揺れと生きる

立華あみ

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第三十一章 揺れるという生き方

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夜中、理由もなく目が覚めた。
時計を見る。三時を少し過ぎている。隣では、悠が眠っている。呼吸は規則正しい。何も、問題がない。その事実が、胸を圧迫する。
体を起こす。音を立てないように。もう、気を遣える自分になっている。不安を受け止めて欲しいと思わなくなっている。

リビングへ行く。灯りは点けない。暗闇の中でも、配置は分かる。揺れていた頃より、正確だ。
その正確さが、吐き気を呼ぶ。
ソファーに座る。背中を丸める。誰にも見せない姿勢。それが、完全に身についている。

——おかしい。こんなに安定しているのに。
——誰も責めてないし、傷つけてないのに。

息が、浅い。胸に手を当てる。鼓動はある。でも、反応がない。
何かを思い出しても、何かを想像しても、揺れない。動かない。
揺れは、苦しさだった。誰かを巻き込む行為だった。
でも、揺れは、僕が生きている証だった。それを、今、はっきり理解してしまう。
僕は、自分を止めた。正しく生きるために。壊れないために。でも、これは死にながら生きているのと同じだ。

スマートフォンを手に取る。画面を点ける。連絡先を開く。分かっている。この番号は繋がらない。消えた。完全に。
それでも、名前を探してしまう。…会いたい。
秋頼さんは、揺れを止めなかった。肯定も、否定もしなかった。預けることを許した。それだけだった。それだけなのに、僕は、呼吸できた。
悠は、正しかった。守ろうとしてくれた。一緒に現実にいようとしてくれた。
でも、僕は現実だけでは足りなかった。ソファに顔を埋める。声は出さない。泣き方も、もう分かっている。
戻らないと決めた。揺れないと選んだ。誰も傷つけない道を。
でも、その道には僕がいない。胸の奥で、はっきり言葉になる。

——このまま生きたら、僕は消える。

その一瞬で、理解する。秋頼さんは、逃げたんじゃない。選ばせないために消えた。
その意味が、今になって分かる。

だから、彼は、戻れなかった。だから、連絡しなかった。僕が、揺れを捨てるのを見ていられなかった。

息を深く吸う。久しぶりに、胸が痛む。痛みが、まだ残っている。それだけで、少し安心する。

——僕は、揺れていい。

それを、思い出してしまった。そのとき、背後で音がする。悠が、起きた気配。

「……どうした?」

声は、眠たげだ。でも、現実の声。
ここで言えば、悠は崩れる。それを、分かっている。それでも、この静けさには、戻れない。その確信だけが、はっきりと胸にあった。
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