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第十九章 初恋
しおりを挟むそれは、事後、絢聖を胸のなかに抱いているときだった。
「……悠が、初恋で、こういうことも初めてだった」
絢聖は淡々と言った。あまりにも重すぎて、受け取る形が分からなかった。
そして、その事実を悟らせなかったこと。それを、強いてしまった自分が情けなかった。
「……そう」
返事はそれだけ。
軽る過ぎる返しだと、自分でも分かっている。
絢聖の沈黙。責めていない、全てを諦めている。
初恋。初体験。最初を全部、俺が受け取っていた。その事実に、遅れて痛みが動き出す。
大切にしたつもりだった。でも、それは正しさの話だ。
絢聖は俺しか知らなかった。比較も、選択も、迷いもなかった。
それなのに、足りなかった。足りないと思わせてしまった。
恋は、穏やかで正しいものという価値観を植え付けてしまった。意図せず、欲は悪いものと刷り込んだ。
「……俺さ」
声が低くなる。止めようとした言葉が、もう逃げない。
「ちゃんと口説いたこと、なかったよな」
絢聖は何も言わない。否定も肯定もしない。それが、答えだった。
俺は息を吐く。ここで正しさを持ち出したら、何も伝わらない。
「……本当は」
言葉が零れる。零れた時点で、もう引っ込まない。
「溺愛してほしかったんだろ」
断定に近い。知っていた。見ない振りをしていたことを言語化しただけ。
絢聖が視線を伏せる。それが、肯定よりきつい。
「俺、それができなかった」
これは…悔いだ。
「壊さないように、大事にしてるつもりだった」
胸の奥で、何かが崩れる。初恋を初恋のまま凍らせた。溺愛を、未然に禁止した。
「……求め合いたかったんだよな」
これは、ずっと避けてきた確認。
絢聖は小さく頷く。それだけで、全部分かる。
俺は目を閉じる。
初恋で、初体験で、それでも選ばれてる実感を渡せなかった人間。
「……ごめん」
謝罪の居場所がない。絢聖は首を振る。
「責めてないよ」
その優しさが、いちばん苦しい。
初恋は、大切に扱うだけじゃ足りない。欲しがらないことは、愛じゃない。
それを理解したのに、もう間に合わない場所にいる。
言葉は届いた。でも、時期が違った。それだけのことが、人を置き去りにする。
初恋だった。最初だった。その事実は、救いにならない。後悔に形を与えるだけだ。
それでも、朝はくる。現実を回せと窓から差し込む光が告げていた。
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