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第六章
第五十七話
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ルピナスの部屋は城のかなり高所、五階にあった。ルピナスは自分を背に乗せる白に指示を出し、あちこちの城の屋根を伝い、地下牢へと誘導する。先ほどルピナスの部屋破った際の轟音のせいか、地上が騒がしい。こちらの姿を捉えて攻撃されるまでは時間の問題だろう。それまでにセイランの姿を捉えたいルピナスは少々無茶な勢いで地下牢へと走らせる。高低の動きや、素早さでルピナスの体も揺れ、気を抜けば振り落とされそうになるが、背にしがみついてなんとか堪える。
そうして最短で地下牢にルピナスたちはたどり着く。ルピナスは魔法で鍵を破り、強引に地下牢へ入り、セイランの姿を探す。ミハネの話的に、他の囚人の目の届かないところにいるはずだ。誰にでも聴こえる位置であの話をするはずがない。ルピナスは最深部に目をつけ、階段を飛び降りるようにして下っていく。
辿り着いた最深部には、予想通り他の囚人の姿はなかった。しかし、同時にセイランの姿もなかった。だが、最奥の部屋に残った痕跡でここにセイランがいたことをルピナスは察する。つい先程まで燃えていた様子の松明。周囲に残る、汗と、性の匂い。開け放たれた牢と、少量の血がついたシーツ。そのシーツは上で誰かが暴れたように乱れ、濡れた染みを作っていた。
牢を焼き尽くしたくなる衝動を抑え、ルピナスは血の上った頭を落ち着ける。セイランはどこに連れて行かれた? 牢獄ではないどこか。どこだ。考えろ。
ストリキが今セイランから目を離すとは考えにくい。手配してまで手中に納めたかった。それを容易く奪える位置に置くはずがない。それならば、ストリキがいそうな場所。そこにセイランはいるはずだ。それは、どこだ。ストリキの自室? 研究所? それとも。
「きゅっ!」
「? どうし……っわぁ!」
側にいた白い頭が急にルピナスを引っ張る。そして体のバランスを崩させ、倒れ込む先に自分の体を持ってくるとルピナスを背中に乗せて走り出した。ピョンピョンと一気に階段を飛び上がり、地上へと登る。それから白い生物は、真っ直ぐにどこかへ向かって走り出した。目指す先は、城の中枢、最上階。玉座の間だった。
外側から壁を蹴り、屋根を踏み台にし、上を目指していく。難なく最上階のバルコニーに辿り着いたルピナスを背に乗せた白い魔物は、バルコニーから城内に入る。目の前に広がるのは左右に伸びる廊下と、下へと続く階段。そして、玉座の間に繋がる重厚な扉だった。
セイランがここにいるといいたいのだろう。ルピナスは背中から降り、自分の足で扉の前に向かう。扉に手をかけると、ルピナスは肩を当てて重い扉を全身で押し開く。扉はギギギギッと軋む音を立てながら、内側に開く。
扉の先には長い廊下が広がっている。ルピナスは玉座の間に身を滑り込ませると、廊下をなぞるようにして視線をあげた。
「セイラ……ン?」
部屋の奥、一つだけの玉座の前。そこには、探していたセイランの姿があった。こちらに背を向けて立つセイランの向こう側にはストリキの姿も見える。
咄嗟に名前を呼ぼうとしたルピナスは、その背中に違和感を覚えた。セイランが纏っている雰囲気が、あまりにも変わりすぎていた。
「ちょうどいい。ほら、それに見せてやりなさい」
笑み混じりの耳障りな声が、広い空間で響く。セイランは、静かにこちらを振り返った。
そのセイランを見て、ルピナスは絶句する。
裸足の足の間は、まだ濡れた液体が伝っていた。ローブを一枚纏ったセイランの瞳がこちらを見ている。その目に、生気を感じなかった。そんなセイランの首についた黒い紋章。
それを見た瞬間に、さっと血の気が引く。あの魔法は、駄目だ。魔法の中でも最上位に位置する、禁術。完全に隙を見せたものにしか通らない、ある魔法。傀儡術だ。
