百々五十六の小問集合

百々 五十六

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星降る夜に君と (未完)

2話

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おばあちゃんと話した週の週末、早速その村に家族で行くこととなった。

カーナビに表示された到着予想は、約5時間の旅になると知らせている。

段々と道が狭くなり、舗装がなくなっていく。草木が目立ちだし、段々と空気が澄んでくる。車に乗り始めてから一時間が経った頃には、すれ違う車は殆どいなくなった。

緑の青々とした景色が段々と濃くなっていき、一気に開けた。カーナビは、目的地に到着したとして、ねぎらいの言葉をかけてくる。そこには、ポツンポツンと20にも満たないような数の家が並んでいた。その半数は、管理がされていないからか、蔦が巻かれていてもはや草木と同化している。

村の端の方に一度車を止め、一度家族全員で車から降りた。

全員で体を伸ばし、軽くストレッチをしてから、畑仕事をしているおばあさんに声をかけた。

「そこのお姉さん、ここら辺に、神田の家ってありますか?」

「お姉さんって嬉しいこと言ってくれるわね。神田さん?確か、80年前まで、そこの道を突き当たりまで行った所の家に住んでたわね。懐かしいわぁ」

森へと続く道を指差し、おばあさんが嬉しそうに言った。

「ありがとう。おば、う、うん、フォッフォン、お姉さん」

手を振って、走りながら森へと走っていく。

後ろから小さく怒声が聞こえてくる。

「今なんて言った~!!」

家族が青い顔をしながら俺の後を走っている。

あまり舗装されていない道。

俺の都会育ちの軟弱な体では、すぐにバテてしまった。

徐々にスピードを緩めていく。

その頃にはもうあのおばあさんの声は聞こえなくなっていた。

後ろを振り返ると、辛そうな顔で走る家族の姿と、生い茂った緑だけが視界を埋め尽くす。



再び前を向いて、歩きだし、数分。

段々と道路がなくなっていく中で、蔦に完全に侵食されている家を見つけた。

「ここがおじいちゃんの家?」

「とりあえず行ってみてから考えるぞ」

俺の疑問に、脳筋みたいな返しをする父。

父を先頭にして、その家を目指す。

家の外側の形もわからないほどに植物が生い茂っていた。

草をかき分け、扉のあるところまでついた。

表札には、消えかけた文字で『神田』と書かれていた。

ドアノブらしきものを掴み、扉を開けようとする。

しかし、押しても、引いても、スライドしても、うんともすんともいわない。

「顔が赤くなっているぞ。だから、あれほど体を鍛えておけと言ったのに、お前と来たら、天文学とかなんだと抜かして、ろくに外にも出ないからそうなるんだ。」

「グチグチうるさいな。じゃあ父さんがやってよ!!」

少し怒りを言葉に乗せて父親に言う。

「じゃあ、そこを変われ」

自信満々に腕をまくった父親と場所を代わった。

父が挑戦しても、うんともすんともいわない。ただ父の顔が、段々と赤くなっていくだけである。

それが少し面白くて、うつむいて笑いをこらえた。

「蔦が絡まってるんじゃない?」

父の横から顔をのぞかせた母が言う。

それから、何故か母が持ってきていた鎌で、蔦を一本一本外していった。

その後、もう一度扉を開けようとしても、やはりびくともしない。

「金属が錆びて使えなくなっているんじゃないの?扉外さない?」

父にそう提案し、扉を外していく。

幸いなことにこの扉は外開きだったようで、丁番を破壊して外すことにした。

丁番を外すとすんなりと扉を外すことができた。

やはり金属がやられていたらしい。

俺を先頭に、緊張感を持って慎重に中に入っていく。

一歩踏み出すたびに床がミシミシと悲鳴を上げる。

木材が腐っているような箇所が多く、足元を見なければそこを踏み抜いてしまいそうである。

色々な部屋の写真を撮り、おばあちゃんに見せる写真があらかた撮れた頃、父親が口を開いた。

「とりあえず今日はここに泊まるか。寝袋を、比較的使えそうだった南の角部屋に敷いて、寝ることにしよう」

「なんで泊まるの?もう見るとこなくない?」

父親の言葉に驚き、すかさず疑問に思ったことをぶつけると、

「お前の言っていた丘を、探しに行くんだよ。なんか、ここら辺にありそうだからな」

という驚きの返答がきた。

以前に、父にも例の夢の話をしたことがある。その時は、私が寝ぼけているんじゃないかと疑うような感じだった。

それから、この家を起点にして、来た道以外の3方向を三手に分かれて探索することになった。

弟は母に抱き抱えられて、西へ。

父は、少年のようにはしゃぎながら東へ。

俺は、なんとなく引き寄せられるような感覚に身を任せて北へ。

南は、例のあの村なので捜索の範囲外だ。早く帰ってきた人が、村に聞き込みに行くくらいはする予定だ。




北は、更に深い森であった。

あの神田家を境とするように、一気に雰囲気が変わった。

草木は、丈の長い木と苔が中心になり、木の影と風闘志の良さによって一気に温度が下がったように感じた。

周りから虫の音や、なにか動物が走っているような足音が聞こえてくる。しかし、何も姿を表さない。人間が入ってきたのを警戒しているのか、俺から離れるほどに活発に動物は活動している。

