香で四分半余り(+4.5/100)と言われました。磁針がほぼ水平となり伏角測れずやや北と計測されていました。北斗の角度からすると、7.5/360となった。拠点を公開することは、本拠地の場所を公開することになりますが、交易を優先する場合は、公開した方が船が集まるということになります。特に遠方の場合は、公開しなければ、交易船が訪れることすらない田舎になってしまいます。
玲は、南方嵯峨を公開することと、伊豆からの航路を泉が帆船で抜けたことを利用して、交易圏として確立していきました。特に南方嵯峨では、鉄が取れないことから、玉鋼を大量に輸入したのでありました。
「良いのか玲。鋼を使えば、あやかしが殺せるのではないか」
「為朝。殺せれば、怯えることもあるまい」
玲は、生まれたばかりの子皐太を抱きながら言った。見事なまでの淡い蒼い肌を持つ男の子であった。
「玲」
「良いのだ。怯えるが先にきては、あやかしはいつまでも人に仕える者のままじゃ」
「人と対等であるためか」
「一時の間は、神と間違われても仕方は無い。されど、殺せる神なれば、必要以上に怯えることもあるまい」
「玲。それが、あやかしの本性を顕して生きると言うことか」
「そういうことじゃ、為朝。怖くはなかったか」
ナン・マトールの都へ向かった玲は、西海竜王の姿を晒して海を進んでいった。身の丈が五十里(200キロ)胴回り五里(20キロ)ほどの巨躯が海を駆ける姿は、見た目に凄まじいものがあった。
「怖くないとは言わぬが、玲ではあるのだろ」
「難しいところじゃ、妾ではあるが、大きすぎて人が見えぬからな」
「俺もわからないか」
「為朝や将ぐらいに、強い気を放てばまだ感じられるが、身じろぐだけで大波を起こすとなれば、怖くて化生などできぬものよ」
竜王の姿となれば、強大な大きさが、身じろげば大波が発生し、津波のように環礁を洗っていく。どっかの漫画でいうどでかい海の生き物が、本当に現れたらこんな感じというくらいに竜王の姿は凄まじいものだった。海中より現れると、海から島が飛び出すように、海が溢れるように直径数キロの水柱が立ち上り、轟々と滝から流れ落ちるような潮の崩れる中に、強大な竜の姿が浮かび上がる姿は、生き物の在り様を超えたようなすさまじさであった。
マン・ナトールの島に住まう者達は、神々の姿を見るように平伏し、恐れおののいていた。
「二度は、姿を見せぬ方がよかろうな、為朝」
「あぁ、俺は玲をあの姿に奪われたくないな」
「そうか、嬉しいぞ」
百二十里の海を渡るのに、神経をすり減らすようにしていた玲は、そのまま為朝を押し倒すように抱き始めた。子を宿した頃に寂しかったこともあって、久しくないくらいに激しく欲情して為朝を求めていった。
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