「セイラン……? うそだよね……?」
ルピナスの言葉に、セイランは眉一つ動かさない。紋章、所有印をつけた相手を己の傀儡にする魔法。あれが禁術と言われる理由。それは、死ぬまで解除できないからだ。
だから、あの術は完全に気を許している相手や、隙を見せられる相手にしか通らないはず。それが、セイランに通ってしまっている。それは、つまり。
セイランの心が壊れてしまったことを指していた。
光のない赤紫は、虚ろにルピナスを見つめている。そこにはすでに、『セイラン』はいなかった。セイランの姿をした、意思なき傀儡。感情を持たない、ただ死んでいないだけの存在。術者の指示だけを聞く人形。そんなことを認められるはずがなかった。
気づけば、走り出していた。本当に傀儡術を使っていたのだとしても、まだ術をかけられてそんなに時間は経っていないはず。術が身体に浸透しないうちに、セイランを呼び戻せば、心を取り戻せば、術は解けるかもしれない。確証がないことだとしても、ルピナスはもうそう信じるしかなかった。
ストリキの前に立っていたセイランに駆け寄ったルピナスは、セイランの両頬を包み込み光のない目を覗き込む。背伸びをして出来る限り視線の高さを揃えて、強引に目を合わせる。まるでガラス玉のようなセイランの目に映るのは、今にも泣きだしそうなほど歪んだルピナスの弱弱しい表情だった。
「セイラン? セイラン、ボクだよ? ねぇ、わかるでしょ?」
セイランの瞳は暗いまま。
「ほら、呼んでよ。お前の優しい声で、ボクのこと呼んでよ……」
セイランの口は動かず黙ったままで。
「いつか、いっしょに逃げよって……、約束したでしょ……? ねぇ、セイラン……」
次第にルピナスの語尾が弱まっていく。いつの日か、二人が大きくなった時。共にこんな場所から抜け出して、二人で逃げ出そうと、二人で広い世界を見に行こうと、約束した。その約束を覚えているのは、ルピナスだけ。それでもルピナスはその約束を果たすことを願った。それは幼い日のセイランが、確かに望んだことだから。セイランがすべてを忘れてしまっても、思い出せなかったとしても、自分が覚えているから。その願いを、叶えるから。
これまでただその一身で生きてきたのに。どうにかしてストリキの先天術からセイランを解放できないか調べたり、何度もセイランに忘れられても最初からの関係を築いたり。ただ、セイランと共に生きるために、必死だったのに。
「せい、らん……」
この手では、救えないのか。ルピナスの前にあるのは、残酷な現実。自分も、彼も、結局この男の道具として使われて、捨てられるのか。
「何を泣いている。これの治癒術と、お前のマインドコントロール。最強の魔力と天力、この二つがあれば我らラピュアの魔法使いに敵うものなどいない。ゆくゆくは隣国のみならず、世界を手中に収められるだろう。そうなれば、お前は全土統一者の子となれるのだぞ」
ルピナスは静かにセイランの頬から手を放す。セイランは遠くを見つめたまま、ルピナスを追うことはしなかった。頭が熱い。瞼が熱い。世界で一番大嫌いな声がする。聞くだけで不快になる、畜生の声。
「安心しろ。戦争が終わった暁には、それはお前の傀儡にしてやろう。大層気に入っているようだしな。あの鳴き方もお前が教えたのか? あぁそうだ。抱かれるときだけは鳴くようにこの傀儡に教えておいてやろう。よいものだったぞ、泣き喚いて助けを求める顔は」
「……ふざけるな」
笑い交じりのふざけた声。セイランの大腿を伝っていた赤い雫が、はたと床に落ちる。呼吸が苦しくなる。ルピナスにはもはや、自分が今どんな表情をしているのかさえ分からなくなっていた。ただ、体内に全てが煮えたぎっているような熱を感じる。
「ふざけるなふざけるなふざけるなァッ! セイランに何をしたッ!」
