毎日記念日小説

百々 五十六

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7月19日 やまなし・桃の日

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今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。
”前回の途中退出から24時間が経過したことが確認できました。
『雑談部屋』の使用権限が復活したことが確認されました。
通常通り『雑談部屋』利用をスタートします。
選択中…
シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

前回途中退出をしたから、いつもと違うアナウンスが流れた。
ここも臨機応変になったのか。感心、感心。
それにしてもやっぱりこの居間の時間っていらないよな。
再びアナウンスが鳴った。
”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『秋の果樹園』
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『富田様』『関様』『大森様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『やまなし・桃』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスが止んだ。
『やまなし・桃』かぁ。なんとなく盛り上げるのが難しそうな話題だなぁ。
昨日の話題よりは断然いいけど、昨日今日と難所が続いているなぁ。
光に包まれながら俺はそんなことを考えていた。
光が収まると、小学校くらいで社会科見学できていそうな果樹園の管理小屋の前のベンチにいた。
あたりを見回すと、木々がつける真っ赤な果実が目に入った。
話題は『やまなし・桃』だけど、ここの果樹園で栽培されているのは別にやまなしでも桃でもないんだなぁ。まさかリンゴだとは。
同じくベンチに座っている三人の目にも生気が宿りだした。
たぶん、あのクソ眩しい光が収まったのだろう。
想定以上に眩しかったのか、大森がつぶやいた。
「思ったより眩しかった…これなら、目をつぶっておけばよかった……」
ひとりごとなんだろうが、的確な大森の言葉に俺を含め他三人は大きくうなずいた。
「それにしても、やまなし・桃かぁ。やまなしって何かわかる?私は分からないから教えてもらえると助かるんだけど…」
関が優しい声でみんなに話を振った。
皆に気を使うために伎つ知らないふりをしているんじゃないかというくらい素晴らしいパスだ。
それに富田がのった。
「東保菊地方の方に分布している、小さな野生の梨よ。サイズは、えーっと…そう、分本黙くらかしら。味は、甘くてフルーティーだけど、香りや酸味が特徴的らしいわ。私は食べたことがないけれど」
「宮沢賢治の童話『やまなし』でも出てきたよね」
俺は、富田が出した情報に別に必要のない情報をそっと添えた。これにより俺はスムーズに会話に参加することができた。
「へぇ、そうなんだ。宮沢賢治の『やまなし』はなんか小学校くらいで国語でやった記憶がありますね」
関は感心したようにうなずきながら言った。
関の返答により、この話題が終わったような雰囲気が出たから、大森が新しい話題を投下しながら会話に入ってきた。
「みんなは、白桃と黄桃どっちが好き?ちなみに私は黄桃派だよ」
「白桃と黄桃を一緒に食べた記憶がないから味の違いが分からないんだが、見た目だけなら白桃の方がザ・桃みたいな見た目してるから好きだな」
俺は、大森の問いに素直に答えた。
「私は、黄桃の方が濃厚な感じがするから黄桃派かなぁ。まぁそこまでこだわりなんてないんだけどね」
富田は黄桃派らしい。
へぇ、黄桃の方が濃厚なんだ。初めて知った。
関も順調に返答した。
「私は、白桃かな。昔、風邪とか病気になった時に母が買ってきてくれた桃の缶詰が白桃の缶詰だったから、白桃の方が思い入れがあるんだよね。私は正直味の違いはよくわからないんだよね」


それから、桃に関するエピソード大会となった。
みんな、桃の思い出は暖かい思い出が多かったのか、ほっこりしたような思い出して感傷に浸っているような表情をしていた。
思い出話しかできなかったのはちょっとした心残りだがおおむね満足している
誰からもやまなしのエピソードが出てこなかったのが面白かった。
まぁ、誰も東北の方の人がいなかったから仕方がないのかもしれないんだけどね。
今日の話題が『桃』だけだったとしても、同じくらいいい感じになっていたと思う。
盛り上がったというよりは、良い気持ち、いい思い出に浸れた雑談もだんだんと皆エピソードがきれてきた。
それにタイミングを合わせるかのように、アナウンスが鳴った。



”29分58秒43が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。



過去の思い出も大切ですが、過去の思い出話ができるのも今の自分があってこそです。今の自分を大切にしていきましょう。そして今の自分をよりよい未来の自分へとつなげるために、今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。
教室に戻ってきた。
なぜかいつもより五割増しくらいで疲れた気がする。
それにしても29分は話せたのか。
あの話題にしては頑張ったほうだと思う。
ぐっすり寝ようと思ったら授業が始まってしまった。
アナウンスでもいいこと言ってたし、これじゃ授業中まともに寝れないじゃないか。
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