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第二十五話
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「では、命令を聞こうか。」
「兄上…。」
「そのために、俺を探していたんだろう?」
カイルは、その言葉に一度目を伏せ、それから、オードに向き直った。
「妖精術士、オード。あなたに、この国を破滅から守ることを命ずる。速やかに、任につかれよ。」
厳かに告げたカイル。その彼が座る椅子の前に片膝を立てて跪き、頭を下げるオード。
「はい、カイル殿下。全ては、御心のままに。」
その優雅な動きは、まるで役者のようだった。
優雅で美しい役者。
「…すみません。追放しておきながら、今更連れ戻すようなこと…。」
「おいおい、最後まで妖精術士の主のような顔をしておいてくれ。それに、分かっていたことだ。それが大分伸びただけ。気にすることじゃない。」
立ち上がると、しょげかえるカイルの頭をなでて、オードは苦笑した。
その姿は、いつもの穏やかな空気を纏う、オードのものだ。
そして、彼は背後で彼らの会話を大人しく聞いていたセロを見つめる。
「セロ。紹介がまだだったね。彼はカイル。王孫だ。」
「…へ!?」
全く彼らの会話についていく事ができず、混乱状態にあったセロに、考えもつかなかった紹介がされる。
オードはカイルの向かいの席に座り、説明の続きをあっさりとした口調で続けた。
「叔父上がこの国の唯一の姫君と結婚したのでね。まだ王権はカイルのお爺様の手にあるが、次の王には彼がなるだろう。実際、彼はすでに王太子として遇されている。幼い頃は、一緒に城に住んでいたから兄弟のように育ったんだ。おかげで、カイルは未だに俺のことを兄上と呼ぶんだよ。」
「ぅえぇ!?」
こんな所で花屋などを営む男が、実は人間の王族と血縁関係を結んでいるような家の出だったとは。
もちろん、高貴な身分の男と言われて全く問題はないほど、オードには気品がある。
だが、料理・洗濯・掃除など、全ての家事を自分ですませてしまう貴族というものは聞いたことがない。そのあたりが、オードを庶民と思わせてしまっていたのだが、実はやんごとなき身分の男だったのだ。
「古くから続く、由緒正しい貴族の出ですから、そうですね。兄上は本来、民が容易く声をかけられるような方ではありません。それに、妖精術士としても、希代の妖精術士と呼ばれるほどの力の持ち主ですから。」
セロの感想を聞いたカイルが、真面目な表情で兄と呼ぶ男を評する。
「大げさだなぁ。」
そのカイルの言葉に苦笑を浮かべ、オードは目を大きく見開き、これ以上ないほどに驚いているセロを手招きして、隣に座らせる。
さすがに落ち着きを失っているセロは、ぎこちない動きでオードの隣に座った。
隣にいるのは、人間の中でもやんごとなき身分の貴族。そして、斜め向かいにいるのはこの国の人間達の王孫。しかも、次代の王である。
どんなに庶民くさい貴族でも、どんなに低姿勢に語りかけてくる王孫でも、彼らは貴族と王位継承者なのだ。
『混血児』の自分が、一生会うことなどかなわなかった相手。
もし、出会うことができても、それは奴隷と主人という関係でしか成り立たなかったはず。
「この方のことは、問いません。ですが、大丈夫ですか?」
「あぁ、勿論。」
ちらりとカイルがセロを見る。
何が大丈夫なのかよくわからないが、オードが大丈夫だというからには大丈夫なのだろう。
そう、セロは納得した。
どういう内容でこのようなやりとりがなされているのか理解できないが。
「セロ。」
「はい。」
突然名を呼ばれ、思わず姿勢を正し、応じると、不意に頭をなでられる。
「気分が悪いことはない?何か、昨日までと異変があることは…。」
「あっありません、大丈夫です。」
目線を合わし、問いかけてくるオード。
美しい緑色の瞳が向けられ、大きな手が髪に触れているだけで気が狂いそうになるほど動揺してしまう。
石のように固まっているセロの様子に、カイルは軽い溜め息をついた。
それに気付いたオードは、そんなカイルに目を向けて、苦笑する。
