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南海覇王為朝
南方紀行 初穂狩りと女衒の技
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講談師、見て来たように嘘を吐く。されど、真実混ざってこその嘘であります。
俺の名は、凱琉。八幡衆当主為朝を父として、ミヅチ衆が長琉威を母として生まれた。俺にとって、父為朝は大き過ぎる存在で、凄まじき強さを持って、八幡衆に君臨すると共に、荒ぶることが少なく、玲母や琉威母と一緒の時は、強さを感じぬほどに優しかった。特に、間引かれるはずのミヅチ衆が、間引かれることなく、女護島から南方嵯峨へと移って来た者達にとっては、温かい別天地のようなものであった。
潮湯の中で、父為朝は母玲と、カグラやアディア達と共に、去年の初穂狩りの話をしていた。俺凱琉は、去年の初穂狩りを思い出していた。
初穂狩りとは、嫁取り婿取りの儀であった。五歳となって成人したミヅチ衆は、初穂狩りに参加する。女が、ミヅチ衆の男に追いつけば、婿に迎えることができる。男が、ミヅチ衆の女を抱上げることができれば、嫁と迎えることができる。
ただ、南方嵯峨では、自分自身の意志で、人の姿を取れぬミヅチが集まってきていた。人の姿を取れぬミヅチの女は、婿とした相手との交接の中で、水気を淫気に換えて淫らにイけると、女人の姿となる。人の姿を取れぬミヅチの男は、嫁とした相手との交接の中で、水気を淫気に換えて淫らにイくと、男人の姿となる。
人の子にとって、ミヅチを人に戻せれば、ミヅチは生涯をその相手に捧げるほどの情をかけて、大海原を駆けるミヅチ衆となって海に生きることができる。人に戻せなければ、ミヅチは相手と別れることとなる。
人に還れなかったミヅチは、男は玲母が、女は父為朝が、抱いて人に戻した。
昨年の初穂狩りでは、父為朝は、三十五人の妻を抱き、母玲は十七人の夫を抱いた。父より母が少ないのは、ミヅチ姿の男が島の娘を抱いて、嫁と迎えたことが多く。島の男がミヅチ姿の女に怯えたためであった。今年は、七十三人が、南方嵯峨へ招かれていた。
「多いな、増えているのか、琉威」
父為朝が心配して、琉威に訊ねると、女護島から送られた文を読んで、
「いや、子の数そのものが増えているのだそうだ、今年は二百を超えたそうじゃ。女護島が手狭になったため、嵯峨諸島の開拓も為頼や妙殿の下で進められているようじゃ」
「ほぅ。為頼が役に立っていれば良いがな」
「幼きながらも、頑張っておるようじゃ、為朝」
「しかし、ミヅチの数が多くなれば、一晩では抱き切れぬことにもなろう」
昨年も最後の一人は夜が白み始めていた。時間的な制約があるのは、いかに為朝でも厳しい
「島の男が、軟弱でいかぬ」
そのことについては、母琉威が猛った。為朝が、三十五人ものミヅチを相手となったのは、島の男が怯えて役に立たなかったからであった。
そこへ、将とイツキを連れて訪れた玲母が、琉威母を抑えた。
「これ、琉威。人の殿御にあまり無理を言うな。ミヅチの姿をした女を素直に抱ける男は、そうはおらぬ」
ミヅチの姿は、三丈(9メートル)程の竜にヒレのようになった手足があるようなもので、胴回りも一間(1.8メートル)はあって、人の姿ではなく、幻想イメージの水龍みたいな姿と言って良かった。
たしかに、狐耳のように一部が獣であることと、愛宕の本山衆のように一丈を超える大狼のように巨大な狼女や巨大な魚か海へビのような姿をした女を、女として抱けるというのは、男からすれば、なかなかに難しいものであった。この点では、女性の方が、非常にはっきりしていて、ミヅチ衆を夫する娘の数は、徐々に増えていったのである。
