百々五十六の小問集合

百々 五十六

文字の大きさ
113 / 650
総文字数記念

1文字記念 1円あるとしたら

しおりを挟む
「なぁ妹よ、1円あったら何をする?」
ソファに寝ころび、スマホを片手に妹に一瞥もせずになんとなく聞いてみた。
「急にどうしたのお兄ちゃん?」
ザーザーガチャガチャ
妹は皿洗いをしながら答えてくれた。
「いや、なんとなく。お前ってどんなことに金を使うのか気になったから」
「じゃあちょっと待ってね。こっちから話すと、声を張らなくちゃいけないから、そっちに行くね」
しばらくすると、水の音がやんだ。妹は皿洗いを終えたようだ。
「で、なんだっけ?1円で何をするかだっけ?」
妹からの問いに、スマホから視線を外さずに答えようとしたら、急に視界が暗くなった。
妹が、俺の前に立って陰になってしまったらしい。
「そうそう。1円の使い道を聞いてみたくて」
「1円で何かできるの?募金とか?それよりお兄ちゃん、もうちょっと詰めて座ってくれない?私が座れないから」
妹に言われた通り、少し足をまげて、右にズレた。
すると、妹は行儀よく、俺の頭の先に座った。
「1円を馬鹿にしちゃいけないぞ。1円を笑うものは1円で泣くんだぞ!!」
ちょっと、脅かすように妹に言う。
「別に、馬鹿にしてるわけじゃないよ!それに、私のこと何歳だと思ってるの?もう中学生だよ!!」
妹様はご立腹のようだ。
プンスカという擬音が聞こえた気がした。空耳か。
「じゃあ、お兄ちゃん、1円で何ができるのか教えてよ!!」
俺は寝転ぶのをやめて、妹に向き直り、宣言した。
「いいぞ妹よ、1円で何ができるか教えてやろう」
さっき適当に、1円でできることを調べておいてよかった。
「まず、さっきお前が言ったように、募金ができるぞ。さらに、大人になったらパチンコができるぞ。1パチというやつだ。ただこれは単価が1円というだけで、1円玉持って行ってできるわけじゃないがな。それ以外にも、切手が買えるし、1円を資本金にして株式会社を作ることができるぞ。それに、1円は1グラムであることも有名だ。これを使って重さをはかるなんてことも……」
「わかった、わかった。もういいよお兄ちゃん。確かに1円っていっぱい使い道があるんだね。お金として使う以外にまで。」
妹に説明を遮られてしまった。
「これでお前も、一円の偉大さを理解したな?」
「うん、うん。したした」
妹は、適当に相槌を打つ。
ぞんざいに扱われて、お兄ちゃん悲しい。
「じゃあ妹よ。改めて聞くけど、1円あったら何をする?」
「うーん。でもやっぱり、募金かな?私は、1円の物にあまり魅力を感じないからさ、その1円で、困ってる人にその人の魅力的なものがあげられるならいいんじゃないかな?」
そうか、妹が人のためにお金を使える優しく器の大きい人になってくれて、お兄ちゃんうれしい。
妹も成長しているんだなぁ。
昔は、シュウマイ一つでも食い意地を張って、人にあげられなかった妹の口から、『募金』なんて言葉が聞けるなんて、ちょっと感動したなぁ。
「逆に聞くけど、お兄ちゃんは1円あったら何をするの?」
「え、貯金」

妹は驚いた顔をした後、興味を失ったのか、スマホに視線を落とした。
もしかして、うちの妹、あほの子かもしれない。
それからいつも通り各々がスマホをいじる、静かな時間が過ぎていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...