そんな二人の様子に、動揺していたセロは気付かなかったが、オードの笑顔に、カイルは軽く何度かうなずいてみせた。了解した、というところなのだろう。
「兄上…。」
「そのために、俺を探していたんだろう?」
カイルは、その言葉に一度目を伏せ、それから、オードに向き直った。
「妖精術士、オード。あなたに、この国を破滅から守ることを命ずる。速やかに、任につかれよ。」
厳かに告げたカイル。その彼が座る椅子の前に片膝を立てて跪き、頭を下げるオード。
「はい、カイル殿下。全ては、御心のままに。」
その優雅な動きは、まるで役者のようだった。
優雅で美しい役者。
「…すみません。追放しておきながら、今更連れ戻すようなこと…。」
「おいおい、最後まで妖精術士の主のような顔をしておいてくれ。それに、分かっていたことだ。それが大分伸びただけ。気にすることじゃない。」
立ち上がると、しょげかえるカイルの頭をなでて、オードは苦笑した。
その姿は、いつもの穏やかな空気を纏う、オードのものだ。
そして、彼は背後で彼らの会話を大人しく聞いていたセロを見つめる。
「セロ。紹介がまだだったね。彼はカイル。王孫だ。」
「…へ!?」
全く彼らの会話についていく事ができず、混乱状態にあったセロに、考えもつかなかった紹介がされる。
オードはカイルの向かいの席に座り、説明の続きをあっさりとした口調で続けた。
「叔父上がこの国の唯一の姫君と結婚したのでね。まだ王権はカイルのお爺様の手にあるが、次の王には彼がなるだろう。実際、彼はすでに王太子として遇されている。幼い頃は、一緒に城に住んでいたから兄弟のように育ったんだ。おかげで、カイルは未だに俺のことを兄上と呼ぶんだよ。」
「ぅえぇ!?」
こんな所で花屋などを営む男が、実は人間の王族と血縁関係を結んでいるような家の出だったとは。
もちろん、高貴な身分の男と言われて全く問題はないほど、オードには気品がある。
だが、料理・洗濯・掃除など、全ての家事を自分ですませてしまう貴族というものは聞いたことがない。そのあたりが、オードを庶民と思わせてしまっていたのだが、実はやんごとなき身分の男だったのだ。
「古くから続く、由緒正しい貴族の出ですから、そうですね。兄上は本来、民が容易く声をかけられるような方ではありません。それに、妖精術士としても、希代の妖精術士と呼ばれるほどの力の持ち主ですから。」
セロの感想を聞いたカイルが、真面目な表情で兄と呼ぶ男を評する。
「大げさだなぁ。」
そのカイルの言葉に苦笑を浮かべ、オードは目を大きく見開き、これ以上ないほどに驚いているセロを手招きして、隣に座らせる。
さすがに落ち着きを失っているセロは、ぎこちない動きでオードの隣に座った。
隣にいるのは、人間の中でもやんごとなき身分の貴族。そして、斜め向かいにいるのはこの国の人間達の王孫。しかも、次代の王である。
どんなに庶民くさい貴族でも、どんなに低姿勢に語りかけてくる王孫でも、彼らは貴族と王位継承者なのだ。
『混血児』の自分が、一生会うことなどかなわなかった相手。
もし、出会うことができても、それは奴隷と主人という関係でしか成り立たなかったはず。
「この方のことは、問いません。ですが、大丈夫ですか?」
「あぁ、勿論。」
ちらりとカイルがセロを見る。
何が大丈夫なのかよくわからないが、オードが大丈夫だというからには大丈夫なのだろう。
そう、セロは納得した。
どういう内容でこのようなやりとりがなされているのか理解できないが。
「セロ。」
「はい。」
突然名を呼ばれ、思わず姿勢を正し、応じると、不意に頭をなでられる。
「気分が悪いことはない?何か、昨日までと異変があることは…。」
「あっありません、大丈夫です。」
目線を合わし、問いかけてくるオード。
美しい緑色の瞳が向けられ、大きな手が髪に触れているだけで気が狂いそうになるほど動揺してしまう。
石のように固まっているセロの様子に、カイルは軽い溜め息をついた。
それに気付いたオードは、そんなカイルに目を向けて、苦笑する。
そんな二人の様子に、動揺していたセロは気付かなかったが、オードの笑顔に、カイルは軽く何度かうなずいてみせた。了解した、というところなのだろう。
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