「しかし、このまま人数が増えると、為朝が辛いぞ玲」
「そうじゃな。琉威。今年は、妾と為朝で対応しよう。したが、来年からでも、凱琉にも手伝ってもらうこととなろうな」
「んぁ、凱琉には、まだ難しいのではないか」
「どうであろうな、華」
玲と一緒に入って来た華に向かって玲が訊くと
「え、凱琉ならば、たとえ人に戻れなくとも、あたしは夫としたい。それに、アディア、貴方を乗せてミヅチ衆として、あたしは戦いたい」
華の言葉に、思わず俺は、口走っていた。
「お、おい。俺がアディアを乗せて戦いたいんだッ」
俺の叫びを聞いた、玲母は、アディアに向かって、訊いた。
「ほぉ、アディアは良き武士となろうが、アディアはミヅチに乗って戦いたいか」
「玲様。それは、八幡衆として戦うことか」
アディアは、習い覚えた、和国の言葉を流暢に喋って応えた。
「そうじゃな、漁と農に生きるならば、ミヅチに乗っても八幡衆となることは無い。だが、戦に参加するとなれば、八幡衆として下知に従ってもらわねばならぬ」
ミヅチ衆を夫とする娘が増えても、戦士が増えたわけでは無かった、ミヅチと一緒に、女は籠船に乗って、漁に生きるを選ぶ者が多かったのである。籠船で海女となって、ミヅチを夫とすると、家族で暮らすには、充分な収穫が期待できる。
玲は、無理にミヅチ衆を戦に駆り出すことは無いと考えていた。遠距離の交易だけではなく、女護島や伊豆八幡衆との文をやりとりや、ナンマトールとの交易船といった、戦以外の仕事が多くなっていた。日ノ本では、港湾荷役や交易荷役と呼ばれる者達の始まりである。
南方の通貨が、金属貨幣でなく、石を貨幣としていたこともあって、通貨重量が非常に重くなることと、石が建築資材として重要であったため、非常に多くの範囲で流通していた。金やガラスなどの光物を飾りとして、ナンマトールに浸透させていったのも、石貨の価値を下げるためでもあった。
特に白漆喰によって、粉から巨石を造って、ナンマトールの建設で一部を使うようになると、石貨の価値を下げることができ、鉄や金、ガラスといった工業製品の価値を上昇させることができるようになった。
「八幡衆の下知を下すのは、為朝様か、玲様」
「そうじゃ」
その答えに満足したように、
「あたしは、為朝様ならば八幡衆として戦いたい。凱琉は、強くはあっても為朝様に及ばず、華は、カグラ様に及ばぬ」
「アディア、そなた」
玲母に対して、アディアは、恋に焦がれる乙女のように、
「あたしは、為朝様が駆けるように、この南海の海原を駆けたい。カグラ様のように、命に溢れ滾るような女になりたい」
「ほぉ、見事な覚悟よ、アディア。そなたは、想い人が誰かいるのか」
「為朝様、あたしは、玲様が男であれば良いと思っておりました。このアディアには、選べません」
キラキラした目で、アディアは、玲母をみていた。
「玲とはな、俺のように海原を駆け、カグラのように命溢れ滾る女となればとは、玲を欲してのことか」
「このアディアは、自分の未熟を承知しています。なればこそ、玲様の命であればと」
「玲、すまぬ。裁いてくれるか」
為朝が、困ったように、玲に判断を預けた。
「妾の命ならばか、、、そうじゃな、カグラ。アディアの腕は良いのであろう」
「あぁ、玲。このカグラの鍛錬に付き合えるんだ、並みの男じゃ合わないぜ」
「アディア。妾からの頼みじゃ、明日、初穂狩りにて、凱琉を男にしてやってくれ」
アディアは、玲母の側で片膝を付いて、
「承知した」
「華」
「あいよ」
「そなたは、アディアの傍についてやってくれ」
「いいよ」
「凱琉」
「へっ」
慌てて、俺は、居住まいを糺そうとして失敗する。