その森を抜けると、見晴らしの良い丘に出た。

その丘は、夢で見た丘のそのままの姿であった。

ただ日がまだ高く、夜空を除くことはできなかった。

スマホをつけ、何故か圏内なことに驚きつつ、親にメッセージを送る。

「『例の丘を見つけました。夜の景色を見てから戻ります』っと」

それから昼寝をしようとその丘にある大きい岩に腰掛けて、横たわった。



しばらくして、頬を風が撫でるような感触があった。

そこには、顔を覚えていなかったけれど何故か、例の少女だと分かる例の少女がこちらの顔を覗き込んでいた。

「うわっ!!」

思わず声を上げてしまう。

少女はクスクスと笑うだけで、話し出そうとはしない。

世間話の代わりとして、一番に疑問に思ったことを投げかける。

「ここは、例の夢の中?それとも、現実のあの丘?」

「ここはね、天陽の丘っていう場所だよ。あんな劣化コピーとは違った、実際の場所だよ。ほら耳を澄ませてごらん。いろんな音が聞こえるでしょ。鳥のさえずり、風のなびく音、虫の音、これがリアルだよ」

ニコニコしながら諭すように少女は、答えてくれた。

「君の名前は何というの?そして、俺と面識あったっけ?俺は、君を夢の中で一度だけ見たことがあるのだけれど」

「私の名前は、滝野 翼。君とは初対面だよ。でもね、君のおじいさんと色々あったの。だから、その面影を頼りに君を見つけたの。あれ?おかしいな。君は私に二回、夢で会ってるはずなんだけれど」

その瞬間、ある記憶が突然フラッシュバックしてきた。

なぜこの事を忘れていたのか、と自分が情けなくなるほどの重要なこと。

私が天文や地理を学びこの場所を探していた、そのきっかけになる出来事を忘れていたのだ。



あれはおじいちゃんが亡くなった日。

泣いて泣いて、涙が枯れても嗚咽だけをだしながら泣いた。

俯いて現実を見ることをやめ、悲しみに身を任せて泣いた。

泣きつかれて静かになった頃、前からなにかの声が聞こえた。

「大丈夫?なんで泣いているの?」

「お゛じい゛ぢゃんがぁああ゛、お゛じい゛ぢゃんがぁああ゛、い゛な゛ぐな゛っぢゃだぁああ゛」

誰に話しかけられているかなど考える余裕もなく、悲しみに暮れながら答えた。

「そうだったの。それは悲しいわね。でもね坊や、顔を上げてみなさい。眼の前にある、こんなにも素晴らしい景色という幸福を逃してまで、悲しみに暮れるなんてもったいないですよ。だから坊や、前を向きなさい。そうすれば、いつかきっとこの光景が、本当に見られるようになるから」

優しく力強い声に背中を押されて顔をあげると、そこには満天の星空が広がっていた。

美しすぎる景色に開いた口が塞がらない。

上を向けば、素晴らしい景色が、前を見れば励ましてくれた美しい少女がいる。その事実だけで、もう後ろを振り返り下を向くことがバカバカしく感じてきた。

後半の言葉の意味がよく分からなかったけれど、とても励まされた。

ドッキリが成功した子供のようにニヤニヤしながら、少女は言った。

「どう?驚いた?口が開きっぱなしだぞ」

「ありがとう。知らないお姉ちゃん。これから、この景色が見られるように頑張るから」

感謝の言葉を発した頃には、不思議とおじいちゃんの死を受け入れられるようになっていて、悲しいけれど希望を持って前へ進もうという気持ちになっていた。

そしてもう一度気合を入れると、何故か俺はベッドの上にいた。

それから、俺はまたあの場所に行ってあの少女に会うために全力を尽くしたのだった。

彼女と交わした言葉は少なかったけれど、その言葉が今までの人生の支えとなっていた。

少女とあってから半年もした頃には、彼女とあったことを忘れ、あの場所に行きたいという目標だけが残っていた。




それを思い出し、おばあちゃんが俺に伝えたかったのはこれのことだったのだと納得した。

しかし、予想とは裏切られるものだ。

彼女は真剣な顔になり話し始めた。

「じゃあ、早速本題に行こうか」

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