激しい怒りが、全身の血を沸かせていた。ルピナスが手のひらが鋭い風の針をストリキに向けて放つと同時に、ルピナスの背後を白が駆け抜ける。それはルピナスの攻撃をきっかけにあの白い生物が飛び出した残像だった。針はストリキを串刺しにするように同時に一点に向かっていく。それに合わせて青白い光の玉が空を駆け抜けストリキへ向かう。
「何かと思えば、あれは天恵物か? 面白い」
ストリキは二方向から迫る攻撃に対し、余裕の表情を浮かべる。ストリキは一瞬で凄まじい強風を起こし、まずルピナスの風の針をかき消す。そしてその強風をそのままその場で回転させ竜巻を作り出すと光の玉を飲む込み、あらぬ方向へと吹き飛ばした。竜巻はそのまま勢いを増し、ルピナスに迫る。逃げようとしたルピナスの目に、ストリキの方へと近づいてくセイランの姿が止まってしまう。それによって判断が遅れたルピナスの体が竜巻へと引き寄せられる。体が浮き上がる直前、間一髪のところでルピナスのローブを何かが掴む。それはそのままルピナスを連れて竜巻から距離を取った。
「アゥゥ……」
「あぁ、ごめん。集中しろって言いたいんだよね」
白い毛並みをなびかせながらルピナスをぽとっと落としたその生物は、前を見据えたまま何か文句を言う。ルピナスは頬を濡らしていた涙をぐいと拭いて、改めて前を見据える。ルピナスたちが離れたと見ると、ストリキはその竜巻を消滅させた。それからストリキは側に来たセイランを見る。
「おい、治せ」
ストリキが指差したのは吹き飛ばしきれなかった一本の針が裂いた頬の傷だった。セイランはその言葉に対して初めて反応を示す。ぺたぺたと歩いてストリキに身を寄せたセイランは、その傷に向かって手を翳す。その手が傷を撫でるようになぞっていく。その手が通り抜けると共に、頬の傷は跡形もなく消えていった。
「セイラン……」
セイランはそれきりまたストリキの傍らで動かなくなった。隣からは敵意をむき出しにした唸り声が聞こえる。ルピナスが攻撃を仕掛ければ、また上手く合わせてくれるだろう。
……だが、それでどうする。
微かに冷静さを取り戻したルピナスの頭の中でそんな疑問が生じる。怒りに任せてストリキを攻撃した。だが、ストリキを倒してどうなる。恐らく、ストリキを殺せば傀儡術は解けるだろう。そうだとしても、それでいいのだろうか。傀儡術が解けたところで、壊れたセイランの心は返らない。それではなだめだ。ルピナスが求めているのは、ただセイランの傀儡術が解けることだけではない。
そうして最短で地下牢にルピナスたちはたどり着く。ルピナスは魔法で鍵を破り、強引に地下牢へ入り、セイランの姿を探す。ミハネの話的に、他の囚人の目の届かないところにいるはずだ。誰にでも聴こえる位置であの話をするはずがない。ルピナスは最深部に目をつけ、階段を飛び降りるようにして下っていく。
辿り着いた最深部には、予想通り他の囚人の姿はなかった。しかし、同時にセイランの姿もなかった。だが、最奥の部屋に残った痕跡でここにセイランがいたことをルピナスは察する。つい先程まで燃えていた様子の松明。周囲に残る、汗と、性の匂い。開け放たれた牢と、少量の血がついたシーツ。そのシーツは上で誰かが暴れたように乱れ、濡れた染みを作っていた。
牢を焼き尽くしたくなる衝動を抑え、ルピナスは血の上った頭を落ち着ける。セイランはどこに連れて行かれた? 牢獄ではないどこか。どこだ。考えろ。
ストリキが今セイランから目を離すとは考えにくい。手配してまで手中に納めたかった。それを容易く奪える位置に置くはずがない。それならば、ストリキがいそうな場所。そこにセイランはいるはずだ。それは、どこだ。ストリキの自室? 研究所? それとも。
「きゅっ!」
「? どうし……っわぁ!」
側にいた白い頭が急にルピナスを引っ張る。そして体のバランスを崩させ、倒れ込む先に自分の体を持ってくるとルピナスを背中に乗せて走り出した。ピョンピョンと一気に階段を飛び上がり、地上へと登る。それから白い生物は、真っ直ぐにどこかへ向かって走り出した。目指す先は、城の中枢、最上階。玉座の間だった。