「やはり、まだ未熟よな。アディアを明日、抱けぬようであれば、アディアは為朝が妻とするぞ」
「そ、それは」
「嫌ならば、凱琉。見事、初穂狩りにて、アディアの相手を務めてみせよ」
「は、はいッ」
叫ぶような俺の声が、響いて、潮湯での話が終わって、宴が始まっていった。
圧倒的なまでの女性陣の強さの前に、俺は、ちょっと泣いた。
将が、宴の中で、ポンポンと俺の肩を叩いて、俺に向かって訊いた、
「凱琉。アディアが欲しいと思うのであろう」
「うんッ」
「ならば、アディアに相応しい男を目指せ、凱琉」
「将様、、、」
「俺の命を捧げるは、玲だぞ。アディアは、この南方嵯峨で玲となる娘だ。諦めるか、凱琉」
玲母様。八幡衆の家刀自女。家を支え護る刀。この広大な海を千里を超えて、一つの家として纏め上げようとしていた。アディアは、玲母を目指す女として目指していた。ならば、俺は、父為朝や将様のように闘い護り、長として相応しき男にならなければならない。
「俺は、この南方嵯峨、いや太平洋を治める八幡衆が長になるッ。それが、アディアの男に相応しいってことだろ、将様」
「そうだな。傍で気遣うのではなく、アディアから信頼されるに足りる、男となれば良い。凱琉」
「はいッ」
将が、アディアに相応しい男を目指すと決めた、おれを見ていた。どこか羨ましそうに見ているようだった。
講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実が混ざてこその嘘であります。
宴の半ばで、将や斎と一緒に曲輪棚池の側に建てた庵に引き上げた玲は、将へ
「凱琉は、どうしたいと言うておった、将」
「アディアにとっての、為朝を目指すって」
「アディアの側で、支えるのは華の務めのようじゃな」
「華は、大丈夫かな」
「華には、女衒となってもらうこととなろうな」
「女衒って、何なの、玲」
斎が、玲の側で、縁側のような白漆喰の床に座って聞いている。曲輪棚池に造られる庵は、ミヅチ衆の家みたいなもので、将の家として白漆喰で、床と柱に屋根が造られていた。柱の高さが五尺ほどで立って入れず、座るだけの家であった。家というよりは、屋根のついた、オープンデッキのような部屋に座って、大きく蜷局を巻くように寝そべる将の側で、玲は斎を抱くようにして、盆に酒と肴を用意していた。
「女衒とはな、淫気を扱う技を身に付けた者を示す言葉じゃ」
「あまり良い言葉じゃないよね」
「ミヅチの女には、必要じゃ。斎」
「本来は、女の身体を淫らに開くための技じゃが、男を男として猛らせる技でもある。彼の国では房中術と呼ばれておる」
「あッ。それって、その気が無い男も、抱けるようになるってこと」
「それだけではない。ミヅチ衆が人の姿を取れぬのは、水気を他の気に替えて流せないことにある」
「房中術ならできるってこと」
「たとえ、女同士であってもな」
「ミヅチの姿が、男を猛らせぬ理由なれば、ミヅチが人の女となれば、猛らせる理由になろう」
「ミヅチの男には、少しづつ房中術を伝えておる」
「それって、女には伝えてないってこと」
「房中術というのは、厄介でな。鍛えると、相手をするのに時間がかかるようになる。去年までは、紀平治や愛宕衆以外では、為朝一人であったからの」
実質的に、為朝が三十五人を相手にしたのは、紀平治や愛宕衆のような八幡男衆では、一晩に一人くらいがやっとであったからである。
「為朝一人では、時間がかかり、夜が明けることになる」
「そうじゃ、それでは、間引きを復活させるようなものじゃ、それは避けたい」
「だから、女同士で人になれるようにするってこと」
「そういうことじゃ、ミヅチの初潮は、三歳前後、一年あれば、女同士で、人の姿を取れるようにはなろう」
「それって、女同士でないと、、、初穂狩りか」
男女の交わりを五歳以降としているのは、ミヅチの性徴からじゃ。月のモノが安定するまでは、女同士の方が良い。そう言って、玲は、盃を傾けていった。
俺の名は、凱琉。八幡衆当主為朝を父として、ミヅチ衆が長琉威を母として生まれた。俺にとって、父為朝は大き過ぎる存在で、凄まじき強さを持って、八幡衆に君臨すると共に、荒ぶることが少なく、玲母や琉威母と一緒の時は、強さを感じぬほどに優しかった。特に、間引かれるはずのミヅチ衆が、間引かれることなく、女護島から南方嵯峨へと移って来た者達にとっては、温かい別天地のようなものであった。
潮湯の中で、父為朝は母玲と、カグラやアディア達と共に、去年の初穂狩りの話をしていた。俺凱琉は、去年の初穂狩りを思い出していた。
初穂狩りとは、嫁取り婿取りの儀であった。五歳となって成人したミヅチ衆は、初穂狩りに参加する。女が、ミヅチ衆の男に追いつけば、婿に迎えることができる。男が、ミヅチ衆の女を抱上げることができれば、嫁と迎えることができる。
ただ、南方嵯峨では、自分自身の意志で、人の姿を取れぬミヅチが集まってきていた。人の姿を取れぬミヅチの女は、婿とした相手との交接の中で、水気を淫気に換えて淫らにイけると、女人の姿となる。人の姿を取れぬミヅチの男は、嫁とした相手との交接の中で、水気を淫気に換えて淫らにイくと、男人の姿となる。
人の子にとって、ミヅチを人に戻せれば、ミヅチは生涯をその相手に捧げるほどの情をかけて、大海原を駆けるミヅチ衆となって海に生きることができる。人に戻せなければ、ミヅチは相手と別れることとなる。
人に還れなかったミヅチは、男は玲母が、女は父為朝が、抱いて人に戻した。
昨年の初穂狩りでは、父為朝は、三十五人の妻を抱き、母玲は十七人の夫を抱いた。父より母が少ないのは、ミヅチ姿の男が島の娘を抱いて、嫁と迎えたことが多く。島の男がミヅチ姿の女に怯えたためであった。今年は、七十三人が、南方嵯峨へ招かれていた。
「多いな、増えているのか、琉威」
父為朝が心配して、琉威に訊ねると、女護島から送られた文を読んで、
「いや、子の数そのものが増えているのだそうだ、今年は二百を超えたそうじゃ。女護島が手狭になったため、嵯峨諸島の開拓も為頼や妙殿の下で進められているようじゃ」
「ほぅ。為頼が役に立っていれば良いがな」
「幼きながらも、頑張っておるようじゃ、為朝」
「しかし、ミヅチの数が多くなれば、一晩では抱き切れぬことにもなろう」
昨年も最後の一人は夜が白み始めていた。時間的な制約があるのは、いかに為朝でも厳しい
「島の男が、軟弱でいかぬ」
そのことについては、母琉威が猛った。為朝が、三十五人ものミヅチを相手となったのは、島の男が怯えて役に立たなかったからであった。
そこへ、将とイツキを連れて訪れた玲母が、琉威母を抑えた。
「これ、琉威。人の殿御にあまり無理を言うな。ミヅチの姿をした女を素直に抱ける男は、そうはおらぬ」
ミヅチの姿は、三丈(9メートル)程の竜にヒレのようになった手足があるようなもので、胴回りも一間(1.8メートル)はあって、人の姿ではなく、幻想イメージの水龍みたいな姿と言って良かった。
たしかに、狐耳のように一部が獣であることと、愛宕の本山衆のように一丈を超える大狼のように巨大な狼女や巨大な魚か海へビのような姿をした女を、女として抱けるというのは、男からすれば、なかなかに難しいものであった。この点では、女性の方が、非常にはっきりしていて、ミヅチ衆を夫する娘の数は、徐々に増えていったのである。
「しかし、このまま人数が増えると、為朝が辛いぞ玲」
「そうじゃな。琉威。今年は、妾と為朝で対応しよう。したが、来年からでも、凱琉にも手伝ってもらうこととなろうな」