外側から壁を蹴り、屋根を踏み台にし、上を目指していく。難なく最上階のバルコニーに辿り着いたルピナスを背に乗せた白い魔物は、バルコニーから城内に入る。目の前に広がるのは左右に伸びる廊下と、下へと続く階段。そして、玉座の間に繋がる重厚な扉だった。
セイランがここにいるといいたいのだろう。ルピナスは背中から降り、自分の足で扉の前に向かう。扉に手をかけると、ルピナスは肩を当てて重い扉を全身で押し開く。扉はギギギギッと軋む音を立てながら、内側に開く。
扉の先には長い廊下が広がっている。ルピナスは玉座の間に身を滑り込ませると、廊下をなぞるようにして視線をあげた。
「セイラ……ン?」
部屋の奥、一つだけの玉座の前。そこには、探していたセイランの姿があった。こちらに背を向けて立つセイランの向こう側にはストリキの姿も見える。
咄嗟に名前を呼ぼうとしたルピナスは、その背中に違和感を覚えた。セイランが纏っている雰囲気が、あまりにも変わりすぎていた。
「ちょうどいい。ほら、それに見せてやりなさい」
笑み混じりの耳障りな声が、広い空間で響く。セイランは、静かにこちらを振り返った。
そのセイランを見て、ルピナスは絶句する。
裸足の足の間は、まだ濡れた液体が伝っていた。ローブを一枚纏ったセイランの瞳がこちらを見ている。その目に、生気を感じなかった。そんなセイランの首についた黒い紋章。
それを見た瞬間に、さっと血の気が引く。あの魔法は、駄目だ。魔法の中でも最上位に位置する、禁術。完全に隙を見せたものにしか通らない、ある魔法。傀儡術だ。
「セイラン……? うそだよね……?」
ルピナスの言葉に、セイランは眉一つ動かさない。紋章、所有印をつけた相手を己の傀儡にする魔法。あれが禁術と言われる理由。それは、死ぬまで解除できないからだ。
だから、あの術は完全に気を許している相手や、隙を見せられる相手にしか通らないはず。それが、セイランに通ってしまっている。それは、つまり。
セイランの心が壊れてしまったことを指していた。
光のない赤紫は、虚ろにルピナスを見つめている。そこにはすでに、『セイラン』はいなかった。セイランの姿をした、意思なき傀儡。感情を持たない、ただ死んでいないだけの存在。術者の指示だけを聞く人形。そんなことを認められるはずがなかった。
気づけば、走り出していた。本当に傀儡術を使っていたのだとしても、まだ術をかけられてそんなに時間は経っていないはず。術が身体に浸透しないうちに、セイランを呼び戻せば、心を取り戻せば、術は解けるかもしれない。確証がないことだとしても、ルピナスはもうそう信じるしかなかった。
ストリキの前に立っていたセイランに駆け寄ったルピナスは、セイランの両頬を包み込み光のない目を覗き込む。背伸びをして出来る限り視線の高さを揃えて、強引に目を合わせる。まるでガラス玉のようなセイランの目に映るのは、今にも泣きだしそうなほど歪んだルピナスの弱弱しい表情だった。
「セイラン? セイラン、ボクだよ? ねぇ、わかるでしょ?」
セイランの瞳は暗いまま。
「ほら、呼んでよ。お前の優しい声で、ボクのこと呼んでよ……」
セイランの口は動かず黙ったままで。
「いつか、いっしょに逃げよって……、約束したでしょ……? ねぇ、セイラン……」
次第にルピナスの語尾が弱まっていく。いつの日か、二人が大きくなった時。共にこんな場所から抜け出して、二人で逃げ出そうと、二人で広い世界を見に行こうと、約束した。その約束を覚えているのは、ルピナスだけ。それでもルピナスはその約束を果たすことを願った。それは幼い日のセイランが、確かに望んだことだから。セイランがすべてを忘れてしまっても、思い出せなかったとしても、自分が覚えているから。その願いを、叶えるから。
これまでただその一身で生きてきたのに。どうにかしてストリキの先天術からセイランを解放できないか調べたり、何度もセイランに忘れられても最初からの関係を築いたり。ただ、セイランと共に生きるために、必死だったのに。
「せい、らん……」