「んぁ、凱琉には、まだ難しいのではないか」
「どうであろうな、華」
玲と一緒に入って来た華に向かって玲が訊くと
「え、凱琉ならば、たとえ人に戻れなくとも、あたしは夫としたい。それに、アディア、貴方を乗せてミヅチ衆として、あたしは戦いたい」
華の言葉に、思わず俺は、口走っていた。
「お、おい。俺がアディアを乗せて戦いたいんだッ」
俺の叫びを聞いた、玲母は、アディアに向かって、訊いた。
「ほぉ、アディアは良き武士となろうが、アディアはミヅチに乗って戦いたいか」
「玲様。それは、八幡衆として戦うことか」
アディアは、習い覚えた、和国の言葉を流暢に喋って応えた。
「そうじゃな、漁と農に生きるならば、ミヅチに乗っても八幡衆となることは無い。だが、戦に参加するとなれば、八幡衆として下知に従ってもらわねばならぬ」
ミヅチ衆を夫とする娘が増えても、戦士が増えたわけでは無かった、ミヅチと一緒に、女は籠船に乗って、漁に生きるを選ぶ者が多かったのである。籠船で海女となって、ミヅチを夫とすると、家族で暮らすには、充分な収穫が期待できる。
玲は、無理にミヅチ衆を戦に駆り出すことは無いと考えていた。遠距離の交易だけではなく、女護島や伊豆八幡衆との文をやりとりや、ナンマトールとの交易船といった、戦以外の仕事が多くなっていた。日ノ本では、港湾荷役や交易荷役と呼ばれる者達の始まりである。
南方の通貨が、金属貨幣でなく、石を貨幣としていたこともあって、通貨重量が非常に重くなることと、石が建築資材として重要であったため、非常に多くの範囲で流通していた。金やガラスなどの光物を飾りとして、ナンマトールに浸透させていったのも、石貨の価値を下げるためでもあった。
特に白漆喰によって、粉から巨石を造って、ナンマトールの建設で一部を使うようになると、石貨の価値を下げることができ、鉄や金、ガラスといった工業製品の価値を上昇させることができるようになった。
「八幡衆の下知を下すのは、為朝様か、玲様」
「そうじゃ」
その答えに満足したように、
「あたしは、為朝様ならば八幡衆として戦いたい。凱琉は、強くはあっても為朝様に及ばず、華は、カグラ様に及ばぬ」
「アディア、そなた」
玲母に対して、アディアは、恋に焦がれる乙女のように、
「あたしは、為朝様が駆けるように、この南海の海原を駆けたい。カグラ様のように、命に溢れ滾るような女になりたい」
「ほぉ、見事な覚悟よ、アディア。そなたは、想い人が誰かいるのか」
「為朝様、あたしは、玲様が男であれば良いと思っておりました。このアディアには、選べません」
キラキラした目で、アディアは、玲母をみていた。
「玲とはな、俺のように海原を駆け、カグラのように命溢れ滾る女となればとは、玲を欲してのことか」
「このアディアは、自分の未熟を承知しています。なればこそ、玲様の命であればと」
「玲、すまぬ。裁いてくれるか」
為朝が、困ったように、玲に判断を預けた。
「妾の命ならばか、、、そうじゃな、カグラ。アディアの腕は良いのであろう」
「あぁ、玲。このカグラの鍛錬に付き合えるんだ、並みの男じゃ合わないぜ」
「アディア。妾からの頼みじゃ、明日、初穂狩りにて、凱琉を男にしてやってくれ」
アディアは、玲母の側で片膝を付いて、
「承知した」
「華」
「あいよ」
「そなたは、アディアの傍についてやってくれ」
「いいよ」
「凱琉」
「へっ」
慌てて、俺は、居住まいを糺そうとして失敗する。
「やはり、まだ未熟よな。アディアを明日、抱けぬようであれば、アディアは為朝が妻とするぞ」
「そ、それは」
「嫌ならば、凱琉。見事、初穂狩りにて、アディアの相手を務めてみせよ」
「は、はいッ」
叫ぶような俺の声が、響いて、潮湯での話が終わって、宴が始まっていった。
圧倒的なまでの女性陣の強さの前に、俺は、ちょっと泣いた。
将が、宴の中で、ポンポンと俺の肩を叩いて、俺に向かって訊いた、
「凱琉。アディアが欲しいと思うのであろう」
「うんッ」
「ならば、アディアに相応しい男を目指せ、凱琉」
「将様、、、」
「俺の命を捧げるは、玲だぞ。アディアは、この南方嵯峨で玲となる娘だ。諦めるか、凱琉」
玲母様。八幡衆の家刀自女。家を支え護る刀。この広大な海を千里を超えて、一つの家として纏め上げようとしていた。アディアは、玲母を目指す女として目指していた。ならば、俺は、父為朝や将様のように闘い護り、長として相応しき男にならなければならない。
「俺は、この南方嵯峨、いや太平洋を治める八幡衆が長になるッ。それが、アディアの男に相応しいってことだろ、将様」
「そうだな。傍で気遣うのではなく、アディアから信頼されるに足りる、男となれば良い。凱琉」
「はいッ」
将が、アディアに相応しい男を目指すと決めた、おれを見ていた。どこか羨ましそうに見ているようだった。
講談師、見て来たように嘘を吐くでありますが、真実が混ざてこその嘘であります。
宴の半ばで、将や斎と一緒に曲輪棚池の側に建てた庵に引き上げた玲は、将へ
「凱琉は、どうしたいと言うておった、将」
「アディアにとっての、為朝を目指すって」
「アディアの側で、支えるのは華の務めのようじゃな」
「華は、大丈夫かな」
「華には、女衒となってもらうこととなろうな」
「女衒って、何なの、玲」
斎が、玲の側で、縁側のような白漆喰の床に座って聞いている。曲輪棚池に造られる庵は、ミヅチ衆の家みたいなもので、将の家として白漆喰で、床と柱に屋根が造られていた。柱の高さが五尺ほどで立って入れず、座るだけの家であった。家というよりは、屋根のついた、オープンデッキのような部屋に座って、大きく蜷局を巻くように寝そべる将の側で、玲は斎を抱くようにして、盆に酒と肴を用意していた。
「女衒とはな、淫気を扱う技を身に付けた者を示す言葉じゃ」
「あまり良い言葉じゃないよね」
「ミヅチの女には、必要じゃ。斎」
「本来は、女の身体を淫らに開くための技じゃが、男を男として猛らせる技でもある。彼の国では房中術と呼ばれておる」
「あッ。それって、その気が無い男も、抱けるようになるってこと」
「それだけではない。ミヅチ衆が人の姿を取れぬのは、水気を他の気に替えて流せないことにある」
「房中術ならできるってこと」
「たとえ、女同士であってもな」
「ミヅチの姿が、男を猛らせぬ理由なれば、ミヅチが人の女となれば、猛らせる理由になろう」
「ミヅチの男には、少しづつ房中術を伝えておる」
「それって、女には伝えてないってこと」
「房中術というのは、厄介でな。鍛えると、相手をするのに時間がかかるようになる。去年までは、紀平治や愛宕衆以外では、為朝一人であったからの」
実質的に、為朝が三十五人を相手にしたのは、紀平治や愛宕衆のような八幡男衆では、一晩に一人くらいがやっとであったからである。
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「だから、女同士で人になれるようにするってこと」
「そういうことじゃ、ミヅチの初潮は、三歳前後、一年あれば、女同士で、人の姿を取れるようにはなろう」
「それって、女同士でないと、、、初穂狩りか」
男女の交わりを五歳以降としているのは、ミヅチの性徴からじゃ。月のモノが安定するまでは、女同士の方が良い。そう言って、玲は、盃を傾けていった。
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