この手では、救えないのか。ルピナスの前にあるのは、残酷な現実。自分も、彼も、結局この男の道具として使われて、捨てられるのか。
「何を泣いている。これの治癒術と、お前のマインドコントロール。最強の魔力と天力、この二つがあれば我らラピュアの魔法使いに敵うものなどいない。ゆくゆくは隣国のみならず、世界を手中に収められるだろう。そうなれば、お前は全土統一者の子となれるのだぞ」
ルピナスは静かにセイランの頬から手を放す。セイランは遠くを見つめたまま、ルピナスを追うことはしなかった。頭が熱い。瞼が熱い。世界で一番大嫌いな声がする。聞くだけで不快になる、畜生の声。
「安心しろ。戦争が終わった暁には、それはお前の傀儡にしてやろう。大層気に入っているようだしな。あの鳴き方もお前が教えたのか? あぁそうだ。抱かれるときだけは鳴くようにこの傀儡に教えておいてやろう。よいものだったぞ、泣き喚いて助けを求める顔は」
「……ふざけるな」
笑い交じりのふざけた声。セイランの大腿を伝っていた赤い雫が、はたと床に落ちる。呼吸が苦しくなる。ルピナスにはもはや、自分が今どんな表情をしているのかさえ分からなくなっていた。ただ、体内に全てが煮えたぎっているような熱を感じる。
「ふざけるなふざけるなふざけるなァッ! セイランに何をしたッ!」
激しい怒りが、全身の血を沸かせていた。ルピナスが手のひらが鋭い風の針をストリキに向けて放つと同時に、ルピナスの背後を白が駆け抜ける。それはルピナスの攻撃をきっかけにあの白い生物が飛び出した残像だった。針はストリキを串刺しにするように同時に一点に向かっていく。それに合わせて青白い光の玉が空を駆け抜けストリキへ向かう。
「何かと思えば、あれは天恵物か? 面白い」
ストリキは二方向から迫る攻撃に対し、余裕の表情を浮かべる。ストリキは一瞬で凄まじい強風を起こし、まずルピナスの風の針をかき消す。そしてその強風をそのままその場で回転させ竜巻を作り出すと光の玉を飲む込み、あらぬ方向へと吹き飛ばした。竜巻はそのまま勢いを増し、ルピナスに迫る。逃げようとしたルピナスの目に、ストリキの方へと近づいてくセイランの姿が止まってしまう。それによって判断が遅れたルピナスの体が竜巻へと引き寄せられる。体が浮き上がる直前、間一髪のところでルピナスのローブを何かが掴む。それはそのままルピナスを連れて竜巻から距離を取った。
「アゥゥ……」
「あぁ、ごめん。集中しろって言いたいんだよね」
白い毛並みをなびかせながらルピナスをぽとっと落としたその生物は、前を見据えたまま何か文句を言う。ルピナスは頬を濡らしていた涙をぐいと拭いて、改めて前を見据える。ルピナスたちが離れたと見ると、ストリキはその竜巻を消滅させた。それからストリキは側に来たセイランを見る。
「おい、治せ」
ストリキが指差したのは吹き飛ばしきれなかった一本の針が裂いた頬の傷だった。セイランはその言葉に対して初めて反応を示す。ぺたぺたと歩いてストリキに身を寄せたセイランは、その傷に向かって手を翳す。その手が傷を撫でるようになぞっていく。その手が通り抜けると共に、頬の傷は跡形もなく消えていった。
「セイラン……」
セイランはそれきりまたストリキの傍らで動かなくなった。隣からは敵意をむき出しにした唸り声が聞こえる。ルピナスが攻撃を仕掛ければ、また上手く合わせてくれるだろう。
……だが、それでどうする。
微かに冷静さを取り戻したルピナスの頭の中でそんな疑問が生じる。怒りに任せてストリキを攻撃した。だが、ストリキを倒してどうなる。恐らく、ストリキを殺せば傀儡術は解けるだろう。そうだとしても、それでいいのだろうか。傀儡術が解けたところで、壊れたセイランの心は返らない。それではなだめだ。ルピナスが求めているのは、ただセイランの傀儡術が解けることだけではない。
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